ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能と虎

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 授業も終わり、昼休みを超え、五時間目、六時間目も超えて、ホームルームの果てに僕は帰路に就いていた。

「おい」

「ん?」

 剣呑な雰囲気を帯びた声に、僕は振り向いた。

「うっ」

「なんだその反応……」

 そこに立っていたのは、黄色いラインの走った黒い髪をした男……というか、同級生だった。名前は寅嶋とかだった気がする。どう見ても不良って感じで、ガラの悪い連中と付き合ってるとか何とか、そんな話をしょっちゅう聞くような人なのである。勿論、クラスも違うし僕は話したことも無い。

「……宇尾根、お前さ」

 寅嶋、いや寅嶋さんが僕に怖そうな声色で話しかけて来る。顔も怖い。善斗とちょっと似てるけど、善斗は仏頂面って感じで、寅嶋はずっと睨み付けてるような感じだ。

「はい……」

「最近、黒崎とずっと話してるよな?」

 ッ、そのことなんだ。

「もう、話すの止めろ」

「もしかして……」

 寅嶋って、黒崎さんのこと好きなのかな。多分、そうだよね。クラスは違うけど……まぁ、可愛いからね。

「おい、聞いてんのかお前」

「あ、ごめん。えっと、黒崎さんね」

 前までの僕ならビビり散らしていたこと請け合いなこの状況だが、多種多様な経験を積んだお陰か、今の僕はちょいビビりくらいで済んでいた。いや、ちょいビビりすること自体おかしいレベルの経験は積んでるんだけどさ。

「黒崎さんが、どうしたの?」

「だからァ、黒崎と話すの止めろって言ってんだよやっぱ話聞いてないじゃねえかよお前ッ!」

 ひぃ、殴られそう……!

「え、えっと、黒崎さんと話すのを止めろね? まぁ別に良いけどさ、あんまり僕から話しかけること無いよ?」

「……なら、話しかけんなって言っとけ」

「えぇ、ハードル高いよ……」

「じゃあ、ボコられんぞお前」

 寅嶋の言葉に、僕は息を呑んだ。

「やっぱり……佐島って、黒崎のことが好きなの?」

「ッ、馬鹿かテメェ。俺じゃねえよ。パイセンが狙ってんだよ。だから、手ェ引いとけ」

「パイセンって、三年のアレ? 佐島が良くつるんでる人だよね」

「つるんでるっつーか……まぁ、そうだよ」

 寅嶋はどこか含むような言い方をしながらも、頷いた。

「あの人はヤンキーの仲間も多いし、ヤクザと関わりもあるし、目ェ付けられると碌なことにならねェ」

「えぇ、こっわ……でも、それだと黒崎さんは大丈夫なの?」

「……分からねぇ。ツレにしてぇならそこまで強引な手を取るとは思えねぇけど、大丈夫とは断言出来ねぇな」

「そもそも仲良いなら君から言えたりしないの?」

 僕が聞くと、寅嶋は首を振った。

「言える訳ねェ。そもそも、仲良くなんざねぇよ……まぁ、そういう訳だ。気ぃ付けとけ」

「あ、うん。ありがとね」

 去って行く寅嶋の背を見送った僕は、取り敢えず深い溜息を吐いておいた。

「……ま、いつも通りでいっか」

 別に、ヤンキーだろうか何だろうか襲われたところで僕なら無問題だ。あと、黒崎さんも心配だしね。こっちに先に手を出してくれる分にはありがたいかも知れない。

「帰ろ」

 今日はプリンを食べながら溜めてたネットのコミックを読むつもりなのだ。それだけを楽しみに学校生活を乗り越えて来たのである。僕は小さく呟き、寅嶋さんと道が被らないように行く先を確かめてから歩き出した。



 ♢



 家に帰ると、不思議なことにプリンは消え失せていた。有り得ない話である。

「……まさかッ」

 僕は駆け足で階段を上り、引き出しの中に隠されている黄金色の指輪を取り出した。

「ユモン」

『……ぉ、なんだ?』

 寝起きみたいな声を上げるユモンに、僕は溜息を零しつつくだんの件について問い詰めることにした。

「僕のプリン……食べたでしょ?」

『は? プリンってなんだよ』

「あの、卵とかを素材にして作ってる柔らかい黄色っぽいデザートだよ。ぷるぷるの、甘いやつ」

『おいおい、何だよそれ……今すぐ食わせやがれ』

 しまった。藪蛇だった。

「ごめん、何でも無いから忘れて欲しい」

『おい、今更そんなのナシだろ! 忘れねぇからなッ、食わせやがれ! な?』

 となると……お父さんは有り得ないし、お母さんか柚乃かお姉ちゃんか……いやぁ、全員有り得るな。

「良し、先ずは柚乃から聞こう」

『聞けよッ、オレ様の話をよォ!?』

 お姉ちゃんとお母さんは疑って冤罪だった時が怖いので、柚乃から行こう。そう決めた僕が引き出しを閉めようとすると、それを制止する言葉が頭に響いた。

『待てッ! その前に一つ良いか? お前が学校なぞに言ってる間に、オレ様は外を出歩いてても良いか? 一応許可を取ってやろうと思ったんだが、良いよなァ?』

「え?」

 外出かぁ。ユモンの、外出……うーん。

「正直嫌だ……」

『んでだよ』

「だって、ユモンを外に出したら色々やらかしそうだし……まだ、こっちの常識も全然分かってないんでしょ?」

『そりゃそうだが……だが逆に聞くがよォ、テメェはオレ様にこっちの常識を教えるようなことをしてるかァ? 前にあそこに行ったっきりだよなァ? 何なら、紫苑の奴の方がまだ色々教えてくれたぜェ?』

 うぐっ。耳が痛いので、僕は胸を両手で押さえた。

『一応、テメェがドヤ顔でこっちのことを教えてやるみたいな風に言ってた覚えはあるんだがなァ……忘れたかよ、治?』

「い、いや、忘れてないよ……?」

『だったら、責めてこっちの飯をもっと食わせやがれよッ!?』

「それはそうだよね……」

 僕は小さく息を吐いた。しかし、どうしたものか。

『取り敢えず、その学校とやらにオレ様も連れて行けよ。学校にしかない飯とかあんだろ』

「無いよ、そんなの……」

 一応、うちの名物みたいなノリの奴はあるけどね。和風唐揚げ丼みたいな感じだったかな。僕は未だに食べてないけど。

「学食とか、購買があるくらいで……ファミレスより美味しいご飯は多分出てこないと思うけど?」

『それでも良いんだよ。飯に貴賤はねェ。嘘だ。あるけどな、オレ様は何でも食らってやるから安心しやがれよ』

「……うん、分かったよ」

 僕も契約主として申し訳ない気持ちはあったので、今後はユモンも連れて行くことにした。まぁ、引き出しの中で暇してるのは……流石に、可哀想だし。
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