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全知全能は、神じゃない。
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食堂に着いた僕らは一緒にラーメンを啜り、再び全知全能の力について話していた。それは、絵空の方から話を振ってきたからだ。
「何でいきなり、ねぇ」
「そうだよ。いきなり全知全能になったらなんて聞かないっしょ?」
僕が全知全能になったからだ。なんて答える訳にも行かないし、答えたところで意味は無い。冗談だと思われて笑われるだけだ。勿論、そうなったとして証明してやるつもりは無いが。
「ホント、何となくだよ」
「何となくねぇ?」
絵空はラーメンを啜り、飲み込んだ後にまた別の問いを投げかけた。
「治が全知全能になったら、どうすんだよ?」
「そりゃまぁ……大金持ちでしょ」
あからさまに適当に答えたのが分かったからか、絵空は不機嫌そうに僕を睨んだ。
「本性隠すなって。やっぱ、エロいことだろ?」
「違うよ……」
否定した僕だが、確かに全知全能になった頃にそんな考えが頭に思い浮かんだのを覚えている。実行はしなかったが、否定しきれないのも事実ではある。
「実際、誰も知らないことを知れるとかね。そういうのを調べるかな」
「あぁ、地球滅亡の日とか、自分の寿命とか、そういう感じだろ?」
「いや、それは恐ろしくて調べられないなぁ……」
そんなこと、全然知りたくもないよ。その後、鬱屈とした気持ちで過ごすことになるだけだ。
「あ、宇尾根じゃん!」
活発な印象を受けるその声は、僕が最近も聞いた声だった。
「黒崎さん」
「やっほー!」
彼女にとっては気軽な挨拶に、僕は面食らいながらも何とか手を上げ返した。
「やっほー」
そう返すと、黒崎さんは満足そうに頷いて待っていたらしい女子グループの席に座った。
「おい……」
「なんだよ」
一部始終を見ていた絵空が僕を睨み付けるので、僕も絵空を睨み返した。こっちだってビビってんだよ。
「いつの間にお前、黒崎さんとそんな気の置けない仲になっちゃってんだよ」
「なってないから。何なら、ちゃんと話したのは今日が初めてレベルだけど」
元来の人懐っこい性格で、今日見つけた獲物である僕に話しかけたくなっただけだろう。多分、あのタイプは飽きるのも一瞬だ。
「話したって、どんな話したんだよ?」
「ん、僕が変なことしてたから突っ込まれただけだよ」
「変なことってなんだよ」
間髪入れずに聞いて来た絵空に、僕は溜息を吐きたくなりながらも答えた。
「こう……目を瞑って、精神統一ってね」
呼吸も再現して見せつつ冗談めかして言うと、絵空は黙り込んだ。目を開けて絵空の表情を見ると、目を細めて僕をじっと睨んでいた。
「そもそも、絵空に怒られることじゃないでしょ」
「……まぁな」
絵空は何か言いたげにしていたが、短くそう答えると睨むのも止めた。
「ふぅ、美味かった。やっぱ食堂はうめぇな」
「それ、お母さんに言わないようにね」
「ハハッ、当たり前じゃん。俺は命は大事にするタイプだぜ」
絵空は先に食器を片付けに運びに立ち上がったので、僕は目の前の半分くらい残っているラーメンに視線を落とした。僕が食べるのが遅いってのもあるけど、絵空はやっぱり飯を食うのが早過ぎると思う。
♢
家に帰った僕は考えていた。部屋の中でベッドの上に乗り、壁際に座り込んでぐるぐると思考を巡らせる。
人を、救うべきか。
単純にして難題であるその問いに、僕は挑んでいた。全知全能の力を使えば、重病で弱っていくばかりだと言う絵空の姉は助けられる。でも、それは終わりのない旅路の始まりでもある。可哀想な人間は、皆助けるのか? それとも、関わりのある人間だけ? 家族に限る?
僕は全知全能でも、神じゃない。助ける人間を選別して、助けない人間を見捨てることを繰り返して、心は耐えられるんだろうか。
かと言って、世界の全ての命を救う訳には行かない。だって、僕は神じゃないんだ。
悩みに悩んだ末に、僕はベッドの壁際に体操座りで座り込んだまま、指先を一本前に出した。
「治ればいい」
遠い病室の中で苦しむ人達。その中の一人だけに狙いを定めて全知全能の力を行使した僕は、溜息を吐いて天井まで視線を上げた。
急激には治さない。ゆっくりと、飽くまでも自然に一カ月ほどかけてその人は病を治すだろう。話したことも無いその人の幸せは僕の友達の幸せに繋がり、そうして友達の苦しみを見なくて済む僕の利益に繋がる。
結局のところ、これはそれだけの話だ。
「何でいきなり、ねぇ」
「そうだよ。いきなり全知全能になったらなんて聞かないっしょ?」
僕が全知全能になったからだ。なんて答える訳にも行かないし、答えたところで意味は無い。冗談だと思われて笑われるだけだ。勿論、そうなったとして証明してやるつもりは無いが。
「ホント、何となくだよ」
「何となくねぇ?」
絵空はラーメンを啜り、飲み込んだ後にまた別の問いを投げかけた。
「治が全知全能になったら、どうすんだよ?」
「そりゃまぁ……大金持ちでしょ」
あからさまに適当に答えたのが分かったからか、絵空は不機嫌そうに僕を睨んだ。
「本性隠すなって。やっぱ、エロいことだろ?」
「違うよ……」
否定した僕だが、確かに全知全能になった頃にそんな考えが頭に思い浮かんだのを覚えている。実行はしなかったが、否定しきれないのも事実ではある。
「実際、誰も知らないことを知れるとかね。そういうのを調べるかな」
「あぁ、地球滅亡の日とか、自分の寿命とか、そういう感じだろ?」
「いや、それは恐ろしくて調べられないなぁ……」
そんなこと、全然知りたくもないよ。その後、鬱屈とした気持ちで過ごすことになるだけだ。
「あ、宇尾根じゃん!」
活発な印象を受けるその声は、僕が最近も聞いた声だった。
「黒崎さん」
「やっほー!」
彼女にとっては気軽な挨拶に、僕は面食らいながらも何とか手を上げ返した。
「やっほー」
そう返すと、黒崎さんは満足そうに頷いて待っていたらしい女子グループの席に座った。
「おい……」
「なんだよ」
一部始終を見ていた絵空が僕を睨み付けるので、僕も絵空を睨み返した。こっちだってビビってんだよ。
「いつの間にお前、黒崎さんとそんな気の置けない仲になっちゃってんだよ」
「なってないから。何なら、ちゃんと話したのは今日が初めてレベルだけど」
元来の人懐っこい性格で、今日見つけた獲物である僕に話しかけたくなっただけだろう。多分、あのタイプは飽きるのも一瞬だ。
「話したって、どんな話したんだよ?」
「ん、僕が変なことしてたから突っ込まれただけだよ」
「変なことってなんだよ」
間髪入れずに聞いて来た絵空に、僕は溜息を吐きたくなりながらも答えた。
「こう……目を瞑って、精神統一ってね」
呼吸も再現して見せつつ冗談めかして言うと、絵空は黙り込んだ。目を開けて絵空の表情を見ると、目を細めて僕をじっと睨んでいた。
「そもそも、絵空に怒られることじゃないでしょ」
「……まぁな」
絵空は何か言いたげにしていたが、短くそう答えると睨むのも止めた。
「ふぅ、美味かった。やっぱ食堂はうめぇな」
「それ、お母さんに言わないようにね」
「ハハッ、当たり前じゃん。俺は命は大事にするタイプだぜ」
絵空は先に食器を片付けに運びに立ち上がったので、僕は目の前の半分くらい残っているラーメンに視線を落とした。僕が食べるのが遅いってのもあるけど、絵空はやっぱり飯を食うのが早過ぎると思う。
♢
家に帰った僕は考えていた。部屋の中でベッドの上に乗り、壁際に座り込んでぐるぐると思考を巡らせる。
人を、救うべきか。
単純にして難題であるその問いに、僕は挑んでいた。全知全能の力を使えば、重病で弱っていくばかりだと言う絵空の姉は助けられる。でも、それは終わりのない旅路の始まりでもある。可哀想な人間は、皆助けるのか? それとも、関わりのある人間だけ? 家族に限る?
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悩みに悩んだ末に、僕はベッドの壁際に体操座りで座り込んだまま、指先を一本前に出した。
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結局のところ、これはそれだけの話だ。
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