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アナザールート その41 side 夕立 逃さない
しおりを挟む今回もエロはございません…
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織田さんと時雨ちゃんを乗せた車を見送った。
さぁ、僕も何か食べてからひと眠りしよう。
織田さんの言う通り、償うのも、恩返しするのも、元気であってこそなのだから。
ワンルームマンションの部屋に引き返そうとした時、僕の後ろでバイクのエンジンの重低音が響く。
振り返ると、大きなバイクに跨ったお兄さんがいた。
「おう、夕立。織田さんと時雨はもう行ったのか?」
「たった今、行ったところです。」
「そうか・・・一言挨拶しておきたかったな。ま、行っちまったものはしょうがないな。
牛丼買ってきてやったから食おうぜ。」
と言って、お兄さんはバイクの左右のバックミラーに引っ掛けてあったビニール袋を手に取って、その一つを僕に手渡す。
デカい、重い・・・
いや・・・気持ちは嬉しいんだけど、今そんなに食欲が・・・
「織田さんと…時雨も一応人数に加えて4個買って来たんだが、まあいいや。俺とお前で2個づつ食おうぜ。」
いや・・・僕の倍くらい体重がありそうなお兄さんならそのくらい食べられるかもしれないけど。
「なんだよ渋い顔をして、そんなナリをしてたってお前も男子高校生だろう。牛丼1個位じゃ食いたりないよな?」
僕・・・どっちかと言うと女子寄りの男の娘なんで・・・
とはいえ、せっかくのお兄さんの好意を無碍にもできず、お兄さんと2人で部屋に戻って、問答無用で生卵までかけられた牛丼を差し出された。
これ大盛りだよ…
ここしばらく、時雨ちゃんが作ってくれる体型維持度用の低糖質のメニューばかり食べていた反動なのか、久しぶりのジャンキーな味付けの牛丼がめちゃくちゃ美味しい!
気がつけば、先程までの食欲不振はどこへやら、”男の娘”ではなく”男の子”としての本能的な食欲がよみがえって、つゆのしみた染みた薄切りの牛肉と生卵の旨みをお供に夢中で大盛りの白米をガツガツとかき込んでいた。
「そんだけ食えりゃ夕立は大丈夫だな。」
お兄さんはニマニマと笑いながら僕の食べっぷりを眺めている。
そういうお兄さんはあっという間に牛丼1個を平らげ、2個めに手を付けている。
僕はといえば、流石に1個でお腹いっぱいになったので、余った分は冷蔵庫にしまって、後でいただくことにさせてもらった。
昨夜は眠らせてもらえなかったし、帰ってからも時雨ちゃんが心配で切れ切れにしか休んでいない。
だから、お腹が満たされたことと、お兄さんがここにいてくれる安心感で急に強い眠気が湧いて、大きなあくびが出てしまった。
「ふ…ふぁああ…」
しまった、お兄さんにだらしないところを…。
口元を押さえて赤面してももう遅い。
「おう、俺はそろそろ帰るよ。今日はゆっくり眠りな。」
そう言って、お兄さんは飲みかけのペットボトルのお茶をぐいっとあおって空にして、立ち上がろうとする。
「あ、待って…」
お兄さんの革ジャンの袖をつかんでそれを止める。
「ん…どうした。」
「あの…、時雨ちゃんもいなくて…ちょっとだけ心細くて…寝るまでの間だけでいいから、ここにいてくれませんか?」
僕が本当に困って、苦しんでいる時に優しくして手を差し伸べてくれた大人の人。
ほんの気まぐれや同情だったのかもしれないけれど、僕にはそれが本当に嬉しかった。
そして、僕のためにここに駆けつけてきてくれて、ここに居てくれるだけで安心できる、僕の手の届く唯一の大人の人。
自分でも顔が赤くなっているのがわかる、声がちょっと震えている。
大胆で図々しいお願いだとわかっていた。
でもお兄さんにもう少しだけここに居てほしかった。
本当ならずっと…
「お安い御用だ。昨夜あんなことがあったばっかだからな。」
お兄さんは笑って言うと、一度は浮かせた腰を下ろしてくれた。
「そうと決まったら、ほら、寝た寝た。」
僕は素直にベットの下段、さっきまで時雨ちゃんが横になっていた布団に潜り込む。
本当なら夕立のウィッグを外すべきだと分かってはいた。
だけど、お兄さんの前では、男の子の”ハルカ”ではなく男の娘の”夕立”でいたくてそのまま横になり、お兄さんの顔を見ながら横になり眠気を押さえながら話しかける。
「お兄さんのあのおっきいバイクかっこいいですね。」
「ニンジャのことか?」
「忍者?」
お兄さんは僕の相手をしながら、大きくてゴツゴツした手が僕の頭を撫でてくれる。
格闘技かなにかやっているのだろうか、その手は関節が太くて、人差し指と中指の付け根には硬いタコがあった、だけどその手は温かくて優しかった。
「正式にはカワサキのGPZ900Rって言うバイクなんだけどな、アメリカじゃ日本っぽいネーミングの方がウケるから”ニンジャ”って名前で売り出したそうだ。」
「へえ…」
正直バイクに興味は無かったけれど、お兄さんが話をしてくれるのが嬉しかった。
「トム・クルーズが”トップガン”…マーベリックの方じゃないぞ、無印の”トップガン”でニンジャに乗っているシーンが格好良くてな、ずっと憧れてたバイクだった。」
「今度…後ろに乗せてもらっていいですか…」
「ああ、いいぜ。そのためにもゆっくり休んで体を直せよ。」
僕は頭を撫でてくれていたお兄さんの手を両手で包むようにつかんで目を閉じた。
「絶対ですよ…。
それから…お兄さん、今日…は…、ありがとう…ございました…」
呟くようにお礼をいうと、そのまま、フッと意識が遠のき、気を失うように眠りに落ちてゆく。
その大きな手で守られているような安心感に包まれて。
「夕立…寝たのか…?頑張ったもんな、ゆっくり眠れよ。」
お兄さんの声が夢うつつで聞こえる。
けれど殆ど眠っている僕にはもう応えることはできなかった。
僕の両手からゆっくりとその大きな手を引き抜き、そのまま頭を撫でてくれる。
やがて、お兄さんが立ち上がる気配がした。
「じゃあな、夕立、また様子を見に来るから…」
優しい声をかけると、足音を立てないよう、大きな体を滑らせるようにして玄関の方に移動する気配。
その時、小さく呟く声がした。
「しっかし、無防備に寝ちまいやがって、自分が可愛い生き物だってこと分かってるのか?
ちくしょう…勃っちまったじゃないか。俺はホモじゃねえぞ…」
え…!!
思わず目が開いた。
お兄さん男の娘に興味ないって言っていたよね?
だけど、今僕を”可愛い”って言った?、僕で”勃った”の?
僕は布団の中で真っ赤になって身悶えながら、両手で火照った頬を抑える。
もし、ホントなら…
逃さないよ、お兄さん。
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