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続・魔界王立幼稚園ひまわり組
41:じぃじ達と挨拶の儀
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『こう度々呼び出されては堪らん。まだこの前孫が生まれた報告から十五年しか経っておらんだろう。せめて百年ぐらい我慢せんか』
ううっ、なんか半透明の男前のおじさんがいきなり説教をはじめたぞ? 幽霊? 前の魔王様って事だよね? だが今の魔王様も負けてはいない。
「父上、まだまだ寿命があったのに、早く母上の元に行きたいという理由だけでさっさと私に王位を譲って篭られたのですからそのくらいは納得していただきたい。お姿がこちらにあるのならこんな手間も無いものを」
『うむぅ……それを言われると辛いが』
どうやら魔王様(現)の方に分があったらしい。
「早く挨拶を済ませますので、さっさと了承して母上のところにお戻りになればよろしかろう」
『リンデルお前ね、呼び出しといて偉そうじゃないか?』
……うん私もそう思った。もう少しこう、何というか……まあいいや。
先日ウリちゃんが説明してくれたところによると、魔界の人は肉体が死んだら冥府というところに行くのだそうで、冥府にいる間は死ぬ前の記憶も姿も保ってるんだって。そしてまた時期が来たらその魂が記憶も何もかもまっさらになって新しい命として生まれ変わるのだそうだ。人間もあの世に行くとか生まれ変わる言うけど、同じようなものなのだろうか。
命懸けで魔王を産む正妃は大抵その時に亡くなり冥府に旅立たれるが、今までの他の魔王は他にも第二、第三のお妃もおられたので長い在位で世を治められた。だが先代は正妃……現魔王様の母上ただ一人と心に決め、他の女性を囲うこともなく、とりあえず息子が百歳になったらと決めて早くに現役を退いて、愛する奥様の元にお行きになったのだって。美しい話のようだが、早々に責任を負わされた魔王様はいい迷惑である。
突然、先代魔王様の目が私に向いた。え? 何でございましょう?
『おお、まだ随分と幼いが可愛いらしい娘ではないか。ええのぉ、ワシの嫁になんとなく似ておるわ。元人間のようだが黒髪とは、既に眷属に迎えておいて今更正妃に迎えるのか? 別に妾ならワシの許しも何もいるまい?』
今更って、お、幼いって……私、三十過ぎてるんですけど。まあ魔族的には若いですけど。それよりも。そうですか、奥様に似てますか。確かユーリちゃんのお母さんにも似てるとの事だったし、魔王様はお母上をご存じないはずなのでマザコンとかじゃなく、好みが似てるって事なのか。
いやいや、それもどうでもいい。ものすごい勘違いをしておいでなので訂正せねば。
「いや、あのう、私では無くそちらの……」
「そうでございますよ。ココナさんはわたくしの妻です。わたくし達は立会人でございますよ」
ウリちゃんはにこやかに笑いつつも眉がピクピクしている。
『ココナちゃんというのだな。おや、カムトんとこのウリ坊の嫁さんじゃったか。すまんすまん』
ウリ坊って……ウチの旦那さんをイノシシの赤ちゃんみたいに呼ばないでくださいませ。
さてさて。やっと先代は誓いを守って黙ったままだったさっちゃんの方に向き直って下さった。さあ、ご挨拶だよさっちゃん。
「さっ、サ、サリエノーアと、もっ、申します。おっ、王家に嫁ぎますことを、おおお、お認めいただけますでしょうか?」
さっちゃんはかなり緊張しているのか、声がものすごく震えている。でもちゃんと言えたね! ……って、園児じゃないんだし。
『これは別嬪さんじゃ。生粋の堕天使ではないか。よいよい、認めるぞ』
ちょっといい加減なお返事だったが、魔王様とさっちゃんが顔を合わせて微笑んだ。よかったね、認めてもらえて。
ユーリちゃんもペルちゃんも小さく拍手している。これで新郎方は終わったので次は新婦側なのだが……えっとぉ、ザラキエルの様がまだおいでじゃないんだけど。いるのはクマちゃんのぬいぐるみだけだけど? ……いやマテ。魔王側も壺から出てきたんだし、まさか……。
そしてそのまさかだった。
「えー、ご多忙のザラキエルノ様が遅れられるため、本日はお父上に代わりにお越しいただきました。流石に天界の神にそのまま来て頂くわけに参りませんので、意識だけこの神力の漏れぬ型代に憑依しておいでです。残念ながらお話はお出来になりませんが、お父上としてご挨拶ください」
司会進行のウリちゃんに紹介され、クマのぬいぐるみは椅子の上に短い足で立ち上がってぺこりとお辞儀した。
うひぃ! 先代魔王様が壷から出てきた時より、よーく考えたらとんでもないじゃないですか! あのお空に現れたお目めの神様、このぬいぐるみに入っておいでなんですかっ?
だが、案外魔王様もさっちゃんも、そしてユーリちゃんやペルちゃんですら驚いていないので私だけが取り乱すのもなんなので我慢した。そうだった、ここは魔界なのだ。クマちゃんのぬいぐるみが動こうと全然不思議なことでは無いんだった。
……しかし、なんでよりによってこんな可愛らしいぬいぐるみを選んだんだろうか……趣味? それとも孫に怖がられないように?
「お父様、魔王様に嫁ぐ事に異存はございませんでしょうか?」
さっちゃんが前に跪いて頭を下げると、うんうんと頷くクマさん。お手てがぴこぴこしてるぅ~。うわー、めちゃめちゃ可愛い~!
『め、面妖な』
なぜか先代魔王様は少し怯えた様に私の後ろに隠れられた。半透明だけど大きいくせになんですか。
「壺から出てくるより可愛いじゃないですか」
『……コ、ココナちゃんは正直ものじゃのぉ。惚れそうじゃわ』
あとで考えたらこの時からすっかり懐かれてしまったっぽい。
儀式は続く。次は新婦のお父上に新郎の魔王様がご挨拶される。
「魔界の長である私に娘さんをいただけますでしょうか?」
これにもクマちゃん神様はうんうんと頷かれた。喋らないぶん、ザラキエルノ様よりやりやすかったかもしれないなどとは思っても言わない。
「これにて無事双方の産み親の承認が得られました。異存のある方はございませんか?」
淡々と進行するウリちゃんの声に、子供たちが顔を合わせる。ユーリちゃん、ペルちゃんはここで異議があれば発言できるのだ。だが、二人は何も言わずただにっこり笑いあっただけだっった。もうすっかり兄弟のようだね。
ふいにくっついたままだった先代魔王様が、私の肩越しにペルちゃんを指さして尋ねられた。
『のう、ココナちゃん? あの可愛い幼子は嫁さんの連れ子か? ということはワシの孫になるのだろうか』
「はい。ユーリ様だけでなくペルちゃんも孫ですよ」
『……冥府で愛しい妻と会えたのは嬉しかったが、孫の成長を見られなかったのが心残りだったのじゃ。生まれた時の報告で見ただけのユーリもあのようにもう大きくなってしまったし、小さな子供はやはり可愛いのぉ』
「……」
ここにもじぃじがいた。
次は新郎新婦だけで魔王の玉座の間で魔神様に報告の儀がある。ウリちゃんは二人を案内するが、ここで私達は一旦魔王様とさっちゃんとはお別れである。
部屋を出て行き際に、魔王様(現)が振り返り、先代様に仰った。
「お休みのところ呼び出して申し訳ございません。早々にお戻りに」
『言われんでも帰るわ』
アカンベーで息子を見送られた先代。子供ですか、おじさん……いや幽霊なのに。
「お祖父様、僕が蓋をお閉めしますね」
ユーリちゃんが名乗り出てくれたが、先代はまだペルちゃんが気になる模様。そのペルちゃんは自分のおじいちゃんであるクマちゃんを抱っこして、一生懸命語りかけている。
「おばあちゃんも来てくれる運動会、おじいちゃんも来てくれる?」
うんうん、と頷くクマちゃん。そっか、お遊戯会は無理だったけど運動会は見たいですよね。無害だし、私も歓迎する。
『運動会?』
そこで、このお城にユーリちゃんのために幼稚園を作った経緯、そこの催しと結婚式が重なったので、一緒にやってしまおうとなった事を簡単に説明したが……しなきゃよかった。
『幼稚園、孫の運動会! ワシも一緒に観たい』
ぼわん、と姿を消された先代。もちろん壺に入られたわけでは無い。
「お、お祖父様?」
ユーリちゃんの肩にホタルの光みたいな小さな点がとまった。
『リンデルには内緒だぞ。ユーリ、しばらく肩を借りるぞ。うむ、本当に大きくなりおって』
「お帰りにならなくて大丈夫なのですか」
『なに、少し帰りが遅くなっても妃は待っててくれる。百年も待っててくれたのだから一日二日伸びたところで! 嫁の方の親がいるんだからワシもいても良いではないか』
ああ、そうよね。どっちも同じおじいちゃんだもの。片方は良くて片方は駄目なんて言えないし。
……そんなわけで双方のじぃじ達は二日目の運動会も見る気満々で、それぞれ天界にも冥府にもお帰りにならず今に至るのでした……。
そして、なぜかその後、先代はユーリちゃんから私の方においでになったのです。
さて、運動会ですよ!
ひまわり組さん十七人が走り終えました。二人ずつだと一人余るので、最後の組だけ三人で走りました。見た感じ少し白組優勢な感じかな。
「わはははは~! 次は玉いれだぞ!」
早くも毎年大変な盛り上がりを見せる玉いれだ。保護者もお手伝いに加わっていただき、準備は滞りなく進む。バラ組の巨人族の双子ちゃんは身長的に無理があるのでそれぞれ籠を持つ係。みんな、出来るだけお顔に当てないであげてね。
魔王様はやっと本部席に戻られた。代わりに玉入れ大好きのユーリちゃんがお手伝いに出てきてくれた。退屈そうだったものね。
おなじみとなったふわふわだんご虫が籠の周りにばら撒かれ、ここの準備合図担当である私のぴーっという笛に合わせて、紅白それぞれの籠の周りに子供達が別れる。
「まだだよぉ」
気の早いリノちゃんやさんちゃんは既に玉を手にしてますけど、置いて待とうね。さりげなーく蔦を伸ばしてるボウちゃんもね。
「白組がんばれー!」
「赤も負けるなよ!」
客席から保護者の皆様の声がきこえる。準備完了だね。
「よーい……」
ぱーん!
メイア先生の頭の上の鉄砲鳩さんからあの音が響く。
一斉に舞う赤と白の玉。おお、いい勝負だね!
スミレ組のお兄さんお姉さんは着実に入れている。一方、ひまわり組のオチビさん達は一生懸命投げるがほとんど届いていない。ちっちゃな岩のモコちゃんがゆっくりした動きでやっと一個投げたが、ぽてっと自分の足元に落ちたのが見えて、思わずくすりと笑えた。和むわ、この子は。
リノちゃんも張り切ってるね。飛ぶのは禁止なんだけど、すごく微妙に足が浮いてるのは見なかった事にしておいてあげるね。よく見ると他の飛べる系魔族の子も少し地に足がついてない。まあダンクで入れるんじゃないからいい事にしておく。
ペルちゃんも頑張ってるね。あ、入った。すごく嬉しそう。
毎度ながら蜘蛛女、蔦魔族はこの競技は大活躍。八本の手足や頭に下半身の触手をフル動員する彼らは一度にすごい数を投げる。
砂時計を見るとそろそろ。メイア先生に手を上げると、またぱーんと終了の合図が鳴り響いた。
『面白いのぉ、運動会!』
突然肩が重くなったと思ったら、先代が帰って来られたようだ。
『ユーリの時も見たかったな』
本当にそうですね。でも、見られてよかったですね、先代。
「いーち、にー、さーん……」
数を数える係のユーリちゃんとエイジ君の声に合わせ、客席からも声が上がる。ドキドキだね。
「にじゅういち!」
白組の最後の玉をエイジくんが高く高く投げた。
「にじゅうに、にじゅうさん、にじゅうよん……」
お、赤のユーリちゃんはまだあるみたいだよ?
「にじゅうろーく!」
これも高く高く投げ上げたユーリちゃんはすごく嬉しそう。
五個差で玉入れは赤組勝利でした。わーっという嬉しげな声と、おおぅという少しがっかりな声がそれぞれの陣営から聞こえる。
『勝った?』
「はい。ペルちゃん頑張りましたね。でも白組もがんばりました」
『そうじゃ。皆一生懸命で、見ていて気持ち良い』
先代、わかってらっしゃる。流石は魔王様(えんちょう)のお父様です。
こうなったら一緒に最後まで応援してください。
ううっ、なんか半透明の男前のおじさんがいきなり説教をはじめたぞ? 幽霊? 前の魔王様って事だよね? だが今の魔王様も負けてはいない。
「父上、まだまだ寿命があったのに、早く母上の元に行きたいという理由だけでさっさと私に王位を譲って篭られたのですからそのくらいは納得していただきたい。お姿がこちらにあるのならこんな手間も無いものを」
『うむぅ……それを言われると辛いが』
どうやら魔王様(現)の方に分があったらしい。
「早く挨拶を済ませますので、さっさと了承して母上のところにお戻りになればよろしかろう」
『リンデルお前ね、呼び出しといて偉そうじゃないか?』
……うん私もそう思った。もう少しこう、何というか……まあいいや。
先日ウリちゃんが説明してくれたところによると、魔界の人は肉体が死んだら冥府というところに行くのだそうで、冥府にいる間は死ぬ前の記憶も姿も保ってるんだって。そしてまた時期が来たらその魂が記憶も何もかもまっさらになって新しい命として生まれ変わるのだそうだ。人間もあの世に行くとか生まれ変わる言うけど、同じようなものなのだろうか。
命懸けで魔王を産む正妃は大抵その時に亡くなり冥府に旅立たれるが、今までの他の魔王は他にも第二、第三のお妃もおられたので長い在位で世を治められた。だが先代は正妃……現魔王様の母上ただ一人と心に決め、他の女性を囲うこともなく、とりあえず息子が百歳になったらと決めて早くに現役を退いて、愛する奥様の元にお行きになったのだって。美しい話のようだが、早々に責任を負わされた魔王様はいい迷惑である。
突然、先代魔王様の目が私に向いた。え? 何でございましょう?
『おお、まだ随分と幼いが可愛いらしい娘ではないか。ええのぉ、ワシの嫁になんとなく似ておるわ。元人間のようだが黒髪とは、既に眷属に迎えておいて今更正妃に迎えるのか? 別に妾ならワシの許しも何もいるまい?』
今更って、お、幼いって……私、三十過ぎてるんですけど。まあ魔族的には若いですけど。それよりも。そうですか、奥様に似てますか。確かユーリちゃんのお母さんにも似てるとの事だったし、魔王様はお母上をご存じないはずなのでマザコンとかじゃなく、好みが似てるって事なのか。
いやいや、それもどうでもいい。ものすごい勘違いをしておいでなので訂正せねば。
「いや、あのう、私では無くそちらの……」
「そうでございますよ。ココナさんはわたくしの妻です。わたくし達は立会人でございますよ」
ウリちゃんはにこやかに笑いつつも眉がピクピクしている。
『ココナちゃんというのだな。おや、カムトんとこのウリ坊の嫁さんじゃったか。すまんすまん』
ウリ坊って……ウチの旦那さんをイノシシの赤ちゃんみたいに呼ばないでくださいませ。
さてさて。やっと先代は誓いを守って黙ったままだったさっちゃんの方に向き直って下さった。さあ、ご挨拶だよさっちゃん。
「さっ、サ、サリエノーアと、もっ、申します。おっ、王家に嫁ぎますことを、おおお、お認めいただけますでしょうか?」
さっちゃんはかなり緊張しているのか、声がものすごく震えている。でもちゃんと言えたね! ……って、園児じゃないんだし。
『これは別嬪さんじゃ。生粋の堕天使ではないか。よいよい、認めるぞ』
ちょっといい加減なお返事だったが、魔王様とさっちゃんが顔を合わせて微笑んだ。よかったね、認めてもらえて。
ユーリちゃんもペルちゃんも小さく拍手している。これで新郎方は終わったので次は新婦側なのだが……えっとぉ、ザラキエルの様がまだおいでじゃないんだけど。いるのはクマちゃんのぬいぐるみだけだけど? ……いやマテ。魔王側も壺から出てきたんだし、まさか……。
そしてそのまさかだった。
「えー、ご多忙のザラキエルノ様が遅れられるため、本日はお父上に代わりにお越しいただきました。流石に天界の神にそのまま来て頂くわけに参りませんので、意識だけこの神力の漏れぬ型代に憑依しておいでです。残念ながらお話はお出来になりませんが、お父上としてご挨拶ください」
司会進行のウリちゃんに紹介され、クマのぬいぐるみは椅子の上に短い足で立ち上がってぺこりとお辞儀した。
うひぃ! 先代魔王様が壷から出てきた時より、よーく考えたらとんでもないじゃないですか! あのお空に現れたお目めの神様、このぬいぐるみに入っておいでなんですかっ?
だが、案外魔王様もさっちゃんも、そしてユーリちゃんやペルちゃんですら驚いていないので私だけが取り乱すのもなんなので我慢した。そうだった、ここは魔界なのだ。クマちゃんのぬいぐるみが動こうと全然不思議なことでは無いんだった。
……しかし、なんでよりによってこんな可愛らしいぬいぐるみを選んだんだろうか……趣味? それとも孫に怖がられないように?
「お父様、魔王様に嫁ぐ事に異存はございませんでしょうか?」
さっちゃんが前に跪いて頭を下げると、うんうんと頷くクマさん。お手てがぴこぴこしてるぅ~。うわー、めちゃめちゃ可愛い~!
『め、面妖な』
なぜか先代魔王様は少し怯えた様に私の後ろに隠れられた。半透明だけど大きいくせになんですか。
「壺から出てくるより可愛いじゃないですか」
『……コ、ココナちゃんは正直ものじゃのぉ。惚れそうじゃわ』
あとで考えたらこの時からすっかり懐かれてしまったっぽい。
儀式は続く。次は新婦のお父上に新郎の魔王様がご挨拶される。
「魔界の長である私に娘さんをいただけますでしょうか?」
これにもクマちゃん神様はうんうんと頷かれた。喋らないぶん、ザラキエルノ様よりやりやすかったかもしれないなどとは思っても言わない。
「これにて無事双方の産み親の承認が得られました。異存のある方はございませんか?」
淡々と進行するウリちゃんの声に、子供たちが顔を合わせる。ユーリちゃん、ペルちゃんはここで異議があれば発言できるのだ。だが、二人は何も言わずただにっこり笑いあっただけだっった。もうすっかり兄弟のようだね。
ふいにくっついたままだった先代魔王様が、私の肩越しにペルちゃんを指さして尋ねられた。
『のう、ココナちゃん? あの可愛い幼子は嫁さんの連れ子か? ということはワシの孫になるのだろうか』
「はい。ユーリ様だけでなくペルちゃんも孫ですよ」
『……冥府で愛しい妻と会えたのは嬉しかったが、孫の成長を見られなかったのが心残りだったのじゃ。生まれた時の報告で見ただけのユーリもあのようにもう大きくなってしまったし、小さな子供はやはり可愛いのぉ』
「……」
ここにもじぃじがいた。
次は新郎新婦だけで魔王の玉座の間で魔神様に報告の儀がある。ウリちゃんは二人を案内するが、ここで私達は一旦魔王様とさっちゃんとはお別れである。
部屋を出て行き際に、魔王様(現)が振り返り、先代様に仰った。
「お休みのところ呼び出して申し訳ございません。早々にお戻りに」
『言われんでも帰るわ』
アカンベーで息子を見送られた先代。子供ですか、おじさん……いや幽霊なのに。
「お祖父様、僕が蓋をお閉めしますね」
ユーリちゃんが名乗り出てくれたが、先代はまだペルちゃんが気になる模様。そのペルちゃんは自分のおじいちゃんであるクマちゃんを抱っこして、一生懸命語りかけている。
「おばあちゃんも来てくれる運動会、おじいちゃんも来てくれる?」
うんうん、と頷くクマちゃん。そっか、お遊戯会は無理だったけど運動会は見たいですよね。無害だし、私も歓迎する。
『運動会?』
そこで、このお城にユーリちゃんのために幼稚園を作った経緯、そこの催しと結婚式が重なったので、一緒にやってしまおうとなった事を簡単に説明したが……しなきゃよかった。
『幼稚園、孫の運動会! ワシも一緒に観たい』
ぼわん、と姿を消された先代。もちろん壺に入られたわけでは無い。
「お、お祖父様?」
ユーリちゃんの肩にホタルの光みたいな小さな点がとまった。
『リンデルには内緒だぞ。ユーリ、しばらく肩を借りるぞ。うむ、本当に大きくなりおって』
「お帰りにならなくて大丈夫なのですか」
『なに、少し帰りが遅くなっても妃は待っててくれる。百年も待っててくれたのだから一日二日伸びたところで! 嫁の方の親がいるんだからワシもいても良いではないか』
ああ、そうよね。どっちも同じおじいちゃんだもの。片方は良くて片方は駄目なんて言えないし。
……そんなわけで双方のじぃじ達は二日目の運動会も見る気満々で、それぞれ天界にも冥府にもお帰りにならず今に至るのでした……。
そして、なぜかその後、先代はユーリちゃんから私の方においでになったのです。
さて、運動会ですよ!
ひまわり組さん十七人が走り終えました。二人ずつだと一人余るので、最後の組だけ三人で走りました。見た感じ少し白組優勢な感じかな。
「わはははは~! 次は玉いれだぞ!」
早くも毎年大変な盛り上がりを見せる玉いれだ。保護者もお手伝いに加わっていただき、準備は滞りなく進む。バラ組の巨人族の双子ちゃんは身長的に無理があるのでそれぞれ籠を持つ係。みんな、出来るだけお顔に当てないであげてね。
魔王様はやっと本部席に戻られた。代わりに玉入れ大好きのユーリちゃんがお手伝いに出てきてくれた。退屈そうだったものね。
おなじみとなったふわふわだんご虫が籠の周りにばら撒かれ、ここの準備合図担当である私のぴーっという笛に合わせて、紅白それぞれの籠の周りに子供達が別れる。
「まだだよぉ」
気の早いリノちゃんやさんちゃんは既に玉を手にしてますけど、置いて待とうね。さりげなーく蔦を伸ばしてるボウちゃんもね。
「白組がんばれー!」
「赤も負けるなよ!」
客席から保護者の皆様の声がきこえる。準備完了だね。
「よーい……」
ぱーん!
メイア先生の頭の上の鉄砲鳩さんからあの音が響く。
一斉に舞う赤と白の玉。おお、いい勝負だね!
スミレ組のお兄さんお姉さんは着実に入れている。一方、ひまわり組のオチビさん達は一生懸命投げるがほとんど届いていない。ちっちゃな岩のモコちゃんがゆっくりした動きでやっと一個投げたが、ぽてっと自分の足元に落ちたのが見えて、思わずくすりと笑えた。和むわ、この子は。
リノちゃんも張り切ってるね。飛ぶのは禁止なんだけど、すごく微妙に足が浮いてるのは見なかった事にしておいてあげるね。よく見ると他の飛べる系魔族の子も少し地に足がついてない。まあダンクで入れるんじゃないからいい事にしておく。
ペルちゃんも頑張ってるね。あ、入った。すごく嬉しそう。
毎度ながら蜘蛛女、蔦魔族はこの競技は大活躍。八本の手足や頭に下半身の触手をフル動員する彼らは一度にすごい数を投げる。
砂時計を見るとそろそろ。メイア先生に手を上げると、またぱーんと終了の合図が鳴り響いた。
『面白いのぉ、運動会!』
突然肩が重くなったと思ったら、先代が帰って来られたようだ。
『ユーリの時も見たかったな』
本当にそうですね。でも、見られてよかったですね、先代。
「いーち、にー、さーん……」
数を数える係のユーリちゃんとエイジ君の声に合わせ、客席からも声が上がる。ドキドキだね。
「にじゅういち!」
白組の最後の玉をエイジくんが高く高く投げた。
「にじゅうに、にじゅうさん、にじゅうよん……」
お、赤のユーリちゃんはまだあるみたいだよ?
「にじゅうろーく!」
これも高く高く投げ上げたユーリちゃんはすごく嬉しそう。
五個差で玉入れは赤組勝利でした。わーっという嬉しげな声と、おおぅという少しがっかりな声がそれぞれの陣営から聞こえる。
『勝った?』
「はい。ペルちゃん頑張りましたね。でも白組もがんばりました」
『そうじゃ。皆一生懸命で、見ていて気持ち良い』
先代、わかってらっしゃる。流石は魔王様(えんちょう)のお父様です。
こうなったら一緒に最後まで応援してください。
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