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第1章
第2話 動き出す運命
しおりを挟む私は今、王都学園の入学式に出席している。
――そう。
あの祖父との賭けが、ついに始まったのだ。
これから一年以内に、私は婿を探し、婿取りをしなければならない。
貴族として生まれた以上、最低限の宿命。
……最早、仕方ないだろう。
今、学園の大広場には、身分順に席が並べられている。
公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家、平民の順番に並んでる。
当然、私は公爵家の席に座っている。
壇上では学園長がありがたいお話をしてくれているが――
正直、長い…長すぎる。
眠気すら襲ってくるほどだ。
しかし、ここでだらけるわけにはいかない。
我が公爵家の顔を潰すわけにはいかないのだ。
私は公爵令嬢としての佇まいを崩さないよう、必死に耐えていた。
……それにしても、まだ終わらないの?
長すぎでしょ。
思わずイライラして、小さく舌打ちしてしまう。
すると――
周りの令嬢や子息たちが、ビクッと震えてこちらを振り返った。
……え?
ねぇ、目の前の貴方。
めっちゃ震えてるけど大丈夫?
……ああ。
そういうことね。
私の容姿が怖いのだろう。
ケン兄は言った。
「不細工に変装させて学園に通わせる」って。
でもこれは――
不細工というより。
見た目が……
完全に【魔女】なのよ。
元々は愛くるしいと言われていた瞳。
それが今では、真っ黒なアイライナーでぐるりと囲まれている。
しかも、べっとりと。
まつ毛は異様なほど盛られ。
透き通るようだった白い肌は、くすんだファンデーションで厚塗り。
そして極めつけは――
暗い紫のルージュ。
もはや病人みたいな顔色である。
さらに。
キャラメルブラウンの綺麗な髪は完全封印。代わりに被っているのは、真っ黒なロングウィッグ。
――そう。
これこそが。
【魔女令嬢】の誕生である。
……いや、本当に不気味なんだけど。
これ、婿探しどころか
友人を作ることすら難しくない?
まあ、そもそも友人がいないのは――
貴族のしきたりや面倒な付き合いを、今まで全部放置してきたツケなのかもしれないけど。
そんなことを考えていると、ようやく学園長の話が終わった。
やっと解放された。
……のだけど。
誰も、私と目を合わせてくれない。
マジ?
「ねぇ、貴方。Aクラスの教室はどちらか分かるかしら?」
近くにいた女の子に声をかけてみる。
貴族ではなく、見るからに平民っぽい雰囲気の子だ。
すると――
固まった…完全に石像である。
――その瞬間。
ひそひそ声が聞こえてきた。
「ねぇ……あの子、魔女の呪いにかけられたのかしら……」
「魔女……魔女だわ……」
「でも公爵家の令嬢に楯突けないわよね……」
「話しかけられたら呪われるのかしら……」
……全部聞こえてるんだけど?
ねぇ、呪われるって何よ…笑えないんだけど。
そんな時だった。
横から、突然声がした。
「Aクラスはこっちみたいだよ?」
振り向くと――
そこには、やたらとキラキラしたイケメンが立っていた。
眩しいくらいの笑顔。
緩くウェーブしたゴールドブラウンの髪。
どこかチャラチャラした雰囲気を漂わせている。
でも愛嬌があって、猫みたいな感じだ。
「俺もAクラスだから、良かったら案内するよ」
私は男性慣れしていない。
突然話しかけられて、少し戸惑う。
「あれ? ハンズ公爵家のジュリア嬢ですよね?」
「大丈夫ですか?」
そう言って距離を詰めてくる。
近い、近すぎる…
思わず一歩後ろに下がる。
(チャラ男!近いのよ!)
その様子を、周りがまたひそひそ話している。
「魔女に挑んでるケイ様、大丈夫かしら……」
「呪われたりしない?」
「でもケイ様には癒しの力があるのかも……」
……私、何扱いなの?魔物?
現実逃避しかけたが、すぐ思考を戻す。
「貴方、何様?」
「近すぎるわ!」
「どいてくださらない? 案内するなら、とっととしなさい!」
つい、悪態をついてしまう。
だって私は今――魔女令嬢なのだから。
演技は徹底しないと。
しかし、チャラ男は気にした様子もない。
苦笑しながら普通に案内してくれた。
教室に入ると、彼は友人たちのところへ行き、こちらに手を振る。
……私はというと。
まだ友人と呼べる人がいない。
だから、一番後ろの席を選んで座った。
すると――
前の席も、横の席も。
全部、空席。
……あれ?これ、私…
学園生活、詰んでない?
嫌われてる気がするんだけど。
もしかして……ケン兄に騙された?
だって、このままじゃ。
友達すら出来ない気がするんだけど。
……やっぱり詰んでない?
思わず、苦笑いしてしまった。
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