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22・precaution

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 最近、調月さんの様子がおかしい。
 妙にボクのスケジュールを気にしてる。本選の合否がそろそろ届くからかもしれないけど、どうもそれだけではない気がする。
 立ち上がる時は腰を庇うような動きだし、時々ため息をつくようになった。
 そして何よりも……時々、苦しげに吐息を漏らしている。コレがまたエロ、違う、辛そうで心配になる。
 最初は腰痛かなっと思ったけど、それなら通院でお医者さんや妹さんに言ってると思う。

「……はぁ」
「調月さん、最近ため息多いですけど悩み事ですか?」
「ある意味……」
「ボクで良かったら力になりますよ」
「いや、君はコンクールに集中してくれ」

 何かあるみたいだけど教えてくれない。
 隠し事されるのはあまり気分の良いものじゃないんだけど、暴き立てるのも悪い気がしてしまう。
 言われた通り、練習に打ち込むけどやっぱり心配だ。
 ピアノ部屋からリビングに戻ると、床に座っていた調月さんがぐったりと横たわっていた。

「ッ……調月さん!」

 びっくりして慌てて駆け寄ると規則正しい寝息が聞こえてきた。

「あ、寝てる」

 寝不足なのか? 
 とりあえず、床じゃ身体に良くないと思って抱き上げたら……気付いてしまった。

「…………ぼ……」

 調月さんのが……勃ってる。
 最近不調そうなのって、そういう事??
 確かにボクの練習に付き合って遅くまで一緒にいる事も多いし、それかもしれない。

「(……手伝えるなら、手伝いたいけど調月さん絶対嫌がるからなぁ~~……どうしようか)」

 調月さんをベッドまで運んで布団をかける。
 一人で出来るらしいけど、そもそも一人の時間そこまで無いし。ボクが仕事に出掛けても、作曲作業進めてるし……淡白なんだな。
 でも、悩んでるくらいだし……きっと大変だろう。
 何かボクに出来ないだろうか……。

「……あっ」

 そういえば……茜野のTENGO置きっぱなしだ。
 うう……貰った時はあーだこーだ言ったけど、結局こういうのって専門グッズが一番なんだろうな。
 渡すにも……どうやったら、自然に渡せる? 急にTENGOをポンって渡すって……気付いてますよってアピってる感じじゃん?
 調月さんに恥をかかせたくない。

「……場所……結構取るよな」

 TENGOの箱はそれなりに大きいので、場所を取る。
 何か大きな買い物して、場所が無いので調月さんの部屋に置いてくれませんかってお願いするのが無難だ。
 
「うんうん。悪くない発想だ」

 そうすると、何か買わないと説得力が無い。Amezonでいろいろと見ていたら、いいのがあった。
 ボクは今、CDをパソコンで再生しているが、音質の良いCDプレイヤーを買えばまぁまぁ幅を取る。あと、単純に欲しい。
 
「(そこまで高く無い……あと、調月さんのスウェットも新しいの買わないと)」

 あ、あと靴も。服ももうちょっと持ってた方が日持ちすると思うけど……あー……ううーーん……
 
「(サイズや好みもあるから、下手に選ぶわけにはいかないかぁ……あっ! でも、このきぐるみパジャマ……似合いそう)」

 マジックテープだから、着やすいと思うけど……トイレ行きにくいかな?
 でも、可愛い。 気持ち良さそう。
 ……いやいや、ダメだって! これだとボクの趣味全開じゃないか。調月さんが気に入ってくれるかどうかわからないのに。
 お揃いでモコモコしあったり、一緒に寝たりしたい気持ちはあるけど……

『タップタップ』
「……ごめんなさい! 調月さん!」

 どうしても嫌だって言うなら茜野に譲るんで!
 すみません! すみません!
 ボクも夢を諦められません!!

「ああ~~~~注文してしまった……」

※※※

 翌日

「レターパックが先に届いた……」

 本選の結果が届いた。
 どうだろう。合格の人数制限が無いとは言えど、落ちる時は落ちる。
 あの時は心掻き乱されて不安で不安で、夢中で弾いたから本番の記憶が曖昧だ。

「…………」
「天音君、開けられないなら俺が開けようか?」
「……どうやって開ける気ですか」
「足とカッターでビーッと」
「そんな危ない事させられません!」

 ビリっと開けると……中に入っていたのは、賞状だった。優秀賞と書かれていたのを見て思わず安堵でため息が出た。

「はぁ……良かった」
「おめでとう」

 全国大会への出場資格を得られたボクに調月さんもご満悦だ。
 
「ボクとの約束覚えてますよね!」
「……せめてコンクール終わってから」
「はい! 全国行けたらって条件は満たしましたから、次は頂きを目指します!」

 ボクがお願いしたご褒美は『全国行けたら』という条件だった。調月さんの提示したご褒美の条件はグランプリ。
 難易度高過ぎるけど、ボクは必ずそれを成し遂げる。絶対に。
 調月さんの夢の為に。ボクの欲望の為に。
 全国大会は十二月の頭。東京のコンサートホールでコンクールの最終演奏となる。
 
『ピンポーン』

 そして、立て続けにボク宛の荷物が届く。昨日注文していた商品が届いたみたい。
 箱を部屋に持っていき開封する。予想通りいい感じ。
 TENGOを退けて、CDプレイヤーを机の端に置く。

「調月さん……」
「?」
「あのぉ……コレ、置くとこ無くて……」
「…………」
「調月さんが嫌じゃ無ければ……部屋に置いてくれませんか? どうあれ茜野のプレゼントなんで廃棄しにくくて」

 不自然ではない理由だが、ボクが不自然に早口になってたら意味がない。

「わかった……部屋の隅にでも置いとく」
「ありがとうございます!」

 コレでどうか、調月さんの悩み事が解決されますように!
 一仕事やりきった気分でいたが、まだ着ぐるみパジャマの件をお願いしなければならない。
 箱を部屋に置いて戻ってきた調月さんに話しかける。

「あっ、調月さん。あのですね……その……調月さんの寝巻きボロボロじゃないですか」
「……そうかも。あ、ひょっとして、寝巻き注文してくれたのか?」
「は、はい……でも、ボクの欲が出てしまって」

 素直に自分の趣味で買った事を吐露しながら、部屋から二着持ってきて調月さんの前に出す。

「寝る時……その、寒くなってきたのでモフモフした格好が良いなって思ってしまって……すみません」
「……へー」

 黒猫と柴犬の着ぐるみパジャマ。成人男性が二人で着るのはキツいかもだけど……

「別にいいんじゃないか?」
「ほ、本当ですか!?」
「着るものだし」

 思った以上に反応も薄く、淡々としている調月さん。もっと何か言われると思ったんだけど……なんかボクの方が意識して恥ずかしいな。
 
「天音君がこんな可愛いの着てるってファンの子にバレたら大ニュースだな」
「いやいや! 流石にそこまで……」

 幻滅されるんじゃないか?
 調月さんの方が可愛いし、それこそバレたら大ニュースで……ああ、ダメだ。変な虫が絶対付くじゃん。

「調月さん、黒猫姿はボク以外に見せないでください!」
「急に独占欲丸出しにしないでくれ」
「お願いします! ボクにだけ、見せてください!!」
「わかった。わかったから……土下座やめて」

 ボクの剣幕に圧された調月さんは、戸惑いながらも了承してくれた。








(precautionプレコーシオン・慎重に)
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