魔界王立幼稚園ひまわり組

まりの

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続・魔界王立幼稚園ひまわり組

5:天協の報告

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 最近『夜の職員室』から託児所のような趣に変ったお城のサロン。
「リノはまた大きくなったな。新しいドレスを作らないとな」
「まおーたま、じぇーたくはいけましぇんぉ」
「子供が遠慮するでない。ではぬいぐるみを買おうか」
 ソファーに掛けて膝の上におチビ姫を乗せ、なでなでしておられる魔王様のクールな美貌は微妙に目尻が下がっている。
 非常に微笑ましい光景だが、何故か空気が冷たい。冷気の出所はウリちゃんだ。いつもの如く天使の微笑みを貼り付けているがこめかみがぴくぴくしている。
 今日は「パパとお風呂に入ろう」と言ったのを全身で拒否されたのに、魔王様にはべったり甘えているのが面白く無いらしい。
 ……毎度の事ですけどもね。
「魔王様、そろそろ遅いのでリィンノエラを寝かせます」
「え~、パパまだ早いれしゅぉ」
「そうだな、まだ良いではないか。リノ、もう少し私と遊ぼうな。なんなら一緒に私とねんねしようか?」
「あい。まおーたま大しゅきれす」
「……」
 あーウリちゃんが泣きそうになってきた。パパ辛いねぇ。自分も子供の頃そうだったし親戚の子とか思い出したら、実際問題責任の無い祖父母は孫を無条件で甘やかす。だから子供も煩く言われないし好きなものを買ってくれるおじいちゃんおばあちゃんに懐くのよね。
 まさに魔王様はリノちゃんのおじいちゃん状態。パパと同い年なので口が裂けても言いませんけどね。
「本当にリノはココナさんそっくりで可愛いな」
 いやぁ、九十九パーセント父親似だと思いますけど? どう贔屓目に見ても私の要素がどこに入っているのかわかりませんよ。
「さあ、魔王様もお忙しいんだから、リノちゃんはお部屋に帰ろうよ。早く寝ないと明日も幼稚園で遊べないよ?」
 それ以前にパパがまた湖の傍でお魚さん相手に泣きながら愚痴を溢しそうだ。ウリエノイル閣下のペットお魚のキミちゃんは、大きくなりすぎて水槽に収まらず、ついに湖に放されて今では立派な城の護衛になっている。子供は大丈夫だが、大人が迂闊にはまると食べられちゃうので注意が必要だが。
「ちょっか。まおーたま、おやしゅみなしゃいましぇ」
 膝から飛び降りてネグリジェの裾を摘んでお辞儀。ちょっと上げすぎてパンツ見えそうになってるのはご愛嬌だ。
「ちかたないのれ、パパとねんねちましゅ」
「し、仕方ない……」
 やっとホッとしたようなパパにトドメの一撃を浴びせて、リノちゃんは手を振りつつ去っていく。どよーんと沈んだパパと手を繋いで。
 さて、私は少し魔王様に用事があるのだ。
「魔王様、少しお時間よろしいですか?」
「構わないが……」
 なぜか魔王様は辺りをちらちらと見渡しておいでだ。
「こうして二人っきりの所を見られたら、後でとやかく言う者もおるしな」
 御気使い痛み入ります。ふふ、何だか懐かしい感じ。そんな事もあったよね。
「……ウリちゃんは知ってるので大丈夫ですよ」
「ユーリ辺りがな。いい加減諦めろとしつこい。まったく、色気付きおって」
「ユーリ様は今学校の宿題をエイジさんに見てもらっておいでです。しばらくはおいでになりません」
 救世主のように猫耳執事のギリムさんがお茶を持って来つつ報告してくれた。二人っきりでは無いが、執事さんは秘密厳守なので聞かれても大丈夫。
 まずは遠まわしに話を始める事にした。こうして魔王様とだけここのソファーに掛けてお話しするなど何年ぶりだろう。
「あと三日ですね、夏祭り」
「楽しみだな」
「やぐらも完成しましたし、あの周りで園の子供達も踊るんですよ」
「それはさぞ可愛らしいだろうな」
 ええ、とっても可愛いですよ! 随分上手になりましたし。
 さて、じわりじわりと本題に入らなければならない。
「夏祭りには子供達の保護者も皆さんおいでです。勿論、ペルルリル君のお母さんもおいでですよ」
「そ、そうか」
 平静を装っておいでですが、ものすごくわかりやすいですね魔王様。膝の上の手が小さくガッツポーズしておりましたよ?
「あの子は友達と仲良くやっているかな?」
「はい。最初は大人しい子でしたが、男の子のお友達も出来て元気に遊んでいます。お母さんに似てとても可愛らしいですよね」
「ああ。本当に可愛らしい」
「魔王様、ペルちゃんの父親になってみたいですよね」
 ごふっ、とおかしな音をたてて、魔王様が鼻を押さえられた。丁度お茶を飲んでおいでだったのでタイミング悪かったですね。すみません咽せましたか。
「ココナさん? な、何を?」
「メルヒノア様は最初からそのおつもりです。最初からサリエノーアさんと魔王様を会わせるためにこちらにペルちゃんを転園されたのです。丁度お仕事を探しておいででしたし、ドドイルに亡き旦那様の親戚の方がおいでだったので」
 思い切ってバラしてしましたよ、お姉様。恨まないで下さいね。
「……そうか、あの女(ひと)はサリエノーアさんと言うのか」
 え、そっち? なんか心なしか頬が赤い気がします、魔王様。ま、まあいいや。
 うーん、すっかり一目惚れなさってますね。あれだけ綺麗な人だもんな。亡き王妃様を思うとちょっと気は重いが、ユーリちゃんも手を離れた今、魔王様にだって今後を共に出来る伴侶がそろそろいても良いと思う。今のままでは寂しすぎるもの、まだまだ現役なのに。
「それでですね、お話というのはサリエノーアさんとペルちゃん親子に関する事なのです。気を悪くなさらないで聞いて下さいね」
 私は思いきり息を吸いこんだ。
 ああ、気が重い。言いたくはないんだけどなぁ……。
 今日、天協からペルちゃん親子に関する報告書をウリちゃんが受け取った。その内容は驚くべきものだった。ひょっとしたら人間の国の勇者襲来よりも恐ろしい事態になりかねないこと。
 ウリちゃんから話すと角が立つかもしれない。だから私に託されたのだが……荷が重いよ。
「魔王様、例えば好きな人の顔を見ずに一生過ごせますでしょうか?」
「何だろうかそれは」
「邪視というのをご存知ですよね? 目を合わせただけで相手を死に至らしめたり不幸にする目です」
「勿論知っている。彼女が邪視を持っている事も薄々は気付いていた。だが私には効かないだろう」
「いえ。多分魔王様でもあのお母さんの目には勝てないでしょう。私は半分しかその血の入っていないペルちゃんにすら飲み込まれそうになりました」
「それは一体どういう……」
 お砂場での一件を簡単にお話し、いよいよホントの本当に大事な所だ。
「サリエノーアさんは魔界の住人、堕天使ではありません。天界の力を持つ天界の天使なのです。高位の天使にも邪視を持つと有名な天使もいると、私の元いた世界ですら知られていました。ペルちゃんのお父さんはかなり上級の淫魔で強い魔力耐性の持ち主でしたが、ただ一度だけ目があっただけで亡くなりました。ペルちゃんのお父さんを殺したのはお母さんなんです」
 言っちゃった。
「それは……」
「だ、だからと言って、お母さんに悪意も殺意もあったわけではないので、その点だけはご留意ください」
 しーん。ものすごい間の悪い沈黙が落ちた。
「天界の力か。それはかなり危険だな」
「はい。以前勇者の腕輪でも苦労しましたし」
 またも沈黙。お、お茶でも飲んで落ち着こう。
 しばらく考えこんでおられた魔王様。何かに気がついた様に、顔を上げられた。
「ちょっと待て。たとえ堕ちていなくとも、こちらの男とその……子を成すような行為をしたのであれば、その地点で堕ちてはいないだろうか?」
「その辺は天協の方で調べていただきまして、亡くなられた方に失礼かとは思いますが、その……力不足ということで」
 今は亡きペルちゃんパパ、本当にすみません~!
 だが魔王様は諦めなかった。おお、これは本気モードの顔。
「何かあの親子を完全な魔界の住人にするよい手立てはないものか」
「ペルちゃんのほうはまあ、日常生活には支障ないんで何か方法を考えますが、問題はお母さんの方ですよね。天使の中でもかなり高位の力があるそうで。なぜ魔界に来たのかはまだわかりませんが」
 何度目かの沈黙。
 いや、ウリちゃんや、天協の役員さん達に打開策は一応聞いたのだが……。
「あの、方法がないわけではないのですが……」
「ほう、聞きたいな」
 魔王様、そんなに睨まないでくださいよ! 違う意味で石化しそうです。
「えっと、すごく言い難いんですが、ウリちゃん曰く、顔を見ずにそのぉ……」
 わー恥ずかしいよぉ!
「顔を見ずに?」
「魔界最高位である魔王様がやることやっちゃえば完全に堕天できるかも……と」
「!」
 あ、魔王様が真っ赤だ。そういう私も顔から火が出そうなんですけど。
 これ、女の口からいう事じゃないよね。
「つまり押し倒せと?」
「そこまでストレートに言わなくてもっ!」
 はああ……これ、大丈夫なのかな。

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