僕に翼があったなら

まりの

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全てを一つに

お兄ちゃんは嬉しい

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「おにーちゃ?」
 うわあ、何だろう。このこそばゆくて、恥ずかしいのに嬉しい感じ。
 前にマルクさんとラルクさんがキュンとするって言ってたのわかる。
「もう一回言って」
「しす、にーちゃ」
 きゅううん。
 弟分が出来ましたっ!
 すっごい大きいんだけどね、どうみても年上なんだけどね、でも僕のことお兄ちゃんって言ってくれるんだよ。
 思わずナデナデ。そしたらにっこりされてまたキュン。
「ジンデがすっかり懐いてるわね」
「シスも嬉しそうですね。今まで末っ子って感じでしたから」
 皆笑顔でほんわかしてるね。さっきまでは大変だったのに、このジンデさんがいると場が和んじゃうのが不思議。
 散々お姫様に追い回されて、土下座でこっぴどく叱られてたリンドさん達を助けてくれたのもジンデさんだった。
「こわい、こわいメッ」
 お姫様の怒りも見事にその一言で鎮まった。すごい、こういうのが魔法って言うんじゃ無いだろうか。
「まあねぇ、あんた達より遅れて来なかったら、ジンデには出会えなかったし、ある意味感謝しないといけないのかしら」
「しかし……姫様もよくよく拾い物に縁がありますね」
 リンドさんは少し呆れている。
 お姫さまは、国境の森で行き倒れてたらしいジンデさんを拾ってきたんだって。
 もしお姫様が助けなかったら、今頃この可愛い人がこの世にいなかったかもと思うと、ぞっとする。
 双子もそうだし、僕だってお姫様とリンドさんがあの森に来てなかったら黒いのに食べられてたかも。そう思うと、お姫様って結構すごい人なのかもしれない。
 僕がそう言うと、
「姫様の守護聖者はマドルノ様。変化を象徴する聖者様です。こうやって皆に変化を与えるのが定めなのでしょう」
「私達も尊敬してます」
 双子が両方からぴとっとお姫様にひっついた。何だかんだ言っててもお姫様も二人を嬉しそうに抱き寄せてる。大好きなんだよね。
 うー、でも何で男に人になってるんだろう。すごく似合うけど何か変な感じ。ふわふわの胸が無い……。
 ルイドが余程気を許したのか、ジンデさんにくっついてるので任せておいて、僕もお姫様の横に行った。
「えっと……あの……勝手にお城抜け出してごめんなさい」
 ずっと謝れなかったので、やっと言えて少しほっとした。ふんわり抱きしめられると、やっぱりお姫様の匂いがして懐かしく思えた。
「私こそずっとあなたに謝りたかった。ごめんなさいね」
 しばらく黙ってくっついてた。一度は本当に憎いと思ってたけど、僕に人間を教えてくれたのはこの人。こんなに小さかったんだ。柔らかくて脆そうで。男の格好でもメスはやっぱり違う。
「シス、何だか雰囲気変わったわね」
「そう? 僕、何も変わってないと思うけど」
 僕が言うと、横でマルクさんとラルクさんがにやっと笑った。
「恋を知ったから、シスは大人になったんだよね?」
 うっ、それを言うのっ? 何だかぽって頬が熱くなった気がする。
「何それ? ちょっと詳しく聞かせなさい。相手は誰よ? まさかこのケダモノじゃないでしょうね?」
 指差されたリンドさんはぷいっと横を向いた。
「リンド様は見事フラれました」
「余計な事を言うな、マルク」
 ユシュアさんの事を話すのがちょっと恥ずかしかったし、口に出すと今ここにいないのが思い出されて辛くなっちゃうから、こっそり抜け出してルイド達の方へ戻った。
 気がつくと日が暮れていた。
 僕が切なくなっちゃう時間。ユシュアさんに触れてはいけない時間。
 でも今は手が届かない所にいる。近くにいても触れられないのと、届かないのと、どっちが辛いのかはわからない。でも、どうしても思い出してしまう。ユシュアさんも僕の事、思い出してるだろうか?
 ルイドは慣れない歩きで疲れたのか、もう寝てしまった。
 マルクさんとリンドさんがお姫様と話をしてる間に、ラルクさんとジンデさんと一緒に晩御飯のお手伝いをした。といっても、僕は何の役にも立たないのだけど。水汲みはジンデさんがやってくれたし。
「シス、お鍋にこれ入れてくれる?」
 ラルクさんに言われるがままに、野菜と干し肉を鍋に放り込んだだけなんだけどね。まぜまぜしてると何だか料理してるっぽい?
「にーちゃ、じょーず」
 ジンデさんが横で手を叩いて喜んでる。
 何歳くらいなのかな? 見た目はリンドさんくらいかな。僕よりは絶対歳上で、男らしい強そうな体格なのに何故か可愛い。構いたくて、守ってあげたいって思えちゃうんだよね。
「んー、ダメ?」
 手を伸ばして、自分もまぜまぜがしたいみたい。
「あちちだから気をつけてね」
「んっ」
 木杓子を渡すと真剣な顔で掻き混ぜてる。
 そんな僕達を見て、ラルクさんがふき出した。
「お兄ちゃんも大変だけど、何だか嬉しいでしょ? ほら、私も双子とはいえ弟だから、シスのお兄ちゃんになって嬉しかったんだよ」
「うん、わかるぅ」
 ルイドに、マルクさん、ラルクさん。僕にはお兄ちゃんがいっぱい。いつも頼って守られる側だったから、反対の立場になるのにちょっと憧れてたのかもしれない。
 そっか、お兄ちゃんというのはこういう感じなのか。
「あっ」
 ジンデさんは飛び跳ねた熱いスープが指にかかっちゃったみたいだ。指を見てじわっと目に涙が盛り上がる。
「大丈夫?」
「いた……」
「ぺろぺろってしとこうね。すぐ治るよ」
 ぱくっと指を咥えて舌で舐めた。うーん、おっきな手。太い指。
 それを見てたラルクさんがすごく驚いたように、手に持ってた木のお皿を落としたのは何故だろう。
「何か変だった?」
「い……いや、別に……」
 何でラルクささんは真っ赤になってるの? まあいいか。

 皆で晩御飯を食べて、色々お話して、とても賑やかな夜だった。
 お姫様は、寝る前に女の人の格好に戻った。ぎゅうっと胸を押さえてたから苦しかったんだって。やっぱりおっぱいはあったほうがいいけど、リンドさんは残念そうだった。
「姫様が本当の男だったら良かったのに……」
「男だったら姫じゃないでしょ」
 相変わらず、仲がいいのか悪いのかわからない二人だね。
 その後、誰が誰とどっちのテントで寝るかとかわいわいやって、ジンデさんはご飯の後ルイドにくっついて外で寝てしまったので、僕は双子と一緒に寝ることにした。
「髪、隠してる布、暑いんだよね~」
 元々、服も着ずに育ってるもんだから、極力身につけるものは少ない方がいいんだけど、仕方ないし。でも夜はとれるからスッキリ。
「……でさ……」
「ええっ? それは……」
 マルクさんラルクさんが何やら話している。
「何?」
「ほら、シスがジンデ君が火傷した時に指舐めてたでしょ?」
 ランプだけの薄暗い中でも、ラルクさんがまた何やらちょっと赤くなってるのがわかった。
「やっぱり変だった?」
「ううん、そうじゃないけど……」
 ぴこっと人差し指を僕の前に出して、マルクさんがにこっと笑った。
「私もここ、痛いんだけど」
 ああ、そういう事か。
「いいよ、ぺろぺろってする?」
「して」
 ぱくん。あ、細い指。ぺろぺろっ。治った?
「……とんでもない眺めだね。エロっ……」
「でしょ? ホント天然だね……」
 何だかよくわからないけど、痛いのは治ったんだろうか?
 嬉しそうだから治ったんだよね。
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