魔界王立幼稚園ひまわり組

まりの

文字の大きさ
61 / 96
続・魔界王立幼稚園ひまわり組

24:なんとか終わった

しおりを挟む
 な、なんか怖い……。
 ざわざわと声が上がる客席の中央を、きらきらと金色に輝きながらこちらに歩いてくるザラキエルノ様。
 何か異様な空気を感じてか、ぱかっと二手に別れて道を開ける魔族の皆さんの周りに傘を広げたみたいに薄ピンクに光るシールドが次々と展開する。それが一層派手に天使様を彩っていた。
 孫の熱演に興奮しちゃいましたか、おばあちゃん……って!
 思いきりお美しいお顔に滝の様に流れる涙が見えてるって事は、アイマスクが無い! 慌てて駆け寄って、何とか舞台の少し手前で踏みとどまっていただいた。シールドがあっても、小さな子達にはこの神力ダダ漏れの状態で近寄られたら大変だ。
「ザラキエルノ様、あの……目隠しは?」
「あまりに感動して泣いてしまったら、ぐっしょり濡れたので取ってしまいました」
「目は開けないでくださいませね」
「勿論ですわ。ああ、この打ち震える胸の内をどうしても伝えたくて!」
 がっしり握手する形で両手を掴まれてしまいました。そのままぶんぶんと上下に振るザラキエルノ様。そうですか、感動していただいて何よりですが……人様にはシールドが出せる私ですが、自分の身は守れないのかもしれません。思いきり魔力が吸い取られていくような気がするよ。
「こ、子供達も喜びます……あの、まだもう一つお歌が残ってますので、そこにもペルちゃんも出ますし……」
 駄目だ。なんか意識が遠くなって来た。貧血みたいに目の前が暗くなって自分が傾いていくのがわかった。あー、魔力が吸い取られるってこんな感じなんだなぁ。
「ココナさん!」
 誰かが支えてくれたので倒れずに済んだ。
「お母様! なんて事を! 大丈夫ですか、ココナさん」
「な、何とか……」
 さっちゃんが来てザラキエルノ様の手を解いてくれたので助かった。それに、この後ろから支えてくれてる大きな腕から、じんわりと魔力を感じてとても心地よい。ウリちゃんじゃない。魔王様?
「無事かな? ココナさん」
 少し目の前が明るくなった。どっと疲れた感じはあるが、立てないほどではない。きっと魔王様が少しお力を下さったおかげだ。
「無事です。あの、お母様はどうしていただきましょう?」
「私と一緒に向こうで見ていてもらう。心配はいらない」
 助かります魔王様。でもよく考えたら魔王様も流石に掴まれたりしたら危険なのでは……。
「わははは~、えーと、次のお歌の準備に入っていいかな~?」
 珍しく少し遠慮したような司会ジラソレの声でその場は救われた。
 既にマファルの人間の子供達も舞台に上がり、この幼稚園の子達と一緒にウリちゃんはじめ他の先生達が並べてくれたみたいだ。
「さあ、こちらで娘さんと私と一緒に歌を聴きましょう」
 ザラキエルノ様を案内して魔王様んが会場端の席に移動された。
「すごく顔色が悪いですが、本当に大丈夫ですか? ココナさん」
 さっちゃんが心配そうに手を貸してくれたが……正直キツイ。それに気持ちはありがたいが、魔王様に分けてもらって少し戻った魔力がまた吸い取られる気がするので、離してくれると嬉しいんだけども。ゴメンね、心配してくれてるのに。
「大丈夫だよ。さっちゃんも魔王様の所へ。お願い、魔王様をお守りして」
「わかりましたっ!」
 ものすごく気合を入れてさっちゃんが走って行った。ふう。憎めない天使親子だが、悪気が無い分怖いな。
「ココナさん、抱っこしますか?」
 迎えに来てくれたのはウリちゃんだった。
「流石に抱っこは遠慮しておくわ。すごいギャラリーだし」
「準備は出来てますが、オルガンは弾けそうですか? マーム先生に代わってもらいますか?」
 あー、そうだった。私が伴奏の係だったんだ。
「ん、弾ける。最後までがんばるわ」
「無理しないで下さいよ。ほら」
 ぎゅっと握った手からじんわりと力が送り込まれて来るのがわかる。へへへ、旦那様なので遠慮なくいただきますよ。あー気持ちいい。
 舞台の袖から私とウリちゃんが手を繋いだまま幕の中に入ると、すでにお行儀良く並んでいた子供の、主に女の子達から声が上がった。
「あー、おてて繋いで仲良しさんだ」
「らって、ココナせんせとウリたんせんせ、ふーふーだち?」
「リノちゃんち、パパとママ仲良しでいいね」
「あい。ラブラブでしゅぉ」
 ……うむ。女の子はオマセさんなのだ。ふーふーは夫婦ってことなんだろうね、きぃちゃん。冷まさないでね。
 客席も落ち着きを取り戻したみたい。幕はマジックミラーみたいになってるから、向こうからは見えなくてもこっちからは見える。
 今までお客さん側だった人間の子供達は少し緊張したような顔をしているが、同じ年長のスミレ組の子供達の間に交互に並んで手を繋いでいる。先生達も二手に別れて、段で二列に並んでいる子供達の横につく。私は隅っこのオルガンの前にスタンバイ。まだ若干ふわふわするが、何とかいけそうだ。
「マファルのみんなも準備いいかな?」
「はーい」
「いいよ、ジラソレ」
 合図をすると、拡声草を持ったジラソレが司会をはじめた。
「わはははは~! 次はこのドドイル王立幼稚園の全園児とマファルから来てくれた中央幼稚園の年長さんが一緒にお歌を唄うぞ~ははっ。魔族と人間、仲良く歌えるかな?」
 お遊戯会最後の演目『お花が笑った』の幕が開いた。
 前奏のあと、大きな声で唄い始めた子供達。
 繋いだ手をぶんぶん振りながら、元気に唄う子供達は笑顔。人間の子供達もだんだん笑顔になってきた。
 ふふ、またマファル王は泣いてるね。そうだよね、人間と魔族がまさか一緒にお遊戯会でお歌を唄う日が来るなんてね。しかも魔王城で。攻め込んできた元勇者様は特に感慨深いだろう。
「みーんなわーらった♪」
 いつも笑顔のお花は司会を頑張ったね。この歌はあんたのためにあるような歌だよね。スミレ組さんの歌劇も素敵だったね。バラ組さんの民謡も楽器演奏も上手だったね。そしてひまわり組さんはお歌も劇もすごく頑張ったね。ユーリちゃんは明後日から学校の寮に戻らないといけないのによく手伝ってくれたね。すごく頼りになるお兄さん先生だったよ。てんちゃんもナレーション上手だったね。
「げーんきにわーらった!」
 そして、客席もみんなが笑顔になった。お忙しい中来てくれたお父さん、お母さん、皆さんありがとうございました。
「れい!」
 スミレ組のもん君の号令で子供達、先生がお辞儀。
 スタンディングオベーションの客席。割れんばかりの拍手。
 よしっ、色々と不安はあったがお遊戯会が無事に終わった~! 倒れずにすんだ~と安心したのも束の間。
「わははは、最後に終わりの言葉をひまわり組担任、ココナ先生からいただいて、お遊戯会を締めよう! わははは~」
 ……そうだった、忘れていた。最後の言葉って私じゃないのよ~~!
 ううっ、何とかオルガンを弾き終えたが、実は非常にヤバイ。まだくらくらしてるのに立って真ん中で喋れるだろうか。というか、色々ありすぎて挨拶の言葉がすっとんでしまったんですがっ。
「行きましょうか」
「よいしょ」
 およ? 両側から脇に手が入って、ひょいと立たされた。ユーリちゃんとウリちゃんだった。そのまま手を繋いで行きます。背が高いのに挟まれて連行される宇宙人みたいになってますが。エイジ君、マーム先生、メイア先生、他の補助の先生達も一緒にぞろぞろと舞台の真ん中へ。
「辛いでしょうがもう一頑張りお願いしますよ。保護者の方々を安心させてあげてください」
 耳元でウリちゃんが囁いた。
 そうだね、バッヂは渡したけど、魔族にとってこのお遊戯会は命懸けとも言える状況だったのだ。それを知らない保護者や子供達を安心させないと。私がへばってたら、実は危険だったんだとわかってしまう。
 他の先生達が一緒に出て来たくれたのは、あのひまわり組の劇の時にいく君が転んだ時のリノちゃん達と同じなんだ。全員出てしまえばこういうものだと皆が納得できるだろうから。
 ジラソレに拡声草を渡され、客席を見渡す。何度かザラキエルノ様が出ておいでになったが、彼女が天界の天使であると気がついている人はいないようだ。無事で良かった。
 うー、挨拶の言葉が思い出せないが……。
「みなさん、今日はお忙しい中この発表会にお越しいただき、本当にありがとうございました。子供達の可愛らしい一生懸命な姿をご覧いただき、成長ぶりを実感いただけたのではないかと思います」
 うーん、魔王様の事を言えないくらい硬いなぁ。
「お家に帰ったら、お父さん、お母さんは子供達をいっぱい、いーっぱい褒めてあげてください。ぎゅーっと抱きしめてあげてください。とっても元気にがんばりました」
 ぺこり。他の先生方もぺこり。
 拍手が響いた瞬間、胸に下げてるメルヒノア様のペンダントがほんわかと温かく感じた。魔王様も安堵したようなお顔だね。
「終わった……」
 お遊戯会はね。
 さて、この後皆が帰った後が大変なんですけどもね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。