魔界王立幼稚園ひまわり組

まりの

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続・魔界王立幼稚園ひまわり組

48:さようならじぃじ達

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 大人の運動会は進行が早い。早くも第三競技綱引き。
 幼稚園の保護者の方には気の毒なほど、今年は豪華なメンバーです!
 赤組先頭は勿論魔王様。既に半袖なのにそれを更に肩まで捲り上げるという気合の入りっぷり。ユーリちゃんは次の競技に出るので参加しないが、他にもバラ組の蜘蛛のニナちゃんのパパや、蔦魔族のボウちゃんのパパ、建設大臣の単眼巨人(キュプロス)さん、オークの近衛兵長などもいるし、重石に最後尾に構える岩石魔族のモコちゃんのパパ。どう見ても強そうだ。
 対する白組筆頭はウリエノイル宰相閣下。バラ組の巨人族の双子のパパが白だったでんちゃんの保護者として参加。質量を自在に変える謎の沼魔族ポメちゃんのパパ、そしてツツル国王や元勇者マファル王、エイジくんもその後ろに控えている。白の最後尾を務めるのは、ホボルの隣の国メケルの王様。細身だがモコちゃんと同じく石系魔族だ。全身が透明でキラキラ光るダイヤモンドで出来ていてとても重く力持ちだ。
「おほほほ~男性による綱引きですわ~! 迫力ある対決になりそうですわね。勝負はココナ先生とサリエノーア王妃が判定してくださいますわよ! ほほほっ」
 はいそうです。最初さっちゃん一人に任せる予定だったのだが、魔王様もお出になるということで、公平を期すために私も一緒にとなったのだ。ダブル審判は運動会がはじまって以来初めてのことです。
 両チームバランスを考えて綱の横にスタンバイ。
「……ふふふ、今年は手加減はしなくて良いようですね」
「ほう、手加減をしていたと言うのか? ならば本気を見せてもらおう」
 ……大人げなくやってますね、魔王様と宰相閣下。毎年の事ですがね。
「あー、お二人共、他の参加者の迷惑になりますので、今年もあまり熱くなられませんようお願いいたしますよ」
 マーム先生の教育的指導が入るのも毎年の事です。但し、毎年の保護者オンリーの中では魔王様とウリちゃんはハンデで片手でしか綱を握らせてもらえないが、今年は両腕オッケーらしい。
 何気なくメイア先生のいる本部席の方を見ると、メイア先生だけでなく、競技に参加できない夜王様とくまちゃん神様まで集計を手伝っていた。なんだ、あの小さくて可愛い集まりは。ほのぼの癒やし空間?
 私もそちらに行かせて頂いてもよろしいでしょうか? この真中の審判の位置は両方からものすごい気を感じて正直しんどいのですが。さっちゃんも同じだったようだ。
「き、緊張しますね」
「うん……」
 言っても仕方がないので、二人で覚悟を決める。白い旗と赤い旗、それぞれ両手に持って、縄を挟んで向かい合う。
 パーンの合図で競技開始!
「そおーれっ、そおーれっ!」
 ううーん、幼稚園の園児の「よいちょ、よいちょ」っていうあの可愛い声の代わりに、野太い低―い声が響いてます。応援席は大興奮。
 魔王様、めっちゃ真顔です。微妙に眉間に皺寄ってますよ。それに腕にビシィっと力こぶ見えてます。ウリちゃんも真顔だね。標準装備の笑顔がどこかに旅に出ちゃってますよ!
 これはなかなか勝負が決まらない。いい感じに拮抗しております。少し赤に動いたと思ったらまた白が頑張り、そしてまた赤。大きく傾かないだけに、審判係の私とさっちゃんも旗を上げられない。
 男達はみんな真剣そのもの。ちょっとみんなカッコイイ。園児のパパたちの奥さんも、各国の王妃様方も惚れ直しちゃうんじゃないでしょうか。
「きゃー勇者様―っ!」
「ダーリンがんばってぇー!」
「魔王様―!」
 応援席からは事実女性達の甘い声援が飛んでおります。一際大きな声はてんちゃん、メルヒノア様、ザラキエルノ様だね。
 ううっ、私も頑張ってる旦那様に声を掛けてあげたいが、私は赤組、彼は白なの。ウリちゃんゴメン、でも真剣な姿もカッコイイよ!
 それに私達は今審判。さっちゃんも食い入るように魔王様を見て歯を食いしばってるけど、声を掛けられないものね。
 本当になかなか勝負がつかない。あまり長いと普通のパパ達が疲れちゃう。普通の……なのかどうかはわからないけど。
『じれったいのう!』
 肩の先代がヤキモキしてるのがわかるけど、大人しくしててくださいね。
 突然真ん中の印が大きく赤の方に傾いた。白側に長い勝負で疲れた方がいたのだろうか。
 さっちゃんと同時に赤い旗を上げる。一回目は赤の勝ち!
 わーっと喜ぶ赤組の選手と応援席。
 さっちゃんを見る魔王様がどや顔になってます。ウリちゃんはいつもの笑顔も出なくて本気で悔しそう。うわー、たかが運動会の競技でそこまで本気になるんだね、あなた達は。
「場所を交代してもう一回行きまーす」
 今度は流石にみんなお疲れだから早めに勝負がつくだろう。
「ん?」
 真ん中の印を見てて、なんだか少し違和感があった。別にささくれてるわけでも切れかけているわけでもない。でも何となくさっきと違う気がしたのだ。北の谷の巨大な魔物、鋼毛竜の毛で編んだこの縄は軽いけどすごく強いらしくて、ちょっとやそっとでは切れない。ワイヤー代わりにこの魔王城の吊橋にも使われてるくらいだ。魔力を籠めてない状態だったら、魔王様でも千切れないと言っておられた。だから強度は問題ないのだろうが……気のせいだったらいいのだけど。
「パパがんばりぇ~!」
「はいっ! 今度こそ!」
 あ、愛娘の声にウリちゃんが燃えている。背後にぼうっと青い炎が立ったのが見えた気がする。
「ほら、ペルちゃんも魔王様を応援しないと」
「まお……ちちうえ! 今度も勝ってください!」
 ザラキエルノ様に促され、ペルちゃんも声を上げる。よっぽど嬉しかったのだろう、魔王様からもめらっと気が立ち昇るのが見えた。客席の端の方から悲鳴が聞こえたのはまた何か降ってきたのだろうか……。
「えー、くれぐれも魔力はお使いになりませんように」
 本日二度目の教育的指導が入りました。
 そして二回目開始!
 今度も勝負は互角。でもしばらくして私のこの地獄耳に聞こえた微かな音。 え? 何か嫌な音が聞こえたけど……ぶちぶちって。
 そして、ついに恐れていた事が起きてしまった。
 ばちーんと何かが弾けたような音とともに、真っ二つに切れた縄。思い切り力を籠めてひっぱっていたらどうなるか! 咄嗟に頭に昔ニュースで聞いた恐ろしい結果が浮かび、思わず目を閉じた。
「きゃーっ!」
 悲鳴とどよめき。
 そーっと目を開けると、後ろの人の上に乗っかることも無く、二手に分かれてみんな尻もちをついた形で座り込んでいた。 
 あわや大惨事かと思われたが、案外皆さん平然としておいでだったのでホッとしたが、それぞれの奥さんや子供達が慌てて駆け寄る中、念のため大声で救護班を呼んで、尻もちをついた形で座り込んでるウリちゃんに駆け寄った。さっちゃんは同じく魔王様のもとに走っていった。
「怪我してない? 大丈夫?」
「はい。驚いただけです」
 あちこち調べてみたが、旦那様はかすり傷一つなかった。他のみんなもそうみたい。怪我人は一人もいないようだ。
「良かった……」
「何というか、柔らかい手にでも優しく受け止められたような気がしました」
「え?」
 誰かが咄嗟に魔力で全員を助けたというのだろうか。そんなすごい事が出来るのは……。
「驚いたな、まさか綱が切れるとは」
 魔王様では無いみたいだ。じゃあ誰が?
「……あのココナさん、今のはどういう判定に?」
 魔王様とウリちゃんが同時に私に訊いた。
 オイ、人がめっちゃ心配してるのに何だよこのお馬鹿幼馴染二人。それどころじゃないでしょう!
「ねえ、先代魔王様? 見てました?」
 肩にいたであろう先代に声を掛けてみたが返事は無かった。
「あれ?」
 そして、今度悲鳴が上がったのは本部席にいたメイア先生の方からだった。
「どうしました?」
 慌ててみんなで駆け寄る。
 メイア先生は一緒にいたクマちゃん神様を抱きしめて揺すっていた。
「義父さまが、突然ぱたりと倒れて動かなくなってしまわれて!」
「ええっ?」
 ぬいぐるみを受け取ると、くたっと手も足も力なく垂れた。さっきまで喋りはしないもののしっかり立って手を振ったり頷いたりしてたのに。
「あらあら、主人は先に帰っちゃったのね。空っぽになってるわ」
 ザラキエルノ様にクマちゃんを渡すと、そう言って撫でられただけだった。
「それってどういう……」
「怪我人が出ないように慌てて形代を飛び出して、戻れなくなったのね。そうよね、あなた」
 空を見上げてザラキエルノ様が微笑まれた。何も見えないけど、きっと奥さんのザラキエルノ様には見えているのだろう。
 あ……じゃあ、さっきウリちゃんが誰かに受け止められたって言ったのはさっちゃんのパパ、神様だったの? 確かに神様だったらほんの瞬間の事でも反応できただろうけど。
 でも幾ら私の護符を全員つけてるって言っても、純粋の魔族ばかりの参加者に、神様級の神力は危険すぎる。
 そしてその答えは、魔王様が気づかれた。
「父上もおいでにならないな。父上が全員を魔力で包み、神力を緩和されたのだろう。共同で皆を守られたのだ」
「先代が?」
 先の魔界最高位の魔王だもの、そのくらいのことは出来ただろう。一秒にも満たない間にじぃじ達が協力しあってそんな壮大な事になってたなんて! でも双方にとってあまりに危険すぎる。
 先代……まさか消滅して!?
ちょっとエッチで、うるさくて迷惑だったけど……でも優しくて良い方だったのに!
「先代……惜しい方を……」
「父上……」
 魔王様としんみりしかけたら、弱々しい光がふらふらーっと目の前を舞った。
『……し、死んどらんわ。というか既に死んでおるわ。嫁の親父も魔力に当たって消耗しただろうが、流石にワシも弱ったでな、冥界に帰る。ではの、リンデル、もう呼ぶでないぞ。今度は添い遂げて子を幸せにの。自分の家族も幸せに出来ん奴が魔界全土に安寧をもたらせるわけがない。幼稚園の子供達も皆幸せにの……』
 そう言い残して、弱い光はお城の方へ飛んでいった。最上階、あの壺のある部屋の方へ。
 良かった。弱っちゃったかもしれないけど、どっちも消滅してなかった。運動会の続きを見られなくなっちゃったのは残念だけど、本当にありがとうございます。

 じぃじ達の活躍によって、綱引きの事故は一人の怪我人も出すこと無く終わった。だが、魔王様、ウリちゃんにマーム先生の本日三回目の教育的指導が飛んだのは言うまでもない。そして来年はもう大人の綱引きはやらないと心に誓った私だった。

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