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続・魔界王立幼稚園ひまわり組
40:先代魔王は壷の中
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「よーい」
頭の上に鳥型魔物を乗せたメイア先生の掛け声に、チビちゃん達が構える。
第一走者、赤組は猫叉妖怪のトメさん、白組は謎の沼魔族ポメちゃん。共に大人しい癒し系です。
ぱーん。いつ聞いてもハトに似た鳥さんの口から出るとは思えない音に、両者一斉にスタート。
「がんばれー!」
「おお、早い早い!」
意外にもいつも眠たそうな印象のトメキチさん三歳は足が速い。流石は化け猫というところでしょうか。一方の不定形種族のポメちゃんも負けじと足を四本に増やし、犬のような格好で猛ダッシュ。いきなりなかなかの好勝負。
補助職員のピコさんと私が持つゴールテープに先に突っ込んで来たのは追い上げたポメちゃんでした。トメさんはゴール間近で疲れたのか失速しました。とはいえ、年少さんなので二十ウル……五十メートル無いのですが。
「頑張ったね!」
声を掛けると二人ともニッコリ笑って応援席に帰って行った。
次は赤火竜のさんちゃん、白サテュロスのカンちゃんという更にハイスピードが期待できる勝負。
「負けにゃいっ!」
気合満々のさんちゃんだったが、大きく差をつけてカンちゃんの圧勝。陸上では山羊さんは早かった。
「くやちー!」
ゴールの先でさんちゃんは地団駄を踏んで半泣きだ。負けん気の強い子だもんな。そんなさんちゃんの肩に赤組指導の魔王様がぽんと手を置かれた。
「さんちゃん、次で勝てばよいのだ」
「あい!」
やんちゃ坊主の扱いはユーリちゃんで慣れておいでだもんな。
まだ黒い上下のままに見える魔王様だが、私は知っている。その下にはすでに体操服を着込まれていることを。今年の大人の部は参加者全員に体操服が支給されている。魔王様も例外では無い。私達他の幼稚園職員は既に着替えているが、一応今日も結婚式期間中であるので、出番まで魔王様はそのままだ。というか、貴賓席で見ててくれてもいいのに、現場に出たいとはりきっておいでなのだ。代わりにユーリちゃんが座らされて退屈そうにしているのがちょっと気の毒。
そしてさっちゃんもまだ昨日の黒いドレスとはまた違った、濃い紫のシンプルなドレスで日差しを避ける様に貴賓席として設けられたテントに座っている。その顔にはもうあのキラキラデカ目アイマスクは無い。遠目に見ても美しい白い顔は穏やかに微笑を浮かべている。
そのさっちゃんが立ち上った。あー、次はペルちゃんが走るんだね。
ペルちゃんは赤い鉢巻。対するは白鉢巻のリノちゃん。
『孫じゃっ。ココナさんも応援してやってくれよ』
「は、はあ……」
肩の見えない先代が仰ってるが、まあそうだよね、赤組だからペルちゃんにも頑張って欲しいけど、内心はやはり自分の娘を応援したいわけでして。
「リノちゃん、一等賞ですよ」
「もちろんれしゅぉ」
パパは仕事には公私混同しないと言いつつ、めっちゃ私的に応援してます。可愛い可愛い我が子の運動会デビューですからねぇ、気持ちはわかるけど。
ちらっと見ると拳を握り締めた魔王様、そして特別席のザラキエルノ様とクマちゃんぬいぐるみも身を乗り出してペルちゃんに熱い視線を送っていますね。それだけでは無く、観客席の皆さんも、連れ子とはいえ愛らしい幼い王子に興味深々のご様子。
なんか……ちょっとプレッシャーかかって可哀相かも。
「よーい!」
メイア先生の声に、背格好も大体似た感じの半分天使のチビちゃん二人が構える。そしてぱーん。
リノちゃんは足の動きは早いのだが、なんか空回りする感じであまり前に進まないのが難点だ。そして、ペルちゃんはさっちゃん似なのか体育系は苦手みたいで一生懸命なのにどうもゆっくり。案外いい勝負だが、やはりリノちゃんの方が僅かに前に出た。だがドジな母親似なのはやっぱりリノちゃんも同じでして。
「あっ!」
足がもつれておっとっととなってる所に、ペルちゃんを巻き込んで二人でべちゃっと転んでしまった。うわぁ、リノちゃーん! 道連れってあんた!
しーんと静まった会場。毎年転ぶ子は何人もいるが、流石に巻き添え事故は稀だ。しかも注目の的の新しい王子様ですよっ!
駆け寄ろうとしたが、同時に二人はむっくりと起き上がって、何故か顔を合わせてにんまり笑うと、仲良く手を繋いでゴールまで颯爽と歩いて来たではないか。これには大人もきょとーんだ。同時にゴールインで、同点。
「おあいこだね」
「ごめんれしゅ」
小さな王子様とお姫様の微笑ましい姿に、会場は大拍手。ううっ、ヒヤヒヤした~! これだけ注目を集めてると、勝っても負けても文句が出そうだが、同点って。まさか計算では無いだろうが、結果オーライですよね。
『どっちもええ子じゃなぁ』
先代もなんか感動しておられる様子。そして、
「やっぱりペルちゃんはいい子だわ!」
ピカピカ光るザラキエルノ様はだばだば血の涙を流しながら感動しておいでです。降って来る涙に迷惑そうにおじいちゃんクマさんが何処から出したのか小さな傘をさしてるのがなんとも……。
『しばし息子のところに行って来る』
急に肩が軽くなったと思ったら蛍みたいな小さな光が魔王様の方へ飛んで行った。およ? 先代、現魔王様に何か話でもあるのかな?
まあいいや。やっと離れてくれたー! 正直姿は見えなくても先代魔王様を背負ってるなんて荷が重過ぎるもの。
それは昨日の事だった。
夜明けと共に響き渡ったラッパの音。
それはこの世界の一大事である魔王様の結婚式の開始を告げる合図。
先日から既に準備は万端で、魔王城のあちこちに黒い百合に似た花が飾られ、紫の絨毯が廊下に敷き詰められている。
正直眠いし、天界からの来客のためにお遊戯会同様ものすごい数のバッジにキスさせられて祈りを籠めた私は既にヘロヘロだ。それでも式初日の花嫁の案内役としての責務を果たさねばならない。幼稚園は今日もあるが、マーム先生、メイア先生、補助職員のみんなに任せてウリちゃんと私はお休みである。
「用意はよろしいでしょうか?」
さっちゃん……これから正妃となられるサリエノーア様を迎えに行く。着付けなどの準備は、昨日から起こしになっているメルヒノア様他、他国の王妃様方のお仕事であるらしい。そんな属国とはいえ王族の奥方様方に侍女のような仕事をさせてよいのかという私の懸念は不要だった。
「えー、だって魔王の奥さんって事は、私達より偉いんだもの」
とは、メルヒノア様のお言葉である。つまり、今日の結婚式以降、魔王の正妃という事はこの世界の全女性の頂点に立つ事になるのだ。
……ううっ、改めて思う。良かった。私、魔王様に嫁がなくて……!
ちなみに皆さんこれで二度目なので慣れたものである。軽く女子会のノリできゃっきゃと再会を喜びつつ、美しい着せ替え人形と化したさっちゃんの着付けにヘアメイクを楽しんでおいででした。あー、私もついでに着せ替え人形されましたけどもね。
「どう、見事でしょう?」
メルヒノア様に手招きされて見たさっちゃんは……すごく綺麗だった。
先日試着していたあの黒いドレス。いつも無造作に垂らしていた長い金の髪は高く結われて宝石をあしらった髪飾りで飾られ、唇は瑠璃色に妖しく彩られていた。青い口紅は婚礼用の特別なメイクなのだそうだ。何より、あのアイマスクが無いので、美しい顔は全て晒され、この世の物とは思えぬほど美しい。金の睫毛に覆われたガラスの目は淡い紫色だった。
「こっ、ココナさんっ、わっ、私緊張してっ」
口を開いたらやっぱりいつものさっちゃんだけど。
「大丈夫。どこから見ても最高のお嫁さんだよ。魔王様がお待ちだから行きましょうか」
ここからは身内だけの儀式。メルヒノア様他の皆様はそのあとの式からの参列なので、しばし休憩していただきます。
紫の絨毯の上を城最上階の儀式の間に向かう。
「まずは互いの親に報告の儀式でしたね」
「うん。もうそろそろザラキエルノ様もおみえになってると思うよ」
「ペルは?」
「ユーリちゃんと先に行ってるよ」
新婦の手をとり、というより手を繋ぐ形で進む。あ、紫の絨毯の敷いてある通りに進まないと迷子になりますからね、魔王城。バージンロードというより道標です。
途中、階段のところでウリちゃんに手を引かれた魔王様と一緒になった。段取りどおりである。はい、ここで手を繋ぐ人交代。
儀式が済むまで新郎新婦は口をきいてはいけないらしく、黙って見つめ合ったさっちゃんと魔王様。横で見ててもぽっと頬が赤くなるのがわかりましたよ。ふふふ~、さっちゃん綺麗でしょ、魔王様? 魔王様もいつもの黒い服じゃなくて礼服なのかかなり仰々しい格好です。刺繍の飾りの襟付きのケープが魔王っぽいです。
私とウリちゃんも黙って二人の後に続きます。ってか長いです、この階段……最上階まで上りきった頃には足がだるくなりましたよ。さっちゃんも後ろから見ててもヘロヘロですが、大丈夫なんでしょうか。
儀式の間に着くと、これまた真っ黒の式服に身を包んだユーリちゃんとペルちゃんがそう広くない部屋の端と端に置かれた椅子に座っていた。ペルちゃんはまだ小さいのにお利口に座って待ってたんだね。えらいなぁ。リノちゃんだったら数分持たないな、これ。
「ママ」
ペルちゃんがさっちゃんの姿を確かめて嬉しそうに小さく手を振った。可愛い仕草にちょっと皆の頬が緩む。
不思議な事に、ペルちゃんの横に置かれた椅子には小さなクマのぬいぐるみ、ユーリちゃんの横の椅子には何やら怪しげな赤い壷が置かれているだけ。
あれ? ザラキエルノ様はまだおいでじゃないんだ。
「では、まず魔王様よりご尊父であられる、先代魔王様にご挨拶を」
ん? ウリちゃん段取り通りはじめちゃったけど、先代魔王様などおいでで無いのだが?
気にした様子も無く、魔王様はユーリちゃんの横にある壷に向かって一礼され、そのまま壷に向かって語りかけられた。
「父上、こちらを私の妻に迎える事に異存は無いだろうか」
しーん。まあ当然といえばそうなのだが、壷は返事などしない。
「……魔王様、蓋、フタっ」
ウリちゃんが笑いをこらえた様に言うと、魔王様は慌てて壷の蓋を開けられた。次の瞬間、
『リンデル~、お前、再婚とはいい根性しておるではないか。ああ?』
ぼわん、と紫の煙みたいなのが壷から出てきたと思うと、大きな人の形になった。半分透き通ってるけど、少し老けてるけど、どう見ても魔王様に良く似た姿だった。
頭の上に鳥型魔物を乗せたメイア先生の掛け声に、チビちゃん達が構える。
第一走者、赤組は猫叉妖怪のトメさん、白組は謎の沼魔族ポメちゃん。共に大人しい癒し系です。
ぱーん。いつ聞いてもハトに似た鳥さんの口から出るとは思えない音に、両者一斉にスタート。
「がんばれー!」
「おお、早い早い!」
意外にもいつも眠たそうな印象のトメキチさん三歳は足が速い。流石は化け猫というところでしょうか。一方の不定形種族のポメちゃんも負けじと足を四本に増やし、犬のような格好で猛ダッシュ。いきなりなかなかの好勝負。
補助職員のピコさんと私が持つゴールテープに先に突っ込んで来たのは追い上げたポメちゃんでした。トメさんはゴール間近で疲れたのか失速しました。とはいえ、年少さんなので二十ウル……五十メートル無いのですが。
「頑張ったね!」
声を掛けると二人ともニッコリ笑って応援席に帰って行った。
次は赤火竜のさんちゃん、白サテュロスのカンちゃんという更にハイスピードが期待できる勝負。
「負けにゃいっ!」
気合満々のさんちゃんだったが、大きく差をつけてカンちゃんの圧勝。陸上では山羊さんは早かった。
「くやちー!」
ゴールの先でさんちゃんは地団駄を踏んで半泣きだ。負けん気の強い子だもんな。そんなさんちゃんの肩に赤組指導の魔王様がぽんと手を置かれた。
「さんちゃん、次で勝てばよいのだ」
「あい!」
やんちゃ坊主の扱いはユーリちゃんで慣れておいでだもんな。
まだ黒い上下のままに見える魔王様だが、私は知っている。その下にはすでに体操服を着込まれていることを。今年の大人の部は参加者全員に体操服が支給されている。魔王様も例外では無い。私達他の幼稚園職員は既に着替えているが、一応今日も結婚式期間中であるので、出番まで魔王様はそのままだ。というか、貴賓席で見ててくれてもいいのに、現場に出たいとはりきっておいでなのだ。代わりにユーリちゃんが座らされて退屈そうにしているのがちょっと気の毒。
そしてさっちゃんもまだ昨日の黒いドレスとはまた違った、濃い紫のシンプルなドレスで日差しを避ける様に貴賓席として設けられたテントに座っている。その顔にはもうあのキラキラデカ目アイマスクは無い。遠目に見ても美しい白い顔は穏やかに微笑を浮かべている。
そのさっちゃんが立ち上った。あー、次はペルちゃんが走るんだね。
ペルちゃんは赤い鉢巻。対するは白鉢巻のリノちゃん。
『孫じゃっ。ココナさんも応援してやってくれよ』
「は、はあ……」
肩の見えない先代が仰ってるが、まあそうだよね、赤組だからペルちゃんにも頑張って欲しいけど、内心はやはり自分の娘を応援したいわけでして。
「リノちゃん、一等賞ですよ」
「もちろんれしゅぉ」
パパは仕事には公私混同しないと言いつつ、めっちゃ私的に応援してます。可愛い可愛い我が子の運動会デビューですからねぇ、気持ちはわかるけど。
ちらっと見ると拳を握り締めた魔王様、そして特別席のザラキエルノ様とクマちゃんぬいぐるみも身を乗り出してペルちゃんに熱い視線を送っていますね。それだけでは無く、観客席の皆さんも、連れ子とはいえ愛らしい幼い王子に興味深々のご様子。
なんか……ちょっとプレッシャーかかって可哀相かも。
「よーい!」
メイア先生の声に、背格好も大体似た感じの半分天使のチビちゃん二人が構える。そしてぱーん。
リノちゃんは足の動きは早いのだが、なんか空回りする感じであまり前に進まないのが難点だ。そして、ペルちゃんはさっちゃん似なのか体育系は苦手みたいで一生懸命なのにどうもゆっくり。案外いい勝負だが、やはりリノちゃんの方が僅かに前に出た。だがドジな母親似なのはやっぱりリノちゃんも同じでして。
「あっ!」
足がもつれておっとっととなってる所に、ペルちゃんを巻き込んで二人でべちゃっと転んでしまった。うわぁ、リノちゃーん! 道連れってあんた!
しーんと静まった会場。毎年転ぶ子は何人もいるが、流石に巻き添え事故は稀だ。しかも注目の的の新しい王子様ですよっ!
駆け寄ろうとしたが、同時に二人はむっくりと起き上がって、何故か顔を合わせてにんまり笑うと、仲良く手を繋いでゴールまで颯爽と歩いて来たではないか。これには大人もきょとーんだ。同時にゴールインで、同点。
「おあいこだね」
「ごめんれしゅ」
小さな王子様とお姫様の微笑ましい姿に、会場は大拍手。ううっ、ヒヤヒヤした~! これだけ注目を集めてると、勝っても負けても文句が出そうだが、同点って。まさか計算では無いだろうが、結果オーライですよね。
『どっちもええ子じゃなぁ』
先代もなんか感動しておられる様子。そして、
「やっぱりペルちゃんはいい子だわ!」
ピカピカ光るザラキエルノ様はだばだば血の涙を流しながら感動しておいでです。降って来る涙に迷惑そうにおじいちゃんクマさんが何処から出したのか小さな傘をさしてるのがなんとも……。
『しばし息子のところに行って来る』
急に肩が軽くなったと思ったら蛍みたいな小さな光が魔王様の方へ飛んで行った。およ? 先代、現魔王様に何か話でもあるのかな?
まあいいや。やっと離れてくれたー! 正直姿は見えなくても先代魔王様を背負ってるなんて荷が重過ぎるもの。
それは昨日の事だった。
夜明けと共に響き渡ったラッパの音。
それはこの世界の一大事である魔王様の結婚式の開始を告げる合図。
先日から既に準備は万端で、魔王城のあちこちに黒い百合に似た花が飾られ、紫の絨毯が廊下に敷き詰められている。
正直眠いし、天界からの来客のためにお遊戯会同様ものすごい数のバッジにキスさせられて祈りを籠めた私は既にヘロヘロだ。それでも式初日の花嫁の案内役としての責務を果たさねばならない。幼稚園は今日もあるが、マーム先生、メイア先生、補助職員のみんなに任せてウリちゃんと私はお休みである。
「用意はよろしいでしょうか?」
さっちゃん……これから正妃となられるサリエノーア様を迎えに行く。着付けなどの準備は、昨日から起こしになっているメルヒノア様他、他国の王妃様方のお仕事であるらしい。そんな属国とはいえ王族の奥方様方に侍女のような仕事をさせてよいのかという私の懸念は不要だった。
「えー、だって魔王の奥さんって事は、私達より偉いんだもの」
とは、メルヒノア様のお言葉である。つまり、今日の結婚式以降、魔王の正妃という事はこの世界の全女性の頂点に立つ事になるのだ。
……ううっ、改めて思う。良かった。私、魔王様に嫁がなくて……!
ちなみに皆さんこれで二度目なので慣れたものである。軽く女子会のノリできゃっきゃと再会を喜びつつ、美しい着せ替え人形と化したさっちゃんの着付けにヘアメイクを楽しんでおいででした。あー、私もついでに着せ替え人形されましたけどもね。
「どう、見事でしょう?」
メルヒノア様に手招きされて見たさっちゃんは……すごく綺麗だった。
先日試着していたあの黒いドレス。いつも無造作に垂らしていた長い金の髪は高く結われて宝石をあしらった髪飾りで飾られ、唇は瑠璃色に妖しく彩られていた。青い口紅は婚礼用の特別なメイクなのだそうだ。何より、あのアイマスクが無いので、美しい顔は全て晒され、この世の物とは思えぬほど美しい。金の睫毛に覆われたガラスの目は淡い紫色だった。
「こっ、ココナさんっ、わっ、私緊張してっ」
口を開いたらやっぱりいつものさっちゃんだけど。
「大丈夫。どこから見ても最高のお嫁さんだよ。魔王様がお待ちだから行きましょうか」
ここからは身内だけの儀式。メルヒノア様他の皆様はそのあとの式からの参列なので、しばし休憩していただきます。
紫の絨毯の上を城最上階の儀式の間に向かう。
「まずは互いの親に報告の儀式でしたね」
「うん。もうそろそろザラキエルノ様もおみえになってると思うよ」
「ペルは?」
「ユーリちゃんと先に行ってるよ」
新婦の手をとり、というより手を繋ぐ形で進む。あ、紫の絨毯の敷いてある通りに進まないと迷子になりますからね、魔王城。バージンロードというより道標です。
途中、階段のところでウリちゃんに手を引かれた魔王様と一緒になった。段取りどおりである。はい、ここで手を繋ぐ人交代。
儀式が済むまで新郎新婦は口をきいてはいけないらしく、黙って見つめ合ったさっちゃんと魔王様。横で見ててもぽっと頬が赤くなるのがわかりましたよ。ふふふ~、さっちゃん綺麗でしょ、魔王様? 魔王様もいつもの黒い服じゃなくて礼服なのかかなり仰々しい格好です。刺繍の飾りの襟付きのケープが魔王っぽいです。
私とウリちゃんも黙って二人の後に続きます。ってか長いです、この階段……最上階まで上りきった頃には足がだるくなりましたよ。さっちゃんも後ろから見ててもヘロヘロですが、大丈夫なんでしょうか。
儀式の間に着くと、これまた真っ黒の式服に身を包んだユーリちゃんとペルちゃんがそう広くない部屋の端と端に置かれた椅子に座っていた。ペルちゃんはまだ小さいのにお利口に座って待ってたんだね。えらいなぁ。リノちゃんだったら数分持たないな、これ。
「ママ」
ペルちゃんがさっちゃんの姿を確かめて嬉しそうに小さく手を振った。可愛い仕草にちょっと皆の頬が緩む。
不思議な事に、ペルちゃんの横に置かれた椅子には小さなクマのぬいぐるみ、ユーリちゃんの横の椅子には何やら怪しげな赤い壷が置かれているだけ。
あれ? ザラキエルノ様はまだおいでじゃないんだ。
「では、まず魔王様よりご尊父であられる、先代魔王様にご挨拶を」
ん? ウリちゃん段取り通りはじめちゃったけど、先代魔王様などおいでで無いのだが?
気にした様子も無く、魔王様はユーリちゃんの横にある壷に向かって一礼され、そのまま壷に向かって語りかけられた。
「父上、こちらを私の妻に迎える事に異存は無いだろうか」
しーん。まあ当然といえばそうなのだが、壷は返事などしない。
「……魔王様、蓋、フタっ」
ウリちゃんが笑いをこらえた様に言うと、魔王様は慌てて壷の蓋を開けられた。次の瞬間、
『リンデル~、お前、再婚とはいい根性しておるではないか。ああ?』
ぼわん、と紫の煙みたいなのが壷から出てきたと思うと、大きな人の形になった。半分透き通ってるけど、少し老けてるけど、どう見ても魔王様に良く似た姿だった。
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