魔界王立幼稚園ひまわり組

まりの

文字の大きさ
59 / 96
続・魔界王立幼稚園ひまわり組

22:お遊戯会後半

しおりを挟む
 ぽん、ぽんという軽やかな響きはシロホン。木琴じゃなくて魔物の骨で作ってあるので骨琴とでも言いましょうか。そのメロディに合わせてカスタネットがかちかち、タンバリンがしゃんしゃん、時々トライアングルでちーんと、可愛らしくバラ組さんの楽器演奏「ちょうちょ」が始まりました。
 そーっと隅っこの方を移動して、貴賓室に移動。
 ノックすると、どうぞと返事が返って来た。
 ものすごく緊張してドアを開けると、小さなテーブルを囲んで、ザラキエルノ様と膝の上にペルちゃんを乗せた魔王様が向かい合っておいでだった。魔王様の後ろに隠れるようにさっちゃんが立っている。
 この部屋、壁に大画面テレビのように舞台の様子が映るのです。音も普通に壁の存在を感じず聞えます。たぶん魔法でしょうが、便利な物がありますね。
「先生、良かったですわよ、歌!」
 ザラキエルノ様はご機嫌だ。
「ど、どうも……」
 魔王様も穏やかな顔でおられますね。でも何でしょう、ちょっと怒っておいでのようにも見えるんですが。
「マファル王とユーリは何故ココナさんと手を繋いで唄っていたのだろう」
 あ、一応妬いてくれるのですか? 私のパパ的な意味で。
「お二人とも緊張しておいでだったそうで」
「ぼくも仲良しでおててつなぐと元気になるよ」
 可愛い声に魔王様の頬が緩んだ。ペルちゃん、君は空気の読める幼児だね!
「そうか、手を繋ぐと元気が出るのか」
「はい」
 ナデナデ。うーん、パパというかおじいちゃんの趣だね、魔王様。何故おばあちゃんでもお母さんでもなく魔王様が抱っこしておいでなのかは謎ですが。
「バラ組さんも上手だな」
 魔王様は壁の様子を見て感心しておいでだ。ちょっと太鼓で勢い余っちゃった魔王様より年中児のほうが上手いかもとは、思っても言わない。
「はい。ペルちゃんも来年、ああやって楽器出来るようになろうね」
「うん、ぼくもやりたい!」
 ああ、その笑顔は本当に癒されるわぁ。
「本当になんていい子なのかしら!」
 おばあちゃんもすっかりメロメロですね。
 聞えてくる音と壁の映像ではバラ組さんの楽器演奏もそろそろ終わり。
 ペルちゃん効果か、思ったより和やかな空気なので安心したが、隅っこで立ったままのさっちゃんに手招きして、お茶を入れなおすフリをしつつさり気に訊いてみた。
「変わった事はなさそうだね?」
「はい、今のところ」
 思わず二人で顔を合わせて苦笑い。
「どうですか? 次のスミレ組さんの歌が終わったらひまわりさんの劇なんでそろそろペルちゃんも戻って用意しないといけないのですが」
 あきらかにがっかりしたような気がもわ~っとザラキエルノ様から立ち上がったが仕方が無い。多分ペルちゃんを連れて行くと間が持たないだろうから、魔王様にも一緒に来ていただこう。横でさっちゃんも一緒に行きたそうにしてるしね。
「ぼく、こうもりさん、がんばります。見ててね」
 ペルちゃんがザラキエルノ様に微笑むと、おばあちゃんは再びメロメロになった。やるなぁ、流石は上級淫魔の血が入ってるだけある。よしよし、ではまたしばらく、お一人ですが大人しく見ていてくださいませ、ザラキエルノ様。

 四人で部屋を出ると、なぜか魔王様とペルちゃんが思いきり深呼吸した。
「やはり、近くにいるとかなり神力に当てられるな」
 どうも魔王様はペルちゃんをザラキエルノ様の強すぎる天界の力から守るために抱っこしておいでだったようだ。いつもお母さんと一緒にいるし、他の子に比べれば遥かにペルちゃんは天界の力に耐性があるが、半分とはいえ立派な魔族だ。なるほど、そういうことでしたか。
「抱きしめたいと仰っていたが、流石に命に関わるのでな」
「ありがとうございます、魔王様」
 そろそろ他のひまわり組さんもてんちゃん達に促されて舞台袖にまばらに集まりつつある。リノちゃんも私を見つけて走ってきた。
「マ……せんせっ、あやく、お姫しゃまおきがえっ!」
 焦ってる焦ってる。うん、早く用意しないとね!
「リノ、楽しみにしているぞ」
「あい! まおーたま、リノお姫しゃま見ててくらさいにぇ!」
 おおぅ、毎年の事だが、一度お父さんお母さんの所に行っちゃった一番小さいひまわり組さんはなかなか全員揃わない。
 慌ててかき集めている間に、バラ組さんの幕が閉じて拍手が響き渡った。
「わはははは~、次はスミレ組さんのお歌だぞ!」
 わー急がないと!
「さっちゃんも衣装、着せるのを手伝ってくれるかな?」
「はいっ!」
「よし、私も手伝おう」
 魔王様(えんちょう)も一緒になって、大慌てで舞台袖に入った。
 十七人揃っているのを確かめて、それぞれの衣装をつけていく。自分でやってる子もいるが、危なっかしい。
 他のクラスの補助職員さんに、メイア先生、マーム先生も一緒になってやってくれたので、思いの外ひまわりさんの用意は早くできた。中でも一番働いたのは魔王様だった。
「魔王様、ものすごく手際がよろしいですね」
 さっちゃんが驚いている。うん、魔王様すっごい育メンだったから、子供の着替えなどお手の物なんですよね。
「いいパパなんだよ、魔王様」
「本当に、あんな素晴らしい方がペルの父だったら……あっ! わ、私ったらなんて、お、恐れ多い事を! 何でもないです!」
 ふふふふ~。なんかすっごくいい事聞いちゃったよ、さっちゃん。
 魔王様、すっごくいい感じですよ! これは後で報告しないとっ。

「あとからヒヨコもよちよちよち♪」
 スミレ組さんのお歌は私も大好きなアヒルさんの歌だ。最初並んでいた子供達がお尻をフリフリ右に左に歩きながら唄う様は、本当に可愛らしい。
 魔界にもアヒルがいる。このお城の前の湖付近にも何羽かいる。飛べなくて、ガーガー鳴くのもお尻を振りながらヨチヨチ歩くのも同じ。但し成鳥も嘴が赤くて体は黄色くてぽってり太っている。まるでお風呂のおもちゃのように。だが馬鹿デカく、羽根を畳んでても二メートルくらいある。おまけにその可愛い見た目のくせにものすごく凶暴。キミちゃん(お魚)と並ぶツワモノである。
「かるそーにすいすいがーがーがー♪」
 流石は年長さん。みんな綺麗に揃ったお歌は見事でした。指揮していたウリちゃんも満足気です。
 ぱちぱちぱち。拍手が響いて幕が閉まる。
 スミレ組さんはちゃんと並んだまま、向こうの袖に帰って行った。
 てんちゃんとエイジ君が大慌てで板に貼り付けた背景絵を舞台に運ぶ。絵はちょっと職員も手伝ったが、色は子供達が塗ってくれたので前衛アートみたいなステキな事になっている。場面ごとに三種類あるので、一枚ずつ剥がしていくのだ。
 まずは絵の前に最初の場面に登場する、紙で作った剣を持ち、黒い鎧をつけた闇騎士きぃちゃんと、背中の羽根が可愛らしい竜役その一のカンちゃんが舞台の真ん中。カンちゃんは元々の角に色紙で作った角をくっつけている。何気に出番の多い森の木さん役ボウちゃん、みかちゃん、きゅうちゃん、ちぃちゃんも両手に作り物の枝を持ってスタンバイ。
「みんな、練習の通りにやればいいからね。失敗しても大丈夫だから、のびのびいこうね」
「あい!」
 さあ、準備完了だよ。
 幕の向こうではお客さん達がわくわくの目で注目しているのが見える。
「わははは~、次はひまわりさんの劇だぞ! 感動超大作だ!」
 おいおい、ものすごい紹介してくれるじゃないのよ、ジラソレ。プレッシャーかかるじゃないのよ!
 ……まあ子供達は感動超大作の意味をわかってないだろうから大丈夫だろうけど、何だろうな、大人の方が緊張するよ。
 そして幕が開き、保護者の方の拍手が聞える。
 少し暗めの舞台の中央、騎士と竜に天井にぶら下がったガーゴイルさんのカンテラが当てられる。
 拡声草を手にしたナレーションの補助職員てんちゃんの声が静まった会場に響く。

『ここは深い森の中。竜を狩る黒騎士が立派な飛竜と戦っています』

「えい、えいっ」
「がお、がお」
 ……すごく緊張感の無い戦いが繰り広げられてますね。横では森の木さん達がこれまた長閑にうねうね揺れています。

 さあ、劇がはじまっちゃいましたよ。がんばれ、ひまわりさん達!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。