ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能とお悩み相談

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 僕は柚乃の部屋で仁王立ちし、むっと睨み付けていた。

「ごめんってば……兄貴のなの、知らなかったんだって」

「楽しみにしてたのに……!」

 そう、犯人は妹だったのである。問い詰めると、簡単に吐いた。最初は隠そうとしていたが、隠し通そうとはしなかったので情状酌量の余地はアリと言ったところか。

「今度買って来るから、それで良かろ?」

「いや、プリンくらい自分で買うから良いよ……でも、気を付けてね?」

「はーい」

 僕は溜息を吐き、部屋を去ろうとして……その背を突かれた。

「ん」

「ねぇ、兄貴って茜さんとまだ話したりするの?」

「まだも何も、別に全然話したこと無いけど。一、二回くらいしか話して無いし」

「そっかぁ……」

 柚乃は悩まし気な顔をしており、僕は気になって聞いてみることにした。

「どうしたの?」

「いや、あれから会ってないからどうしてるんだろうって……会いに行くのも怖くて、迷惑かけちゃったことも、まだ謝れて無いし……」

 柚乃は少し迷った末に、口を開いた。

「……ねぇ、お兄ちゃん。良かったら、一緒に来て欲しい」

「えっ」

 僕は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

「いやぁ、茜さんかぁ……」

 会いたくないなぁ。色んな意味で。

「嫌なら、大丈夫だけど……」

「嫌って言う、訳じゃないんだけど……」

 いや、本当は嫌なんだけどね。僕の素性もある程度バレてるし、その状態で妹と一緒に会いに行くのとか嫌すぎではある。

「あー、そういえば依頼って言ってたからお金がまだ払えてないとか?」

「料金自体は前払いだったから良かったんだけど……襲われたのは、多分私のせいってところもあるし……それに、このまま何の話もせずに日常に戻るのも、不安で無理だよ……」

 ヤバい、僕はデリカシーが無いみたいだ。思ったよりも、話は深刻だった。既に、過ぎ去った話だと思っていたけど、柚乃にとっては違ったみたいだ。

「……分かったよ。僕も行こう。別に、付いて行くだけだしね」

「ホント? 嫌なら、私一人で行くよ……?」

「大丈夫、全然嫌じゃない」

 この状況で嫌と言える程、僕は優しさを失ってはいない。

「やった……なら、帰りにプリン奢ってあげる」

「うん。返してるだけだけどね、それ」

 僕は溜息を吐き、茜さんにどう話しかけるべきか考え始めた。



 ♢



 という訳で、僕は事務所への道を歩き始めた。残念ながら、ユモンもとい黄金色の指輪は家に置いて来ている。魔術士の事務所なんかに持って行った日には、なんだそれの嵐になる可能性が極めて高いからだ。

「……お金ってどうやって稼いだら良いのかね」

「バイトでしょ」

 僕が呟くと、柚乃は直ぐに答えた。

「いやぁ、バイト以外でなんかないかな。バイトは長いしさ」

「えー……なんだろう」

 バイトはちょっとね。忙しくなりそうだからね。僕は放課後にやることが山積みなのである。全部、遊びと言えば遊びなところあるけれど。

「お母さんの肩でも叩いたら?」

「まぁ、そういう話になっちゃうよね……」

「それか、長いのが嫌なら短期バイトとか単発バイトとかは?」

「あー、アリかも?」

 問題は、僕に出来ることが何かあるかってことだが……何でも出来る筈の僕がこんなこと考えてるってのも、情けない話だけど。

「今だと、そういうアプリもあるじゃん。やってみたら?」

「うん、やってみようかな」

「……なんで、いきなり?」

「いや、お金欲しいなぁって……プリンとか、好き放題食べたくない?」

 僕が言うと、柚乃は目を細めた。

「まぁ、食べたいかも、だけど……」

「でしょ?」

 本当のこと言うと、ユモンの食費を稼ぎたいのである。全知全能でぽんと出すというのは、味気ないし……それに頼ってるのも健全でない感じがするからね。

「ッ」

 柚乃が小さく息を呑み、足を止める。

「もしかして、ここ?」

「……うん」

 何というか、薄汚れた建物だ。確かに御岳相談事務所と書いてはあるが、今も営業して居るんだか居ないんだか分からないような佇まいである。

「なんか……え、大丈夫なの、ここ?」

「うん、私も最初は不安だったけど……大丈夫だと、思う」

 来たことあってもまだ不安なレベルじゃん。窓もブラインドで閉め切られてて中が見えないし、細い路地にあるボロい扉は、思い切り蹴ったらワンチャン吹き飛びそうなレベルである。

「そっかぁ……」

 魔術士の事務所がこんなんで良いのか……いや、寧ろこんくらいの方が良いのかな?

「まぁ、じゃあ行こうか」

「……うん」

 僕は妹を先導し、そのボロい扉の横にあるインターホンをぽちりと押してみた。

「どうした?」

 出て来たのは、ゴツい男だった。体格が良く、背も高く、厳めしい顔をした中年の男。その顔には深い傷が入っており、明らかにカタギでは無いことを知らせていた。
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