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二章・領主・ナナ

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メアリーさんが固まっている。
無理もない、私が人と連れ立って行動する事など今までで一度もなかったのだから。

私達はひとまずルシェイルの冒険者登録を行う為にギルドに来ているのだけど、メアリーさんだけでなく、周りの雰囲気もいつもと少し違う気がする。

私も少しは名前が売れてきている自覚はあったけど、私のぼっちっぷりも併せて売れてしまってという事だろうか。

彼が登録をしている間、私は依頼を眺めて待つことにした。
きっと最初の説明とかで時間も掛かるだろうしゆっくりしていようと思う。

ーー

「受付の人、皆のこの反応はどういうものなのだ?」

「んー…。
一緒に来たあなたに言うのもなんだけど、ナナさんって男女問わず人気があるのよ。
人付き合いを避けてるのと、とても強いのとで直接言い寄る人はいないんだけどね。」

「なるほどな。
だが本人の性格上、あまり伝えない方が良さそうだな。
今後暫く顔を上げて歩けなくなりそうだ。」

「あら、あなたナナさんの事よく見てるのね。
流石連れ立ってるだけの事はあるわ。
ちなみに、私もナナさんのファンだから、もしあの子を泣かせたら受付嬢の立場をして小狡い仕返しをしちゃいますからね。」

「ああ、あなたが汚職に手を染めぬよう善処しよう。」

ーー

「待たせたな。」

「お疲れ様です。
今依頼を見ていたんですけど、当然戦争系は無しで考えると、あまりありませんね。
力仕事にはなりますけど、資材の運搬依頼とか短時間で済むし受けてみます?」

「……そうだな。」

ルシェイルには母国と戦うなんて絶対に出来ないだろう。
私もまだ剣を抜く気にもならないしちょうどよかった。
とりあえず今回の目的は仮登録のルシェイルを、一回依頼を達成する事で本登録にする事だ。

依頼の内容は、今度町で行われる催しの資材を会場へ運び込む事。
鉄骨や板、飾りや備品など量は多いが普段の依頼を思えばなんて事ない内容だ。

「平和だな。」

「そう…ですね。」

平和はいい事だし、どちらかというと好きだ。
でも私の剣の道は平和な世では途絶えてしまう。
穏やかな街を見て微笑むルシェイルに対して、私は酷く汚れているように感じた。

(自分の辿る道が誇りを持てるものでない事は、分かってたはずなんだけどな…)
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