28 / 38
27:網膜の記憶
しおりを挟む大樹の伐採に来ていた人間達の記憶を改竄し、街へ帰す。
実験の末、すっかり人間味の無くなった姿でふらふらと帰路につく。
ラージャとそれを見送るセリアスは、期待半分不安半分だった。
「まるでゾンビですね」
「長い間眠っていた上に記憶を弄った後遺症だ。意識が鮮明になるまで時間がかかる」
「……ドキドキします」
「ああ」
ラージャの遠隔望遠鏡で魔族人間達の動きを観測し続ける。
彼等を見た人間達の反応がどう転ぶかで計画の方向性が明確に決まる。
半日かけて最寄りの街に到着すると、悲鳴が上がった。
「おっ」
『うわ! 魔族だ!』
『なんで街に……』
『アイツ龍人だぞ』
ふらふらと歩き寄ってくる鱗と角を持つ彼等を指差し慄く人間達。
魔族が街に来たら、する事は一つ。排除だ。
男衆が武器を手に、容赦無く魔族を痛めつけ始めた。
痛みにより意識が戻ったようで、喋ろうともがくが逆効果。
『死ね! 化け物が!』
『う……違ッ、はなしを』
『黙れ!』
予想以上の苛烈な反応だ。人間も人間なりに魔族に恨みがあるようだった。
「(……デジィの言っていた積み重なる恨みというものを実感させられる)」
眼前に映し出される場面が切り替わり、別の街へ向かった魔族人間が手足を折られ、生きたまま皮を剥がれていた。
「っ……ぅ」
「魔王様?」
「私の家族もああやって殺された……タスクの家族もだ……」
「……この惨劇は人間同士で今後続きます。魔王様はあまり見ない方が心が休まるのでは? 外見だけなら同じ青光龍人ですから辛いでしょう」
「…………気遣いはありがたい。しかし、辛かろうが私は計画の指導者として見届ける義務がある」
苦し気な顔をしながらも、セリアスが鏡から目を離す事はない。
人々の元へ帰した者達は悉く、人間達に殺害又は捕獲されていく。
『ッ……かは、は……』
『助けて……助けて……』
皮剥ぎに耐えられず、舌を噛み切り自害した者も居た。
最後に映っていた魔族化した人間達は真っ赤な筋肉を剥き出しにされ、未だに死に絶える事はなく、呻きながら殺してくれと懇願しているようだった。
「………………」
「魔王様……」
「……………………」
鏡の向こう側では目を血走らせながら虚無に手を伸ばして命乞いをしている人間がいる。
そう。姿が似てるだけで、中身は人間なのだ。自分が望んだ共食いによる人類の衰退が凝縮されたような光景が網膜の裏に焼き付いていく。
延々と続く地獄絵図を朝日が巡り、夜が深まるまで凝視し続けた。
徹夜上等の研究者気質のラージャは特に苦も無く付き合っていた。
「反応は上々。次は噂の流布ですか?」
「……ああ」
「“魔族になる病の罹患者は人間を害する”“病は治らず、殺さなければ感染被害が拡大する”との噂を流せば良いんですね?」
「……そうだ」
未だ辛そうなセリアスにラージャは笑い掛ける。
「コレで多くの魔族が救われます」
「…………人間と友好関係を築いている魔族達が危ない」
「なら、助けに行きましょうか。コレだけ人手があるんですから。避難の手引きは容易でしょう。あっ人間の恋人や家族がいる場合は如何しますか?」
「………………殺す必要はない。お前と同等の魔族化を施す」
「それがいいでしょう。人間のままでは一瞬で肉塊です」
地下洞窟の階層住民達は人間を恨んでいる魔族しか居ない。
家族や仲間の復讐を果たせると喜び勇んで人間達を殺しに行くだろう。
魔族化したとしても、受け入れられない者も多いが、何もしないよりはマシだ。
「……ココとは違う場所に隔離する方がいいな」
「はい。ひっそりと、“人間”が居なくなるまで」
ラージャが魔法を消して、第三段階の噂の流布を行う為の準備へ向かった。
空となった檻に背を預けて、セリアスは土塊の天井を見上げる。
目に焼き付いた光景を消し去ろうと、瞬きを繰り返していた。
その視界の端にひょっこりと白い兎耳が入り込んだ。
「魔王様、計画の進捗は如何でした?」
「……タスク」
「っ、酷い顔色ですよ? 人間の醜さに気分を害されましたか?」
「いや、自分自身の身勝手さに吐き気を覚えただけだ」
脳裏で幼い頃の惨劇と先程覗き見た惨劇が重なり繰り広げられる。
「一先ず、部屋に戻りましょう」
「…………タスク」
「は、んッ!?」
返事をする口を塞がれる。触れるだけの口付けは一瞬で離れていった。
「ま、おう……様?」
「……すまん」
苦し気な表情で何か言いたそうにするセリアスにタスクは心臓が止まりそうになった。
「ぁ、ああ、魔王様……人間の為に心を痛める自分自身を責めないでください」
「何故……わかる」
「わかりますよ。魔王様の考える事ぐらい」
「……すまない……自分のした事に機嫌を損ねるなど、幼児のようで情けない」
タスクが胸に寄り添うと、セリアスの頭をそっと撫でた。
「愛情深い貴方が誰よりも平穏を愛している事は知ってますから。憎い相手だろうと現場の惨状に対して、貴方が抱いた感情を俺は肯定します」
「……タスク」
優しくも恐ろしく甘い慈愛の言葉だ。いっそ残酷と言っても良い程に。
そんな感想を胸に秘めたセリアスへ、タスクは甘えるように擦り寄る。
「さっきは俺にキスして、自分の機嫌を取ろうとしたんですよね」
「…………ああ」
「はは、ならもっと触れてください。俺も魔王様に触れられるの好きですから」
「……ありがとう」
二人で廊下を歩いて部屋へ移動するが、セリアスの表情は険しいままだった。
「自分でも……驚いている。計画の確かな手応えに安堵出来ると思っていたのに」
「……魔王様は、魔族を守る為に人間を殺す事に舵を切っていましたから、今までと違いました?」
「ああ。自分の手で殺める事が一番早く、単純だったからだ……後悔はしていない。殺して回った事も、今回の計画も」
「何を見たのか俺は知りませんが、精神が擦り減るようなショックを受けたんですね」
「ぁぁ……」
脳内で探し回った自分の状態をシンプルに纏めてくれたタスクの手を取って寝床で横になる。
「んっ……んぅ……」
軽く触れ合うだけのキスを繰り返しタスクを抱き締めた。
「だいぶ落ち込んでますね」
「慰めてくれ」
「お安い御用です……よしよし」
タスクの胸に顔を寄せて、小さな身体の大きな鼓動に耳を澄ませる。
「きっと、いい方向へ進みます。魔王様が奔走した結果がきっと形になりますよ」
「…………んぅ」
幼児のように頷いて、タスクを抱き締めて温もりの中に没頭するセリアス。
その様子に安堵の溜息をついたタスクは、ぽんぽんとゆっくり広い背中をさすり続けた。
9
あなたにおすすめの小説
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 ★1000 Thank_You!!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
王様お許しください
nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。
気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。
性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる