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第6章 虹ヶ丘小学校、その歴史のはじまり〔美代乃の視点〕
40 第6章第2話 はじまる学校
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「おはようーございまーす」
「あーちゃん、おはようね。いつも早いわね」
あーちゃんは、まだ5歳。小学校に通うのはもう少し先のはずなんだけど、毎朝、学校に来てるの。いつも元気に挨拶して、私に飛び付いてくるの。優しい笑顔なんだけど、小さな風呂敷包みを抱えている姿は、もういっぱしの小学生だわ。
普通なら、家で楽しく遊んでいる年頃なのに、わざわざ学校にやって来るの。
膝には、お母さんが当ててくれた接ぎがあるの。それでも、きれいに洗濯された小さなモンペを履き、前を合わせた短い着物の羽織を着て、ニコニコしながら教室の椅子に座ってる。そして、私が来るのを大人しく待ってくれてるの。
「今日も、いつもの絵本を持ってきたのね」
私は、いつものように声を掛け、彼女の傍の席に着くの。あーちゃんは、風呂敷から大切そうに本を取り出し、私に渡してくれる。
「うん、分かったわ、これは後で読むのね。じゃあ、最初はそうね……、この間は浦島太郎の話をしたから、今日は桃太郎の話でもしようか?」
「桃太郎? 鬼が出て来るやつ?」
「そうよ」
「怖くない?」
「大丈夫よ」
「じゃあ、お願い!」
そう言うと、本田彩子……いいえ、あーちゃんはちょこんと私の膝に座り、嬉しそうに振り向いてお話に耳を傾けてくれた。あーちゃんは、私がこの村にやってきた時に、この村で生まれたの。だから、私にとっては、ずーーっと『あーちゃん』なのよ。
ここは、虹ヶ丘小学校。この8月に開校したばかりで、まだ1ヶ月と経っていないけど、通って来る子供は結構いるの。
学校としては、まだ政府に申請中なので、正式な教員や教科書、学年などは決まっていないの。
ただ、町のみんなは、みんなが学ぶための学校で、私が校長だということは当たり前だと思っていたから、学校の名前も『虹ヶ丘小学校』と自然に決まったわ。
いいえ、そう言えばもう、決まっていたと言ってもいいかもしれないの。私があの日出会った旅の人達も何度か 『虹ヶ丘小学校』と、口にしていたから。
今となっては、それが何なのかは、わからないけど、私の頭からは、もうこの名前は離れなかったわ……。
「むか~し、むか~し、ある所に、おじいさんと、おばあさんが住んでいました。……」
私の話は、毎朝こうやって始まるの。あーちゃんは、みんなより早く学校に来てくれる。ほとんど学校では、1人で絵本を読む事が多いわ。唯一、このみんなが来る前の時間だけが、私とあーちゃんの時間なの。
他のみんなは、あーちゃんの為にいろんな絵本を探して学校に持ってきてくれてるの。町に本屋さんがある訳じゃないので、みんな自分の家にあった本を持ってきてくれるの。
もちろん、学校に図書室は無いわ。だから、みんなはあーちゃんの為に大切な本を貸してくれるのよ。
あーちゃんも家にあるお気に入りの絵本を毎日持って来るの。その本は、何回も何回も読んで、角が丸くなっているわ。表紙も少し破れているの。それでも、大切に毎日持ち歩いて来るの。
「……おや、今日は、桃太郎だね……」
そのうちに次々に登校してきた子ども達は、私のお話の邪魔をしないように、静かに教室に入って来てくれるの。教室といっても、部屋はここ1つしかないの。
みんなは、ここで勉強するんだけど、年齢が違っても、学年が違っても、一緒に勉強することになってるの。
そう、学校が出来る前、みんなで倉庫に集まって勉強していたのと同じよ。それでも、机や窓のある部屋は、集まってくる子供達にとっては、夢のような場所だったみたい。
ただ、今のところ、先生は私1人だけなんだけど。
「……めでたし、めでたし。おしまい」
「みょんちゃん、ありがとう。とっても楽しかったよ。それに、鬼が出てきたけど、怖くなかったよ」
「それは、よかったわ。……あ、みんなも、聞いてくれて、ありがとうね」
「いやああ、いつも、途中からですみません」
「そんなことないわよ。みんなが、あーちゃんとの時間を作ってくれるから、助かってるのよ、本当にありがとうね」
教室にいる他の子ども達の中には、ちょっと照れくさそうに頭を掻きながら知らないふりをしている子もいたけど、みんな笑顔なの。
たぶん、あーちゃんと私の邪魔をしないように、わざと時間を遅らせて来ている子も居るのよね。
私は、ちゃんとそのことも分かっていたの。だから、こんなに小さいあーちゃんが、毎日楽しく学校に来れたのね。
あーちゃんは、私の話を聞き終えると、その後は満足げに1人で絵本を広げて読む事になってるの。今日は、何人かが新しい絵本を渡していたので、彼女の笑顔が更に増していたわ。
子供達は、狭い教室の中で、一人一人木製の小さな机に向かい、そろばんをしたり、書き物をしたり、本を読んだりし始めたの。これが、ここ虹ヶ丘小学校での学びのスタイルよ。みんな自分のやりたい勉強をするの。
そして、時折、笑顔でお互いに声を掛けたり、私に質問したりして午前中をここで過ごしているわ。
昼近くになれば、各自家に帰り食事を済ませ、午後は家の仕事を手伝うのがほとんどよ。もちろん私も学校を閉めて、みんなと一緒に畑へ出て働いているの。
(つづく)
「あーちゃん、おはようね。いつも早いわね」
あーちゃんは、まだ5歳。小学校に通うのはもう少し先のはずなんだけど、毎朝、学校に来てるの。いつも元気に挨拶して、私に飛び付いてくるの。優しい笑顔なんだけど、小さな風呂敷包みを抱えている姿は、もういっぱしの小学生だわ。
普通なら、家で楽しく遊んでいる年頃なのに、わざわざ学校にやって来るの。
膝には、お母さんが当ててくれた接ぎがあるの。それでも、きれいに洗濯された小さなモンペを履き、前を合わせた短い着物の羽織を着て、ニコニコしながら教室の椅子に座ってる。そして、私が来るのを大人しく待ってくれてるの。
「今日も、いつもの絵本を持ってきたのね」
私は、いつものように声を掛け、彼女の傍の席に着くの。あーちゃんは、風呂敷から大切そうに本を取り出し、私に渡してくれる。
「うん、分かったわ、これは後で読むのね。じゃあ、最初はそうね……、この間は浦島太郎の話をしたから、今日は桃太郎の話でもしようか?」
「桃太郎? 鬼が出て来るやつ?」
「そうよ」
「怖くない?」
「大丈夫よ」
「じゃあ、お願い!」
そう言うと、本田彩子……いいえ、あーちゃんはちょこんと私の膝に座り、嬉しそうに振り向いてお話に耳を傾けてくれた。あーちゃんは、私がこの村にやってきた時に、この村で生まれたの。だから、私にとっては、ずーーっと『あーちゃん』なのよ。
ここは、虹ヶ丘小学校。この8月に開校したばかりで、まだ1ヶ月と経っていないけど、通って来る子供は結構いるの。
学校としては、まだ政府に申請中なので、正式な教員や教科書、学年などは決まっていないの。
ただ、町のみんなは、みんなが学ぶための学校で、私が校長だということは当たり前だと思っていたから、学校の名前も『虹ヶ丘小学校』と自然に決まったわ。
いいえ、そう言えばもう、決まっていたと言ってもいいかもしれないの。私があの日出会った旅の人達も何度か 『虹ヶ丘小学校』と、口にしていたから。
今となっては、それが何なのかは、わからないけど、私の頭からは、もうこの名前は離れなかったわ……。
「むか~し、むか~し、ある所に、おじいさんと、おばあさんが住んでいました。……」
私の話は、毎朝こうやって始まるの。あーちゃんは、みんなより早く学校に来てくれる。ほとんど学校では、1人で絵本を読む事が多いわ。唯一、このみんなが来る前の時間だけが、私とあーちゃんの時間なの。
他のみんなは、あーちゃんの為にいろんな絵本を探して学校に持ってきてくれてるの。町に本屋さんがある訳じゃないので、みんな自分の家にあった本を持ってきてくれるの。
もちろん、学校に図書室は無いわ。だから、みんなはあーちゃんの為に大切な本を貸してくれるのよ。
あーちゃんも家にあるお気に入りの絵本を毎日持って来るの。その本は、何回も何回も読んで、角が丸くなっているわ。表紙も少し破れているの。それでも、大切に毎日持ち歩いて来るの。
「……おや、今日は、桃太郎だね……」
そのうちに次々に登校してきた子ども達は、私のお話の邪魔をしないように、静かに教室に入って来てくれるの。教室といっても、部屋はここ1つしかないの。
みんなは、ここで勉強するんだけど、年齢が違っても、学年が違っても、一緒に勉強することになってるの。
そう、学校が出来る前、みんなで倉庫に集まって勉強していたのと同じよ。それでも、机や窓のある部屋は、集まってくる子供達にとっては、夢のような場所だったみたい。
ただ、今のところ、先生は私1人だけなんだけど。
「……めでたし、めでたし。おしまい」
「みょんちゃん、ありがとう。とっても楽しかったよ。それに、鬼が出てきたけど、怖くなかったよ」
「それは、よかったわ。……あ、みんなも、聞いてくれて、ありがとうね」
「いやああ、いつも、途中からですみません」
「そんなことないわよ。みんなが、あーちゃんとの時間を作ってくれるから、助かってるのよ、本当にありがとうね」
教室にいる他の子ども達の中には、ちょっと照れくさそうに頭を掻きながら知らないふりをしている子もいたけど、みんな笑顔なの。
たぶん、あーちゃんと私の邪魔をしないように、わざと時間を遅らせて来ている子も居るのよね。
私は、ちゃんとそのことも分かっていたの。だから、こんなに小さいあーちゃんが、毎日楽しく学校に来れたのね。
あーちゃんは、私の話を聞き終えると、その後は満足げに1人で絵本を広げて読む事になってるの。今日は、何人かが新しい絵本を渡していたので、彼女の笑顔が更に増していたわ。
子供達は、狭い教室の中で、一人一人木製の小さな机に向かい、そろばんをしたり、書き物をしたり、本を読んだりし始めたの。これが、ここ虹ヶ丘小学校での学びのスタイルよ。みんな自分のやりたい勉強をするの。
そして、時折、笑顔でお互いに声を掛けたり、私に質問したりして午前中をここで過ごしているわ。
昼近くになれば、各自家に帰り食事を済ませ、午後は家の仕事を手伝うのがほとんどよ。もちろん私も学校を閉めて、みんなと一緒に畑へ出て働いているの。
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