ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能は魔法を使いたい。

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 その後、善斗と食堂でチャーハンを食べた僕は善斗と別れ、一人で屋上まで歩いていた。屋上に繋がる扉は当然の如く開いていなかったが、扉の前の踊り場のような空間には誰も居らず、僕の求めていた静寂があった。

「さて……」

 僕にはやりたいことがある。全知全能になって、そのやりたいことをやれるようになったと気付いたのだ。僕は鍵の閉まった扉に手を掛けると、意思だけでその施錠を解除して扉を開いた。屋上に出て扉を閉めた後、念の為に鍵も閉めておく。

 僕のやりたいこと、それは単純に魔法を使うことだ。男の子ならば誰でも願ったであろうそれは、例に漏れず僕も憧れるところであった。

 しかし、魔法を使うと簡単に言っても定義が無ければただ全知全能の力をそのまま振り回しているに過ぎない。というわけで、僕は魔法という物の定義を設定し、その法則に則って使うことにした。

「……待てよ」

 魔法には魔力が必要で、発動には魔法陣を描く必要があって……とか考え出した僕は、あることに気付いた。

 そもそも、魔法って存在しないものなのか? 僕は当たり前のように魔法を作り出そうとしてるが、前提として魔法は既に存在している可能性もある訳だ。もしそうなら、僕もそれに合わせて魔法を使う方が考える必要も無くて簡単だ。

 ねぇ、僕が考えてるみたいな魔法って実在するの?

 下らないハッタリまで魔法に言い含められないように対策した僕の問いに、全知全能の力はやはり簡単に答えた。

 ――――実在します。

 僕はにやりと笑みを浮かべ、続けてその魔法とやらの詳細を聞き出した。その内容は、僕が考えているよりもずっと難解で、僕の頭では理解の難しい内容だった。

「えっと、つまり……魔力線を魔力子が通ることで魔力が励起し、それによって魔術的構造を持つ魔法陣が起動し、魔法が発動する……ってことで合ってる?」

 ――――大体合ってます。が、魔法では無く正確には魔術です。

 良かった。僕は安堵の息を吐いた。それからも、全知全能は僕に最も理解が簡単な形で魔術の使い方をレクチャーした。昼休みが終わろうかという頃、僕は漸く魔術の使い方を理解し(魔術の浅瀬中の浅瀬までだけど)、体を壁にもたれかけながら、クールに指先を一本立てた。

「『灯火』」

 呪文を唱えると、火属性と呼ばれる魔術の中でも相当に簡単な部類であるその魔術は、僕の指先に赤く小さな魔法陣越しに確かに火を灯した。それは確かに、灯火と呼ぶに相応しい小さな火ではあったが、僕の胸は激しく高鳴っていた。

「凄い……」

 指先に灯るその火は、当然だが僕の指を焼き焦がすことは無い。僕がアンニュイな表情でふっと指先の灯火を吹くと、あっさりと魔術の火は消えてしまった。

 キーンコーンカーンコーン

 僕の耳に届いたチャイムの音に、僕は次なる魔術を使うことを諦めて壁にもたれ掛かっていた体を離した。



 ♢



 帰った僕は直ぐに外へと赴いた。家族には友達と遊びに行くと言っている。勿論、嘘だ。全知全能の力によって人気の無くてかつ安全な場所を見つけ出した僕は、三十分ほど自転車を走らせてそこに向かった。

 それは当然というべきか、自然の世界だった。山の麓まで辿り着いた僕は、導きのままに歩いて行き、木々の無い開けた場所を見つけた。

「『灯火』」

 僕の指先にぽつりと灯火が宿る。それを確認した僕は満足気な息を漏らした後にそれを吹き消し、歩いている間に学んでいた幾つかの魔術を試してみることにした。

「『火球』」

 灯火の五倍以上大きな魔法陣が展開されると、そこから魔法陣とおおよそ同じ大きさの火の球が現れて放たれた。斜め上に向けて放たれたそれは何もない空間を進んで行き、やがて空中で霧散した。

「おぉ……!」

 僕は思わず声を漏らし、それからある一つのことに思い至った。こうやって魔術を使っていると、野良の魔法使いを取り締まってる組織とかに見つかって捕まるんじゃないか、と。

 ――――この程度の魔術の行使で他の魔術士に気付かれることはありません。

 魔法使いは魔術士って言うんだね。しかし、そっか。やっぱり、魔法使いは……魔術士は居るんだね。僕は何となく、魔術とは古代の技術で今はもう失伝されたものだと思い込んでいたけど、そうではないらしい。

 でも、それなら何で魔術は公になってないの?

 ――――魔術による犯罪等は防ぐことが非常に難しく、現代社会で普及すれば混乱を生む可能性が高いとされていること。魔術士を殆ど独占している上流階級の人間達がその普及を良しとしないこと。他にも幾つかの理由がありますが、魔術学会という魔術士の最大の組織が魔術を隠匿する方針に決めているからというのが大きいですね。

 へぇ……つまり、僕が勝手に魔術を公に使いまくってたりなんかしたらボコボコにされるってことだね。まぁ、されないけどさ。

「『水球』」

 僕の手の平の上にぽよんと浮かんだ水球が、離れた場所にある木の一本に向かって真っ直ぐに飛んでいき、木にぶつかって弾け飛んだ。そのスピードから察してはいたが、木には傷一つ付いていない。ここら辺をダメージが出るようにするには、自分で魔術式……つまり、魔法陣を構成する数式のようなものを改造したり、魔力を沢山注ぎ込んだりする必要がある訳だ。

 まぁでも、そこら辺の知識に関しては問題ない。知っての通り、僕は全知だからだ。
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