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続・魔界王立幼稚園ひまわり組
42:障害物は王妃様
しおりを挟む大人競技を挟まないので、今回は比較的スムーズに運動会が進行している。盛り上がった玉入れの後の年中・年長のかけっこも無事に終わり、今のところ赤白ともに良い勝負。年長さんのかけっこは年少のひまわりさんの倍の長さだったのでなかなか迫力があった。
心配していた客席の方も混乱は無いようで、皆ちゃんとバッジもつけてくれているみたい。
さあ、次はメインイベントとも言える障害物競争。午前で唯一大人も参加する競技。と言っても、園児の保護者どちらか一名だけなのだが。
「出番だな」
大人しく本部テントの貴賓席でご覧になっていた魔王様が立ち上がられた。そして、毎度おなじみのぶわさーっという派手な上着の脱ぎ方で、気合満々の体操服姿へ変身……ですが、今回はズボンもあるので少々オマヌケでございました。これも毎度ご苦労さまですと言いたい従者のスケルトンさんが走ってきて、お召し物が地面に着く前にナイスキャッチ。客席からはわーっという歓声が上がったのは、魔王様にか華麗に受けたスケルトンさんにかどちらになんでしょうね。
袖も裾も短い白の上下に赤い鉢巻……似合いません、魔王様……。
『も、もう少し魔王としての威厳をだな……』
先代もちょっと引いておいでみたい。だが観客には好評のようです。
「おお、なんと勇ましいお姿!」
「ありがたや、ありがたや」
遠方からいらしたお客さんは感涙しておいでなのでまあいいけど。
当の魔王様はペルちゃんと並んで少し緊張した面持ちで、他の親子のように繋いで待つためにそろりと手を差し出しながら、ペルちゃんに小さく声を掛けられた。
「父と子として初の共同作業だ。よろしく頼む」
うわ、三歳児相手に堅いなぁ……。
「その……ち、父と呼んでくれるだろうか?」
よく言えました! いいよ、魔王様っ!
「ちちうえ、よろしくお願いします」
ペルちゃんの方が上手だった! そんなに可愛いお顔でニッコリしながら父上なんて言われた日には嬉しいに決まってるじゃないね。
「わああぁ、なんだ?! 突然花が降ってきたぞっ!」
客席から声がしますが、人畜無害の花なので大丈夫でしょう。
さて、もう一組やたらと気合の入っている親子がおりますよ。
「リノちゃん、わたくしたちも頑張りましょうね」
「あい! じぇったいかちまゅおっ、パパ!」
本当は先生は競技には出ないことになっているのだが、ペルちゃんの保護者として魔王様がお出になるので、少しでも公平を期すためにとリノちゃんと出る事になったウリちゃんは張り切っています。
『ココナちゃんとこの娘も可愛いのぉ。男親は女の子がそれは可愛いもんじゃ。メルちゃんも小さい時はそれはそれは可愛かった。思い出すわい』
今も可愛いじゃありませんか、メルヒノア様。そっか、先代もやっぱり娘にメロメロのパパだったんだ。
そのメルヒノア様は今、貴賓席でご機嫌でぶんぶんこちらに手を振りながら横のツツル国王に少し呆れられておいでです。一時は生死すら心配されたお姉様は何事も無かったかのように通常運転ですね。
「ママもリノとパパをおーえんちてにぇ!」
「う、うん……」
娘と夫は白組さんなのでそうおおっぴらには応援出来なくてゴメンね。でも心のなかでは思い切り応援するからね。
私は赤組の園児を並ばせて送り出す係。
障害物の内容は、参加者に知らされていないのも毎年。ここではじめて説明をするのです。ふふふ、私を含め、マーム先生、メイア先生、補助職員、エイジくんで考えましたよ。そして、今着々と準備されております。
第一関門の障害物は今年は平均台はやめてとび箱。超え方は自由です。飛び越してもよし、登ってもよし。ただし、空を飛べる種族であっても飛行は禁止ですよ。第二関門は毎年恒例スライム網くぐり、第三関門は縄跳びにしようと思ったけど、年少さんには無理なので蛇縄跳び……地面をうねうねする縄を飛び越える。そして最終関門は……。
「ん?」
「あれ? ママ?」
魔王様とペルちゃんが固まった。ゴール手前にドレスのまましずしずと歩み出てきたのはさっちゃん……サリエノーア新王妃。
はい、最終の障害物はさっちゃんです。とは言え別に邪魔するわけじゃないです。一応幼稚園の運動会も結婚式の一環なので、何か無いかと考えましたよ私達。
王妃様の前にはお城の大臣さん達が魔法で生やしたお花。それを親が一本摘み取って、子供が花嫁に手渡すというもの。簡単そうだが三本に一本の割合でハズレがあるので要注意です。
「これはまた、素敵な障害物ですね」
ウリちゃん、余裕かましてますけど、ハズレを引くと悲惨な事になるそうですよ? そんなわけで大人が摘むんだよ。
参加者に説明をする間に、スタンバイは終わったようだ。
「わはははは~! 準備が出来たようだぞ。それじゃあ、お楽しみの障害物競争開始だ! わはははっ」
笑いジラソレの司会で競技開始。
年長組さんから順番にスタートなので、最初はスミレ組白は夢魔のトト君母子、吸血鬼モモちゃん父子、赤は水竜族のレネ君母子、猫獣人のビュルネちゃん父子という、選手宣誓もやったリーダー格から。安定感がありそうですが、初の競技さてどうなりますやら。
「よーい」
もうほとんどいいコンビになっているメイア先生と合図の鳥さん。ぱーんという音で競技開始。
四組ともいいスタートを切り、ほぼ同時に跳び箱に到達。だがここで夢魔・吸血鬼というインテリ系の白よりアクテイブ系獣人族である赤の二チームが前に出た……と思いきや、四組ともとび箱の前で固まった。
「うっ……」
うーん、道具選びはエイジ君達に任せておいたんだけど、やっぱりとび箱もタダモノじゃなかった……見た目は普通なんだけど、地味に波打ってる。こう、ぷるんぷるんってプリンみたいに。
「がんばれー!」
順番を待つお友達や客席からの応援を受けて、各組が動いた。
波打つとび箱を美しいフォームで跳んだレネ君とそのママ。ビュルネちゃんはぴょんと身軽にとび箱に登って飛び降り、パパに至っては触れもせずに飛び越した。流石は猫です。だが白も頑張っている。ヴァンパイアらしい青白いお顔の渋いモモちゃんパパは、お淑やかな娘のモモちゃんを小脇に抱えてこれまた触れずに飛び越し、トト君母子も危なっかしいながらも手を繋いで乗り越えた。
「どう攻略するかよく見て研究しておきましょうね、リノちゃん」
「あい、パパ!」
攻略って……横で魔王様とペルちゃんも頷いてるし。まあいいけど。
障害物は二番手スライム網くぐりだ。ここは流石は今年三回目の年長さん達、それなりに危なげなく通り抜けた。これにはコツがあって、誰か体の大きな親一人が犠牲になっている隙にその子供と他の親子が通り抜けるのだ。
「きゃあ! 気持ち悪いぃ!」
「ママ、がんばって!」
今年の犠牲者は一番体の大きな水竜族のレネ君のママでした。ご苦労さまです。網に絡まった角を外してあげるレネ君はいい子だね。
さあ、ややレネ君親子が遅れたものの、ほぼ横並びで他の三組は第三関門へ。ここは縄跳びなんかお手の物の年長さんには問題ないだろう……と思っていたが。
「は、早いよ……」
縄じゃないし! 蛇縄跳びって言ったけど本物の蛇でやんなくていいから! 細長くて両方に頭のある蛇さんが激しくのたうってます。これ、ひまわりさんのチビちゃん達とべるのかな……。
なんとか飛び越した各親子。最初にお花畑に辿り着いたのはヴァンパイアのモモちゃん父娘。お父さんが一本綺麗な黒いユリみたいなのを選びましたが……。
「うおっ!」
摘み取った瞬間黒い液体に変わって、顔面に墨を吹き付けたみたいになってしまいました! は、激しい。それを見て花を摘もうとしていた他のお母さんとお父さんの手が一瞬止まるが、それでは競技にならない。思い切って摘んだトト君ママはセーフ!同時に摘んだビュルネちゃんパパの花は、ぱたぱた羽根が生えて飛んで行きアウト。遅れてやってきたレネ君ママもセーフ。
「どうぞ!」
「ありがとう」
トト君が一番にさっちゃんに手渡しゴール。二番手はレネ君。三番手ビュルネちゃん、二本もスカを引いてしまったモモちゃん家は最後でした。
『ははは、なんと愉快な競争じゃ! 笑いすぎて腹が痛いぞ』
先代、笑っておいでのようですが、体も無いのになぜお腹が痛いのかは突っ込まない事にしておきます。
なかなか大変な競技だが、お客さん達はものすごく楽しいみたいで、大歓声が上がってる。
「魔お……ちちうえ、大丈夫かな? ママにお花渡せるかな?」
ペルちゃんは心配そう。
「大丈夫だ。頑張ろうではないか」
魔王様はやる気満々ですけどね。
その後も順調に競技は進み、保護者の方々の災難は続きましたが、三度もスカを引いてしまったバラ組のジュネちゃんのところがリタイヤした以外は、年長年中共に何とか全員がゴールしました。さっちゃんは大量の花を手渡され、もうすっかり花束。綺麗なお花に満足気に微笑んでます。
さあ、次はひまわり組さんの番だね。泣かずに最後まで行けるかな?
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