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続・魔界王立幼稚園ひまわり組
50:打ち上げられました
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騎馬戦。
園児には無理なのでまだやらせていないけど、リレーと並ぶ運動会の花型競技。馬を作る下の三人の上に、騎手として騎乗する者の鉢巻や帽子をとりあうという、ダイナミックだが非常にわかりやすい競技。
だが中学高校の体育祭でも一番危険度が高かった。上の者は勢い余って落とされたり、下の者も上に人を乗せたまま転倒というのもザラだった。鉢巻と一緒に髪の毛もひっぱられ、白熱してくるとバシバシ顔に相手の手が当たり、叩き合いをしているようにさえなってくる。
人間の世界でもそんな競技だったのだ。そしてここは魔界……騎手も馬も半端ない。特にこの会場にいるのは保護者の方々や人間の国からのお客さんを除いて、魔族の中でも特別な方たちばかり。違う方向に危険なので天界からのお客さんはこの競技には出場しないが、本当に死人や怪我人が出ないかが心配だ。誰ですかこの競技を採用したのは! そしてなぜ私が出ないといけなんですかっ! 終わった時に自分の首、まだ体にくっついてるのだろうか……それが心配ですよ。
「ココナさん、大将の兜とマントがよく似合いますね。少年武将のようで可愛らしいです」
……はい、赤組総大将は魔王様でなく何故か私なのです!
他の騎は鉢巻を取り合うのだが、大将のみ目印としてマントをつけて兜をかぶっております。日本の武将の兜ってよりは、少し西洋風……とも違うかな? 角がついてて竜やコウモリなどの禍々しい飾りの施された金ピカのものですが……重いんだ、これ。首がかくってなりそう。
「ユーリちゃん、少年武将ってひどくない? せめて女将軍でも呼んでよ」
「でもああいうのをまさに女将軍というのではないでしょうか」
指差された白組陣営をみて納得した。ああ、まあねぇ……確かにね。
本当は白組の大将はウリエノイル宰相閣下のはずだった。そこそこ軽いし。だが魔王様が大将を私に変わられ馬に回られたので、公平を期すように急遽あちらも女性に変更となったのだ。
「負けないわよー!」
白組の総大将は波打つ赤毛に銀色に輝く巨大な水牛のような角のついた兜を被り、堂々と豊かなお胸をばいんばいん揺らしながら宰相閣下と元勇者エイジ君、そして夫のツツルの氷竜王という超豪華な馬に担がれておいでだ。魔王様の実姉メルヒノア様はパン食い競争に続いて連戦の模様。白いマントをはためかせ、なんという堂々としたお姿。まさに女将軍。
「何があってもココナさんは守るので安心しなさい」
「そうですよ。僕達にまかせてどんと構えててください」
「がるるる……ココナ様に近づくものは我が阻む!」
こちらも豪華さでは負けていないというより、魔界にこれ以上とんでもない騎馬がいるでしょうか。魔王様、ユーリ王子、ほとんど白組の各国の王の中で、唯一赤組に入っているイシュル国の百獣王様というまさにドリームメンバー。ただし馬だけ。上に乗ってるのがいかに魔王様と同じ黒髪の私だとしても、一介の幼稚園の先生ですよ?
「ココナさん、がんばってくださいね!」
さっちゃんがにこやかに応援してくれているがちょっと心が痛い。本当にゴメンね。一応結婚式の最中なのに新郎の肩にがっしり掴まってる他所の人妻とかありえないよね! まあドンくさ……いや、お淑やかなさっちゃんをこの位置には危険すぎるのはわかるけど。魔王様が駄目ならせめてユーリちゃんをと言った私の意見は思い切り却下されたし、私はまだ一つしか競技に出てないので、そろそろ覚悟は決めなきゃいけないのだけど。
魔王様やユーリちゃんの手に足を乗せてるってだけでとんでもないのに、私そんなに大きくないから後ろの二人の腕に座ってる感じになってて……ああ、でも太ももに当たる百獣王様の腕、ふっかふかの毛でちょっと気持ちいいなぁ。たてがみも凛々しいライオン似のお顔がとっても渋いのですよ、イシュル国王。
四人で一騎、それが紅白各組八騎だから総勢六十四人の出場。ほとんどは園児のパパ達だが種族によってはママのところも。一応馬から騎手が落ちたら失格ということになっているので、危険を感じたらさっさと降りて降参して欲しい。
「おほほほほ! それでは休憩前の大一番、騎馬戦がはじまりますわよ! 相手の鉢巻を多くとったほう、もしくは大将の兜をとったほうが勝ち! 引き分けの時は一騎打ちの大将戦で決めますわよ」
ヴェレットの競技説明のあと、オークの衛兵のラッパが響き渡った。
「戦場を思い出してワクワクします」
あ、パン食い競走で活躍したデュラハンの軍事大臣も参加してる。勿論馬だが首が無いから騎手は見晴らしいいだろうな。ってか顔無いのに喋れたんだな……。
もう一度響き渡った開戦の合図のラッパに、わーっと各騎が動く。
あああ……はじまってしまった!
私達大将の騎はゆっくりと進んで最奥でしばらく様子を見る。魔王様がワクワクしておいでなのが両肩に乗せてる手から伝わってくるようだ。
「ママー!」
「おとうたーん!」
「ココナてんてーがんばりぇー!」
園児たちの可愛い声援が飛んでくるのが唯一の救いでしょうか。ありがとう、先生がんばる。
最前ではすでに激しい戦いが繰り広げられている。
ああっ、開始早々、白組女狼戦士きぃちゃんママに赤組のスケルトンのルナちゃんパパが頭ごと鉢巻を持って行かれたっ! あとで頭は返してあげてね!
赤組も負けてないよ。魔力、飛行、暴力行為は禁止だが今回触手は禁止されていない。蔦魔族ボウちゃんのパパがういーんと髪を伸ばして白の吸血鬼ジュン君のパパの鉢巻を優しくゲットしてる。
しかしまあ、ケンタロスやら蜘蛛型の体の種族の馬はなんて安定感なんだろうか。いいな~。
騎手を失った組は早々に外の方に避難。
というか……あれ? 白組の大将騎がいない?
「うわっ!」
「うぉっ?」
あれれっ! 赤組の保護者さんの騎馬、相手もいないのに立て続けに二組の鉢巻が飛んだ! もうこっち気がつけば私の所入れて三騎しか残ってない! 白はまだ五騎残ってるのに。
「ほう、ウリエノイルめ、攻撃は最大の防御という作戦か。あちらは大将の騎馬自ら超高速で動き回っているな」
ちょっと、ウリちゃん、エイジ君! メルヒノア様を乗せて何やってるんですか! 見えないほど速く動いてるってどうなのよ?
「父上、ではこちらも」
「うむ」
え? ユーリちゃん? 魔王様?
次の瞬間、自分の周りの景色がとんでもないスピードで流れ始めた。ってか落ちるっ!
「ひゃああああっ! 速い、速いです魔王様っ!! ユーリちゃんっ!」
片手で兜が飛んでいかないように抑えるのと、もう片方の手で三角形の馬の頭の位置にいる魔王様の肩にしがみつくのに必死で相手の鉢巻をとる余裕などないんですけどっ!
白組の保護者さんの騎馬の横を通り過ぎる時に、魔王様がひょいと片手を伸ばして鉢巻を引っ張って一つゲット。ああ、なるほど、こういう感じで行くんですか。
あ、でもこっちも速いから見えなかった白組の大将騎が見えた。何と言いましょうか、もうここだけ別の時間が流れてる? 他の人達が超スローモーションで動く中、私達のところだけが普通に動いているような錯覚すら覚える。
「いやーっ!」
メルヒノア様も必死でウリちゃんにしがみついてる。怖いですよね! これ! もはや上に乗っている私達に大将の威厳など微塵もない。
「ココナさん、姉上は両手ふさがっている。今のうちに兜を」
ちょっ、魔王様、軽く言わないでくださいませ。私も両手ふさがってますよ?
「絶対に落とさないように支えているから」
し、信じてはおりますが……もうなんかひたすら魔王様に掴まっているという情けない格好になっていようと関係ない。怖いもんは怖いんですよっ! 離せませんよ!
向こうもこっちに気がついたようだ。高速で流れる時間が一気に通常のスピードに戻る。
「おお! 大将戦だぞ!」
お客さんは喜んでいるようだけど……。
フィールドのほぼ中央で対峙する大将騎馬。
「ほう、これは……」
あ、ウリちゃんと目があった。なんかニヤって黒く笑ったよね? ブーブー文句言ってたもんね、私が魔王様達の上に密着して乗るなんてって。わりとどころか相当嫉妬深いよね、旦那。しかも……必死過ぎて気が付かなかったけど、魔王様にしがみつくのに前のめりになちゃってたんで、このお尻に当たってるのはユーリちゃんか百獣王様のお顔……? うわー! これはいかーん! 慌てて体制を立て直したが、スイマセンスイマセン王子に王様っ!
でもね、言っとくけどウリちゃんの後頭部も、前のめりで必死になって掴まってるメルヒノア様の私の何倍もありそうなお胸に埋まってるんだけど? 男として嬉しいよね、それ? エイジ君とツツル王もぷりりんお尻を目の前にしてちょっと嬉しそうだし。
というわけで騎馬戦の大将戦、永遠のライバル幼馴染対決と、嫁VS夫の嫉妬合戦というわけのわからないもので本人達が盛り上がる。魔王VS元勇者というもの地味に入ってるが……。
ふと気が付くと、赤の他の組はほぼ全滅している模様。ちょっと、大臣たちの騎までやられてるじゃないのよ。
もうここで勝つには大将の兜を取るしか……!
「魔王様、もっと近づいてください」
「よし」
じりじりと間合いを図りながら近づく二騎。メルヒノア様のほうが私よりちょっと背が高い。だがお馬さん達は少しでもと私の足をうーんと持ち上げてくれてるので、その期待に応えねば!
えいっ、と手を伸ばすと、流石にメルヒノア様も逃れようと必死になってきた。取り合いになった場合は兜を押さえるのは反則なので、二人共両手での攻防。伸ばしてきた手を防ごうと組み合う形になった。
きいぃ! メルヒノア様なんて力が強い! 流石は加減を知らない魔王様の実姉!
「いいぞ―! がんばれー!」
客席からの声と他の参加者たちの声が遠くから聞こえる。
隙を見て相手の兜の角に手を掛けたときだった。がこん、と足場の三人の手のひらが下がったと思ったら、魔王様のかけ声が聞こえた
「それっ!」
次の瞬間、私は宙に浮いていた。え? なにこれっ!?
メルヒノア様の兜の角を握りしめたまま、ものすごい勢いで空を飛んでるこんな時だが考えてみよう。
うん、これはあれだ。お馬さんの三人に放り投げられたんだよね、手のひらでトランポリンみたいに弾みをつけて。へぇ、いくら私がそんなに大きくないって言っても大人なのにすごい力だねぇ。打ち上げられたロケットみたいね。どこまで上がるのかな、私。おお、お城の尖塔とおんなじくらいまで上がったよ? 鳥さんびっくりさせてゴメンねー。
……。
チョット待て。そんな悠長な時じゃないよ! 騎馬戦のルール、落ちたら負けなんですけど。 ってか上がったということは落ちるんですよ。魔界だって重力あるんだしぃ!
「きゃああああっ!」
落ちたらぺっしゃんこになるうううぅ!!
だが私は地面に叩きつけられることは無かった。顔から落ちるのだけは嫌なんで上がったまんまの格好で足を下に向けて落ちていった先は。
すぽーんと見事に魔王様の上に着地。肩車の格好で! まるで合体ロボのようです!
あのぉ……魔王様が丈夫なのは知ってるので、首の骨が折れてるんじゃないかとか、そう心配はしてませんけど、色気ないですがお股がじーんってしてます……。
もう白組の大将騎馬の皆さんぽかーん。うん、驚くというか、呆れるよね。
ぷぉーっとラッパが鳴ったのは騎馬戦の終了の合図だろうか。
「赤の勝ちですわー! おほほほほっ!」
もうヴェレットの司会の声もどうでもいい。
「あれ、反則でしょう!」
我にかえったウリちゃんとエイジ君の抗議の声はご尤もだが。
「大将を落としておらん。小柄な将を活かした見事な戦略であったろう?」
ひ、ひょっとしてそのために私だったんですか? でもっ! まさかここまでアクロバティックな事をやらされるとは思いませんでしたよ、魔王様。
判定は覆らなかったので、多数の兵を失っても大将の兜を取ったということで赤組の勝利で、怪我人もなく無事? 終わった騎馬戦。
それぞれの陣営に戻ってワイワイ盛り上がっている。白はまだみんな首を傾げているけどね。
その後、私がなぜか伝説の武将として語られるようになったのは余談である。
「何にせよ勝ててよかった」
はぁ……と溜息をついた私と魔王様の横で、頬を撫でながらニヤニヤしている方達が。
「……いけない夢を見そうです……」
「や、柔らかいものだな、おなごの尻は……」
ユーリちゃん、百獣王様、後でお説教させて頂いてよろしいですか? 向こうで後頭部撫でながらにやけてる銀髪堕天使様もね!
「来年は私も後ろが良いな」
「魔王様までなんですか!」
もう絶対に運動会に騎馬戦は採用しません! やっても上に女性は禁止にします。ってか私は参加しません! もう絶対に!
園児には無理なのでまだやらせていないけど、リレーと並ぶ運動会の花型競技。馬を作る下の三人の上に、騎手として騎乗する者の鉢巻や帽子をとりあうという、ダイナミックだが非常にわかりやすい競技。
だが中学高校の体育祭でも一番危険度が高かった。上の者は勢い余って落とされたり、下の者も上に人を乗せたまま転倒というのもザラだった。鉢巻と一緒に髪の毛もひっぱられ、白熱してくるとバシバシ顔に相手の手が当たり、叩き合いをしているようにさえなってくる。
人間の世界でもそんな競技だったのだ。そしてここは魔界……騎手も馬も半端ない。特にこの会場にいるのは保護者の方々や人間の国からのお客さんを除いて、魔族の中でも特別な方たちばかり。違う方向に危険なので天界からのお客さんはこの競技には出場しないが、本当に死人や怪我人が出ないかが心配だ。誰ですかこの競技を採用したのは! そしてなぜ私が出ないといけなんですかっ! 終わった時に自分の首、まだ体にくっついてるのだろうか……それが心配ですよ。
「ココナさん、大将の兜とマントがよく似合いますね。少年武将のようで可愛らしいです」
……はい、赤組総大将は魔王様でなく何故か私なのです!
他の騎は鉢巻を取り合うのだが、大将のみ目印としてマントをつけて兜をかぶっております。日本の武将の兜ってよりは、少し西洋風……とも違うかな? 角がついてて竜やコウモリなどの禍々しい飾りの施された金ピカのものですが……重いんだ、これ。首がかくってなりそう。
「ユーリちゃん、少年武将ってひどくない? せめて女将軍でも呼んでよ」
「でもああいうのをまさに女将軍というのではないでしょうか」
指差された白組陣営をみて納得した。ああ、まあねぇ……確かにね。
本当は白組の大将はウリエノイル宰相閣下のはずだった。そこそこ軽いし。だが魔王様が大将を私に変わられ馬に回られたので、公平を期すように急遽あちらも女性に変更となったのだ。
「負けないわよー!」
白組の総大将は波打つ赤毛に銀色に輝く巨大な水牛のような角のついた兜を被り、堂々と豊かなお胸をばいんばいん揺らしながら宰相閣下と元勇者エイジ君、そして夫のツツルの氷竜王という超豪華な馬に担がれておいでだ。魔王様の実姉メルヒノア様はパン食い競争に続いて連戦の模様。白いマントをはためかせ、なんという堂々としたお姿。まさに女将軍。
「何があってもココナさんは守るので安心しなさい」
「そうですよ。僕達にまかせてどんと構えててください」
「がるるる……ココナ様に近づくものは我が阻む!」
こちらも豪華さでは負けていないというより、魔界にこれ以上とんでもない騎馬がいるでしょうか。魔王様、ユーリ王子、ほとんど白組の各国の王の中で、唯一赤組に入っているイシュル国の百獣王様というまさにドリームメンバー。ただし馬だけ。上に乗ってるのがいかに魔王様と同じ黒髪の私だとしても、一介の幼稚園の先生ですよ?
「ココナさん、がんばってくださいね!」
さっちゃんがにこやかに応援してくれているがちょっと心が痛い。本当にゴメンね。一応結婚式の最中なのに新郎の肩にがっしり掴まってる他所の人妻とかありえないよね! まあドンくさ……いや、お淑やかなさっちゃんをこの位置には危険すぎるのはわかるけど。魔王様が駄目ならせめてユーリちゃんをと言った私の意見は思い切り却下されたし、私はまだ一つしか競技に出てないので、そろそろ覚悟は決めなきゃいけないのだけど。
魔王様やユーリちゃんの手に足を乗せてるってだけでとんでもないのに、私そんなに大きくないから後ろの二人の腕に座ってる感じになってて……ああ、でも太ももに当たる百獣王様の腕、ふっかふかの毛でちょっと気持ちいいなぁ。たてがみも凛々しいライオン似のお顔がとっても渋いのですよ、イシュル国王。
四人で一騎、それが紅白各組八騎だから総勢六十四人の出場。ほとんどは園児のパパ達だが種族によってはママのところも。一応馬から騎手が落ちたら失格ということになっているので、危険を感じたらさっさと降りて降参して欲しい。
「おほほほほ! それでは休憩前の大一番、騎馬戦がはじまりますわよ! 相手の鉢巻を多くとったほう、もしくは大将の兜をとったほうが勝ち! 引き分けの時は一騎打ちの大将戦で決めますわよ」
ヴェレットの競技説明のあと、オークの衛兵のラッパが響き渡った。
「戦場を思い出してワクワクします」
あ、パン食い競走で活躍したデュラハンの軍事大臣も参加してる。勿論馬だが首が無いから騎手は見晴らしいいだろうな。ってか顔無いのに喋れたんだな……。
もう一度響き渡った開戦の合図のラッパに、わーっと各騎が動く。
あああ……はじまってしまった!
私達大将の騎はゆっくりと進んで最奥でしばらく様子を見る。魔王様がワクワクしておいでなのが両肩に乗せてる手から伝わってくるようだ。
「ママー!」
「おとうたーん!」
「ココナてんてーがんばりぇー!」
園児たちの可愛い声援が飛んでくるのが唯一の救いでしょうか。ありがとう、先生がんばる。
最前ではすでに激しい戦いが繰り広げられている。
ああっ、開始早々、白組女狼戦士きぃちゃんママに赤組のスケルトンのルナちゃんパパが頭ごと鉢巻を持って行かれたっ! あとで頭は返してあげてね!
赤組も負けてないよ。魔力、飛行、暴力行為は禁止だが今回触手は禁止されていない。蔦魔族ボウちゃんのパパがういーんと髪を伸ばして白の吸血鬼ジュン君のパパの鉢巻を優しくゲットしてる。
しかしまあ、ケンタロスやら蜘蛛型の体の種族の馬はなんて安定感なんだろうか。いいな~。
騎手を失った組は早々に外の方に避難。
というか……あれ? 白組の大将騎がいない?
「うわっ!」
「うぉっ?」
あれれっ! 赤組の保護者さんの騎馬、相手もいないのに立て続けに二組の鉢巻が飛んだ! もうこっち気がつけば私の所入れて三騎しか残ってない! 白はまだ五騎残ってるのに。
「ほう、ウリエノイルめ、攻撃は最大の防御という作戦か。あちらは大将の騎馬自ら超高速で動き回っているな」
ちょっと、ウリちゃん、エイジ君! メルヒノア様を乗せて何やってるんですか! 見えないほど速く動いてるってどうなのよ?
「父上、ではこちらも」
「うむ」
え? ユーリちゃん? 魔王様?
次の瞬間、自分の周りの景色がとんでもないスピードで流れ始めた。ってか落ちるっ!
「ひゃああああっ! 速い、速いです魔王様っ!! ユーリちゃんっ!」
片手で兜が飛んでいかないように抑えるのと、もう片方の手で三角形の馬の頭の位置にいる魔王様の肩にしがみつくのに必死で相手の鉢巻をとる余裕などないんですけどっ!
白組の保護者さんの騎馬の横を通り過ぎる時に、魔王様がひょいと片手を伸ばして鉢巻を引っ張って一つゲット。ああ、なるほど、こういう感じで行くんですか。
あ、でもこっちも速いから見えなかった白組の大将騎が見えた。何と言いましょうか、もうここだけ別の時間が流れてる? 他の人達が超スローモーションで動く中、私達のところだけが普通に動いているような錯覚すら覚える。
「いやーっ!」
メルヒノア様も必死でウリちゃんにしがみついてる。怖いですよね! これ! もはや上に乗っている私達に大将の威厳など微塵もない。
「ココナさん、姉上は両手ふさがっている。今のうちに兜を」
ちょっ、魔王様、軽く言わないでくださいませ。私も両手ふさがってますよ?
「絶対に落とさないように支えているから」
し、信じてはおりますが……もうなんかひたすら魔王様に掴まっているという情けない格好になっていようと関係ない。怖いもんは怖いんですよっ! 離せませんよ!
向こうもこっちに気がついたようだ。高速で流れる時間が一気に通常のスピードに戻る。
「おお! 大将戦だぞ!」
お客さんは喜んでいるようだけど……。
フィールドのほぼ中央で対峙する大将騎馬。
「ほう、これは……」
あ、ウリちゃんと目があった。なんかニヤって黒く笑ったよね? ブーブー文句言ってたもんね、私が魔王様達の上に密着して乗るなんてって。わりとどころか相当嫉妬深いよね、旦那。しかも……必死過ぎて気が付かなかったけど、魔王様にしがみつくのに前のめりになちゃってたんで、このお尻に当たってるのはユーリちゃんか百獣王様のお顔……? うわー! これはいかーん! 慌てて体制を立て直したが、スイマセンスイマセン王子に王様っ!
でもね、言っとくけどウリちゃんの後頭部も、前のめりで必死になって掴まってるメルヒノア様の私の何倍もありそうなお胸に埋まってるんだけど? 男として嬉しいよね、それ? エイジ君とツツル王もぷりりんお尻を目の前にしてちょっと嬉しそうだし。
というわけで騎馬戦の大将戦、永遠のライバル幼馴染対決と、嫁VS夫の嫉妬合戦というわけのわからないもので本人達が盛り上がる。魔王VS元勇者というもの地味に入ってるが……。
ふと気が付くと、赤の他の組はほぼ全滅している模様。ちょっと、大臣たちの騎までやられてるじゃないのよ。
もうここで勝つには大将の兜を取るしか……!
「魔王様、もっと近づいてください」
「よし」
じりじりと間合いを図りながら近づく二騎。メルヒノア様のほうが私よりちょっと背が高い。だがお馬さん達は少しでもと私の足をうーんと持ち上げてくれてるので、その期待に応えねば!
えいっ、と手を伸ばすと、流石にメルヒノア様も逃れようと必死になってきた。取り合いになった場合は兜を押さえるのは反則なので、二人共両手での攻防。伸ばしてきた手を防ごうと組み合う形になった。
きいぃ! メルヒノア様なんて力が強い! 流石は加減を知らない魔王様の実姉!
「いいぞ―! がんばれー!」
客席からの声と他の参加者たちの声が遠くから聞こえる。
隙を見て相手の兜の角に手を掛けたときだった。がこん、と足場の三人の手のひらが下がったと思ったら、魔王様のかけ声が聞こえた
「それっ!」
次の瞬間、私は宙に浮いていた。え? なにこれっ!?
メルヒノア様の兜の角を握りしめたまま、ものすごい勢いで空を飛んでるこんな時だが考えてみよう。
うん、これはあれだ。お馬さんの三人に放り投げられたんだよね、手のひらでトランポリンみたいに弾みをつけて。へぇ、いくら私がそんなに大きくないって言っても大人なのにすごい力だねぇ。打ち上げられたロケットみたいね。どこまで上がるのかな、私。おお、お城の尖塔とおんなじくらいまで上がったよ? 鳥さんびっくりさせてゴメンねー。
……。
チョット待て。そんな悠長な時じゃないよ! 騎馬戦のルール、落ちたら負けなんですけど。 ってか上がったということは落ちるんですよ。魔界だって重力あるんだしぃ!
「きゃああああっ!」
落ちたらぺっしゃんこになるうううぅ!!
だが私は地面に叩きつけられることは無かった。顔から落ちるのだけは嫌なんで上がったまんまの格好で足を下に向けて落ちていった先は。
すぽーんと見事に魔王様の上に着地。肩車の格好で! まるで合体ロボのようです!
あのぉ……魔王様が丈夫なのは知ってるので、首の骨が折れてるんじゃないかとか、そう心配はしてませんけど、色気ないですがお股がじーんってしてます……。
もう白組の大将騎馬の皆さんぽかーん。うん、驚くというか、呆れるよね。
ぷぉーっとラッパが鳴ったのは騎馬戦の終了の合図だろうか。
「赤の勝ちですわー! おほほほほっ!」
もうヴェレットの司会の声もどうでもいい。
「あれ、反則でしょう!」
我にかえったウリちゃんとエイジ君の抗議の声はご尤もだが。
「大将を落としておらん。小柄な将を活かした見事な戦略であったろう?」
ひ、ひょっとしてそのために私だったんですか? でもっ! まさかここまでアクロバティックな事をやらされるとは思いませんでしたよ、魔王様。
判定は覆らなかったので、多数の兵を失っても大将の兜を取ったということで赤組の勝利で、怪我人もなく無事? 終わった騎馬戦。
それぞれの陣営に戻ってワイワイ盛り上がっている。白はまだみんな首を傾げているけどね。
その後、私がなぜか伝説の武将として語られるようになったのは余談である。
「何にせよ勝ててよかった」
はぁ……と溜息をついた私と魔王様の横で、頬を撫でながらニヤニヤしている方達が。
「……いけない夢を見そうです……」
「や、柔らかいものだな、おなごの尻は……」
ユーリちゃん、百獣王様、後でお説教させて頂いてよろしいですか? 向こうで後頭部撫でながらにやけてる銀髪堕天使様もね!
「来年は私も後ろが良いな」
「魔王様までなんですか!」
もう絶対に運動会に騎馬戦は採用しません! やっても上に女性は禁止にします。ってか私は参加しません! もう絶対に!
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