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第二章
第12話 杖の成長
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本格的なテルダムの町のゾンビ掃除が始まった。まずは全員に解毒薬を飲んでもらった。
昨日の夜のアルマの捕獲の時に、俺と七海と高橋の三人は飲んでいたので、佐藤と長谷川に飲んでもらう。
一度ゾンビ化したら二度とゾンビにならなければいいのだが、それを確かめるのは無理だ。
解毒薬を定期的に飲む余裕もないので、高熱が出た時に二度目の解毒薬は飲むように決めた。
「俺と結衣で町のゾンビを麻痺させて、手足を縛って拘束するから、四人は家の家具とかを使って、住む家の周囲にバリケードを作って欲しい。そうすれば、ゾンビが入って来れなくなるから」
「バリケード?」とアルマだけが首を傾げているけど、それは七海達が教えてくれる。
町には井戸水が数ヶ所あるらしいけど、ゾンビ町の井戸水は危なくて飲めない。
その結果、長谷川の白杖を水が出る青色の杖に変える事になった。
長谷川のイメージでは、洗浄効果のある温かいお風呂のような水が出るらしい。
女子達はこれで風呂と洗濯が出来ると喜んでいたが、今のところは温かい水弾しか発射できない。
杖が成長すればそれも可能かもしれない。
町の中に安全な住居が確保できたら、丸いグラウンドがある『始まりの森』にイモ虫狩りに行くそうだ。
とりあえず、ゾンビの拘束と町の探索と杖の成長の三つが、俺達が主にやる仕事になる。
「結衣、危なくなったら迷わずに頭を攻撃するんだ。俺達が死んだら、それこそ誰も助けられなくなる」
「それは分かっているけど、人間に戻せるなら人殺しになるんじゃないの?」
地面に倒れている麻痺中のゾンビの手足をロープで縛りながら、高橋に注意した。
七海達から離れて、二人っきりでゾンビを拘束している。
麻痺弾は三発で拘束、雷弾なら頭に一発で片付けられる。
テルダムの町の総人口は1200人程らしいので、二人で全員を生け捕りで拘束するのは難しい。
七海情報だが、杖が成長すると使用できる魔法回数が増えるそうだ。
だけど、それは初期魔法だけらしい。第二呪文の麻痺弾は三十発も撃てば、疲労を感じ始めるはずだ。
高橋の汗ばんだ顔と少し荒い呼吸から、そろそろ七海に回復してもらって、休憩した方が良さそうだ。
「結衣、休憩だ。三十分休憩したら再開しよう」
「はぁ? たったの12人で休憩できるわけない。もっと頑張らないと……」
休憩しようと言ったら、呆れた顔で断られた。
何を焦っているのか知らないけど、前後の道にゾンビが少し集まり出している。
囲まれたら逃げられない。それに麻痺させても、ロープで縛る時間がなければ意味がない。
「最初はゆっくりの方が良い。今が動けるゾンビの数が一番多くて事故が起きやすい。一日100人を目標に十日ぐらいで終わらせればいいんだ」
「10日? そんな時間があったら、他のクラスメイトを探した方がいい。今にも死にそうになっている人がいるかもしれない。自分達だけ安全な場所で暮らすなんて私には無理よ」
大人のゾンビ男を次々に地面に痺れさせて、高橋は自分が強くなっていると勘違いしているようだ。
強力な力を手に入れたとしても、この力は拳銃と同じだ。
弾丸が切れて、魔法が撃てなくなれば、無力な女子高生に戻ってしまう。それが分かっていない。
視界に入るゾンビの数が20人以上になったので、棍棒杖の先端をゾンビの頭に向けた。
強制休憩させるしかない。
「『dissolve』」
呪文を唱えると、杖の先端に直径10センチの黄緑色の煮え立つ溶解液の塊が出現した。
その溶解弾をゾンビ男の目と目の間を狙って発射した。
「ヴヴヴッ!」
溶解弾はゾンビの頭の真ん中をジュッと溶かして、綺麗な穴を開けて通過していく。
そのまま後ろに立っていたゾンビ男の左目も溶かしていく。
二人のゾンビが頭に穴を開けられて、バタバタと地面に倒れていく。
「ちょっと会長⁉︎ 何やっているか分かっているんですか! 相手は人間なんですよ!」
「そんなの知っている。頭を失えば、七海でも回復できない。そこに倒れているゾンビで試せば分かる。俺は拘束を続けたいから休憩しようと言ったんだ。それでも、まだ結衣の好きなようにしたいなら、俺も好きなようにやらせてもらう」
頭に穴を開けられたゾンビはピクリとも動かない。
高橋は顔色を悪くして取り乱しているけど、これが俺本来のやり方だ。
……1200人? 巫山戯るな。
若い男と女を50人だけ生かしておくから、町が安全になった後で自分達で繁殖しろ。
バシュ、バシュと肉をドロドロに溶かす溶解弾を次々に発射する。
大量に向かってくるゾンビ相手には、貫通力がある魔法が一番効果的だ。
一発で複数を一度に倒す事が出来る。ゾンビが一直線に大量に集まる程に効果を発揮する。
「会長、もういいです! 休憩するからやめてください!」
「町の奴らよりもクラスメイトの命の方が大切なんだろう? だったら、七海と交代すればいい。そうすれば休まずに町からゾンビを一日で排除できる」
十七匹のゾンビを倒したところで、高橋が背後から俺の身体を押さえて、攻撃を止めようとする。
高橋の身長152センチちょっとの小さな身体では、力尽くで俺を止めるのは無理だ。
麻痺弾で痺れさせれば出来るだろうが、それをやったら倒れた俺がゾンビに襲われる。
結局、俺を止める事が出来るのは俺だけだ。
「本当にやめてください! 正気なんですか⁉︎ 人間なんです! 人間なんですよ!」
「そうだな。だったら早く戻ろう。囲まれてしまったら、何人溶かしてしまうか分からない」
これ以上ゾンビを殺させないように、高橋が俺の杖を必死に奪い取ろうとする。
溶解弾が俺に当たったら危ないし、杖を取り上げられて放り投げられても大変だ。
高橋が冷静になったようだから、俺も冷静に戻る事にした。
だが、その前に確かめたい事がある。地面に倒れたゾンビに杖をくっ付けた。
ゾンビの身体から黄緑色の光が流れて、杖に吸収されていく。
「やっぱりか……」
「会長、これって……?」
高橋は黄緑色の光に戸惑っている。
ゾンビが魔物なのか人間なのか考えていたけど、これでハッキリした。
「ゾンビが魔物だという事だろう。結衣も急いで杖で吸収した方が良い。杖を成長させた方が色々と楽になる」
「うっ、そうですね……その方が無駄にならなくて済みます」
灰になったゾンビの身体から服を退かすと、灰の中から黄緑色の真珠が現れた。
これなら、わざわざ始まりの森に移動する必要もない。
あとはアルマに交渉して、ゾンビの殺害許可を貰えばいい。
ゾンビを六人殺したら、解毒薬で二人助けると言えば、嫌とは言わないだろう。
♢
「はぁぁ、会長がサイコパスとは思いませんでした」
「必要な事を躊躇なく実行しただけだよ」
家の汚れた床に座り込んでいる高橋が、ため息を吐き出した後に言った。
無事にアルマとの交渉は終わった。黄緑色真珠は水色真珠二個分の力がある。
だから、ゾンビを三人殺したら、二人を人間に戻すと約束した。
アルマは最初は断ったが、「嫌なら、住民全員を魔物として処理する」と杖を向けて説得したら、何とか理解してくれた。
冷静な話し合いが出来なかったら、アルマが人間なのか魔物なのか調べる必要もあった。
「結衣、休憩終わりだ。家の周囲のゾンビを20人拘束したら解毒薬を使う。七海達だけだと、バリケードが完成するまで一週間ぐらいはかかりそうだ。人手を増やそう」
床から立ち上がると、高橋とゾンビ狩りに出掛けた。ロープの補充は済んだ。
ロープがあれば、七海達に集めるようにお願いしていた。
「えっ? 20人は多過ぎじゃないですか?」
「多くないとアルマが信用してくれない。若い男女を10人ずつで良いと思う。ペアを組んで働いてもらおう」
確かに20人は多いけど、杖を今日中に成長させれば問題ない。
暴動を起こすようなら、魔物として処理されても文句はないだろう。
「私に人殺しの手伝いをさせるなんて、会長は鬼畜ですね」
「殺傷力がある杖は俺と結衣と佐藤さんだけだ。嫌なら佐藤さんを誘うけど、佐藤さんは鈍そうだから、ゾンビを倒す前に倒されそうだね」
「そういうところがサイコパスなんですよ。アルマだけじゃなくて、私も脅すんですか?」
「ヤダなぁ、事実を言ってるだけだよ」
高橋は俺を軽蔑する発言をしながらもゾンビ狩りと拘束を手伝ってくれる。
杖から発射された雷弾がゾンビ達の頭を黒焦げにしていく。
俺に対しての警戒心が強ければ、逆に一人に出来ないと不安で監視してしまう。
付き合う理由があるとしたら、そんなところだろう。
「本当に成長するんですか? もう63匹も吸収しましたよ?」
「倍ぐらいは必要なんだろう。結衣の場合はイモ虫78匹の倍で156匹は必要なんじゃないかな?」
昼前なのに、二人で倒して吸収したゾンビの人数が150人を超えた。
これだけゾンビを殺して、杖が成長しなければ、黄緑色真珠を手に入れただけで終わる。
まぁ、それでも昼ご飯のメロンパンには変えられる。
佐藤を呼んで杖を成長させて、他の料理が作れるようになるか試してみてもいい。
メロンパン一択だと流石に飽きる。
「ヴヴヴッ!」
身体の小さなゾンビは子供なので殺さずに拘束する。
ゾンビの年齢は分からないので、服装と身体の大きさと髪の長さで判断して、年寄りだけを殺していく。
若者を生かす為には喜んで、犠牲になってくれるはずだ。
「116人か……」
倒したゾンビを吸収していると杖が変化を始めた。棍棒型の杖は長く細く変わっていく。
杖が成長するのは嬉しいはずなのに、素直に喜べない。かなり殺し過ぎた。
アルマとの約束で最低でも500人は人間にしないといけない。
五人全員の杖を成長させるには、総人口1200人だと足りない。
「会長の方がやっぱり早いんですね。うわぁー、会長の性格のようにグルグルに捻れまくってますね」
「今のところは全員が同じ杖の形だよ。結衣の杖も捻れるはずだ」
「えっー、また会長と色違いのお揃いになるんですか? 嫌だなぁー」
成長した杖を高橋がやって来て、ジッと見て揶揄っている。
杖の長さは約90センチぐらい。地面から腰の高さまである。年寄りが使う杖と同じ形だ。
真っ直ぐに伸びた紫色の杖は、下から上までネジのように螺旋状に捻れている。
頭の中に浮かんだ新しい能力は三つある。
『形状変化・剣+杖+魔法+服飾』『explosion』『服飾・合成繊維』の三つだ。
すぐに分かるのは、爆発を意味するエクスプロージョンだけで、他の二つは試してみないと分からない。
服装で合成繊維ならば、服を作れる能力だと思うけど、今まで通りなら一種類しか作れない。
けれども、形状変化に服飾が加わっているから、複数の種類が作れる可能性もある。
「服が作れるようになったみたいだけど、結衣は欲しい服はある?」
ゾンビの頭を直径20センチに成長した溶解弾で撃ち抜きながら聞いた。
女子なら服とか好きなはずだ。いつまでも制服だけ着たくはないだろう。
「会長が私にプレゼントしてくれるんですか? だったら、温かいズボンが欲しいですけど、まずは私よりもアルマに作ってあげた方がいいですよ。ボロボロの服だと可愛そうです」
「なるほどね。確かにその通りだ。解毒薬で人間に戻した人達にも新しい服が必要だろうからね」
服飾は俺には必要なさそうな能力だけど、町の人間には確かに必要な能力だ。
アルマが今着ている服は、家のタンスに入っていた服だけど、あの服は変な臭いがする。
それに服装を綺麗にしないと、ゾンビなのか人間なのか、すぐには分からない。
ちょうどいいので練習台に使わせてもらおう。
昨日の夜のアルマの捕獲の時に、俺と七海と高橋の三人は飲んでいたので、佐藤と長谷川に飲んでもらう。
一度ゾンビ化したら二度とゾンビにならなければいいのだが、それを確かめるのは無理だ。
解毒薬を定期的に飲む余裕もないので、高熱が出た時に二度目の解毒薬は飲むように決めた。
「俺と結衣で町のゾンビを麻痺させて、手足を縛って拘束するから、四人は家の家具とかを使って、住む家の周囲にバリケードを作って欲しい。そうすれば、ゾンビが入って来れなくなるから」
「バリケード?」とアルマだけが首を傾げているけど、それは七海達が教えてくれる。
町には井戸水が数ヶ所あるらしいけど、ゾンビ町の井戸水は危なくて飲めない。
その結果、長谷川の白杖を水が出る青色の杖に変える事になった。
長谷川のイメージでは、洗浄効果のある温かいお風呂のような水が出るらしい。
女子達はこれで風呂と洗濯が出来ると喜んでいたが、今のところは温かい水弾しか発射できない。
杖が成長すればそれも可能かもしれない。
町の中に安全な住居が確保できたら、丸いグラウンドがある『始まりの森』にイモ虫狩りに行くそうだ。
とりあえず、ゾンビの拘束と町の探索と杖の成長の三つが、俺達が主にやる仕事になる。
「結衣、危なくなったら迷わずに頭を攻撃するんだ。俺達が死んだら、それこそ誰も助けられなくなる」
「それは分かっているけど、人間に戻せるなら人殺しになるんじゃないの?」
地面に倒れている麻痺中のゾンビの手足をロープで縛りながら、高橋に注意した。
七海達から離れて、二人っきりでゾンビを拘束している。
麻痺弾は三発で拘束、雷弾なら頭に一発で片付けられる。
テルダムの町の総人口は1200人程らしいので、二人で全員を生け捕りで拘束するのは難しい。
七海情報だが、杖が成長すると使用できる魔法回数が増えるそうだ。
だけど、それは初期魔法だけらしい。第二呪文の麻痺弾は三十発も撃てば、疲労を感じ始めるはずだ。
高橋の汗ばんだ顔と少し荒い呼吸から、そろそろ七海に回復してもらって、休憩した方が良さそうだ。
「結衣、休憩だ。三十分休憩したら再開しよう」
「はぁ? たったの12人で休憩できるわけない。もっと頑張らないと……」
休憩しようと言ったら、呆れた顔で断られた。
何を焦っているのか知らないけど、前後の道にゾンビが少し集まり出している。
囲まれたら逃げられない。それに麻痺させても、ロープで縛る時間がなければ意味がない。
「最初はゆっくりの方が良い。今が動けるゾンビの数が一番多くて事故が起きやすい。一日100人を目標に十日ぐらいで終わらせればいいんだ」
「10日? そんな時間があったら、他のクラスメイトを探した方がいい。今にも死にそうになっている人がいるかもしれない。自分達だけ安全な場所で暮らすなんて私には無理よ」
大人のゾンビ男を次々に地面に痺れさせて、高橋は自分が強くなっていると勘違いしているようだ。
強力な力を手に入れたとしても、この力は拳銃と同じだ。
弾丸が切れて、魔法が撃てなくなれば、無力な女子高生に戻ってしまう。それが分かっていない。
視界に入るゾンビの数が20人以上になったので、棍棒杖の先端をゾンビの頭に向けた。
強制休憩させるしかない。
「『dissolve』」
呪文を唱えると、杖の先端に直径10センチの黄緑色の煮え立つ溶解液の塊が出現した。
その溶解弾をゾンビ男の目と目の間を狙って発射した。
「ヴヴヴッ!」
溶解弾はゾンビの頭の真ん中をジュッと溶かして、綺麗な穴を開けて通過していく。
そのまま後ろに立っていたゾンビ男の左目も溶かしていく。
二人のゾンビが頭に穴を開けられて、バタバタと地面に倒れていく。
「ちょっと会長⁉︎ 何やっているか分かっているんですか! 相手は人間なんですよ!」
「そんなの知っている。頭を失えば、七海でも回復できない。そこに倒れているゾンビで試せば分かる。俺は拘束を続けたいから休憩しようと言ったんだ。それでも、まだ結衣の好きなようにしたいなら、俺も好きなようにやらせてもらう」
頭に穴を開けられたゾンビはピクリとも動かない。
高橋は顔色を悪くして取り乱しているけど、これが俺本来のやり方だ。
……1200人? 巫山戯るな。
若い男と女を50人だけ生かしておくから、町が安全になった後で自分達で繁殖しろ。
バシュ、バシュと肉をドロドロに溶かす溶解弾を次々に発射する。
大量に向かってくるゾンビ相手には、貫通力がある魔法が一番効果的だ。
一発で複数を一度に倒す事が出来る。ゾンビが一直線に大量に集まる程に効果を発揮する。
「会長、もういいです! 休憩するからやめてください!」
「町の奴らよりもクラスメイトの命の方が大切なんだろう? だったら、七海と交代すればいい。そうすれば休まずに町からゾンビを一日で排除できる」
十七匹のゾンビを倒したところで、高橋が背後から俺の身体を押さえて、攻撃を止めようとする。
高橋の身長152センチちょっとの小さな身体では、力尽くで俺を止めるのは無理だ。
麻痺弾で痺れさせれば出来るだろうが、それをやったら倒れた俺がゾンビに襲われる。
結局、俺を止める事が出来るのは俺だけだ。
「本当にやめてください! 正気なんですか⁉︎ 人間なんです! 人間なんですよ!」
「そうだな。だったら早く戻ろう。囲まれてしまったら、何人溶かしてしまうか分からない」
これ以上ゾンビを殺させないように、高橋が俺の杖を必死に奪い取ろうとする。
溶解弾が俺に当たったら危ないし、杖を取り上げられて放り投げられても大変だ。
高橋が冷静になったようだから、俺も冷静に戻る事にした。
だが、その前に確かめたい事がある。地面に倒れたゾンビに杖をくっ付けた。
ゾンビの身体から黄緑色の光が流れて、杖に吸収されていく。
「やっぱりか……」
「会長、これって……?」
高橋は黄緑色の光に戸惑っている。
ゾンビが魔物なのか人間なのか考えていたけど、これでハッキリした。
「ゾンビが魔物だという事だろう。結衣も急いで杖で吸収した方が良い。杖を成長させた方が色々と楽になる」
「うっ、そうですね……その方が無駄にならなくて済みます」
灰になったゾンビの身体から服を退かすと、灰の中から黄緑色の真珠が現れた。
これなら、わざわざ始まりの森に移動する必要もない。
あとはアルマに交渉して、ゾンビの殺害許可を貰えばいい。
ゾンビを六人殺したら、解毒薬で二人助けると言えば、嫌とは言わないだろう。
♢
「はぁぁ、会長がサイコパスとは思いませんでした」
「必要な事を躊躇なく実行しただけだよ」
家の汚れた床に座り込んでいる高橋が、ため息を吐き出した後に言った。
無事にアルマとの交渉は終わった。黄緑色真珠は水色真珠二個分の力がある。
だから、ゾンビを三人殺したら、二人を人間に戻すと約束した。
アルマは最初は断ったが、「嫌なら、住民全員を魔物として処理する」と杖を向けて説得したら、何とか理解してくれた。
冷静な話し合いが出来なかったら、アルマが人間なのか魔物なのか調べる必要もあった。
「結衣、休憩終わりだ。家の周囲のゾンビを20人拘束したら解毒薬を使う。七海達だけだと、バリケードが完成するまで一週間ぐらいはかかりそうだ。人手を増やそう」
床から立ち上がると、高橋とゾンビ狩りに出掛けた。ロープの補充は済んだ。
ロープがあれば、七海達に集めるようにお願いしていた。
「えっ? 20人は多過ぎじゃないですか?」
「多くないとアルマが信用してくれない。若い男女を10人ずつで良いと思う。ペアを組んで働いてもらおう」
確かに20人は多いけど、杖を今日中に成長させれば問題ない。
暴動を起こすようなら、魔物として処理されても文句はないだろう。
「私に人殺しの手伝いをさせるなんて、会長は鬼畜ですね」
「殺傷力がある杖は俺と結衣と佐藤さんだけだ。嫌なら佐藤さんを誘うけど、佐藤さんは鈍そうだから、ゾンビを倒す前に倒されそうだね」
「そういうところがサイコパスなんですよ。アルマだけじゃなくて、私も脅すんですか?」
「ヤダなぁ、事実を言ってるだけだよ」
高橋は俺を軽蔑する発言をしながらもゾンビ狩りと拘束を手伝ってくれる。
杖から発射された雷弾がゾンビ達の頭を黒焦げにしていく。
俺に対しての警戒心が強ければ、逆に一人に出来ないと不安で監視してしまう。
付き合う理由があるとしたら、そんなところだろう。
「本当に成長するんですか? もう63匹も吸収しましたよ?」
「倍ぐらいは必要なんだろう。結衣の場合はイモ虫78匹の倍で156匹は必要なんじゃないかな?」
昼前なのに、二人で倒して吸収したゾンビの人数が150人を超えた。
これだけゾンビを殺して、杖が成長しなければ、黄緑色真珠を手に入れただけで終わる。
まぁ、それでも昼ご飯のメロンパンには変えられる。
佐藤を呼んで杖を成長させて、他の料理が作れるようになるか試してみてもいい。
メロンパン一択だと流石に飽きる。
「ヴヴヴッ!」
身体の小さなゾンビは子供なので殺さずに拘束する。
ゾンビの年齢は分からないので、服装と身体の大きさと髪の長さで判断して、年寄りだけを殺していく。
若者を生かす為には喜んで、犠牲になってくれるはずだ。
「116人か……」
倒したゾンビを吸収していると杖が変化を始めた。棍棒型の杖は長く細く変わっていく。
杖が成長するのは嬉しいはずなのに、素直に喜べない。かなり殺し過ぎた。
アルマとの約束で最低でも500人は人間にしないといけない。
五人全員の杖を成長させるには、総人口1200人だと足りない。
「会長の方がやっぱり早いんですね。うわぁー、会長の性格のようにグルグルに捻れまくってますね」
「今のところは全員が同じ杖の形だよ。結衣の杖も捻れるはずだ」
「えっー、また会長と色違いのお揃いになるんですか? 嫌だなぁー」
成長した杖を高橋がやって来て、ジッと見て揶揄っている。
杖の長さは約90センチぐらい。地面から腰の高さまである。年寄りが使う杖と同じ形だ。
真っ直ぐに伸びた紫色の杖は、下から上までネジのように螺旋状に捻れている。
頭の中に浮かんだ新しい能力は三つある。
『形状変化・剣+杖+魔法+服飾』『explosion』『服飾・合成繊維』の三つだ。
すぐに分かるのは、爆発を意味するエクスプロージョンだけで、他の二つは試してみないと分からない。
服装で合成繊維ならば、服を作れる能力だと思うけど、今まで通りなら一種類しか作れない。
けれども、形状変化に服飾が加わっているから、複数の種類が作れる可能性もある。
「服が作れるようになったみたいだけど、結衣は欲しい服はある?」
ゾンビの頭を直径20センチに成長した溶解弾で撃ち抜きながら聞いた。
女子なら服とか好きなはずだ。いつまでも制服だけ着たくはないだろう。
「会長が私にプレゼントしてくれるんですか? だったら、温かいズボンが欲しいですけど、まずは私よりもアルマに作ってあげた方がいいですよ。ボロボロの服だと可愛そうです」
「なるほどね。確かにその通りだ。解毒薬で人間に戻した人達にも新しい服が必要だろうからね」
服飾は俺には必要なさそうな能力だけど、町の人間には確かに必要な能力だ。
アルマが今着ている服は、家のタンスに入っていた服だけど、あの服は変な臭いがする。
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何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
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