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巣立ち
立派な鳥さんになります
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……月日は流れました。
「ほら、今日はシスにいいもの拾ってきたわよ」
お母さんがお土産をくれた。ひらひらした薄い長いもの。
僕はもう何年ここにいるんだろうか。
シス。それが僕の名前。
朧気ながら、昔々自分が鳥ではなかったという事と、もっと他の名前で呼ばれていた記憶があるような無いような。でも今はこのとっても住み心地のいい巣の中が僕の世界の全てだ。
いつかはお母さんの様に一人で餌を獲れて、遠くまで飛べるようになる事が僕の夢。
「そろそろさぁ、俺も巣立つ時が来た気がするんだよな」
お兄ちゃんのルイドが言う。最近羽根の艶もとても良くて、真っ白な綺麗な体もとても素敵だと思う。うん、惚れ惚れするいい男だよね。
それに引き換え、僕はちっとも羽根も生えず、体も小さいままだ。
「シスも結構大きくなったよ。羽根は少ないけど代わりにピカピカの長いの頭から生えてるじゃん。それにその足はとても器用だ。羨ましいよ」
「そうよ。毛繕いも上手でしょ」
お母さんもお兄ちゃんもとても優しい。
「僕もいつか飛べるかなぁ?」
「飛べるよ、きっと」
立派な鳥さんになるべく、お母さんは僕をお兄ちゃんと同じ様に育ててくれたんだ。木の実もいつもとって来てくれるし、体も綺麗にしてくれる。寒いときは羽根の中にくるんでくれるし、他の鳥や怖いのが来た時は守ってくれる。とっても優しいお母さん。
お兄ちゃんと遊ぶと時々勢い余って嘴で傷が出来て痛い事もあるけど、でもやっぱり大事にしてくれるし、一緒にいると落ち着くんだ。
羽根が生えてない雛のまんまみたいな僕。もう一つ大きな違いがある。
最近なんだか股の辺りが気になって仕方がない。鳥って使う時までは体の中に生殖器が隠れているはずなのだと、たまに来るギラおじさんに言われた。でもなぜか僕は常に外に出ているわけで……これは鳥としては非常に大変だという。生殖器って何と言う所から訊くと『繁殖期になったらわかる』とだけ言われたので実はよくわかんないけど、とにかくこれは出てると恥ずかしいものらしい。
病気なのかな、僕。お母さんは羽根が薄いだけだって言うけど……薄いどころか生えてない所の方が多いもの。
病気の子は巣の外に捨てられるので、こっそりルイドやお母さんの抜けた羽根を集めて隠してたのだが、いつからかお母さんがこういうひらひらを見つけてきてくれるようになった。ひらひらを体に巻いてみたら見事に隠れた。これでルイドにつつかれる心配が無くなった。
他より嫌なんだよね、ここつつかれたり引っ張られるの。
前のが小さくなって来たのでどうしようと思ってたら、今日新しいのをお土産にくれた。嬉しいな。今日のはぴかぴかしたところもあってキレイだね。
お母さんに体を清潔にしてもらうときも最近恥ずかしくて。平気であちこち嘴で噛み噛みしたり舐められたりしてたのに……なんだろうな、くすぐったいのとも痛いとも違う変なカンジで。
「あんっ」
「……変な声出さないでよ」
僕もちょっとは大人になったんだろうか?
早く巣立ってお母さんを楽させてあげようと思うようになった。他の小さな鳥と比べて僕達は長い長い時間をかけて大人になるんだそうだが、お隣の巣の雛達ももう巣立ったらしい。
雛が巣立つと母親は新しい夫をみつけられる。
お母さんもそろそろ次の卵を産んでもいいって言ってるし。
夜になって、身を寄せ合って眠る前に、ルイドがこっそり耳元で囁いた。
「シス、俺は明日巣立とうと思う」
ものすごい告白だった。
「ええ? 行っちゃうの? 飛べるの? ルイドは」
「羽ばたく練習もしてきたし、そろそろ行けそうな気がするんだ」
「僕も行く」
「まだシスはちっちゃいから無理だよ」
嘴で頭をナデナデされた。これ好きだけどとっても子供扱いされてると思う。同じ時に卵から生れたってお母さんもルイドも言ってたのに……。
ぼんやりとだけど、それは嘘なんだって知ってる。僕は余所の子だって。
「僕がいたらお母さん、新しいオスに求愛してもらえないでしょ? あんなに綺麗なのに勿体無いよ。僕みたいな変な余所の子育てなくても……」
「シス……思い出したのか?」
「え?」
思い出す?
「ほら、今日はシスにいいもの拾ってきたわよ」
お母さんがお土産をくれた。ひらひらした薄い長いもの。
僕はもう何年ここにいるんだろうか。
シス。それが僕の名前。
朧気ながら、昔々自分が鳥ではなかったという事と、もっと他の名前で呼ばれていた記憶があるような無いような。でも今はこのとっても住み心地のいい巣の中が僕の世界の全てだ。
いつかはお母さんの様に一人で餌を獲れて、遠くまで飛べるようになる事が僕の夢。
「そろそろさぁ、俺も巣立つ時が来た気がするんだよな」
お兄ちゃんのルイドが言う。最近羽根の艶もとても良くて、真っ白な綺麗な体もとても素敵だと思う。うん、惚れ惚れするいい男だよね。
それに引き換え、僕はちっとも羽根も生えず、体も小さいままだ。
「シスも結構大きくなったよ。羽根は少ないけど代わりにピカピカの長いの頭から生えてるじゃん。それにその足はとても器用だ。羨ましいよ」
「そうよ。毛繕いも上手でしょ」
お母さんもお兄ちゃんもとても優しい。
「僕もいつか飛べるかなぁ?」
「飛べるよ、きっと」
立派な鳥さんになるべく、お母さんは僕をお兄ちゃんと同じ様に育ててくれたんだ。木の実もいつもとって来てくれるし、体も綺麗にしてくれる。寒いときは羽根の中にくるんでくれるし、他の鳥や怖いのが来た時は守ってくれる。とっても優しいお母さん。
お兄ちゃんと遊ぶと時々勢い余って嘴で傷が出来て痛い事もあるけど、でもやっぱり大事にしてくれるし、一緒にいると落ち着くんだ。
羽根が生えてない雛のまんまみたいな僕。もう一つ大きな違いがある。
最近なんだか股の辺りが気になって仕方がない。鳥って使う時までは体の中に生殖器が隠れているはずなのだと、たまに来るギラおじさんに言われた。でもなぜか僕は常に外に出ているわけで……これは鳥としては非常に大変だという。生殖器って何と言う所から訊くと『繁殖期になったらわかる』とだけ言われたので実はよくわかんないけど、とにかくこれは出てると恥ずかしいものらしい。
病気なのかな、僕。お母さんは羽根が薄いだけだって言うけど……薄いどころか生えてない所の方が多いもの。
病気の子は巣の外に捨てられるので、こっそりルイドやお母さんの抜けた羽根を集めて隠してたのだが、いつからかお母さんがこういうひらひらを見つけてきてくれるようになった。ひらひらを体に巻いてみたら見事に隠れた。これでルイドにつつかれる心配が無くなった。
他より嫌なんだよね、ここつつかれたり引っ張られるの。
前のが小さくなって来たのでどうしようと思ってたら、今日新しいのをお土産にくれた。嬉しいな。今日のはぴかぴかしたところもあってキレイだね。
お母さんに体を清潔にしてもらうときも最近恥ずかしくて。平気であちこち嘴で噛み噛みしたり舐められたりしてたのに……なんだろうな、くすぐったいのとも痛いとも違う変なカンジで。
「あんっ」
「……変な声出さないでよ」
僕もちょっとは大人になったんだろうか?
早く巣立ってお母さんを楽させてあげようと思うようになった。他の小さな鳥と比べて僕達は長い長い時間をかけて大人になるんだそうだが、お隣の巣の雛達ももう巣立ったらしい。
雛が巣立つと母親は新しい夫をみつけられる。
お母さんもそろそろ次の卵を産んでもいいって言ってるし。
夜になって、身を寄せ合って眠る前に、ルイドがこっそり耳元で囁いた。
「シス、俺は明日巣立とうと思う」
ものすごい告白だった。
「ええ? 行っちゃうの? 飛べるの? ルイドは」
「羽ばたく練習もしてきたし、そろそろ行けそうな気がするんだ」
「僕も行く」
「まだシスはちっちゃいから無理だよ」
嘴で頭をナデナデされた。これ好きだけどとっても子供扱いされてると思う。同じ時に卵から生れたってお母さんもルイドも言ってたのに……。
ぼんやりとだけど、それは嘘なんだって知ってる。僕は余所の子だって。
「僕がいたらお母さん、新しいオスに求愛してもらえないでしょ? あんなに綺麗なのに勿体無いよ。僕みたいな変な余所の子育てなくても……」
「シス……思い出したのか?」
「え?」
思い出す?
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