魔界王立幼稚園ひまわり組

まりの

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続・魔界王立幼稚園ひまわり組

33:石化解除

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「あらまあ」
 ザラキエルノ様がものすごく複雑な顔で笑っておいでだ。よく目を開けて驚かれなかったものだ。
 お出迎えするために、幼稚園から石像と化してしまわれたメルヒノア様が安置されている玉座の間に全員で移動したのはよいが、ぞろぞろと着いて来た落書き生き物達。わらわらとザラキエルノ様を囲んでおりますよ。そしてその後光にビビッている様子。
「これらは、ひょっとして……子供達が?」
「ほら、リィンノエラ、ちゃんと謝りなさい」
「ごめんちゃい」
 ウリちゃんに促されてリノちゃんがペコペコ頭を下げている。ペルちゃんもだ。でもチビさんたちはあまり反省している顔では無い。
「ゾフィエさんの絵筆を使ったのですか?」
 こういう時は、あれだ。うん、先回りして謝った方がいい。
「すみませんでしたぁ――!」
 必殺フライング土下座だ。筆を両手で差し出しつつ土下座です!
「ココナさん?」
「せ、先生?」
「私が大事な絵筆を返すのを忘れていたために、こんな事に……子供達を責めないでやってください!」
 この姿勢はお顔が見えないので許してもらえるかはわからないが、ふと横を見るとさっちゃんも同じ格好をしていた。
「責めたりしませんし、先生のせいではありませんから、どうかそのような格好はおやめください。サリエちゃん、あなたも」
「しかし、子供のした事は親の責任ですから! お兄様にもご迷惑がかかりますから、どうかお父様には内密に……」
 ああ、そうだ。勝手に命を生み出す事はいけないことだ。冷静に考えたらただこの城の中がうるさいとか鬱陶しいというそんな軽い問題でなく、あのお兄さんのせいになっちゃうかもしれないのか。ひゃー! えらい事じゃないか!
「まあ、とんでもない事ですけどもねぇ」
 長閑なザラキエルノ様の声は怒っているのかどうかイマイチ判断出来無い。
「マ、ママをちからにゃいれくらさい! リノ描いたにょ」
「ボクもだから。お母さん悪くないから!」
 チビさん達が縋りついて来たその気持ちは嬉しかったが、これでは私達がこうやってる意味が無いんだよ、リノちゃんにペルちゃん。
「いい子達ね」
 そろーっと顔を上げると、ザラキエルノ様は怒った様子も無かった。それどころか、わらわらと怪しい落書き達にかこまれて嬉しそうですらある。
「ふふ、可愛らしいこと。いい事を教えてあげましょうか。あの絵筆はゾフィエさんと数人の選ばれた者以外は天使であっても新しい命を生み出す事は出来無いのですよ。なのに、魔族の子供にこんな事が出来たの。凄い事だと思いませんか? どうしてこの子達には出来たんでしょうね」
「え?」
 そうなの? そんなに凄いことだったんだ。ってか、あの真ん丸中身幼児のお兄ちゃん、すごい天使だったんだ。
「子供達が純粋で清らかな心を持っているからでは無いでしょうか?」
 あてずっぽうではあったが、そう言ってみたらザラキエルノ様は頷かれた。
「そうですね。だからなんの邪心も無いこの子達を責める事はできませんよ。異界での出来事ですから、ゾフィエさんも罪は問われません。そっと絵筆はお返ししておきましょう。内緒ね」
「ないちょ」
 しーっのポーズで子供達と笑い合っているおばあちゃんは、本当にお茶目で可愛い天使様だった。きっと子供が大好きなんだね。
 ザラキエルノ様は絵筆を受け取って、下げて来られた鞄に仕舞われた。
「お願いします」
 あー、良かった。こっちはこれで収まったか。
「今日はそんなに長居は出来ませんので、早々に魔王様のお姉さまを元に戻しましょう」
 そういえば、すこし慌てた様子ですね。あれだけ興奮しておいでだった孫にもう一度会えたのに、距離をとっておいでのようだ。
「天界の鏡を長時間魔界に置けないのです。早々に役目を果たして主に返さないと。世界の秩序が乱れてしまいます」
「そうなんですか。そんなに大変な事なんですね」
 では、早速ですがメルヒノア様の石化を解く作業に入ります。
「困りましたね、サリエちゃんはもう早速堕天してるじゃないですか。鏡を持つのにもう一人いるのですが、触れませんねぇ」
「は、はあ……」
 魔王様~! 我慢してたのはわかりますけど早すぎたじゃないですかっ!


 というわけで、何故か私がお手伝いです。シールドを張れば持てるというのは絵筆で実証済みですし。
「ペンダントを掛けてあげてください」
 私が預かったままだったメルヒノア様の魂の入ったペンダントを石像の首にユーリちゃんが掛けた。一緒に作ったもんね、これ。
「皆様は出来るだけ下がっていてください。決して鏡を覗いたり光を浴びませんよう。ココナ先生は絶対に私を見ないで下さい」
 ううっ、緊張する! ザラキエルノ様を見ないように鏡を持ちつつ正確にメルヒノア様を狙わないといけない。
 角度を調整して、顔のまん前に鏡を翳し、スタンバイ。一応目を閉じます。そんなわけで、様子はよくわからなかったのですが……。
「おおっ」
「ちゅごーい」
「ああ……」
 ほんのり鏡が温かくなっただけに思いましたが、皆の声ですごい事が起きている事だけは確認出来た。
「もう……いいですよ、ココナ先生」
 ザラキエルノ様の声で目を開けると、そこにはきょとんとした顔で、自分の手を見ておいでのメルヒノア様が立っておられた。
「姉上!」
「叔母様!」
 魔王様とユーリちゃんが駆け寄って、赤毛の美しいお姉さまを抱きしめた。私も駆け寄ろうとしたが、目の前でがくりとザラキエルノ様が膝をつかれたのが見えて、慌ててそちらに向かった。
「お母様っ!」
「ザラキエルノ様!」
 でも私達は触れる事は出来無いのだ。さっちゃんでさえも。
「大……丈夫です……鏡で跳ね返った自分の邪視に少し……」
 よろよろと立ち上られたザラキエルノ様の白い額に汗が浮かんでいる。大丈夫なのかな?
「魔王様の姉上にご迷惑をお掛けしました。私は早々に天界に帰りますので……」
「おばあちゃん!」
 ペルちゃんが触れはしなかったが駆け寄ってきた。
「ペルちゃん、おばあちゃんって呼んでくれるの?」
 つう、と白い頬に涙が流れるのが見えた。血の涙じゃない、透明の涙。
「また、会える?」
「ええ、きっと。いつでもおばあちゃんはあなたを見ています。おじいちゃんもよ。いつも笑顔で、お友達と仲良くね」
「うん!」
 抱擁も出来無い、手を触れる事も出来無い……もどかしいだろうが、ここにはちゃんと愛情がある。思わずこちらも泣きそうになった。
「お母様、親不孝をお許しください」
 ザラキエルノ様の前に改めて跪いたさっちゃんの背中の羽根は黒だった。
「魔王様、娘を、孫をどうかお願いいたします」
 そして死を司る天使様は天界にお帰りになった。
「また幼稚園の行事にでもお呼びしますかね」
「……怖い事言わないでよ、ウリちゃん」

 さて。メルヒノア様も戻られたし、少し和んで皆でお茶で一息ついた後。そろそろユーリちゃんをお見送りする時間が近づいてきました。
 それでもねぇ、絵筆は返したものの、まだ城にはアレがわらわらいるわけで。
「ゆるしてもらえたけど、どうしてこんなにいっぱい描いちゃったの? 一つ二つならわかるけど……」
 リノちゃんに訊くと、思いもよらぬ答えが返って来た。
「ペルたん、ちゃびちかったにょ。リノいるち、よーちえんの時たのちいけろお休み。もっといっぱいお友達、いっちょいたらちゃびちくにゃいかなって」
 毎度の事ながら聞き取り辛いが、ペルちゃんが寂しがってた、リノもいるし幼稚園の時は楽しいけど今日はお休みだから、沢山のお友達……この絵から生まれた生き物達……がいたら寂しくないと思ったという事らしい。
「寂しい?」
 ペルちゃんの方を見ると、彼も泣いてはいないがしょんぼりして俯いてしまった。小さい子がこんなに感情を殺したような顔をするのは見ていて痛々しい。
「ペルちゃんは寂しかったの?」
「う、ううん、そんな事……リノちゃんもいるし……ママ幸せそうだし、でも何だか違う人みたいで、僕捨てられちゃうみたいな気がして……」
 そうだね、昨日はおばあちゃんも一緒に話し合ったけど、大人だけで色々決めちゃって、ペルちゃんの事を後回しにしてたかもしれない。この子は頭がいいから、他に気を使って何も言い出さなかったのだろうと思うと胸が痛い。忘れてたわけじゃないけど、でも、ごめんね。
 くにゃんとした子供の柔らかい体を抱きしめると、何も言わずに身を寄せてきた。こんなに小さな可愛い子に寂しい思いをさせたら駄目だよね。
「大事な大事なペルちゃんをママは捨てたりしないよ? ねぇ、ママ」
 さっちゃんに声をかけると、交代するように今度はさっちゃんがペルちゃんを抱きしめた。
「ごめんね、ペル。あなたとずっとここで暮せるように、それだけを思ってたけど、あなたにも相談すべきだったわね」
 優しいお母さんの言葉にほっとしたのか、ペルちゃんがにっこり笑った。
「ペルちゃんはお父さんが出来たら嬉しい?」
「え、う、うん……」
 さあ、魔王様。今こそ言いましょう! これから貴方の子供になる、この小さな可愛い可愛い坊やに。
 本人より何もかも悟ったような目のユーリちゃんに背中を押されて、魔王様がゆっくりと歩み出られた。
「私を君の父親にしてくれるだろうか」
 とても真摯で優しい言い方だった。子供に言う感じでは無い、一人の対等の相手に語り掛けるように。
「……」
 ペルちゃんはすぐに返事しなかった。でもこんな小さな子でも、何か感じるところがあったのだろう。お母さんの顔と魔王様の顔を往復してから、しばらくしてはにかんだ様に微かな笑顔を見せた。
「僕にも弟が出来るんですか、父上」
 ユーリちゃんが、ちょっと意地悪っぽく言うと、魔王様は今度はユーリちゃんに頭を下げられた。
「良いだろうか」
「僕が決めることじゃ無いでしょう?」
 正直面白くは無い、でも反対はしない……そう語ってくれたユーリちゃん。
「でもそうだな。僕はもう小さい子供じゃないから気がついていたけど、ペルちゃんはまだ小さいからはっきりはわからなかっただろうし言葉では言えないだろうけど、本当は僕達に一番最初に相談するべきじゃないのかな? 新しい家族が出来るって事は僕達にとってはとても大事で大きな出来事なんだよ。僕達の気持ちも考えて欲しかったよ」
 はっきりと言い切ったユーリちゃんは、ううん、王子はとても大人びて見えた。しっかり自分の言葉で自分の気持ちを言えるようになったんだね。
 丁度今のペルちゃんやリノちゃんと同じくらいの時に初めて出会った小さな王子様。私に「お母様になって」と言って泣いてたあのチビちゃんが。
「すまなかった」
「ユーリちゃんも大人になったわねぇ」
 メルヒノア様が魔王様に代わってユーリちゃんにハグですね。
 横ではペルちゃんを抱きしめたさっちゃん。リノちゃんはそれをニコニコして見ているし、ウリちゃんとエイジ君は小さく拍手してるし、メルヒノア様はユーリちゃんを抱きしめて放さない。そんな幸せでめでたい時間。目を細めてその様子を見ておいでの魔王様は今までで一番穏やかな表情だ。
 いつまでもこのままだったらいいのに……そんな光景なのだが、

「きゃはははは」
「シッパイシチャッタ」
「デ、ゴザイマスヨー」
「……」

 賑やかなギャラリーがぶち壊してるね!
「さて、この賑やかな者達を何とかせねばな……」
 魔王様が小さく溜息をつかれた。

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