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籠の鳥
信じてたのに
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「どこいったんだ?」
「シス君、出ておいで!」
外でマルクさんとラルクさんの僕を探す声が聞こえる。
「あんたを呼んでるんじゃないの?」
目の前の小さな灰色の動物が鼻をひくひくさせて首を傾げる。
「出てったら捕まるもん」
「子供を起さないでくれるんならいいけど……普通人間ってあたしら見たら逃げるけどねぇ。あんたは平気なの?」
「おばさんの方が人間より怖くないよ……」
僕の顔は多分涙で酷い事になってると思う。体が震えてたまらない。
「……可哀想に、落ち着くまでここにいな」
膝を抱えて丸くなってる僕の肩に、ネズミのおばさんは飛び乗って小さな手で頬をナデナデしてくれた。
お城に着いたのは昨日の夕方だった。
賑やかな街には人間がいっぱいいた。いろんな顔の人、大きい人、小さい人。見たことも無い物も、家もいっぱいあって、いろんなニオイがする。目が回りそう。
「街はまたゆっくり案内してあげるわね。とりあえず城に行くわ」
竜馬も早く奥さんに逢いたくて急いでるみたいだし。お城かあ……人間の中でも偉い人が住んでるんだよね。お姫様の家。
「ほえぇ……」
お城の大きな扉の前で、僕は上を見上げて口を開けてたと思う。すっごく大きい……怖そうな、何か尖がった棒みたいなものを持ったでっかい人間が二人扉の前に立ってる。
その前を通ろうとしたお姫様を彼らが止めた。
「無礼だぞ、姫様に向かって」
リンドさんが怒ったが、でっかい二人は動かなかった。
「フレネイア様、大変ご無礼とは存じますが、王様より手ぶらで帰ってきた時には入れるなとのお達しで……」
「ちゃんと手に入れて来たわ。大きいからお父様には中庭でお見せするの。まずは通して頂戴」
ええっとぉ、お姫様が大翼鳥の代わりに持って帰って来たものって僕だよね? そんなに大きくないと思うんだけど?
リンドさんが二人に何か顎で合図をすると、二人は頷いて退けてくれた。何だったのかな? 僕はマルクさんとラルクさんに挟まれてて振り返れなかったんだけど……。
お城……この感じ知ってるかも。
あれ? 何でだろう。覚えがあるんだけど、いつものバラバラの記憶じゃない。もっとぼんやりしてるのに、もっと身近なカンジで、そう、肌が知ってるっていうのかな。今までに無く変なの。
広い石畳の広場。周りには花が咲いてて、目の前の石造りの建物は大きくて高い。その上の方に人が立てる場所……バルコニーっていうんだよね、がある。いかにも偉い人が立ちそうな所。
そこにずるずる~っとした服を着た、髪の長いおじさんが出てきた。結構歳いってそう。でもなかなかカッコイイおじさんだよ。
「王様だよ。シス君、膝をついて頭を下げて」
横でマルクさんとラルクさんがするのを見て、慌てて真似した。
あのおじさんが王様なんだぁ。お姫様のお父さんか。
「フレネイア、約束の大翼鳥は?」
「こちらに」
お姫様は僕を立たせて、前に出した。
「……姫、おふざけが過ぎるぞ。人間の子供ではないか」
「どう? お父様、可愛いでしょう?」
突然、背中をどんっと乱暴に押された。ワケもわからぬまま結構な勢いで僕は前に転んだ。痛いよ、お姫様何するのっ?
「姫様? 何をなさいます!」
リンドさんが慌てて僕の所に来てくれたが、お姫様は跪いてた双子に何か合図をした。
「マルク、ラルク、この子を斬りなさい」
「「はっ!」」
二人が腰に持ってた短剣を抜いた。
「え? お兄ちゃん達……」
「ゴメンよ、シス君。姫様のご命令だから」
何で? 何で……なんで? 僕、何か悪い事した?
「シス、鳥の言葉で助けてってどういうの? 叫んでごらんなさい」
上から見下ろしてるお姫様の笑顔が冷たい。
僕……信じてたのに。お姫様はいい人だって。変だけどマルクさんとラルクさんもいい人だって思ってたのに。弟にしてくれるって言ったのに。
銀色に光る刃が近づいてきた。
お兄ちゃん、やっぱり僕のお兄ちゃんはルイドだけ!
「たすけて! お兄ちゃん!!」
るるるるるっ――――!
僕は目を閉じて、思いきり叫んだ。
ばさばさばさ……。
耳に夢のような音が響いた。
「シス――――っ!」
この声は……ルイド?
「いたああっ!」
「わぁああっ!」
悲鳴で僕は目を開けた。そこには、大きな鉤爪のある足で頭を掴れてるマルクさんかラルクさんかどっちかの姿。もう一人は嘴でつつかれてる。
真っ白な大きな鳥……ルイド。
「俺の弟に何しやがる!」
ものすごく怒ってます、お兄ちゃん。
ってか、来るの早っ!
「こんな事だろうと思ってたぜ。人間なんて信用出来無いんだぞ、シス」
「お兄ちゃんっ!」
思わずふかふかの首に抱きついた。
「なんで? 本当に来てくれるなんて思ってなかった」
「心配でついて来てたんだよ」
ぱちぱちぱち。
拍手が聞えて、はっと我に返った。手を叩いてたのは王様だった。
「これは見事な大翼鳥。フレネイア、よく捕まえたな」
「捕まえたのではありませんわ。自分の意思で来てくれたのですよ」
ええ? これって。
一石二鳥。そう言う事だったのか……。
僕は一生懸命お願いした。ルイドを捕まえないでって。
でも聞いてもらえなかった。
また、大人しくなる魔法を掛けられたのか、僕が逃げてって言ってもルイドは飛び立たなかった。足に紐をかけられて繋がれたルイドから引き剥がされた僕は、城の中に連れて行かれた。
一晩中ずっとずっと泣いてたから、もう声も枯れて、息が苦しい。
横で何も言わずにリンドさんがいてくれたけど、部屋から出してはもらえなかった。
朝方、用を足すためにリンドさんが部屋を出た隙を見て、窓から抜け出した。高い所じゃなくて良かったけど、お城の中は複雑で、中庭に行く道もわからずに結局迷子になってしまった。
どうも、僕を探しているらしい声が聞こえて来たので、とりあえず小さな物置みたいな部屋を見つけ、その隅っこの台の奥に、壁に穴が開いてる場所を見つけて身を隠した。
お尻がつかえそうなやっと入れる位の小さい穴だったけど、中は意外に広かった。壁と壁の隙間。あちこち隙間が開いた石積みの壁の目地から光りが漏れてきて、薄暗いけどなんとか見える。
「ちょっと、あんたここはアタシの家だよ!」
そこには小さな灰色の生き物がいた。
「あ、ごめんなさい。勝手に入って……」
「おや、言葉がわかるのかい?」
「うん。静かにしてるからちょっとの間隠れさせて」
落ち着いたら、ルイドを探しに行こう……。
「シス君、出ておいで!」
外でマルクさんとラルクさんの僕を探す声が聞こえる。
「あんたを呼んでるんじゃないの?」
目の前の小さな灰色の動物が鼻をひくひくさせて首を傾げる。
「出てったら捕まるもん」
「子供を起さないでくれるんならいいけど……普通人間ってあたしら見たら逃げるけどねぇ。あんたは平気なの?」
「おばさんの方が人間より怖くないよ……」
僕の顔は多分涙で酷い事になってると思う。体が震えてたまらない。
「……可哀想に、落ち着くまでここにいな」
膝を抱えて丸くなってる僕の肩に、ネズミのおばさんは飛び乗って小さな手で頬をナデナデしてくれた。
お城に着いたのは昨日の夕方だった。
賑やかな街には人間がいっぱいいた。いろんな顔の人、大きい人、小さい人。見たことも無い物も、家もいっぱいあって、いろんなニオイがする。目が回りそう。
「街はまたゆっくり案内してあげるわね。とりあえず城に行くわ」
竜馬も早く奥さんに逢いたくて急いでるみたいだし。お城かあ……人間の中でも偉い人が住んでるんだよね。お姫様の家。
「ほえぇ……」
お城の大きな扉の前で、僕は上を見上げて口を開けてたと思う。すっごく大きい……怖そうな、何か尖がった棒みたいなものを持ったでっかい人間が二人扉の前に立ってる。
その前を通ろうとしたお姫様を彼らが止めた。
「無礼だぞ、姫様に向かって」
リンドさんが怒ったが、でっかい二人は動かなかった。
「フレネイア様、大変ご無礼とは存じますが、王様より手ぶらで帰ってきた時には入れるなとのお達しで……」
「ちゃんと手に入れて来たわ。大きいからお父様には中庭でお見せするの。まずは通して頂戴」
ええっとぉ、お姫様が大翼鳥の代わりに持って帰って来たものって僕だよね? そんなに大きくないと思うんだけど?
リンドさんが二人に何か顎で合図をすると、二人は頷いて退けてくれた。何だったのかな? 僕はマルクさんとラルクさんに挟まれてて振り返れなかったんだけど……。
お城……この感じ知ってるかも。
あれ? 何でだろう。覚えがあるんだけど、いつものバラバラの記憶じゃない。もっとぼんやりしてるのに、もっと身近なカンジで、そう、肌が知ってるっていうのかな。今までに無く変なの。
広い石畳の広場。周りには花が咲いてて、目の前の石造りの建物は大きくて高い。その上の方に人が立てる場所……バルコニーっていうんだよね、がある。いかにも偉い人が立ちそうな所。
そこにずるずる~っとした服を着た、髪の長いおじさんが出てきた。結構歳いってそう。でもなかなかカッコイイおじさんだよ。
「王様だよ。シス君、膝をついて頭を下げて」
横でマルクさんとラルクさんがするのを見て、慌てて真似した。
あのおじさんが王様なんだぁ。お姫様のお父さんか。
「フレネイア、約束の大翼鳥は?」
「こちらに」
お姫様は僕を立たせて、前に出した。
「……姫、おふざけが過ぎるぞ。人間の子供ではないか」
「どう? お父様、可愛いでしょう?」
突然、背中をどんっと乱暴に押された。ワケもわからぬまま結構な勢いで僕は前に転んだ。痛いよ、お姫様何するのっ?
「姫様? 何をなさいます!」
リンドさんが慌てて僕の所に来てくれたが、お姫様は跪いてた双子に何か合図をした。
「マルク、ラルク、この子を斬りなさい」
「「はっ!」」
二人が腰に持ってた短剣を抜いた。
「え? お兄ちゃん達……」
「ゴメンよ、シス君。姫様のご命令だから」
何で? 何で……なんで? 僕、何か悪い事した?
「シス、鳥の言葉で助けてってどういうの? 叫んでごらんなさい」
上から見下ろしてるお姫様の笑顔が冷たい。
僕……信じてたのに。お姫様はいい人だって。変だけどマルクさんとラルクさんもいい人だって思ってたのに。弟にしてくれるって言ったのに。
銀色に光る刃が近づいてきた。
お兄ちゃん、やっぱり僕のお兄ちゃんはルイドだけ!
「たすけて! お兄ちゃん!!」
るるるるるっ――――!
僕は目を閉じて、思いきり叫んだ。
ばさばさばさ……。
耳に夢のような音が響いた。
「シス――――っ!」
この声は……ルイド?
「いたああっ!」
「わぁああっ!」
悲鳴で僕は目を開けた。そこには、大きな鉤爪のある足で頭を掴れてるマルクさんかラルクさんかどっちかの姿。もう一人は嘴でつつかれてる。
真っ白な大きな鳥……ルイド。
「俺の弟に何しやがる!」
ものすごく怒ってます、お兄ちゃん。
ってか、来るの早っ!
「こんな事だろうと思ってたぜ。人間なんて信用出来無いんだぞ、シス」
「お兄ちゃんっ!」
思わずふかふかの首に抱きついた。
「なんで? 本当に来てくれるなんて思ってなかった」
「心配でついて来てたんだよ」
ぱちぱちぱち。
拍手が聞えて、はっと我に返った。手を叩いてたのは王様だった。
「これは見事な大翼鳥。フレネイア、よく捕まえたな」
「捕まえたのではありませんわ。自分の意思で来てくれたのですよ」
ええ? これって。
一石二鳥。そう言う事だったのか……。
僕は一生懸命お願いした。ルイドを捕まえないでって。
でも聞いてもらえなかった。
また、大人しくなる魔法を掛けられたのか、僕が逃げてって言ってもルイドは飛び立たなかった。足に紐をかけられて繋がれたルイドから引き剥がされた僕は、城の中に連れて行かれた。
一晩中ずっとずっと泣いてたから、もう声も枯れて、息が苦しい。
横で何も言わずにリンドさんがいてくれたけど、部屋から出してはもらえなかった。
朝方、用を足すためにリンドさんが部屋を出た隙を見て、窓から抜け出した。高い所じゃなくて良かったけど、お城の中は複雑で、中庭に行く道もわからずに結局迷子になってしまった。
どうも、僕を探しているらしい声が聞こえて来たので、とりあえず小さな物置みたいな部屋を見つけ、その隅っこの台の奥に、壁に穴が開いてる場所を見つけて身を隠した。
お尻がつかえそうなやっと入れる位の小さい穴だったけど、中は意外に広かった。壁と壁の隙間。あちこち隙間が開いた石積みの壁の目地から光りが漏れてきて、薄暗いけどなんとか見える。
「ちょっと、あんたここはアタシの家だよ!」
そこには小さな灰色の生き物がいた。
「あ、ごめんなさい。勝手に入って……」
「おや、言葉がわかるのかい?」
「うん。静かにしてるからちょっとの間隠れさせて」
落ち着いたら、ルイドを探しに行こう……。
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