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44・burlescamente①※

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 コンクール本選後、会場にて幾人にも声をかけられる。
 CDや楽譜集の事も周知されているらしく、皆が一様に予約の旨を伝えてくれた。

「デューラーさん、今日の演奏も素晴らしかったです!」
「五百蔵さん、来てくださったんですか?」
「勿論! あ、私も予約しましたよ」
「ありがとうございます!」

 そろそろ発売も秒読みとなる。
 ドキドキするな。

「この後、少しお話しよろしいですか? 紹介したい方がいまして」
「……大丈夫です」

 できればすぐにでも帰りたいが、今後ともお付き合いのある相手だ。邪険にするわけにはいかない。
 会場の一部屋に案内されて、促されるままに入室するとそこには──

「Hello, Mr. Dürer. Nice to meet you.」
「はッ……ハロー」

 スーツを着た壮年の外国人男性が入室早々に握手を求めてきたので思わずテンパってしまった。
 ボクはこのナリだが、全く英語が話せない。
 
「こちら、私の勤める大学に客員教授として来られているシュテファンさん。世界的にも有名なピアニストの方で、デューラーさんの演奏を聴いて是非お会いしたかったそうです」
I listened to a wonderful performance today今日は素晴らしい演奏を聴かせていただきました.」
「ぁあ……??」

 トゥデイしか聞き取れなかった。なんて言った??
 ボクの困惑が伝わってしまったのか、男性はふっと優しく微笑んでくれた。

「スバラシィーピアノ、聴カセテイタダキマシタ」
「あ、ありがとうございます……」

 勉強不足で申し訳ない。日本語お上手だ……恥ずかしい。
 五百蔵さんにボクに話したかったと言う要件を伝えてくれた。

「……国際ピアノコンクール、ですか?」

 海外で新設された国際ピアノコンクールへのエントリーを推奨された。

「I want more people to deliver the new music possibilities that you play.」
「より、多くの人に貴方が奏でる新しい音楽の可能性を届けてもらいたい、そうです」
「!」

 国外での国際ピアノコンクールにエントリーをした事が無い。
 天手に約二週間会えなくなると言う理由で避けていたからだ。
 向上心も野心も無かったボクは、今までずっと逃げていた。大学時代も教授の説得も聞かずに。
 けど、今なら……

「わかりました……けど、ボクのパートナーも同行させてもよろしいでしょうか?」
「Of course. 」
「ありがとうございます!」

 五百蔵さんが通訳して伝えてくれて、恐らく問題無いと言われた。オフコースの意味は肯定イエス的なものだった記憶がある。
 
「先程の演奏映像の方を予選審査に回して、結果は再来月。十一月の上旬から二週間、第一予選から入賞者披露演奏会を行われます。国際と言っても、まだまだ出来たばかりの規模の小さなコンクールなので、全てをピアノソロで行うんです。なので、全て自由曲での演奏が許可されています」

 コンクールの場合、本選や入賞者披露演奏会で楽団と協演する事が多い。
 
「十一月には、既にデューラーさんの弾かれる『黎明』も楽譜出版がされますから、存分に披露なされてください」
「はい!」

 国際ピアノコンクールか……うん!
 もっともっと多くの人に、ボク達の曲を聴いてもらえる!
 それから、シュテファンさんと五百蔵さんとの雑談をしばらくしてから会場の外に出る時には、どっぷり日が暮れていて慌ててメールを送った。
 思った以上に話し込んでしまったようだ。
 急いで家に帰る。

『ガチャ!』
「ただいま!」
「っ!?」

 ドタバタと騒がしく帰ってきたボクに驚いたのか、義手の無い天手さんがソファーからずり落ちかけていた。

「ごめんなさい、帰り遅くなって……すぐ、ご飯にするから」
「あ、ああ」

 いつもより品が少なくなってしまうが仕方ない。
 冷や奴とインスタント味噌汁、漬け物をカットして小皿に盛り付けて、レンチンで出来る唐揚げに手を出した。

「(もっと早く切り上げられたら、もっと品数増やせたのに!)」
『ザクザク』

 キャベツを千切りにして、チンした唐揚げのお供にする。

「お待たせ」
「ん」

 久しぶりに天手さんの隣に座って、一緒に食事をとった。

「はい、あ~ん」
「……あ」
「照れてる? ちょっと顔赤い」
「うるさい」

 帰りが遅かった事に拗ねているのか、いつもよりツンとした態度だ。

「今日ね、コンクール会場でシュテファンさんって方とお会いして、それで色々と話し込んでしまって」
「ふーん……」
「その方が国際ピアノコンクールのエントリーにお誘いをしてくれて……予選審査通ったら、十一月にオーストリアに行く事になった」
「え?」
「天手も一緒に来てもらうから」

 ボクが敬遠していた国外のコンクール。
 天手と一緒なら、何処へだって行く。外国語怖いけど。

「……俺が言っても、行かなかったクセに……その人の言う事は聞くんだな」
「それは……」

 貴方と離れたくなかったから……そう言いかけて、慌てて口を噤んだ。
 天手を言い訳に使っているみたいだったからだ。貴方の所為だと言ってるようなものだ。

「……日本から出るのが当時嫌だっただから」
「そう」

 主語を大きくしてボカした真実を告げても納得いってない様子だった。けど、口を開けるだけで追及の言葉は出て来なかった。
 天手って思ったより嫉妬深いんだな。
 そこも最高に可愛いんだけど。

「天手、机拭くの大変じゃない? 布巾置いといていいよ」
「コレぐらいはする」

 ボクが食器を洗い終わっても、短い腕で布巾で机をキュッキュッと細かい動きで拭いている。義手があれば一分で終わる作業だが五分以上はかかるだろう。
 ボクはソファーに座って、その様子を眺めていた。

『カツ……』
「?」

 ソファーの溝に何か埋もれている。指先に感じるプラスチック製の薄い何かを摘んで引っ張れば、小さな板だった。

「(なんだコレ? タブレット菓子のケース?)」

 振っても音はせず、中が空洞になっているわけではないようだ。

「……!」
『サリリ』
 
 裏面に凹凸があるのに気付いて、裏返してみるとそこにはゲームキーのようなボタンが付いていた。

「(実家にある照明操作のリモコンに似てるけど、家にこんなのあったっけ?)」
『ポチポチ』

 ポチポチ押しても特に音がするわけでも、何かが動く音がするわけでも無い。
 照明にも変化が無い。
 
「天手、ソファーにコレ落ちてたんだけど何か知ってる?」
「し……知ら、ない」
「?」

 天手の声がちょっと上擦っている。
 机の上を拭く動きがぎこちなくなり、爪先が床を掴むように丸まっているのが見えた。

「(……まさかな)」
『ポチポチ』
「ッ……」

 上下もわからないボタンを適当に連打して天手を観察する。
 足の甲で脹脛を擦ったり、肩を震わせたり、声を噛み殺す息遣いが聞こえてくる。
 
「(おいおい……ちょっ、ちょっとコレは……)」
『ポチ』
「~~……ッ」

 身を硬くして何かに耐えているようだが、突き出しいる腰が艶めかしく畝っている。無意識だろうが非常にエロい。

「(……ごめんなさい)」

 我慢出来ず、ボクはスマホを取り出してその様子を動画で収める。
 スマホを見てるフリをしながらボタンを押す。

『ポチポチ』
「…………」

 息を吐いて落ち着いたような動作が見えた。なるほど。こっちがオフなわけだ。
 ……ボク、性格悪くなったかもしれない。

『ポチポチポチ』
「ッ……ッ、ん」

 何かのオンであろうボタンを連打すると、天手さんが再び控えめに身悶える。
 内股を擦りわせ、机の上に突っ伏してしまっていた。
 踵が浮ついて腰が上下に揺れる。

「(いったい、なに仕込んでるんだ? めちゃくちゃ反応が良い)」
「……はぁ、天音」
「っ……ん?」

 録画を切って、何かのリモコンも膝の上に置いて天手の方を見る。
 
「……終わった」
「ありがとうございます」

 火照った顔に汗が伝うのを見て見ぬフリをして、ヨタヨタと歩いてボクの隣に腰掛ける。
 ボクの膝に置かれたリモコンを見て短い両手で取ろうとしたところをスッと横から掠め取って、天手と共にじっくりと物色する為に目の前へ出す。

『ヒョイ』
「コレ、さっきから調べても出てこないんだよ」
「ぁ……そ、それは……ッ」
「天手も知らないとなると、誰かの落とし物かな?」

 これみよがしにオンのボタン部分に親指をスリスリと円を描くように撫でれば、天手の息が徐々に浅く荒くなっていく。

「押しても、何処にも反応無いんだ」
「ふ、ふーん」
「天手は、コレ持ってそうな人心当たりない?」
「心当たりは──」
『ポチ』
「あっ!」

 言いかけた言葉は、甘い嬌声に掻き消された。
 
「天手?」
「ぅ、なんでも、なっ」
『ポチ』
「く、ぅぅ……っ!」
「!」

 至近距離に居るからか、何か聞こえる。

『ゥ……ゥィ……ゥィ』

 何か機械的な音だ。小さいが確かに聞こえる。
 天手がボクの肩に顔を押し付けて、必死に快感に抗っているのを見て、どんどん意地の悪い考えが思い付いてしまう。

「ねぇ天手、もしかして……」
「な、なん……だ?」
「体調悪い? 今日はエッチな事、やめとこうか」
「!?」
「辛そうだし、今日はおしまいにして寝よう」

 ボクの提案に、赤い顔をサッと青くする天手に口角が上がりかけてしまう。だが我慢するんだ。

「ほら、お風呂は明日にしてゆっくり」
「待って、違っ……コレは……」
「んー?」

 ヤバい。嫌なヤツになってしまいそうだ。優しくしたいのに、恥じらう姿が見たくて焦らして意地悪をしてしまう。

「ボクの気を遣って、無理しないで。天手も昼は仕事してたんだし」
「そうじゃ、なくて……あま、天音」
『トスン』
「!」

 天手がボクの両脚の上に跨って乗っかり、立ち上がる前に阻止されてしまった。
 
「俺、大丈夫だから、その……天音と、シたい」
「…………ハッ、意識飛びかけた」

 何度聞いても天手からのお誘言葉をかけられるのは、脳ミソに直接クるものがある。可愛過ぎて鼻血が出てしまいそうになる。

「(あ、近い……)」

 天音の可愛さに夢中になって忘れていたが、機械音が小さいがしっかりと聞こえる。
 
『ゥィ……ゥィゥ』
「…………」

 ボクはゆっくりと天手の服を捲り上げていく。
 天手の異変と異音の発生源が顕となる。

『ヴイィンヴイィン』
「ッ、あ……」

 両胸にピッタリと張り付いている透明な胸パッドのような物が、包み込んだ乳首を中でシリコンの突起がグリグリと激しく捏ねくり回している。

「はぁ……ぁ、ッ」
「コレ……あ、あの……アルベルトさんが言ってた……ニップルバイブ? なん、で?」
「あまね、遅く……て……我慢、が」

 ボクの帰りが遅くなって、疼きが我慢出来ずにニップルバイブで慰めていたと言うのか。

『ポチ』
『ヴイィーン』
「ッ! あっ……あ、んっ」

 ボタンを押すと中の動きが変わり、天手さんはボクに跨ったまま腰をくねらせる。
 こんなエッチな玩具付けたまま、ボクと食事をし、机を拭いていたのか。

「……天手、きもちいい?」
「ん、ん……」

 コクコクと素直に頷く様を見て、生唾を飲み込む。もうスイッチを切っても良いんだけど、もっと見たいという欲求が抑えられない。
 ボクは天手の腰を抱き寄せて、身体を密着させる。玩具の振動が伝わってくる。
 鼻がくっつきそうな程に接近した距離。

「コレつけて、ボクにどんな事される妄想してたの?」
「!?」
「ボクも天手の妄想を現実にしてあげたい」
「俺は、いい、いいから……」

 首を横に振って拒絶するので、ボクは憶測を立てて天手の身体を撫で回す。
 そして、スルンっと背面から下着の内側に手を滑り込ませる。柔らかなお尻の割れ目に指を沈ませ、奥にある秘部を中指で触れる程度の指圧をかける。

「ココにボクのが欲しいの?」
「ッ……そ、そんな、のッ」
「違う?」

 今度は薬指も添えて二本同時に刺激する。

「ボクので、前立腺を抉るように突かれるの好き? ゴリゴリって、削るような勢いのあるピストンで何度も突き上げられるのが好き?」
「……っ……」

 目を見開き沈黙しているが、後ろは素直で収縮を繰り返しながら指の腹に吸い付いてくる。きゅんきゅんしている後孔をクルクル円を描くように押し揉み続ける。

「奥トントンしながらキスすると……いつもすぐにイッちゃうよね」

 耳元に口を寄せ、吐息を吹きかけるように呟けば、ブルっと体を震わせた。

「天手のナカ、柔らかくて熱くて気持ち良い。締め付けも凄いし、いっぱい擦るとキュゥってなるんだ。それでね」
「も、もぅ……やめてくれ……」

 ボクの声に反応するように天手さんの腰がカクカクと揺れている。
 
「……いつも我慢出来ずに天手をめちゃくちゃにしちゃう」
「────ッ」

 ボクが囁くと、天手は身体をビクンと跳ねさせてボクの言葉と記憶の感覚反復だけで達してしまった。
 天手の顔がボクの肩口に埋まり、首筋に熱い呼気が吹きかかる。
 後孔がクパクパと指を食み、誘うような動きをしている。

「はぁ……はぁ、ぁ……はぁ」
「……天手、教えて。ボクは何をしたら、天手の望みを叶えられる?」

 肩で呼吸を繰り返す背中をポンポンと叩いて落ち着かせる。
 まだ絶頂感から抜け出せないようで荒い呼吸が続いているが、やがてゆっくりと顔を上げた。
 理性がまだ残っているのか、恥ずかしそうに頬を赤らめて潤んだ黒い瞳でボクを見つめた。

「……天音、コレ……取って」
「ん」

 胸に付けられていたニップルバイブを取り外すと、散々嬲られた乳首がぷっくりと勃ち上がっていた。ピンと芯を持っていて、赤く熟れた果実のような乳首にゴクリと喉が鳴る。

「はっ……天音、俺は」
「……うん」
「お前に、何されたっていい」
「……うん?」
「天音になら、何されてもいいから……」

 コレは夢か??
 天手が、ボクに何されてもいいって……

「俺の中、いっぱいに……天音で満たして、ほしぃ……」

 しりすぼみになる言葉だが、しっかりと聞こえた。脳内に響いている。
 あまりの嬉しさに、考えるより先に身体が勝手に動いた。












(burlescamenteブルレスカメンテ・いたずらっぽく)

 
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