ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能でも地道な鍛錬くらいする

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 アレから野外で魔術を使う訓練というか、そういう遊びは割と控えるようにした僕だが、代わりに日頃から魔力の鍛錬をすることにした。

「ん……」

 僕は目を瞑り、精神を統一する。難しいことのように聞こえるが、そうでもない。全知全能の力に聞いた通りの特殊な呼吸法を用いれば、驚くほど簡単に僕の集中力は高まった。他にもアストラル体が安定したりエーテル体の乱れが無くなったりとか色々あるらしいが、つまるところ精神を統一出来るということだ。
 その集中状態で、体内の魔力を思うがままに操作する。身体中を巡らせ、指先に集めては戻し、その動きを可能な限り早く行う。また、体内で二箇所三箇所と同時に魔力を動かし、それぞれ別の動かし方で体内を巡らせる。
 右手でピアノを弾きながら左手で絵を描いてる程度の難しさだが、これにも慣れたので少しずつレベルを上げていく。四箇所、五箇所と同時に動かし、体内に小さな魔法陣を描いては起動させずに消していく。

「ぷっ、何やってんの?」

 耳を通り過ぎて行った声に、僕はゆっくりと瞼を開けた。そう、ここは教室である。授業と授業の合間の時間、中休みにやっていたので目を引いてしまうこともあるだろう。

「ん、何って?」

「いや、めちゃくちゃ姿勢よく寝てるじゃん。瞑想?」

 にやっと笑いながら聞いて来たのは、黒い短髪の活発な少女。クラスの中でも、というか学年でも相当に人気の高い女の子だ。

「瞑想……惜しいね。精神統一」

 黒崎さん。殆どの人がそう呼ぶ彼女は、確かに顔立ちも整っていて可愛らしい。人懐っこそうな表情が人気の理由だろうか。

「ぷっ、何それ? 宇尾根って実家寺とかだっけ?」

「いや、全然違うけど。まぁ、アレだよ……猫背だと体に悪いらしいから、最近は矯正しようと思ってさ」

「あーね。折角なら心と体、どっちも矯正しよう的な?」

「そうそう。そんな感じ」

 僕が雑に答えると、黒崎さんは笑いながら去って行った。僕はふぅと息を吐き、再び目を瞑った。それから精神統一に再び取りかかろうとして、やはり机に突っ伏した。完全拒否形態である。
 友達や家族以外と会話することは、僕にとって緊張する時間だ。中でも女子と話すのは苦手だった。黒崎さんみたいな可愛い顔の女子は特に緊張する。多分、僕みたいなのをコミュ障って呼ぶんだろう。

 とは言え、机に伏せながらでも精神統一は出来る。背筋を伸ばして居た方がやりやすいが、どんな体勢でも出来るようにするのもまた修業かも知れない。
 まぁ、こんな修業をしたところで何の役にも立ちはしないんだけどね。



 ♢



 昼休み。僕はトイレから帰ってきたところを数少ない友達の一人、能地のじ 絵空かいくうに捕まった。余り普通とは言い難い名前だが、絵空は気に入っているようだった。

「飯食い行こうぜ」

「ん、良いよ」

 僕は頷き、教室に戻ると通学用のリュックからさっさと財布を回収して戻ってきた。地毛が茶色の髪を弄っていた絵空は僕が来たのを見ると直ぐに歩き出した。

「絵空が食堂って珍しいね。弁当は?」

「お母さんが昨日酒飲み過ぎて爆睡しちゃったから、今日は食堂で食ってきなさいって」

「絵空のお母さん、お酒ばっかり飲んでない……?」

「まぁな」

 短く答えて笑った絵空に、僕は一つ話したいことがあったのを思い出した。

「そうだ、絵空は全知全能になったらどうする?」

「全知全能? んー、俺ならやっぱり超美人なメイドさんを雇うか……いや、マジで全知全能なら美少女ホムンクルス的なの作るね!」

「ホムンクルスね」

 簡単に言うけど、命を作り出すって結構な覚悟が居ることだよ。実際、僕はまだ何も生み出したり作り出したりはしてない。

「後は、世界中飛び回って各国の観光名所を巡りながら人助けの旅とかな。各地で出会った美少女と恋に落ちたり、国の偉い人にも一目置かれたり、軍と生身でやり合ったり……んなもん、無限に思いつくっしょ」

「流石だね、絵空」

 各地で美少女と恋に落ちるって、ナチュラルに浮気してるし。何故か軍と敵対することになってるし。

「世界の敵になる魔王ルートも良し、世界を救うスーパーヒーローも良し! あー、マジで全知全能だったら良いのになぁ。病気もしねぇんだろ?」

 こいつに全知全能が渡らなくて良かったと心の底から思っていた僕は、最後の一言で絵空の抱えている事情を思い出した。

「あー、全知全能なりてぇなぁ……」

 この話がただのおふざけだからこそ言葉には出さないが、絵空が考えていることは僕にも分かった。

「まぁね。お金も一杯手に入るし」

 僕は当たり障りのないことを言ってこの話を切り上げた。

「絵空は何食べるの?」

「ん、そうだな……ま、やっぱラーメンっしょ」

 にやりと笑って言う絵空の目の奥には、未だ病室に横たわる姉の姿が映っていた。
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