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第三章
第15話 罰則と肉料理
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「それで皆んなはどうした方が良いと思う?」
女子達四人と住民代表のアルマを集めて、藤原達をどうするか話し合いを始めた。
藤原達三人の杖を第三形態にすれば、それ以上はゾンビを殺さない。
だから、杖が成長すると方法を教えても問題ない。
殺すゾンビも南東の町のゾンビにすれば、この町のゾンビには被害は出ない。
という提案だが、四百人近くのゾンビを殺す事になる。
「杖を成長させるだけなら、南西の町でいいんじゃない? 魔物が沢山いるなら、藤原達に片付けてもらえばいいでしょう?」
「私もそれが良いと思う。私もゾンビは殺したくないよ」
高橋と佐藤は魔物を倒した方が良いと言っている。杖が第二形態の七海が何も言わないので聞いてみた。
「七海はどうなの? 七海も杖を成長させたいでしょう?」
「私も魔物の方が良いと思うよ。でも、大丈夫かな? 辻本もいるんでしょう? 悪い噂しか聞いた事ないよ」
「私も辻本君がサッカー部の後輩の足を折ったって聞いた事があるよ。町の人達に何もしないよね?」
杖を成長させる方法が南西の魔物を倒す、にするのは全員一致みたいだけど、問題は辻本らしい。
悪い噂しかない人間の杖を強力にしていいのかと心配している。
一応、三人の能力は聞き取りしておいた。明らかに危険な能力はなかったけど、危険な兆候はある。
藤原は『火弾』『level-up』『料理・フライドチキン』。
森は『回復弾』『木弾』『調合・栄養ドリンク』。
辻本は『水弾』『氷弾』『鍛治・短剣』。
殺傷力のある短剣を欲しがる人間は確かに信用できない。でも、サバイバルに短剣は必要な物だ。
これだけで危険人物扱いする方が異常だ。
佐藤が料理が作りたいと包丁を欲しがっても、誰も異常とは思わないはずだ。
「私達はミズキの決定に従います。気にせずに思い通りにしてください」
「それは駄目だ。アルマは俺が死ねと言えば死ぬの? 抱きたいと言えば抱かせてくれるの?」
「それは……」
「自分の大切なものを簡単に他人の意思に任せない方がいいよ。アルマを呼んだのは一方的な決定を伝える為じゃない。意見を聞く為なんだから、しっかりと自分の考えを話して」
俺の質問にアルマは困った顔をしている。即答できないなら、この決定には従えないという事だ。
俺を信頼しているのは嬉しいが、これから生活が安定すれば、住民の数はドンドン増えていく。
何百人の住民を自分の手足のように動かせる実力は俺にはない。
ゾンビになる前のように自分達で考えて、ある程度は判断してもらわないと困る。
「すみません。死ぬのは無理ですけど、一夜を共に過ごす事は出来ます」
「別にどっちもしなくていいよ。やって来た男達が住民に暴力を振るったら報告して欲しい。我慢する必要はないから」
「はい。皆んなにはそう伝えておきます」
アルマは申し訳なさそうに謝ったけど、一夜を共に過ごすには凄い覚悟が必要だ。
そこまでの覚悟があるなら、クラスメイトの多少のムカつく態度も我慢できるだろう。
「話が少し断線したけど、これからもクラスメイトがやって来るかもしれない。嫌な相手とも協力しないといけない。でも、犯罪は許されない。場合によっては杖を没収して、町の外に追放する厳罰が必要だと思う。皆んながそれでもいいのか聞きたい?」
前にクラスメイトがクラスメイトを殺した場合と犯した場合は、死刑にすると七海と決めた。
今回はクラスメイトがこの世界の人間を殺した場合と犯した場合だ。
魔法の杖を持っている貴重なクラスメイトを殺すのは勿体ない。
だからと言って、何でも許されていいわけじゃない。
「それってほぼ死刑だよね?」
「こういうのは自分に置き換えないと駄目なのよ。私と美月が辻本に殺されたら、モモはどうしたい?」
「それは凄く怒るけど……殺すのはちょっと出来ないかも」
「私は百回は殺す。殺して殺して殺しまくってやる!」
佐藤は死刑反対、高橋は死刑大賛成のようだ。
でも、口では温厚な事を言ったり、過激な事を言っても、実際にどう行動するかは分からない。
佐藤が辻本の頭を棍棒杖で滅多打ちにする可能性もある。
「一ノ瀬君の言う通りに罰は必要だと思うけど、一ノ瀬君が犯罪を犯した場合はどうするの? 解毒薬が作れないとゾンビを助けられなくなるよ」
「確かにそうね。その時は会長を拘束して、解毒薬だけを作らせればいいんじゃないの?」
「でも、抵抗されたり、協力しなかったらどうするの?」
「そういう時は殴って言う事を利かせればいいのよ。雫がいるんだから、何回殴っても死なないわよ」
……また話が脱線している。
今度は長谷川と高橋が俺が犯罪を犯した場合の話をしている。
馬鹿げた話だが、犯罪者が貴重な能力を持っている場合は確かに面倒だ。
抵抗できないように、杖を持つ手だけ残して、残りの手足は切り落とすという方法もある。
だけど、自分が同じ目に遭うと考えるとやりたくはない。
「皆んなの気持ちは分かったよ。犯罪が起きた場合は拘束と死刑のどちらかにしよう。次の話をするよ。魔物が発生している南西の町に行こうと思っている。放って置けば、この町に魔物がやって来る可能性がある」
これ以上は時間の無駄なので、無理矢理に話を終わらせた。別の敵を用意しよう。
近場の三つの町の調査は終わったので、南西の道にいる魔物を倒そうと思う。
家畜として飼えそうなら捕獲して、無理そうなら倒す。
水色と黄緑色以外の真珠ならば、俺の杖も成長させる事が出来るかもしれない。
黄緑色でも七海と佐藤の杖を成長させる事は出来る。
「七海と佐藤さんには来てもらうよ。結衣と長谷川さんは町に残って、藤原達の監視をして欲しい」
「分かった。悪さをしたら拘束するから任せておいて」
藤原達を町に置いて離れるのは不安だけど、拘束するには力が必要だ。高橋と長谷川に任せるしかない。
三人を魔物狩りに連れて行くのは当然論外だ。杖を成長させられたら、拘束するのも難しくなる。
辻本も一日ぐらいは大人しくしているだろう。
♢
「こっちの草は緑が残っているね」
「もしかすると南の方が暖かいのかも」
後ろを歩く女子二人が暢気に話している。
七海と佐藤と一緒に町を南西に進んで行くと、地面の草が枯れ草から緑色に変わった。
高さ15センチ程の緑の草原地帯は所々に円形に食べられた跡がある。
探している魔物は草食の可能性がある。
……地図には草原地帯とは書かれてない? ゾンビになって、何年経過しているんだ。
町の住民に地図を見せてもらって、それをスマホで写真撮影しておいた。
茶色いインクで書かれた紙の地図には、南西の町までの目印になる木や岩の形が書かれている。
一応、この世界にも方位磁石があったので、地図が間違ってなければ、目的地には着くはずだ。
「俺が魔法で魔物を倒すけど、もしも倒せない場合は皆んなで急いで逃げるから、心の準備はしておいて」
スマホの時刻を確認した後に、後ろの二人に警告した。町から出発して、四時間が経過した。
調査に出掛けた男の話では、テルダムの町から四時間程の所で、口から牙を生やした白い魔物を見たそうだ。
男は何とか牙の魔物を避けつつ前進したが、他にも頭に角の生えた魔物がいて、諦めたそうだ。
「えっー、だったら、会長が先に一人で行って確認すればいいのに……」
「違うよ、佐藤さん。会長は自信がないと連れて来ないから。多分、万が一に心配した時の為の言い訳だよ」
「そうなの? 面倒くさいなぁー」
二人で好き勝手に言うけど、七海が言っている通りなので言い返せない。
第三魔法の爆発弾を魔物の口の中に発射すれば、周囲に肉片をばら撒いてくれるはずだ。
「あっ、会長、あそこ……牛がいるよ」
「牛? あれが?」
しばらく草原地帯を歩いていると、後ろを歩いていた佐藤が何かを見つけたようだ。
急いで駆け寄って来ると肩をトントンと叩いて、右の方向を指差して、小声で教えてきた。
……あの遠くの豆粒みたいなのが牛なのか?
佐藤が指差す方向にしばらく歩いて行くと、白黒模様の大きな身体の四足生物がハッキリと見えた。
大きな頭の左右に空に向かって伸びる二本の白角を生やしている。
実物の牛は見た事ないけど、絵や映像で見た事はある。俺が知っている牛よりも角が象並みに長過ぎる。
白黒の毛もモップのように長い。とりあえず『モップ牛』と呼んでおこう。
「グモォー、グモォー」
「会長、和牛だよ! 絶対に逃したら駄目だよ!」
「佐藤さん、少し落ち着いて。狩りに来たけど、食べには来てないから」
メロンパンだけの食事にもう我慢できないのだろう。
佐藤は目を輝かせて、軽自動車並みにデカい牛を見ている。
長い杖で攻撃しようとしているのに、腕を揺すってくるから狙いが定まらない。
しょうがないので邪魔されないように少し離れると、爆発魔法を発動させた。
「エクスプロージョン」と唱えると、長さ九十センチの杖の先に直径20センチの爆発弾の塊が出現する。
このままモップ牛の身体に発射してもいいけど、貫通力を上げる為に長さ30センチの細い槍状にする。
魔物の大きさや数に合わせて適切な魔法を使う。デカい相手にはとにかく強力な一撃だ。
バシュと無心に草を食べているモップ牛の頭の真ん中に爆発槍を矢のように発射した。
15メートル程離れたモップ牛の頭の真ん中にグサッと槍が突き刺さる。
「グモォー⁉︎」とモップ牛の驚く声が聞こえた気がしたけど、すぐにドォーンという爆発音に掻き消された。
「おお! 和牛が倒れたよぉ! バラバラにして町に持って帰ろう! 解毒薬があれば、平気なはずだから。焼肉にして、皆んなで食べよう!」
「会長、音で魔物が寄って来るんじゃないですか?」
頭を失ったモップ牛が地面の倒れた。佐藤は本気で食べるつもりのようだ。
俺もバラバラにした場合に吸収できるのか気になるが、七海が心配するように魔物が来ると危ない。
佐藤の杖でモップ牛が吸収できるか急いで確認した方が良いだろう。
「ほら、佐藤さん。食べるのは目的が終わった後だよ。早く杖で吸収してみて」
「う、うん、勿体ないけどやってみる」
佐藤の手を握って、モップ牛の側まで連れて行く。
解毒薬も試してみたいけど、それは麻痺が使える高橋がいないと危険過ぎる。
それに杖で吸収できないなら魔物じゃなくて、動物だという証拠だ。
その場合は危ない角を切り落として、家畜として町に連れて行けばいい。
佐藤がモップ牛の身体に棍棒杖をくっ付けると、黄緑色の光が杖に流れ始めた。
バラバラに飛び散った肉片からも、黄緑色の光が流れてくる。
バラバラにしても、杖で吸収すれば全部灰になるようだ。
「あぁ、お肉が消えていく」と佐藤が悲しそうな声を出しているけど、これでモップ牛が魔物だと分かった。
問題なく二人の杖を成長させる事が出来る。
「ねぇ、会長。一匹だけ吸収しないで食べようよ? なんか凄く勿体ない気がする」
「駄目だよ、佐藤さん。頑張って黄緑色真珠を沢山集めれば、フライドチキンが食べ放題だから頑張ろう?」
「フライドチキンって……絶対に量的に損しているよぉ」
そんなのは誰だって分かっている。佐藤には悪いけど、杖の成長を優先させてもらう。
二人の杖が成長して、モップ牛を吸収する必要がなくなったら、その時に肉は持ち帰る。
それまで待てないなら、杖の第三形態でお肉料理を作れるようになるしかない。
「だったら、杖を成長させてお肉料理を作れるようになるしかないよ。熱々のステーキ肉の為にも頑張って!」
「ステーキっ⁉︎ あぁ、でも、私、ハンバーグの方が好きだし……」
「俺はカツ丼が美味しいと思うよ」
「あぁ、私もカツ丼食べたいかも」
ステーキとハンバーグで迷っているようだから、第三勢力を投入した。
そろそろ米が食べたいので、カツ丼はベストな肉料理だ。
佐藤は選ぶのにさらに苦悩しているけど、魔物を百匹吸収する前には決まるだろう。
女子達四人と住民代表のアルマを集めて、藤原達をどうするか話し合いを始めた。
藤原達三人の杖を第三形態にすれば、それ以上はゾンビを殺さない。
だから、杖が成長すると方法を教えても問題ない。
殺すゾンビも南東の町のゾンビにすれば、この町のゾンビには被害は出ない。
という提案だが、四百人近くのゾンビを殺す事になる。
「杖を成長させるだけなら、南西の町でいいんじゃない? 魔物が沢山いるなら、藤原達に片付けてもらえばいいでしょう?」
「私もそれが良いと思う。私もゾンビは殺したくないよ」
高橋と佐藤は魔物を倒した方が良いと言っている。杖が第二形態の七海が何も言わないので聞いてみた。
「七海はどうなの? 七海も杖を成長させたいでしょう?」
「私も魔物の方が良いと思うよ。でも、大丈夫かな? 辻本もいるんでしょう? 悪い噂しか聞いた事ないよ」
「私も辻本君がサッカー部の後輩の足を折ったって聞いた事があるよ。町の人達に何もしないよね?」
杖を成長させる方法が南西の魔物を倒す、にするのは全員一致みたいだけど、問題は辻本らしい。
悪い噂しかない人間の杖を強力にしていいのかと心配している。
一応、三人の能力は聞き取りしておいた。明らかに危険な能力はなかったけど、危険な兆候はある。
藤原は『火弾』『level-up』『料理・フライドチキン』。
森は『回復弾』『木弾』『調合・栄養ドリンク』。
辻本は『水弾』『氷弾』『鍛治・短剣』。
殺傷力のある短剣を欲しがる人間は確かに信用できない。でも、サバイバルに短剣は必要な物だ。
これだけで危険人物扱いする方が異常だ。
佐藤が料理が作りたいと包丁を欲しがっても、誰も異常とは思わないはずだ。
「私達はミズキの決定に従います。気にせずに思い通りにしてください」
「それは駄目だ。アルマは俺が死ねと言えば死ぬの? 抱きたいと言えば抱かせてくれるの?」
「それは……」
「自分の大切なものを簡単に他人の意思に任せない方がいいよ。アルマを呼んだのは一方的な決定を伝える為じゃない。意見を聞く為なんだから、しっかりと自分の考えを話して」
俺の質問にアルマは困った顔をしている。即答できないなら、この決定には従えないという事だ。
俺を信頼しているのは嬉しいが、これから生活が安定すれば、住民の数はドンドン増えていく。
何百人の住民を自分の手足のように動かせる実力は俺にはない。
ゾンビになる前のように自分達で考えて、ある程度は判断してもらわないと困る。
「すみません。死ぬのは無理ですけど、一夜を共に過ごす事は出来ます」
「別にどっちもしなくていいよ。やって来た男達が住民に暴力を振るったら報告して欲しい。我慢する必要はないから」
「はい。皆んなにはそう伝えておきます」
アルマは申し訳なさそうに謝ったけど、一夜を共に過ごすには凄い覚悟が必要だ。
そこまでの覚悟があるなら、クラスメイトの多少のムカつく態度も我慢できるだろう。
「話が少し断線したけど、これからもクラスメイトがやって来るかもしれない。嫌な相手とも協力しないといけない。でも、犯罪は許されない。場合によっては杖を没収して、町の外に追放する厳罰が必要だと思う。皆んながそれでもいいのか聞きたい?」
前にクラスメイトがクラスメイトを殺した場合と犯した場合は、死刑にすると七海と決めた。
今回はクラスメイトがこの世界の人間を殺した場合と犯した場合だ。
魔法の杖を持っている貴重なクラスメイトを殺すのは勿体ない。
だからと言って、何でも許されていいわけじゃない。
「それってほぼ死刑だよね?」
「こういうのは自分に置き換えないと駄目なのよ。私と美月が辻本に殺されたら、モモはどうしたい?」
「それは凄く怒るけど……殺すのはちょっと出来ないかも」
「私は百回は殺す。殺して殺して殺しまくってやる!」
佐藤は死刑反対、高橋は死刑大賛成のようだ。
でも、口では温厚な事を言ったり、過激な事を言っても、実際にどう行動するかは分からない。
佐藤が辻本の頭を棍棒杖で滅多打ちにする可能性もある。
「一ノ瀬君の言う通りに罰は必要だと思うけど、一ノ瀬君が犯罪を犯した場合はどうするの? 解毒薬が作れないとゾンビを助けられなくなるよ」
「確かにそうね。その時は会長を拘束して、解毒薬だけを作らせればいいんじゃないの?」
「でも、抵抗されたり、協力しなかったらどうするの?」
「そういう時は殴って言う事を利かせればいいのよ。雫がいるんだから、何回殴っても死なないわよ」
……また話が脱線している。
今度は長谷川と高橋が俺が犯罪を犯した場合の話をしている。
馬鹿げた話だが、犯罪者が貴重な能力を持っている場合は確かに面倒だ。
抵抗できないように、杖を持つ手だけ残して、残りの手足は切り落とすという方法もある。
だけど、自分が同じ目に遭うと考えるとやりたくはない。
「皆んなの気持ちは分かったよ。犯罪が起きた場合は拘束と死刑のどちらかにしよう。次の話をするよ。魔物が発生している南西の町に行こうと思っている。放って置けば、この町に魔物がやって来る可能性がある」
これ以上は時間の無駄なので、無理矢理に話を終わらせた。別の敵を用意しよう。
近場の三つの町の調査は終わったので、南西の道にいる魔物を倒そうと思う。
家畜として飼えそうなら捕獲して、無理そうなら倒す。
水色と黄緑色以外の真珠ならば、俺の杖も成長させる事が出来るかもしれない。
黄緑色でも七海と佐藤の杖を成長させる事は出来る。
「七海と佐藤さんには来てもらうよ。結衣と長谷川さんは町に残って、藤原達の監視をして欲しい」
「分かった。悪さをしたら拘束するから任せておいて」
藤原達を町に置いて離れるのは不安だけど、拘束するには力が必要だ。高橋と長谷川に任せるしかない。
三人を魔物狩りに連れて行くのは当然論外だ。杖を成長させられたら、拘束するのも難しくなる。
辻本も一日ぐらいは大人しくしているだろう。
♢
「こっちの草は緑が残っているね」
「もしかすると南の方が暖かいのかも」
後ろを歩く女子二人が暢気に話している。
七海と佐藤と一緒に町を南西に進んで行くと、地面の草が枯れ草から緑色に変わった。
高さ15センチ程の緑の草原地帯は所々に円形に食べられた跡がある。
探している魔物は草食の可能性がある。
……地図には草原地帯とは書かれてない? ゾンビになって、何年経過しているんだ。
町の住民に地図を見せてもらって、それをスマホで写真撮影しておいた。
茶色いインクで書かれた紙の地図には、南西の町までの目印になる木や岩の形が書かれている。
一応、この世界にも方位磁石があったので、地図が間違ってなければ、目的地には着くはずだ。
「俺が魔法で魔物を倒すけど、もしも倒せない場合は皆んなで急いで逃げるから、心の準備はしておいて」
スマホの時刻を確認した後に、後ろの二人に警告した。町から出発して、四時間が経過した。
調査に出掛けた男の話では、テルダムの町から四時間程の所で、口から牙を生やした白い魔物を見たそうだ。
男は何とか牙の魔物を避けつつ前進したが、他にも頭に角の生えた魔物がいて、諦めたそうだ。
「えっー、だったら、会長が先に一人で行って確認すればいいのに……」
「違うよ、佐藤さん。会長は自信がないと連れて来ないから。多分、万が一に心配した時の為の言い訳だよ」
「そうなの? 面倒くさいなぁー」
二人で好き勝手に言うけど、七海が言っている通りなので言い返せない。
第三魔法の爆発弾を魔物の口の中に発射すれば、周囲に肉片をばら撒いてくれるはずだ。
「あっ、会長、あそこ……牛がいるよ」
「牛? あれが?」
しばらく草原地帯を歩いていると、後ろを歩いていた佐藤が何かを見つけたようだ。
急いで駆け寄って来ると肩をトントンと叩いて、右の方向を指差して、小声で教えてきた。
……あの遠くの豆粒みたいなのが牛なのか?
佐藤が指差す方向にしばらく歩いて行くと、白黒模様の大きな身体の四足生物がハッキリと見えた。
大きな頭の左右に空に向かって伸びる二本の白角を生やしている。
実物の牛は見た事ないけど、絵や映像で見た事はある。俺が知っている牛よりも角が象並みに長過ぎる。
白黒の毛もモップのように長い。とりあえず『モップ牛』と呼んでおこう。
「グモォー、グモォー」
「会長、和牛だよ! 絶対に逃したら駄目だよ!」
「佐藤さん、少し落ち着いて。狩りに来たけど、食べには来てないから」
メロンパンだけの食事にもう我慢できないのだろう。
佐藤は目を輝かせて、軽自動車並みにデカい牛を見ている。
長い杖で攻撃しようとしているのに、腕を揺すってくるから狙いが定まらない。
しょうがないので邪魔されないように少し離れると、爆発魔法を発動させた。
「エクスプロージョン」と唱えると、長さ九十センチの杖の先に直径20センチの爆発弾の塊が出現する。
このままモップ牛の身体に発射してもいいけど、貫通力を上げる為に長さ30センチの細い槍状にする。
魔物の大きさや数に合わせて適切な魔法を使う。デカい相手にはとにかく強力な一撃だ。
バシュと無心に草を食べているモップ牛の頭の真ん中に爆発槍を矢のように発射した。
15メートル程離れたモップ牛の頭の真ん中にグサッと槍が突き刺さる。
「グモォー⁉︎」とモップ牛の驚く声が聞こえた気がしたけど、すぐにドォーンという爆発音に掻き消された。
「おお! 和牛が倒れたよぉ! バラバラにして町に持って帰ろう! 解毒薬があれば、平気なはずだから。焼肉にして、皆んなで食べよう!」
「会長、音で魔物が寄って来るんじゃないですか?」
頭を失ったモップ牛が地面の倒れた。佐藤は本気で食べるつもりのようだ。
俺もバラバラにした場合に吸収できるのか気になるが、七海が心配するように魔物が来ると危ない。
佐藤の杖でモップ牛が吸収できるか急いで確認した方が良いだろう。
「ほら、佐藤さん。食べるのは目的が終わった後だよ。早く杖で吸収してみて」
「う、うん、勿体ないけどやってみる」
佐藤の手を握って、モップ牛の側まで連れて行く。
解毒薬も試してみたいけど、それは麻痺が使える高橋がいないと危険過ぎる。
それに杖で吸収できないなら魔物じゃなくて、動物だという証拠だ。
その場合は危ない角を切り落として、家畜として町に連れて行けばいい。
佐藤がモップ牛の身体に棍棒杖をくっ付けると、黄緑色の光が杖に流れ始めた。
バラバラに飛び散った肉片からも、黄緑色の光が流れてくる。
バラバラにしても、杖で吸収すれば全部灰になるようだ。
「あぁ、お肉が消えていく」と佐藤が悲しそうな声を出しているけど、これでモップ牛が魔物だと分かった。
問題なく二人の杖を成長させる事が出来る。
「ねぇ、会長。一匹だけ吸収しないで食べようよ? なんか凄く勿体ない気がする」
「駄目だよ、佐藤さん。頑張って黄緑色真珠を沢山集めれば、フライドチキンが食べ放題だから頑張ろう?」
「フライドチキンって……絶対に量的に損しているよぉ」
そんなのは誰だって分かっている。佐藤には悪いけど、杖の成長を優先させてもらう。
二人の杖が成長して、モップ牛を吸収する必要がなくなったら、その時に肉は持ち帰る。
それまで待てないなら、杖の第三形態でお肉料理を作れるようになるしかない。
「だったら、杖を成長させてお肉料理を作れるようになるしかないよ。熱々のステーキ肉の為にも頑張って!」
「ステーキっ⁉︎ あぁ、でも、私、ハンバーグの方が好きだし……」
「俺はカツ丼が美味しいと思うよ」
「あぁ、私もカツ丼食べたいかも」
ステーキとハンバーグで迷っているようだから、第三勢力を投入した。
そろそろ米が食べたいので、カツ丼はベストな肉料理だ。
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しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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