【異種間】睡眠サポートサービス【BL】

おまけ

繁殖期③ （2022/12/27：挿絵追加）

「……ジョニー、腹変な感じか？」

　ジョニーを支えながら一緒にシャワーを浴びていたら、ジョニーが下腹部を撫でていた。

「……と、智樹さん……あの」
「？」
「い、言わずに事に及んでしまって……すみません」

　ごにょごにょと申し訳なさそうにしている。
　主語のない言葉に私は首を傾げた。
　今にも泣きそうな程潤んだ眼差しにグッときてしまったのは仕方ないと思う。

「お……俺……そ、の」
「？？」
「……あ、あっ……ぁ、ぁ、あ」
「あ？」
「……………………あ……赤ちゃん、が」
「…………」

　ん？　垢？　明？　赤……ちゃん？？

「アカ・チャン？」
「いや、中国人じゃなくて」

　私は自分の耳を疑った。

「あかあか、赤ちゃんって……妊娠……え？　夢魔って両性共、子ども……」
「う、産めます……卵生ですけど」
「卵生！？！？　ジョニー卵から産まれたの！？」
「は、はい……夢魔、母乳出ないんで」

　新情報がポンポン出てくる！
　私は混乱のあまり挙動不審になってしまう。

「母乳出ないなら、あの女なんで巨乳なんだ！」
「人間がおっぱい大好きだからですよ！」
「あああああ！　確かに！」

　ジョニーの胸筋を鷲掴んで揉みしだいた。
　夢魔はだいたい人間の好む姿なんだ。ジョニーもモテそうなイケメンだし！
　私はジョニーの胸を触りながら、冷静に考えた。

「繁殖期だから……俺も、その……赤ちゃんが、出来やすくて……俺は雄なんで、雌より着床確率は低いんですが」
「…………」

　私の性欲は強い。出す量も多い。
　私の精子がちゃんと機能して動いてるなら、セックス頻度を考えると繁殖期が終わる前にジョニーを孕ませてしまう可能性が高い。

「……ジョニー」
「ご、ごめんなさい……俺、セックスに浮かれてて……大事な事なのに、伝え忘れてて……夢魔が人間の男と子ども作ったら捨てられるって聞いて──」
『ドォン！』
「ひやぁ！」

　勢い余って壁を殴りつけてしまった。
　夢魔に限らず、子ども出来たら捨てる男は人間相手でもそのクズさを遺憾なく発揮してくる。

「ジョニー！！　私が身籠ったパートナーを捨てる最低な生物以下の存在に見えるのか！？」
「え？」

　夢魔……そうか、食事の為に男引っ掛けるぐらいだ。そんで、引っ掛けられる男も男だ。下半身で考えてるヤツが結構いる。
　そんなヤツと正体隠して付き合ってて、繁殖期以外子ども出来ないなら、ヤリまくりで食事も出来てwin-winだろうけど子ども出来たらポイはありそうだ。
　体質上、クズに当たる確率が多いから睡眠サービスが出来たのかもしれない。

「私は、赤ちゃんもお前も養ってやる甲斐性があるよ！　責任も取る！　結婚もする！」
「ちょ、ちょっちょ、と！　まだ出来たわけじゃ！」
「遅かれ早かれ出来る！　それに……」

　シャワーを止めて、不安そうに俯いてるジョニーの顎を掴んで目を合わせさせた。

「と、ともきさん……」
「ジョニーとの子を授かれるなら、こんなに嬉しい事はないじゃんか」

　はっきり言うと、私はジョニーにベタ惚れしている。もうメロメロだ。
　可愛い、カッコイイ、エロい、家事、洗濯、料理の六拍子揃ってたら好きにならない方が無理だ。
　そんなジョニーとの子……夢魔と人間のハーフだ。

「ジョニーお風呂入ろう。身体冷やしちゃダメだろ？」
「…………ひっぐ、ぅうっ！　わああああ！！」
「へ！？　ジョニー！？」
「ごめ、ごめんなざいぃ～！！ ともぎざんが、俺とのあがぢゃん、ほじぃって……うわあああんうわあああん！」
「あー……不安だったんだな。ごめんな人類がクズ男で……でも誠実な人類も多いから。泣くなって」

　子どものように声を上げて泣き出してしまったジョニーを抱えて風呂に浸からせる。
　
「えっぐ、ひっく……」
「よしよし、落ち着いたか？」

　湯船で抱き合いながら頭を撫でると角を残したまま人間の姿へとピカッと戻った。落ち着いたようだ。

「角出てるけど……」
「…………」

　私を無言で見つめるジョニーが私に期待している事。それが手に取るようにわかった。

『スリスリスリ』
「いい角だな。くるんってしてて可愛い」
「……んふ」

　涙目で喜ぶジョニーが可愛くて、角をコレでもかとずっと撫で回していたら、逆上せた。
　
※※※

「あぢぃ……」
「ごめんなさい！　調子に乗りましたごめんなさい！」
「いや、調子に乗ったのは私の方だ……」

　リビングで綺麗に片付けたソファーの上で横になる。
　ジョニーが膝枕をして団扇で煽いでくれている。

「……ジョニー……夢魔と人間の寿命って結構違う？」
「え？　ああ、違いますよ。人間は大体八十ぐらいでしたっけ？」
「おう。今はザラに九十代いるけどな」
「長生きですよね。夢魔は精が尽きたら死ぬので、寿命はまちまちです」
「……ちょ、ちょっと待ってジョニー……それじゃ、私が老いで食事させられないと、それって……」

　夢魔の子どもの成長がファンタジーのエルフみたいにゆっくりだったら大人になるまでに私が死んでしまいと思って聞いたら……夢魔のジョニーの方が……私より先に……？？

「……まぁ、俺には智樹さんだけですから、このままじゃ俺が先に死んじゃうでしょうね」
「い、嫌だ……」

　そんなの絶対に嫌だ。

「はい。俺も死にたくありません。智樹さんと最後までご一緒したいですし……」
「何か長生きの方法が？」
「智樹さんの精をサプリ化してもらうか、冷凍保存ですかね」
「思ったより科学的だな……」

　現代悪魔の文明すげえ。
　冷凍保存は管理が難しいからサプリ化が推奨されているらしい。

「まだまだ先の話ですから、今はもう少し近い未来のお話をしましょう」
「……ああ」

　ジョニーが下腹部を撫でながら、どっちに似るか。名前はどうしようなど、いろいろ話してくれた。
　夢魔の赤ちゃんは卵の殻を食べるらしい。精で形成されているから、それで充分育つそうだ。
　人間に体質が寄った場合、離乳食やオムツなどの用意が必要な事を説明しておいた。
　浮かれ過ぎているが、人間と夢魔の人体構造はまるで違う。内臓が欠けるかもしれない。内臓が多いかもしれない。
　生命維持が出来ない子が産まれる可能性だってある。
　ただただ元気な子が産まれてくれる事を願うしかない。
　まだ見ぬ我が子に思いを馳せながら、これから先訪れる未来も想像する。
　どうか、ジョニーとの愛を育めるように。
　そして、いつか来るその時までは……

「幸せに生きていこうな」
「勿論です」

　ジョニーと笑い合って過ごす時間を私は、きっと何があってもそれを手放したりしない。
　たとえどんなに苦しくて辛くて悲しいことがあっても、必ず培った幸せな時間が支えてくれる。
　私達の日常はこれからも続いていく。きっと小さな賑やかさを伴って。

END