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全知全能とティータイム
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笑う悪魔に、紫苑ちゃんは硬直した。予想すらもしていなかったであろう答えに、逡巡の末に口を開く。
「えっと、冗談かしら?」
「冗談じゃねぇよ」
ユモンが笑みをスッと消すと、一瞬にして紫苑ちゃんの眼前に現れていた。その顔を紫苑ちゃんに寄せると、ユモンは手を紫苑ちゃんの首筋に当てた。
「今ならまだ、聞かなかったことにも出来るぜ? オレ様ァ、怖いだろ」
「い、いゃ、そんな近くで見ないでよ……! は、恥ずかしいからっ!」
ユモンの両肩を手で押して撥ね退けた紫苑ちゃんの顔は上気しており、その頬は赤く染まっていた。
「そういうんじゃなくてな、オレ様は悪魔だっつってんだけどよ……」
「わ、分かったから! 信じるから席に戻りなさい!」
ユモンは微妙そうな表情ですごすごとさっきまで座っていた椅子に座り直した。
「そ、それで……悪魔だとして、どういう関係なのよ二人は」
「だから、契約相手だよ」
「うん」
悪魔だとバレた以上そこまで隠す必要は無い。ユモンの言葉を肯定すると、紫苑ちゃんは眉を顰めた。
「け、契約……その、それって大丈夫なの?」
「うん、別に大丈夫だよ?」
「ちゃんと契約を守ってれば、だけどな?」
僕の言葉に、ユモンが凄んだ。でも、どうせ緩くやってたって取り立てる気が無いのは見え透いてる。他の悪魔がどうかは知らないけど、少なくともユモンは結構甘いからね。
「お前も、こいつみたいに何も考えずに悪魔と契約なんて結ぶんじゃねえぞ。魂取られても知らねぇからなァ」
「ユモンも、治の魂狙ってるの?」
「ヒヒッ、契約を破られなきゃ取る気はねぇよ。……尤も、既に契約は果たされたって言われりゃそうなんだけどな」
確かにそうだけど、一回ご飯を食べさせただけで契約が達成されたってことにするのはちょっと可哀想だし、味気ないからね。
「でも、本当に悪魔なのね……」
「紅茶をお持ちしました」
紫苑ちゃんが呟いた瞬間、そこで扉の向こうから声が響いた。
「は、入って良いわっ!」
声を張り上げた紫苑ちゃんに、朝熊さんは若干訝し気にしながらも運んできたティーカップとお菓子を机の上に並べた。
「おぉ……!」
温かそうなスコーンと、銀色のカップから注ぎ込まれる赤褐色に輝く紅茶。スコーンからはバターの香りがふんわりと広がり、続けて朝熊さんが注いだ紅茶によって茶葉の香りが鼻をくすぐった。
しかし、これはどのタイミングで食べれば良いんだろうか。もう、手を出しても良いものなのか。
「うーん……」
「うめぇッ!!」
こういう時は一番偉い人が手を付けた後に食べれば良いだろうと僕は紫苑ちゃんの方に視線を向けたが、響いた蛮声に直ぐに視線を向け直した。
「あぁ、こっちもうめぇ! 紅茶もうめぇな! あー最高だぜッ!」
「ふふ、それなら良かったわ」
にこりと笑う紫苑ちゃんは、自分の子供を眺めている親のようだった。逆だろと突っ込みたくなった僕だったが、その穏やかな表情に僕は何も言わずにおいた。ユモンの野生児っぷりは母性本能をくすぐってしまうのかも知れない。
「……僕も食べよっと」
何となく疎外感を覚えた僕はスコーンを手に取り、ジャムとクリームっぽいのが並んでいたので取り敢えずはジャムの方に付けて食べてみた。うん、美味しい。だけど、これで合ってるんだろうか。
思わず視線を彷徨わせると、朝熊さんと目が合った。
「スコーンは手で二つに割った後、ジャムとクリームをナイフでそっと乗せるようにお付け頂いてからお召し上がり下さい」
「あ、はい。ありがとうございます」
僕の考えを察したのか、直ぐに教えてくれた朝熊さんに小さく頭を下げて、スコーンを二つに割った。その片方にジャムを乗せ、クリームを乗せた。やっぱり、直接付けてかぶりつく感じじゃないよね。うん、察してはいたけどさ。
「ん、美味しい」
ぱくりと口の中に放り込むと、クリームのコクにいちごジャムの甘酸っぱさが重なって最高だった。一緒に付けるものだったのか。確かに、こうして食べた方が美味しいね。
「……良いなぁ」
最後に紅茶を飲むと、スコーンの甘さの余韻が抜けていくと同時に、ホッと心が落ち着くような感じがした。
「これがアフタヌーンティーか……」
「これはクリームティーって言うのよ。スコーンと紅茶だけでしょう?」
感動と共に呟いた僕に、紫苑ちゃんがにやりと笑って言った。
「あと、ミルク入れた方が美味しいわよ?」
「ん、分かった」
ていうかミルクあったんだね。今気付いたよ。僕はミルクを紅茶に注ぎ込み、スプーンで軽くかき混ぜた。ミルクティーは大好きだからね。本格派の奴が飲めるとなったら嬉しいところである。
「ミルクティーの方がスコーンに合うのよ」
「へぇ……」
僕はスコーンをぱくりと食べ、それからミルクティーを少しだけ飲んだ。これだ。これが正解だったらしい。僕が大きく頷くと、紫苑ちゃんは満足気に頷き返した。
「……平和だなぁ」
これが嵐の前の静けさじゃなければ良いんだけど、そう思いながら僕はスコーンをまた口の中に放り込んだ。
「えっと、冗談かしら?」
「冗談じゃねぇよ」
ユモンが笑みをスッと消すと、一瞬にして紫苑ちゃんの眼前に現れていた。その顔を紫苑ちゃんに寄せると、ユモンは手を紫苑ちゃんの首筋に当てた。
「今ならまだ、聞かなかったことにも出来るぜ? オレ様ァ、怖いだろ」
「い、いゃ、そんな近くで見ないでよ……! は、恥ずかしいからっ!」
ユモンの両肩を手で押して撥ね退けた紫苑ちゃんの顔は上気しており、その頬は赤く染まっていた。
「そういうんじゃなくてな、オレ様は悪魔だっつってんだけどよ……」
「わ、分かったから! 信じるから席に戻りなさい!」
ユモンは微妙そうな表情ですごすごとさっきまで座っていた椅子に座り直した。
「そ、それで……悪魔だとして、どういう関係なのよ二人は」
「だから、契約相手だよ」
「うん」
悪魔だとバレた以上そこまで隠す必要は無い。ユモンの言葉を肯定すると、紫苑ちゃんは眉を顰めた。
「け、契約……その、それって大丈夫なの?」
「うん、別に大丈夫だよ?」
「ちゃんと契約を守ってれば、だけどな?」
僕の言葉に、ユモンが凄んだ。でも、どうせ緩くやってたって取り立てる気が無いのは見え透いてる。他の悪魔がどうかは知らないけど、少なくともユモンは結構甘いからね。
「お前も、こいつみたいに何も考えずに悪魔と契約なんて結ぶんじゃねえぞ。魂取られても知らねぇからなァ」
「ユモンも、治の魂狙ってるの?」
「ヒヒッ、契約を破られなきゃ取る気はねぇよ。……尤も、既に契約は果たされたって言われりゃそうなんだけどな」
確かにそうだけど、一回ご飯を食べさせただけで契約が達成されたってことにするのはちょっと可哀想だし、味気ないからね。
「でも、本当に悪魔なのね……」
「紅茶をお持ちしました」
紫苑ちゃんが呟いた瞬間、そこで扉の向こうから声が響いた。
「は、入って良いわっ!」
声を張り上げた紫苑ちゃんに、朝熊さんは若干訝し気にしながらも運んできたティーカップとお菓子を机の上に並べた。
「おぉ……!」
温かそうなスコーンと、銀色のカップから注ぎ込まれる赤褐色に輝く紅茶。スコーンからはバターの香りがふんわりと広がり、続けて朝熊さんが注いだ紅茶によって茶葉の香りが鼻をくすぐった。
しかし、これはどのタイミングで食べれば良いんだろうか。もう、手を出しても良いものなのか。
「うーん……」
「うめぇッ!!」
こういう時は一番偉い人が手を付けた後に食べれば良いだろうと僕は紫苑ちゃんの方に視線を向けたが、響いた蛮声に直ぐに視線を向け直した。
「あぁ、こっちもうめぇ! 紅茶もうめぇな! あー最高だぜッ!」
「ふふ、それなら良かったわ」
にこりと笑う紫苑ちゃんは、自分の子供を眺めている親のようだった。逆だろと突っ込みたくなった僕だったが、その穏やかな表情に僕は何も言わずにおいた。ユモンの野生児っぷりは母性本能をくすぐってしまうのかも知れない。
「……僕も食べよっと」
何となく疎外感を覚えた僕はスコーンを手に取り、ジャムとクリームっぽいのが並んでいたので取り敢えずはジャムの方に付けて食べてみた。うん、美味しい。だけど、これで合ってるんだろうか。
思わず視線を彷徨わせると、朝熊さんと目が合った。
「スコーンは手で二つに割った後、ジャムとクリームをナイフでそっと乗せるようにお付け頂いてからお召し上がり下さい」
「あ、はい。ありがとうございます」
僕の考えを察したのか、直ぐに教えてくれた朝熊さんに小さく頭を下げて、スコーンを二つに割った。その片方にジャムを乗せ、クリームを乗せた。やっぱり、直接付けてかぶりつく感じじゃないよね。うん、察してはいたけどさ。
「ん、美味しい」
ぱくりと口の中に放り込むと、クリームのコクにいちごジャムの甘酸っぱさが重なって最高だった。一緒に付けるものだったのか。確かに、こうして食べた方が美味しいね。
「……良いなぁ」
最後に紅茶を飲むと、スコーンの甘さの余韻が抜けていくと同時に、ホッと心が落ち着くような感じがした。
「これがアフタヌーンティーか……」
「これはクリームティーって言うのよ。スコーンと紅茶だけでしょう?」
感動と共に呟いた僕に、紫苑ちゃんがにやりと笑って言った。
「あと、ミルク入れた方が美味しいわよ?」
「ん、分かった」
ていうかミルクあったんだね。今気付いたよ。僕はミルクを紅茶に注ぎ込み、スプーンで軽くかき混ぜた。ミルクティーは大好きだからね。本格派の奴が飲めるとなったら嬉しいところである。
「ミルクティーの方がスコーンに合うのよ」
「へぇ……」
僕はスコーンをぱくりと食べ、それからミルクティーを少しだけ飲んだ。これだ。これが正解だったらしい。僕が大きく頷くと、紫苑ちゃんは満足気に頷き返した。
「……平和だなぁ」
これが嵐の前の静けさじゃなければ良いんだけど、そう思いながら僕はスコーンをまた口の中に放り込んだ。
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