ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能と従者

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 僕は紫苑ちゃんが眩しくて、そして自分が情けなくて、何も言えなかった。

「だから……任せておきなさいよ。たかがご飯くらいで恩返しが済んだなんて思ってないわ」

「んだとテメェ……?」

 柄悪そうな声を上げながら立ち上がろうとしたユモンの肩を、そっと朝熊さんが抑えていた。

「お客様……例え親しき仲であっても、その態度は見過ごせません」

「だってコイツ、オレ様が本気で感動したあのハンバーグをたかがって言いやがったんだぜ? 有り得ねぇ」

「そのハンバーグを食べさせたのは私なんだから、別に良いでしょ」

「食ったのはオレ様だぞ」

「そっちの方が権利強いんだ……」

 ここまで黙ってたのに思わず突っ込んじゃったよ。やっぱり、ユモンの食への拘りは常人とは隔絶したものがあるらしい。

「また食べさせてあげるから落ち着きなさいよ」

「ッ、言ったなァ?」

「言ったけど?」

「よし、約束だからな」

 また餌付けされてんじゃねえよ。大丈夫かなぁ。いつか、あっさり手懐けられて敵になったりしないよね?

「……それで、詳しい話を聞かせて貰っても良いかしら?」

「あ、うん」

 思わず頷いちゃった。やっぱり持ち帰ろうと思ってたんだけど、でも紫苑ちゃんも覚悟を決めてる以上、退く気は無いだろうし……持ち帰るのは、無しだね。

「僕の知り合いの魔術士の話なんだけど……」

 僕は最初から、話をやり直して説明を始めた。



 ♢



 話し終えた僕を、紫苑ちゃん達は微妙そうな表情で見ていた。

「……情報少なくない?」

「い、いや、一応茜さん達には一般人で通してるから……そんなに、ガッツリは情報聞けてないって言うか……」

「それで良くここまで来たわね……」

「オレ様も初めて内容聞いたが、ここまで浅い情報しか無かったとは思わなかったぜ」

 だって仕方ないじゃん。あの場で根掘り葉掘りなんて聞いたって怪しまれるだけだし。短絡的に走って来ちゃったのは本当にごめんだけど、命を狙われてるなんて聞いたら焦るのも仕方ないと思う。うん。ちょっとはね。

「まぁ、でも……紫苑ちゃんがそこまで覚悟を決めたのに、僕だけ日和ってる訳にも行かないからね。魔術士であることくらいは、明かすつもりだよ」

「まるで、それ以上の秘密があるみたいな言い方ね?」

「い、いや……」

「寧ろ無い方がおかしいし、ただの魔術士なんて言われた方がびっくりするけどね」

 紫苑ちゃんの言葉に、僕は黙りこくった。実際、そうだろう。あの指輪を都合よく持って来て、殆どタダで良いですよーなんて、明らかに様子がおかしい。

「仕方ないわね。取り敢えず、こっちから聞きに行くしか無いでしょう。行くわよ、御岳相談事務所とやらに。みんなでね!」

 にやりと笑った紫苑ちゃんは、どこか……というか普通に楽しそうに見えた。遠足に行く前の子供みたいにしか見えない。

「あ、あの、敵は平気で子供でも殺そうとしてくるような奴らだよ……?」

「ふん、私が今までに人生で何度死ぬような思いをしたと思ってるのよ!」

「……そんなに、死ぬような思いなんてしたんだ」

 胸を張って言った紫苑ちゃんに、僕は言葉に詰まりかけながらも返した。

「まぁ、そうよ……でも、そのお陰っていうか……そのせいで、今の私は凄く強いから安心して欲しいわ。言っとくけど、本気出したら私って安堂より強いんだからっ!」

「うん、安堂さんの強さが分からないからピンと来ないんだけど」

「超強いってこと」

「なるほどね、完全に理解したよ」

 そう頷きながらも、僕はじっと紫苑ちゃんを観察した。目に見えて、傷なんて無いように見える。すべすべと触り心地の良さそうな肌だ。いや、気持ち悪いな僕。止めよう。

「ま、そうと決まれば安堂に連絡しないとよね。朝熊、頼めるかしら?」

「えぇ、勿論でございますが……」

「じゃあ、早くお願いね。今も命を狙われてるとなれば、急がないと間に合わないかも知れないわ」

 そうだね。そう思って、僕も焦ってここまで走り抜けて来たんだ。何なら、思ったよりも遠かったから近くまで転移して来たんだ。

「……ありがとう。手を貸してくれて」

「ただの恩返しだから、感謝なんて要らないけど?」

「僕は恩はもう返して貰ったつもりだから、幾らでも感謝するよ。寧ろ、何か礼をさせて欲しいくらい」

「そう。でも、私は何も……あ、良いこと思いついたわ!」

 にやりと笑みを浮かべる紫苑ちゃんが、つまらなそうに天井の隅っこを見ていたユモンを指差した。

「ア?」

「イカダチ! 今度、安堂と戦ってみてよ! 貴方、治の従者みたいなものなんでしょう?」

 ぼ、僕じゃないんだね……まぁ、僕よりユモンの方が三十倍は強そうだけどさ。

「ハァ? オレ様が治の従者だァ? んなワケねぇだろ。こいつはただの契約者……あー、契約相手だ!」

「契約相手……?」

 ユモンの怪しい発言に、紫苑ちゃんが首を傾げた。マズい、フォローに回らねば。

「そう、僕とイカダチはビジネスライクな関係なんだよ。色々あって、付いて来てもらってるんだ」

「……じゃあ、やっぱり従者ってことかしら?」

「ちげぇよ。オレ様は誰の下にもつかねぇよ。契約以外ではな」

「ま、まぁまぁ、僕とイカダチの関係なんてどうでも良いじゃん?」

 僕がそう口にすると、紫苑ちゃんは眉を顰めながらも頷いてくれた。

「良いけど、イカダチは受けてくれるのかしら?」

「ん? あァ、ハンバーグが大盛りになるなら良いぜ」

「なるわ」

「よっしゃ、どんと来やがれ」

 にやりと笑ったユモンに、紫苑ちゃんも楽し気に笑っていた。
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