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全知全能と車窓
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それから数十分と経った後、安堂さんが遂に帰って来たのだった。
「申し訳ございません。遅ればせながら帰って参りました」
「遅いわよ」
ふんぞり返って言う紫苑ちゃんに、安堂さんは申し訳無さそうに頭を下げた。
「紫苑ちゃん、そんなに言っちゃダメだよ。仕事なんだから仕方ないし」
「ふん」
僕はそれ以上何も言えず、小さく息を吐いた。紫苑ちゃんもやっぱり子供な所があるって言うか、安堂さんには甘えてしまうのかも知れない。
「良いのでございます。お嬢様の願いを果たすことのみが私の役目なのですから」
「教育に悪いんじゃ……」
僕の言葉に、安堂さんは首を振った。人の家庭にあんまり首を突っ込んでもアレなので、僕もそれ以上は言わなかった。
「さ、揃ったし行くわよ。早くしないと襲われちゃうかも知れないでしょう?」
「私としては、お嬢様には残っていただきたい所なのですが……」
「嫌に決まってるじゃないの」
「……で、ございますか」
安堂さんは分かっていたように諦めの息を吐いた。僕はおかわりしていた紅茶をぐびっと飲み干し、立ち上がって軽く体を伸ばした。
「良し、行こうか」
「腹減ったから、帰りになんか食おうぜ」
さっきスコーン食べたばっかでしょうが。
「無理だよ、僕は家で食べる予定だから。その後なら、コンビニとかでなんか買ってきてあげるけど」
「でも、今から話しに行くんだろ? 間に合うのかよ、飯の時間までに」
「……間に合わせてみせるさ」
「カッコつけて言っても、全然カッコ良くねぇぞそれ」
真剣な表情で言ってみた僕だが、ユモンには軽く斬り捨てられた。一応、お母さんには遅くなるかもと伝えておこう。うん、念の為にね。
♢
安堂さんが出してくれた高級そうな黒い車に乗り込んだ僕は、車に揺られながらボーっと街の景色を眺めていた。ちらりと視線を車内に向けると、斜め前の座席に座っている紫苑ちゃんが楽し気に笑っているのが見えた。
「ふふん、こんな大人数で車に乗るなんて初めてかも知れないわ」
「そうなの?」
そう聞いてから、その理由にまで思い至った僕は思わず閉口した。
「えぇ、そもそも車に乗ること自体あんまり無かったもの」
「そっか……こんな良さそうな車なんだから、これからは沢山乗らないとね」
「ふふ、そうね。高かったらしいわよ?」
やっぱり高いんだ。お金持ちの車、どのくらいしてしまうんだろうか。
「へぇ……この車って幾らしたんですか?」
「宇尾根様、そう言ったことは余り聞かれない方がよろしいかと思いますよ」
興味が湧いた僕は安堂さんの方に問いかけてみたが、落ち着いた声色でそう返されてしまった。
「それに、私の口から勝手にそう言ったことは言えませんので」
「そ、そうですよね。すみません……」
「ぷっ、気を付けなさいよ治」
自分が高かったらしいとか言うからじゃん! そんなん言われたら気になるでしょうが!
「……お金持ちになりたいなぁ」
「何よ、急に」
「いやさ、最近お金が欲しくてさ……なんかバイトでもしようかなって思うくらいで」
「そんなにお金に困ってるなら指輪の対価で要求すれば良かったじゃないの……」
いやまぁ、そうかもだけどさ。あんなのでお金なんか貰ったら弱みに付け込んでるみたいで嫌だしさ。
「うちはお金ならあるわよ。欲しい?」
「いや、流石に良いよ……ていうか、何でお金持ちなの?」
「何でって何よ?」
「お金持ちなのは分かるけど、何でお金持ちなのかは知らないからさ。凄い会社を持ってるとかなの? それとも、支配者だから税金みたいなの貰えるとか?」
僕が言うと、紫苑ちゃんは呆れたように首を振った。
「貰えないわよそんなもの。いや、貰ってる人も居るでしょうけど、私は特に何もしてないもの。誰からもお金なんて貰えないわ。ただ、夜咲家が所有してた会社の一部を引き継いでるとか、親戚が受け継いでお金だけくれてるとか、なんか私には良く分からないわ。そこら辺は安堂に任せてるもの」
「そ、そうなんだね……」
「まぁでも、私も仕事はしてるわよ。夜咲家から引き継いだだけのものは、いつか全部手放すつもりだもの」
「へ、そうなの?」
僕が聞くと、紫苑ちゃんは毅然と頷いた。
「結婚したら、この苗字も捨てるの。私、夜咲家って大嫌いだから」
「そっか……」
まぁでも、そうだよね。話に聞いてる限り、家では碌な目にあって無さそうだし。
「……その、仕事って何やってるの?」
気にした様子も無く言った紫苑ちゃんだったが、若干重くなってしまった空気を払拭する為に僕はそう問いかけた。
「一番多いのは、魔道具の調律かしらね」
「何それ?」
「魔道具を一番良い状態に調整するのよ。正確に言うと、中にある術式を見て、不備が合ったら直したり、良く出来そうなところは良くするの。私、魔力の操作が人よりも得意だからそういう仕事も出来るのよ」
「へぇ、凄いね」
ふふん、とドヤ顔をした紫苑ちゃんを僕は素直に称賛した。
「そうでしょう? 魔道具って、術式が間違えてたり魔力が滞るようになってたりするだけで簡単に暴発して事故が起きちゃうんだから。私が修理するだけで安全になるし、頼まれたら性能も上げてやるのよ」
「凄いなぁ……僕も魔道具で困ったら頼もうかな」
「こんな指輪を持って来た人が頼むことなんて無いでしょう?」
にやりと笑いながら銀色の指輪を見せてきた紫苑ちゃんに、僕は苦笑を返した。
「別に、僕が作ったって訳じゃないんだけど」
「そうなの? あんな凄い指輪を二つも持ってるなんて、自分で作ったのかと思ってたわ。だって、お金も持ってないんでしょう?」
「も、貰ったんだよ。友達とかに」
「ふーん……まぁ、そういうことにしておいてあげるわ」
意地悪な笑みを浮かべた紫苑ちゃんから僕は視線を逸らし、窓の外の景色に逃げることにした。
「申し訳ございません。遅ればせながら帰って参りました」
「遅いわよ」
ふんぞり返って言う紫苑ちゃんに、安堂さんは申し訳無さそうに頭を下げた。
「紫苑ちゃん、そんなに言っちゃダメだよ。仕事なんだから仕方ないし」
「ふん」
僕はそれ以上何も言えず、小さく息を吐いた。紫苑ちゃんもやっぱり子供な所があるって言うか、安堂さんには甘えてしまうのかも知れない。
「良いのでございます。お嬢様の願いを果たすことのみが私の役目なのですから」
「教育に悪いんじゃ……」
僕の言葉に、安堂さんは首を振った。人の家庭にあんまり首を突っ込んでもアレなので、僕もそれ以上は言わなかった。
「さ、揃ったし行くわよ。早くしないと襲われちゃうかも知れないでしょう?」
「私としては、お嬢様には残っていただきたい所なのですが……」
「嫌に決まってるじゃないの」
「……で、ございますか」
安堂さんは分かっていたように諦めの息を吐いた。僕はおかわりしていた紅茶をぐびっと飲み干し、立ち上がって軽く体を伸ばした。
「良し、行こうか」
「腹減ったから、帰りになんか食おうぜ」
さっきスコーン食べたばっかでしょうが。
「無理だよ、僕は家で食べる予定だから。その後なら、コンビニとかでなんか買ってきてあげるけど」
「でも、今から話しに行くんだろ? 間に合うのかよ、飯の時間までに」
「……間に合わせてみせるさ」
「カッコつけて言っても、全然カッコ良くねぇぞそれ」
真剣な表情で言ってみた僕だが、ユモンには軽く斬り捨てられた。一応、お母さんには遅くなるかもと伝えておこう。うん、念の為にね。
♢
安堂さんが出してくれた高級そうな黒い車に乗り込んだ僕は、車に揺られながらボーっと街の景色を眺めていた。ちらりと視線を車内に向けると、斜め前の座席に座っている紫苑ちゃんが楽し気に笑っているのが見えた。
「ふふん、こんな大人数で車に乗るなんて初めてかも知れないわ」
「そうなの?」
そう聞いてから、その理由にまで思い至った僕は思わず閉口した。
「えぇ、そもそも車に乗ること自体あんまり無かったもの」
「そっか……こんな良さそうな車なんだから、これからは沢山乗らないとね」
「ふふ、そうね。高かったらしいわよ?」
やっぱり高いんだ。お金持ちの車、どのくらいしてしまうんだろうか。
「へぇ……この車って幾らしたんですか?」
「宇尾根様、そう言ったことは余り聞かれない方がよろしいかと思いますよ」
興味が湧いた僕は安堂さんの方に問いかけてみたが、落ち着いた声色でそう返されてしまった。
「それに、私の口から勝手にそう言ったことは言えませんので」
「そ、そうですよね。すみません……」
「ぷっ、気を付けなさいよ治」
自分が高かったらしいとか言うからじゃん! そんなん言われたら気になるでしょうが!
「……お金持ちになりたいなぁ」
「何よ、急に」
「いやさ、最近お金が欲しくてさ……なんかバイトでもしようかなって思うくらいで」
「そんなにお金に困ってるなら指輪の対価で要求すれば良かったじゃないの……」
いやまぁ、そうかもだけどさ。あんなのでお金なんか貰ったら弱みに付け込んでるみたいで嫌だしさ。
「うちはお金ならあるわよ。欲しい?」
「いや、流石に良いよ……ていうか、何でお金持ちなの?」
「何でって何よ?」
「お金持ちなのは分かるけど、何でお金持ちなのかは知らないからさ。凄い会社を持ってるとかなの? それとも、支配者だから税金みたいなの貰えるとか?」
僕が言うと、紫苑ちゃんは呆れたように首を振った。
「貰えないわよそんなもの。いや、貰ってる人も居るでしょうけど、私は特に何もしてないもの。誰からもお金なんて貰えないわ。ただ、夜咲家が所有してた会社の一部を引き継いでるとか、親戚が受け継いでお金だけくれてるとか、なんか私には良く分からないわ。そこら辺は安堂に任せてるもの」
「そ、そうなんだね……」
「まぁでも、私も仕事はしてるわよ。夜咲家から引き継いだだけのものは、いつか全部手放すつもりだもの」
「へ、そうなの?」
僕が聞くと、紫苑ちゃんは毅然と頷いた。
「結婚したら、この苗字も捨てるの。私、夜咲家って大嫌いだから」
「そっか……」
まぁでも、そうだよね。話に聞いてる限り、家では碌な目にあって無さそうだし。
「……その、仕事って何やってるの?」
気にした様子も無く言った紫苑ちゃんだったが、若干重くなってしまった空気を払拭する為に僕はそう問いかけた。
「一番多いのは、魔道具の調律かしらね」
「何それ?」
「魔道具を一番良い状態に調整するのよ。正確に言うと、中にある術式を見て、不備が合ったら直したり、良く出来そうなところは良くするの。私、魔力の操作が人よりも得意だからそういう仕事も出来るのよ」
「へぇ、凄いね」
ふふん、とドヤ顔をした紫苑ちゃんを僕は素直に称賛した。
「そうでしょう? 魔道具って、術式が間違えてたり魔力が滞るようになってたりするだけで簡単に暴発して事故が起きちゃうんだから。私が修理するだけで安全になるし、頼まれたら性能も上げてやるのよ」
「凄いなぁ……僕も魔道具で困ったら頼もうかな」
「こんな指輪を持って来た人が頼むことなんて無いでしょう?」
にやりと笑いながら銀色の指輪を見せてきた紫苑ちゃんに、僕は苦笑を返した。
「別に、僕が作ったって訳じゃないんだけど」
「そうなの? あんな凄い指輪を二つも持ってるなんて、自分で作ったのかと思ってたわ。だって、お金も持ってないんでしょう?」
「も、貰ったんだよ。友達とかに」
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