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29 エルフィーナの休日 2 ~家族優待券~
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次の日お母ちゃんは、朝食を済ませたら用事があると言い出した。
「晩ご飯までには帰ってくから、後はよろしくお願いするわ……、たまの休みなんだから家でごろごろするのもいいかも、ね、エルちゃん!」
なぜか、エルに向かって妙な笑顔を送ったお母ちゃんは、そそくさと出かけて行った。
「まったくお母ちゃんと来たら、友達だけは多いんだからなあ、どうぜまた誰かと遊びに出かけるんだろう……、エル、今日は何をしようか?」
昨日の楽しかった買い物を思い出しながら、僕はエルがもっと楽しめることがないか考えようとした。そうしたらエルが、僕の傍に来て、少し小さな声で
「昨日は、すぐ眠ってしまった…………、だから……話もしてない……つまらなかった……」と、言ったんだ。
僕は、夕べのことを思い出した。楽しみにしていた花柄のタオルケットに包まったまでは良かったんだ。でも、昼間の疲れもあって……いや、あまりにも心地よくて、2人ともすぐに眠ってしまったんだ。
「……そうだな、もう一回“野営”をしようか?」
「うん!」
「タオルケットを持ってきてくれるかい、僕は茶の間を片付けるよ……」
僕達は、また、お気に入りのタオルケットに包まって、肩を寄せ合った。
「エルが来てくれてから、僕はたくさんの安心をもらったような気がするよ」
僕は、この1ヶ月の出来事を思い出しながら、ゆっくりと話し出した。
「え?……私じゃなくて、直人が?」
契約では、エルが安全と安心を僕からもらうことになっていた。そのために、エルはこの世界で頑張ってきたはずだったんだ。
「なぜだろう? 僕にもわからない。……でも、初めて君に会った時、“同じ夢を見たい”と、言ったよね。きっと、同じ夢を見ることができれば…………君も……僕も……安心なのかもしれないね……」
「ありがとう……直人。今まで、いろんな人に会ったわ。……みんな夢を見てくれたの……。でも、みんな自分の夢だったの。夢の中で、私を大切にしてくれた人もいたけど、やっぱり自分の夢なのよ。一緒に夢を見たいと言ってくれたのは、直人が初めてよ」
そんな話は、やっぱり僕達にとって心地よく、あっという間に夢の世界へ落ちてしまうのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……グウーグ……ググー……ッグー……」
僕のお腹は、いつものように空腹のベルを鳴らし出した。
「「う、ううー、晩ご飯? た・べ・よう……か?」」
僕達は、同時に目を覚まし、すっきりした顔で晩ご飯の用意にかかった。
しばらくして、お母ちゃんも帰ってきたので、余りものや僕とエルが作った夕食を3人で楽しく食べた。
夕食も終わりかけた時、おもむろにお母ちゃんが一通の封筒を取り出した。
「えー、エルフィーナさん、直人君、あなた達にこれを差し上げましょう」
ちょっとふざけて、改まって口上を読み上げる真似をしたお母ちゃんが、封筒をエルに手渡した。
「え? 何ですかお母さん?」
びっくりしたエルは、お母ちゃんに聞いた。
「いいから、封筒を開けてごらん」
中には、“温泉御家族優待券”が入っていた。
「エルちゃんさ、最初にうちのお風呂に入った時、すごい感激してたじゃない。そして、直人が温泉の話をしたら、ぜひ行ってみたいって言ってたわよね」
「はい、あの時は、本当に嬉しくて。このお休みにも、ぜひ直人さんに温泉に連れて行ってもらえるようにお願いしようと思っていたんです」
「ちょうどよかったじゃない、その券ね、私の友達の商店街会長さんがくれたのよ。あげるから、2人でこの連休に行ってきない。1泊2日だけど楽しめるわよ、ね、エルちゃん」
お母ちゃんは、エルにウィンクしながら、嬉しそうに言った。
そうか、温泉か……そう言えば、エルは行きたいと言っていたなあ…………え? 待てよ、2人で?
「お母ちゃん、いいのかよ……」
僕は、慌ててしまった。その時、エルは、少しうつむいて
「私、温泉に行ってみたかったんです……でも……今は………………」と、何か言いたそうだった。
「今は、温泉が嫌いになったのかい?」
お母ちゃんが、エルの傍へ行き優しく慰めるように背中をさすった。
「そんなことはないんです。…………今は……お母さんも一緒じゃなきゃ……楽しめない……」
最後は、本当に小さな声になっていたんだ。でも、その声には、エルの本当の気持ちが込められていることが分かった。
「あなたって、本当にいい子なんだね。そんなこと気にしなくていいからさ……」
その時、僕は温泉の優待券を見ていいことを思いついた。
「ねえ、お母ちゃん。この券“御家族優待券”だよ……家族みんなで行けるよ……エルと僕とお母ちゃん、みんな家族だよな……エルどうだ」
それを聞いたエルに満面の笑みが戻った。そして、お母ちゃんに抱き着いたんだ。
「絶対に、そうしましょう!……そうじゃなきゃ、私、行かない!」
まだ、涙が残った目は、それでも笑っていたので、僕は安心した。
「わかったよ……喜んで私も行くことにするよ。……その代わり、あなた達はちゃんと仲良くするんだよエルちゃん、わかったかい?」
「はい! わかりました」
なんか、ものすごいことを、元気に誓っていたエルだった。その場にいた、僕は、少し照れて、顔が火照ったような気がしてちょっと目を逸らしてしまった。
(つづく)
「晩ご飯までには帰ってくから、後はよろしくお願いするわ……、たまの休みなんだから家でごろごろするのもいいかも、ね、エルちゃん!」
なぜか、エルに向かって妙な笑顔を送ったお母ちゃんは、そそくさと出かけて行った。
「まったくお母ちゃんと来たら、友達だけは多いんだからなあ、どうぜまた誰かと遊びに出かけるんだろう……、エル、今日は何をしようか?」
昨日の楽しかった買い物を思い出しながら、僕はエルがもっと楽しめることがないか考えようとした。そうしたらエルが、僕の傍に来て、少し小さな声で
「昨日は、すぐ眠ってしまった…………、だから……話もしてない……つまらなかった……」と、言ったんだ。
僕は、夕べのことを思い出した。楽しみにしていた花柄のタオルケットに包まったまでは良かったんだ。でも、昼間の疲れもあって……いや、あまりにも心地よくて、2人ともすぐに眠ってしまったんだ。
「……そうだな、もう一回“野営”をしようか?」
「うん!」
「タオルケットを持ってきてくれるかい、僕は茶の間を片付けるよ……」
僕達は、また、お気に入りのタオルケットに包まって、肩を寄せ合った。
「エルが来てくれてから、僕はたくさんの安心をもらったような気がするよ」
僕は、この1ヶ月の出来事を思い出しながら、ゆっくりと話し出した。
「え?……私じゃなくて、直人が?」
契約では、エルが安全と安心を僕からもらうことになっていた。そのために、エルはこの世界で頑張ってきたはずだったんだ。
「なぜだろう? 僕にもわからない。……でも、初めて君に会った時、“同じ夢を見たい”と、言ったよね。きっと、同じ夢を見ることができれば…………君も……僕も……安心なのかもしれないね……」
「ありがとう……直人。今まで、いろんな人に会ったわ。……みんな夢を見てくれたの……。でも、みんな自分の夢だったの。夢の中で、私を大切にしてくれた人もいたけど、やっぱり自分の夢なのよ。一緒に夢を見たいと言ってくれたのは、直人が初めてよ」
そんな話は、やっぱり僕達にとって心地よく、あっという間に夢の世界へ落ちてしまうのだった。
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「……グウーグ……ググー……ッグー……」
僕のお腹は、いつものように空腹のベルを鳴らし出した。
「「う、ううー、晩ご飯? た・べ・よう……か?」」
僕達は、同時に目を覚まし、すっきりした顔で晩ご飯の用意にかかった。
しばらくして、お母ちゃんも帰ってきたので、余りものや僕とエルが作った夕食を3人で楽しく食べた。
夕食も終わりかけた時、おもむろにお母ちゃんが一通の封筒を取り出した。
「えー、エルフィーナさん、直人君、あなた達にこれを差し上げましょう」
ちょっとふざけて、改まって口上を読み上げる真似をしたお母ちゃんが、封筒をエルに手渡した。
「え? 何ですかお母さん?」
びっくりしたエルは、お母ちゃんに聞いた。
「いいから、封筒を開けてごらん」
中には、“温泉御家族優待券”が入っていた。
「エルちゃんさ、最初にうちのお風呂に入った時、すごい感激してたじゃない。そして、直人が温泉の話をしたら、ぜひ行ってみたいって言ってたわよね」
「はい、あの時は、本当に嬉しくて。このお休みにも、ぜひ直人さんに温泉に連れて行ってもらえるようにお願いしようと思っていたんです」
「ちょうどよかったじゃない、その券ね、私の友達の商店街会長さんがくれたのよ。あげるから、2人でこの連休に行ってきない。1泊2日だけど楽しめるわよ、ね、エルちゃん」
お母ちゃんは、エルにウィンクしながら、嬉しそうに言った。
そうか、温泉か……そう言えば、エルは行きたいと言っていたなあ…………え? 待てよ、2人で?
「お母ちゃん、いいのかよ……」
僕は、慌ててしまった。その時、エルは、少しうつむいて
「私、温泉に行ってみたかったんです……でも……今は………………」と、何か言いたそうだった。
「今は、温泉が嫌いになったのかい?」
お母ちゃんが、エルの傍へ行き優しく慰めるように背中をさすった。
「そんなことはないんです。…………今は……お母さんも一緒じゃなきゃ……楽しめない……」
最後は、本当に小さな声になっていたんだ。でも、その声には、エルの本当の気持ちが込められていることが分かった。
「あなたって、本当にいい子なんだね。そんなこと気にしなくていいからさ……」
その時、僕は温泉の優待券を見ていいことを思いついた。
「ねえ、お母ちゃん。この券“御家族優待券”だよ……家族みんなで行けるよ……エルと僕とお母ちゃん、みんな家族だよな……エルどうだ」
それを聞いたエルに満面の笑みが戻った。そして、お母ちゃんに抱き着いたんだ。
「絶対に、そうしましょう!……そうじゃなきゃ、私、行かない!」
まだ、涙が残った目は、それでも笑っていたので、僕は安心した。
「わかったよ……喜んで私も行くことにするよ。……その代わり、あなた達はちゃんと仲良くするんだよエルちゃん、わかったかい?」
「はい! わかりました」
なんか、ものすごいことを、元気に誓っていたエルだった。その場にいた、僕は、少し照れて、顔が火照ったような気がしてちょっと目を逸らしてしまった。
(つづく)
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