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生十三話 青い鳥の伝書鳩

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 ガチャリ、ガチャリと二つの扉を閉めて、無事に薬屋から脱出できた。
 大事な戦いの前に無駄な時間を使った気がする。
 でも、これでペトラの心配をする必要がなくなった。
 それにロリコンに苦しめられていた少女を助けられた。
 全然無駄じゃない。

「あぁー、疲れたぁー」

 そう、無駄じゃなかったと思いたい。
 冒険者ギルドを目指して疲れた気持ちで歩き出した。
 もうすでに一仕事終えたから、マロウ酒でお祝いしたい気分だ。
 でも、それが出来るのはラナさんの余命が一年とか長い時だけだ。
 余命一日だと絶対許されない。

「さてと、銀貨五枚で足りるかな?」

 赤い煉瓦の外壁の冒険者ギルドに到着した。中に入る前に財布の中身を確認した。
 ペトラと違って、金貨も銀貨もある。足りない場合は薬屋から取って来れる。
 それに『怖い女性二人から守ってください!』という簡単な依頼なら安い報酬で済むはずだ。
 これが『めっちゃ強の女性二人から守ってください!』という困難な依頼だと高くなってしまう。
 少ない報酬で同じ事をやらせるって凄く大事だと思う。頭は使う為にあるんだ。

 ギィィィィ……

 お金の準備も心の準備もバッチリだ。冒険者ギルドの扉を開けた。
『あん?』と一回目と同じで強面の犯罪者崩れ達が睨みで挨拶してきた。
 雑魚は無視していいから、カウンターにいる極悪爺に向かって歩いていく。

「見ねえ顔だな。冒険者登録と依頼のどっちだ?」

 カウンターにつくなり、極悪爺が訊いてきた。

「依頼です。女性二人から守ってほしいんです」
「何だそりゃー? 浮気がバレて怖いのか? だったら自業自得だ。自分で何とかしろ」

 正直に答えたのに、何故か二股最低浮気男として認識されてしまった。
 酷い勘違いだけど、極悪爺だけじゃないみたいだ。

「おいおい、お前最低だな。よかったら、俺が一人貰ってやるよ!」
「しょうがねえな。俺も一人貰ってやるよ。顔と身体を見た後だけどな!」
「ギャハハハハ! どっちもブスならお断りってな!」

 下品な冒険者達が私の依頼に立候補してきた。多分、正直に答えたら誰も受けてくれない。
 子持ちの三十代の炎の魔女と、四十代の棍棒パーママッスルバンダナだ。
 めちゃ強でマニアックな人しか好きになれない二人だ。

「それで、本当はどんな依頼なんだ。顔を見ればくだらねえ依頼じゃねえ事ぐらい分かる」

 流石は年季が入った極悪人だ。馬鹿笑いする他の冒険者達とは違う。
 だったら私も全部は無理でも、少しは正直に答えた方がいいかもしれない。

「……助けたい人がいるんですけど、凄く強いおばさんが邪魔してくるんです。そいつを倒して欲しいんです。それを『ジョイ』っていう冒険者の人に頼みに来たんです」
「ジョイ? そんな奴は知らねえな。知っている特徴はあるか?」

 ヤバイ、別の洗剤だったみたい。
 極悪爺が所属している組員の名前を知らないはずがない。
 とにかく思い出して、ジョイがどんな奴なのか教えないと。
 
「えっと、ハゲの大男で、斧と盾を持っていて、人をすぐに殴り殺す凶悪な——」
「もういい。そいつなら知っている。『ジェイ』だ」
「ああ、その人です! その人の仲間二人も一緒にお願いします!」

 惜しい、一文字だけ違っていた。
 でも、極悪爺が私のヒントで分かったから正解だ。
 あの三人組にバンダナ倒しとラナさんを救う協力をお願い出来る。

「とりあえず呼び出してやる。すぐに来るかどうかは分からねえぞ」
「ありがとうございます」

 手紙か電話か知らないけど、極悪爺が連れてきてくれるらしい。
 偽医者襲った直後なら、トイレ前に待っていれば会えるけど、あの三人組が今何処にいるのか分からない。

「ピィピィ」

(なるほど、伝書鳩か)

 魔法がある世界なら、凄い連絡手段があると思ったら、極悪爺が青い鳥が入った鳥籠を持ってきた。
 窓を開けて、青い鳥を一羽外に放っている。
 どういう理屈で鳥が斧男を見つけて連れて来るのか不明だけど、多分この方法で来るんだろう。

 まさか『あっ、青い鳥が飛んでる。冒険者ギルドに急がなければ!』とかならないはずだ。
 それだと冒険者全員がやって来てしまう。青い鳥=緊急集合の合図になる。
 特定の誰かを呼び出すには向いていない。

(……まあ、いっか♪)

 斧男達が来てくれるのなら、どんな方法でも構わない。
 謎の青い鳥の事を考えるのをやめて、待つ事にした。
 でも、ただ待つのも暇なので、冒険者の仕事にどんなものがあるのか調べよう。
 まだ幻の妖精の薬草探ししか知らないし、ラナさん助けても働かないといけない。

「あのぉー、今ある簡単な冒険者の仕事ってどんなのがありますか?」

 青い鳥をお見送りして、カウンターに戻ってきた極悪爺に遠慮がちに訊いてみた。
 鳥飛ばすだけの簡単な仕事なら私が代わりにやりたい。

「何だ、急に? 依頼だけじゃなくて、冒険者の仕事にも興味があるのか?」
「ええ、まあ、一応冒険者なので……」

 興味どころかもう冒険者だ。
 財布から遠慮がちに仮身分証の冒険者カードを取り出すと、カウンターの上に置いた。

「……おい、これは何のつもりだ? ブチ殺されてえのか」
「はい?」

 すると、冒険者カードを見た極悪爺の声音と目つきが豹変した。
 元々が怖いのに更に怖さを増して、私を殺すと脅してきた。
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