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生十二話 何でもしていいんだよね?

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「コネコ、お水持ってきて。あるよね?」

 流石に直で錠剤を飲んでもらうほど意地悪じゃない。キチンと優しさを持っている。
 それに監禁部屋でも水ぐらいはあるはずだ。無ければ死んでしまう。

「はい、持ってきます」

 ほら、あった。コネコが返事すると、小走りで取りに行ってくれた。

「はい、この薬を十錠ずつ飲んでね」
「はむっ!」
「えっ?」

 それなのにペトラがコネコを待たずに、差し出した錠剤を奪い取って飲み込んだ。
 バリボリ、バリボリと口の中から音が聞こえてくる。飲み込まずに食べている。
 お母さんと一緒だ。

「ゴクン。はい、食べました。早く妖精の薬草ください」
「あっ、うん……」

 噛み砕いた錠剤を飲み込むと、ペトラが要求してきた。
 駄目だ、もう渡すしかない。だけど、渡す物がない。

「お金、あるかな」
「へぇっ?」

 私の中で絶対に渡せない戦いが始まった。
 妖精の薬草を取りに動かずにペトラに訊いた。

「貴重で高価な物をタダで渡せないよ。お金あるよね?」
「エ、エイアスさんは分割払いで、い、いいよって言ってくれました」
「兄は兄、僕は僕なの。つまりは渡せないよ」
「そ、そんなぁー……お母さん、今日死んじゃうかもしれないんです。お願いします、私に出来る事なら何でもします、だから、お願いします」
「くぅっっ!」

 その顔やめて‼︎ 私の方が何でもしたくなっちゃうから‼︎
 今にも泣きそうな顔でペトラが両手を組んで迫ってきた。
 私は神様でも女神様でもない。どんなにお願いされても出来ない事がある。
 必死に我慢すると下品な笑みを浮かべた。

「へぇ、へぇー、何でもしてくれるんだ。だったらしてもらおうかな♪」
「ひゃぁ! な、何するつもりですかぁ……」
「何でもしていいんだよね? だから、何でもするんだよ」

 ペトラを床に押し倒すと馬乗りになった。これで逃げられない。

 ——ガシャン!

「ハッ!」

 背後で何かが割れる音が聞こえて振り向いた。
 茶色い陶器のコップが割れて、床が濡れている。

「ア、アイツと一緒でしゅ⁉︎」

 違う違う違う! 同じように見えるかもしれないけど全然違う!
 コネコが青ざめた顔で右手で口を押さえて、明らかにショックを受けている。
 私は薬が効くまで押さえているだけで、薬が効いても何もしない。

「うぅぅん、離してください! 離さないと大声出しますよ!」

 コネコだけでも面倒なのに、バタバタ暴れてペトラが脅してきた。
 子供といっても、十二歳だ。中学一年生ぐらいの力はある。

「コ、コネコも手伝って!」

 私一人で押さえているのも大変だ。
 ショックを受けているコネコに応援を頼んだ。

「い、嫌ですぅ……」

 ——でしょうね‼︎ 断られると思っていた。
 仕方ないから自分でどうにかしないといけない。
 薬が効くまで長くても三十分。短ければ三分もあれば効くと思う。
 それまでの辛抱だ。両手を広げるとペトラの脇を狙った。

「コチョコチョコチョコチョ」
「ひゃぁ! あっははは、駄目です、そこは駄目、許して!」

 ごめん、許してあげない。
 笑い転げるペトラを無視して、両脇をくすぐり続ける。

「ひゃははははっ、あうう、はぁはふっ……」
「ふぅー、効いたみたい」

 五分以上の壮絶な戦いがやっと終わってくれた。
 薬の効果か、くすぐり効果かちょっと微妙だけど、ペトラがパタッと気を失った。
 くすぐっても反応ないから、死んだフリじゃなさそうだ。

「コネコ」
「ひゃう! ゆ、許してくだちゃい!」

 馬乗りをやめて立ち上がると、手助けしてくれなかったコネコを見た。
 両腕を構えて、顔と胸を守って、縮こまってブルブル震えている。
 だから、ロリコンじゃない。何も酷い事しない。

「私が帰るまで、この子の事を見てて。私、いや、俺にはやる事があるから」

 さてと、これからが本番だ。コネコに寝ているペトラの面倒をお願いした。
 これで二人とも店の中にいてもらえる。私の面倒事が減らせる。
 でも、念の為にちょっと怖い感じに、返事のないコネコに念押しした。

「……それぐらい出来るよね?」
「ひゃい! 出来ます!」
「うん、良い子だ。良い子にしてたら何もしないからね」
「あぅぅぅ……」

 分かってくれたみたいだから、ご褒美に頭ナデナデしてあげた。
 めっちゃ震えているけど、きっと嬉しくて震えているわけじゃない。
 完全に少女二人を敵に回してしまったけど、私は大丈夫だ。私にはこの鍵束がある。
 一本だけ何処の鍵か分からないけど、この部屋と店の扉の鍵を閉めれば、絶対に逃げられない。
 二人の身の安全は保証されたようなものだ。
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