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第3話 敵国の褐色メイド
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灰色の城の灰色の巨大な岩壁が見えてきた。
長い石橋を馬車が軽快に進んで、城の城門を通って行く。
「ここが『ミスティラルゴ城』だ」
馬車が止まると王子が扉を開けて、城の名前を教えてくれた。
私にとっては逃げられないという意味では、城も牢獄も一緒だ。
「部屋と必要な道具と材料は用意してある。足りない物があったら教えて欲しい」
「わぁー、自分の研究室が欲しかったんですよ。嬉しいなぁー」
……余計な事をしやがって。
馬車から降りて、城に入ると前を歩く王子が準備万端、いつでも仕事できると言ってきた。
一応、顔だけ笑っているけど、無能だとクビになるまで時間稼ぎしたい私にはいい迷惑だ。
でも、よく考えたら惚れ薬が作れる人間が無能なはずはない。
もう、どうすればいいのか分からない。
「ティエラ、ここが私の部屋だ。ナターシャもいるはずだから、挨拶して欲しい」
「あっ、はい……」
考え事をして歩いていると、いつの間にか王子の部屋に到着してしまった。
王子が真っ白な両開きの扉を開くと、黒と白のメイド服を着た褐色の女性が部屋の中に見えた。
「エース様……そちらの方は……」
綺麗な黒髪のセミロングヘアの女性が、不安そうな顔で王子の後ろに立っている私を緑色の瞳で見ている。
ミステリアスな美少女で、少し触れてだけで身体がボロボロに崩れ落ちそうな、そんな儚げな印象がある。
女の私から見ても、全力で守りたくなってしまう衝動に襲われてしまいそうだ。
「ああ、ナターシャ。この人が噂の錬金術師だ。安全な自白剤を作って貰うように頼んだ。これでもう大丈夫だ」
「そうでしたか。ナターシャ・ベルフォルマです。錬金術師様、よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。ティエラ・ホーエンハイムです」
「まあ、ホーエンハイム家の方ですか! 道理で。帝国でも優秀な錬金術師だと聞いた事があります」
「いえいえ、全然大した事ないですよ」
王子に紹介されて、ナターシャは安堵したけど、私はさらに緊張してしまう。
ホーエンハイムは偽名で、本名はティエラ・タトリン。父親は酒職人、母親は布織り職人。
錬金術は本物の錬金術師に少しだけ習っただけで、作れる物は全然大した事ない。
「ナターシャ、すまないが紅茶を淹れて欲しい。君の淹れた美味しい紅茶を飲めば、ティエラも君が優しい人だと分かるはずだ」
「分かりました。心を込めて喜んで淹れさせてもらいます。少々お待ちください」
王子が頼むとナターシャが笑顔で返事をして、紅茶を作り始めた。
観賞用のメイドじゃないようだ。キチンと仕事も出来るようだ。
「いえいえ、何時間でも待ちますよ」
「うっふふふ。大丈夫ですよ。そんなにかかりませんから」
割と本気で言ったつもりなのに冗談扱いされてしまった。
こんな良い人そうな二人を騙すのは、流石に良心がチクチクと痛む。
でも、これなら本物の自白剤だと言って、水を飲ませても問題ないかもしれない。
ナターシャがスパイじゃないなら問題ないはずだ。
……んっ? 今、何か紅茶に入れたよね?
少し離れた場所でナターシャが幸せそうに紅茶を淹れている。
その姿を王子の話を聞きながら眺めていると、メイド服のポケットから小さな小瓶を取り出した。
そして、その小瓶から二つあるカップの片方だけにポタリと透明な液体を一滴落とした。
「お待たせしました。エース様、ティエラ様」
「ありがとう、ナターシャ」
「ありがとうございます……」
王子の方に小瓶の液体が入った紅茶が出された。
王子の好みなのかもしれないけど、ちょっと気になる。
万が一にも本当にスパイだと、ヤバいかもしれない。
毒入り紅茶でジワジワと王子を暗殺する可能性もある。
……くっ! やるしかない!
「あっ、そっちの方が色が美味しそうです。そっちを飲んでもいいですか?」
「えっ、それは……」
「はっはは。どちらも味は一緒だよ。構わないよ」
「わぁー、ありがとうございます!」
手を伸ばして、王子の紅茶を取ろうとすると、一瞬だけナターシャが戸惑った。
王子は同じ味だと言って、笑って交換してくれた。
自分だけ小瓶の液体を入れられた事に気づいてないのか、私に気を使っているだけかもしれない。
「わぁー、いい匂いです」
……この微かな甘い匂いは?
カップに鼻を近づけて、紅茶の匂いを嗅いでみると、嗅いだ事のある匂いを微かに感じた。
以前に本物の惚れ薬を作ろうとして、興奮作用のある薬品を使った事がある。それとよく似た匂いがする。
キチンと調べてみないと分からないけど、何とか自然に紅茶を回収したい。
……よし、溢そう。
「きゃあ! ご、ごめんなさい! すぐに拭きます!」
「あぁ、気にしないでください! 私が拭きますから!」
「す、すみません、実は王子様の前だから凄く緊張していて!」
バシャンとテーブルの上に盛大に溢した。もちろん危ないので紅茶は一口も飲んでない。
ポケットからハンカチを急いで取り出して、謝りながら自然と紅茶を拭き取っていく。
慌てて、ナターシャも拭き取っているけど、もう遅い。
紅茶が染み込んだハンカチを軽く畳んで、ポケットに仕舞った。
「すみません、長旅で疲れているようです。私の仕事部屋に案内してもらっていいでしょうか?」
全然疲れてないけど、早く紅茶の成分を調べたい。
だけど、そう簡単には一人になれないようだ。ナターシャが案内役に名乗り出た。
「それなら私が案内しますよ。エース様、よろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。女性同士でしか話せないような話もあるだろうからね。ティエラには仕事以外でも、ナターシャの良き友人として相談に乗って欲しい」
「ええ、私なんかで良ければもちろんです」
「そんな! 私の方こそ、ティエラ様のお友達になれるなんて光栄です!」
王子に頼まれたので、ナターシャの友達になると喜んで返事をした。
ナターシャの方は大袈裟に喜んでいる。城の中に女友達が一人もいないのかもしれない。
長い石橋を馬車が軽快に進んで、城の城門を通って行く。
「ここが『ミスティラルゴ城』だ」
馬車が止まると王子が扉を開けて、城の名前を教えてくれた。
私にとっては逃げられないという意味では、城も牢獄も一緒だ。
「部屋と必要な道具と材料は用意してある。足りない物があったら教えて欲しい」
「わぁー、自分の研究室が欲しかったんですよ。嬉しいなぁー」
……余計な事をしやがって。
馬車から降りて、城に入ると前を歩く王子が準備万端、いつでも仕事できると言ってきた。
一応、顔だけ笑っているけど、無能だとクビになるまで時間稼ぎしたい私にはいい迷惑だ。
でも、よく考えたら惚れ薬が作れる人間が無能なはずはない。
もう、どうすればいいのか分からない。
「ティエラ、ここが私の部屋だ。ナターシャもいるはずだから、挨拶して欲しい」
「あっ、はい……」
考え事をして歩いていると、いつの間にか王子の部屋に到着してしまった。
王子が真っ白な両開きの扉を開くと、黒と白のメイド服を着た褐色の女性が部屋の中に見えた。
「エース様……そちらの方は……」
綺麗な黒髪のセミロングヘアの女性が、不安そうな顔で王子の後ろに立っている私を緑色の瞳で見ている。
ミステリアスな美少女で、少し触れてだけで身体がボロボロに崩れ落ちそうな、そんな儚げな印象がある。
女の私から見ても、全力で守りたくなってしまう衝動に襲われてしまいそうだ。
「ああ、ナターシャ。この人が噂の錬金術師だ。安全な自白剤を作って貰うように頼んだ。これでもう大丈夫だ」
「そうでしたか。ナターシャ・ベルフォルマです。錬金術師様、よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。ティエラ・ホーエンハイムです」
「まあ、ホーエンハイム家の方ですか! 道理で。帝国でも優秀な錬金術師だと聞いた事があります」
「いえいえ、全然大した事ないですよ」
王子に紹介されて、ナターシャは安堵したけど、私はさらに緊張してしまう。
ホーエンハイムは偽名で、本名はティエラ・タトリン。父親は酒職人、母親は布織り職人。
錬金術は本物の錬金術師に少しだけ習っただけで、作れる物は全然大した事ない。
「ナターシャ、すまないが紅茶を淹れて欲しい。君の淹れた美味しい紅茶を飲めば、ティエラも君が優しい人だと分かるはずだ」
「分かりました。心を込めて喜んで淹れさせてもらいます。少々お待ちください」
王子が頼むとナターシャが笑顔で返事をして、紅茶を作り始めた。
観賞用のメイドじゃないようだ。キチンと仕事も出来るようだ。
「いえいえ、何時間でも待ちますよ」
「うっふふふ。大丈夫ですよ。そんなにかかりませんから」
割と本気で言ったつもりなのに冗談扱いされてしまった。
こんな良い人そうな二人を騙すのは、流石に良心がチクチクと痛む。
でも、これなら本物の自白剤だと言って、水を飲ませても問題ないかもしれない。
ナターシャがスパイじゃないなら問題ないはずだ。
……んっ? 今、何か紅茶に入れたよね?
少し離れた場所でナターシャが幸せそうに紅茶を淹れている。
その姿を王子の話を聞きながら眺めていると、メイド服のポケットから小さな小瓶を取り出した。
そして、その小瓶から二つあるカップの片方だけにポタリと透明な液体を一滴落とした。
「お待たせしました。エース様、ティエラ様」
「ありがとう、ナターシャ」
「ありがとうございます……」
王子の方に小瓶の液体が入った紅茶が出された。
王子の好みなのかもしれないけど、ちょっと気になる。
万が一にも本当にスパイだと、ヤバいかもしれない。
毒入り紅茶でジワジワと王子を暗殺する可能性もある。
……くっ! やるしかない!
「あっ、そっちの方が色が美味しそうです。そっちを飲んでもいいですか?」
「えっ、それは……」
「はっはは。どちらも味は一緒だよ。構わないよ」
「わぁー、ありがとうございます!」
手を伸ばして、王子の紅茶を取ろうとすると、一瞬だけナターシャが戸惑った。
王子は同じ味だと言って、笑って交換してくれた。
自分だけ小瓶の液体を入れられた事に気づいてないのか、私に気を使っているだけかもしれない。
「わぁー、いい匂いです」
……この微かな甘い匂いは?
カップに鼻を近づけて、紅茶の匂いを嗅いでみると、嗅いだ事のある匂いを微かに感じた。
以前に本物の惚れ薬を作ろうとして、興奮作用のある薬品を使った事がある。それとよく似た匂いがする。
キチンと調べてみないと分からないけど、何とか自然に紅茶を回収したい。
……よし、溢そう。
「きゃあ! ご、ごめんなさい! すぐに拭きます!」
「あぁ、気にしないでください! 私が拭きますから!」
「す、すみません、実は王子様の前だから凄く緊張していて!」
バシャンとテーブルの上に盛大に溢した。もちろん危ないので紅茶は一口も飲んでない。
ポケットからハンカチを急いで取り出して、謝りながら自然と紅茶を拭き取っていく。
慌てて、ナターシャも拭き取っているけど、もう遅い。
紅茶が染み込んだハンカチを軽く畳んで、ポケットに仕舞った。
「すみません、長旅で疲れているようです。私の仕事部屋に案内してもらっていいでしょうか?」
全然疲れてないけど、早く紅茶の成分を調べたい。
だけど、そう簡単には一人になれないようだ。ナターシャが案内役に名乗り出た。
「それなら私が案内しますよ。エース様、よろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。女性同士でしか話せないような話もあるだろうからね。ティエラには仕事以外でも、ナターシャの良き友人として相談に乗って欲しい」
「ええ、私なんかで良ければもちろんです」
「そんな! 私の方こそ、ティエラ様のお友達になれるなんて光栄です!」
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