77 / 121
19日目
ネロエスト男爵家
しおりを挟む
「な、何故、ここにいるんだ⁉︎」
元妻が現れて、エリックは動揺している。幽霊でも見ているようだ。
そんな元夫に向かって、14歳も年下のロクサーヌが優雅に歩いていく。
長い金髪を巻いて垂らして、歩くたびにバネのように揺れている。
「ネロエストを名乗る男が、面白い夜会を開くと聞いて来てみただけです。確かに不愉快ではありましたが、多少の面白さもありましたよ」
「わぁー! お母様、お久し振りです! お元気そうで何よりです!」
「ええ、そうね。ああ、可哀想に苦労したのね。エリックの所為ね」
夫婦円満ではなさそうだが、娘は可愛いようだ。
抱き着いて来たカノンの短い髪を優しく撫でている。
だけど、エリックにとってはピンチだ。
カノンをロクサーヌに取られたら困る。
「私の娘に触るな!」
エリックは怒れる父親になって、元妻の手を掴んだ。
だが、その瞬間に見知らぬ男に殴り飛ばされた。
「ぐがはあ!」
「私の妻に汚い手で触らないでもらおうか」
ロクサーヌは一人で夜会に来ていなかった。
新しい夫のセルジオ・カトレット男爵(52歳)と来ていた。
脂肪の乗った丸い体型で、丸坊主に近い金髪頭の半分は禿げている。
男は顔ではなく、ロクサーヌは地位と財産で選ぶようだ。
「ありがとう、セルジオ。怖かったわぁー」
「なに、夫の務めを果たしたまでだ。この犬は妻の物だ。勝手に盗みおって、この泥棒め!」
「ぐぅ、何が泥棒だ。パトラッシュは娘の誕生日プレゼントに私が買ったんだ。私の物だ!」
元夫と新しい夫のパトラッシュの取り合いが始まった。
オークションが中止になって、一番困っているのは伯爵だ。
誰の犬か分からないと買い取れない。
「あなたの所為で屋敷を奪われたのよ。慰謝料も払えなかったんだから、パトラッシュを渡すのが道理でしょう」
「そんなに金が欲しいならくれてやる。50億で十分だな? 醜男との結婚祝いに3億追加してやるよ」
「何だと、貴様ぁー! 雑草酒しか作れないインチキ酒師が! 今度は犬でインチキ金儲けか!」
「文句があるなら飲んでから言え! この酒樽男が!」
54歳と52歳の男が掴み合いの喧嘩を始めた。
醜すぎる争いを誰も止めるつもりはないらしい。
酒と料理を食べながら、殴り合いの勝者が決まるのを待っている。
「お母様、まだ終わらないんですか? 早くパトラッシュを連れて帰りましょうよぉ~」
そんな中、赤いドレスを着た茶色い長い髪の女が現れて、ロクサーヌに話しかけた。
カノンの姉で、次女のミランダ・ネロエスト(19歳)だ。
母親と長女フローラ(20歳)と一緒に、カトレット男爵家にお世話になっている。
その代わりに男爵の一人息子ブリオン(32歳)と、長女と自分のどちらかが結婚しないといけない。
ブリオンは父親似の顔なので、姉フローラに一生懸命に譲っている。
「そうね。ちょっと面倒になってきたわね」
「わぁー! ミランダお姉様も来てたんですね!」
「なに? 私が来たら迷惑なの?」
母親との会話をカノンに邪魔されて、ミランダは不機嫌になった。
カッコイイ伯爵との結婚を断って、何不自由ない暮らしをしている妹に嫉妬している。
「そんなことないです。とっても嬉しいです。お母様と一緒に暮らしているんですか?」
「ええ、そうよ。フローラ姉様もいるわ。ごめんなさいね。あんた存在感がないから、屋敷に置き忘れてしまったの。でも元気そうで良かったわ」
「はい。毎日楽しいです! 冒険者になって、お金を稼いで、友達も出来たんですよ!」
「ああ、はいはい。それは良かったわね。今度ゆっくり聞いてあげるわ」
ミランダはカノンの不幸話なら聞きたいが、幸せな話を聞くつもりはない。
二度とやって来ない今度だと言って、話を終わらせた。
「ふぐぅ!」
「エドウィン伯爵様、ちょっとお話があるんですが……」
「構いませんが、何でしょうか?」
エリックの強烈な右パンチが、セルジオ男爵の腹にめり込んだが、それはどうでもいい。
ロクサーヌが魅惑的な笑みを浮かべて、考え込んでいる伯爵に近づいた。
「伯爵様が結婚相手を探しているので、娘を紹介させていただこうと思いまして。次女のミランダです。それに一つ上にフローラがいます。気に入った方を伯爵様の妻にお選びください」
ロクサーヌは右手でミランダを指し示して、次に会場にいないフローラの話をした。
フローラは長い金髪で、性格はおっとりしているが見た目は悪くない。
不細工な娘を紹介しているわけではない。
「素敵な提案ですが、申し訳ありません——」
だけど、伯爵は女に不自由はしていない。
当たり前のように断ろうとしたが、その前にロクサーヌが伯爵に助言した。
「伯爵様、犬はフローラとミランダの物です。伯爵様の妻の物は伯爵様の物です。泥棒の元夫に奪われた犬を取り返してくれませんか? 伯爵様のお力ならば容易いはずです」
「フッ。愚かしい。私に悪役になれと?」
「まさか。正義の使者です。エリックには前科があります。叩けば汚いホコリはいくらでも出ます」
「……なるほど。あなたは悪い人だ。実に魅力的なね♪」
伯爵が新しい結婚相手を決めたようだ。
悪女の助言に従って、伯爵は善人の皮を被るのをやめた。
元妻が現れて、エリックは動揺している。幽霊でも見ているようだ。
そんな元夫に向かって、14歳も年下のロクサーヌが優雅に歩いていく。
長い金髪を巻いて垂らして、歩くたびにバネのように揺れている。
「ネロエストを名乗る男が、面白い夜会を開くと聞いて来てみただけです。確かに不愉快ではありましたが、多少の面白さもありましたよ」
「わぁー! お母様、お久し振りです! お元気そうで何よりです!」
「ええ、そうね。ああ、可哀想に苦労したのね。エリックの所為ね」
夫婦円満ではなさそうだが、娘は可愛いようだ。
抱き着いて来たカノンの短い髪を優しく撫でている。
だけど、エリックにとってはピンチだ。
カノンをロクサーヌに取られたら困る。
「私の娘に触るな!」
エリックは怒れる父親になって、元妻の手を掴んだ。
だが、その瞬間に見知らぬ男に殴り飛ばされた。
「ぐがはあ!」
「私の妻に汚い手で触らないでもらおうか」
ロクサーヌは一人で夜会に来ていなかった。
新しい夫のセルジオ・カトレット男爵(52歳)と来ていた。
脂肪の乗った丸い体型で、丸坊主に近い金髪頭の半分は禿げている。
男は顔ではなく、ロクサーヌは地位と財産で選ぶようだ。
「ありがとう、セルジオ。怖かったわぁー」
「なに、夫の務めを果たしたまでだ。この犬は妻の物だ。勝手に盗みおって、この泥棒め!」
「ぐぅ、何が泥棒だ。パトラッシュは娘の誕生日プレゼントに私が買ったんだ。私の物だ!」
元夫と新しい夫のパトラッシュの取り合いが始まった。
オークションが中止になって、一番困っているのは伯爵だ。
誰の犬か分からないと買い取れない。
「あなたの所為で屋敷を奪われたのよ。慰謝料も払えなかったんだから、パトラッシュを渡すのが道理でしょう」
「そんなに金が欲しいならくれてやる。50億で十分だな? 醜男との結婚祝いに3億追加してやるよ」
「何だと、貴様ぁー! 雑草酒しか作れないインチキ酒師が! 今度は犬でインチキ金儲けか!」
「文句があるなら飲んでから言え! この酒樽男が!」
54歳と52歳の男が掴み合いの喧嘩を始めた。
醜すぎる争いを誰も止めるつもりはないらしい。
酒と料理を食べながら、殴り合いの勝者が決まるのを待っている。
「お母様、まだ終わらないんですか? 早くパトラッシュを連れて帰りましょうよぉ~」
そんな中、赤いドレスを着た茶色い長い髪の女が現れて、ロクサーヌに話しかけた。
カノンの姉で、次女のミランダ・ネロエスト(19歳)だ。
母親と長女フローラ(20歳)と一緒に、カトレット男爵家にお世話になっている。
その代わりに男爵の一人息子ブリオン(32歳)と、長女と自分のどちらかが結婚しないといけない。
ブリオンは父親似の顔なので、姉フローラに一生懸命に譲っている。
「そうね。ちょっと面倒になってきたわね」
「わぁー! ミランダお姉様も来てたんですね!」
「なに? 私が来たら迷惑なの?」
母親との会話をカノンに邪魔されて、ミランダは不機嫌になった。
カッコイイ伯爵との結婚を断って、何不自由ない暮らしをしている妹に嫉妬している。
「そんなことないです。とっても嬉しいです。お母様と一緒に暮らしているんですか?」
「ええ、そうよ。フローラ姉様もいるわ。ごめんなさいね。あんた存在感がないから、屋敷に置き忘れてしまったの。でも元気そうで良かったわ」
「はい。毎日楽しいです! 冒険者になって、お金を稼いで、友達も出来たんですよ!」
「ああ、はいはい。それは良かったわね。今度ゆっくり聞いてあげるわ」
ミランダはカノンの不幸話なら聞きたいが、幸せな話を聞くつもりはない。
二度とやって来ない今度だと言って、話を終わらせた。
「ふぐぅ!」
「エドウィン伯爵様、ちょっとお話があるんですが……」
「構いませんが、何でしょうか?」
エリックの強烈な右パンチが、セルジオ男爵の腹にめり込んだが、それはどうでもいい。
ロクサーヌが魅惑的な笑みを浮かべて、考え込んでいる伯爵に近づいた。
「伯爵様が結婚相手を探しているので、娘を紹介させていただこうと思いまして。次女のミランダです。それに一つ上にフローラがいます。気に入った方を伯爵様の妻にお選びください」
ロクサーヌは右手でミランダを指し示して、次に会場にいないフローラの話をした。
フローラは長い金髪で、性格はおっとりしているが見た目は悪くない。
不細工な娘を紹介しているわけではない。
「素敵な提案ですが、申し訳ありません——」
だけど、伯爵は女に不自由はしていない。
当たり前のように断ろうとしたが、その前にロクサーヌが伯爵に助言した。
「伯爵様、犬はフローラとミランダの物です。伯爵様の妻の物は伯爵様の物です。泥棒の元夫に奪われた犬を取り返してくれませんか? 伯爵様のお力ならば容易いはずです」
「フッ。愚かしい。私に悪役になれと?」
「まさか。正義の使者です。エリックには前科があります。叩けば汚いホコリはいくらでも出ます」
「……なるほど。あなたは悪い人だ。実に魅力的なね♪」
伯爵が新しい結婚相手を決めたようだ。
悪女の助言に従って、伯爵は善人の皮を被るのをやめた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』
アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた
【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。
カクヨム版の
分割投稿となりますので
一話が長かったり短かったりしています。
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
安全第一異世界生活
朋
ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん)
新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!
特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。
黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。
そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。
しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの?
優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、
冒険者家業で地力を付けながら、
訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。
勇者ではありません。
召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。
でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。
「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう
ムラサメ
恋愛
漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。
死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。
しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。
向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。
一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる