ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

文字の大きさ
138 / 189

全知全能と車窓

しおりを挟む
 それから数十分と経った後、安堂さんが遂に帰って来たのだった。

「申し訳ございません。遅ればせながら帰って参りました」

「遅いわよ」

 ふんぞり返って言う紫苑ちゃんに、安堂さんは申し訳無さそうに頭を下げた。

「紫苑ちゃん、そんなに言っちゃダメだよ。仕事なんだから仕方ないし」

「ふん」

 僕はそれ以上何も言えず、小さく息を吐いた。紫苑ちゃんもやっぱり子供な所があるって言うか、安堂さんには甘えてしまうのかも知れない。

「良いのでございます。お嬢様の願いを果たすことのみが私の役目なのですから」

「教育に悪いんじゃ……」

 僕の言葉に、安堂さんは首を振った。人の家庭にあんまり首を突っ込んでもアレなので、僕もそれ以上は言わなかった。

「さ、揃ったし行くわよ。早くしないと襲われちゃうかも知れないでしょう?」

「私としては、お嬢様には残っていただきたい所なのですが……」

「嫌に決まってるじゃないの」

「……で、ございますか」

 安堂さんは分かっていたように諦めの息を吐いた。僕はおかわりしていた紅茶をぐびっと飲み干し、立ち上がって軽く体を伸ばした。

「良し、行こうか」

「腹減ったから、帰りになんか食おうぜ」

 さっきスコーン食べたばっかでしょうが。

「無理だよ、僕は家で食べる予定だから。その後なら、コンビニとかでなんか買ってきてあげるけど」

「でも、今から話しに行くんだろ? 間に合うのかよ、飯の時間までに」

「……間に合わせてみせるさ」

「カッコつけて言っても、全然カッコ良くねぇぞそれ」

 真剣な表情で言ってみた僕だが、ユモンには軽く斬り捨てられた。一応、お母さんには遅くなるかもと伝えておこう。うん、念の為にね。



 ♢



 安堂さんが出してくれた高級そうな黒い車に乗り込んだ僕は、車に揺られながらボーっと街の景色を眺めていた。ちらりと視線を車内に向けると、斜め前の座席に座っている紫苑ちゃんが楽し気に笑っているのが見えた。

「ふふん、こんな大人数で車に乗るなんて初めてかも知れないわ」

「そうなの?」

 そう聞いてから、その理由にまで思い至った僕は思わず閉口した。

「えぇ、そもそも車に乗ること自体あんまり無かったもの」

「そっか……こんな良さそうな車なんだから、これからは沢山乗らないとね」

「ふふ、そうね。高かったらしいわよ?」

 やっぱり高いんだ。お金持ちの車、どのくらいしてしまうんだろうか。

「へぇ……この車って幾らしたんですか?」

「宇尾根様、そう言ったことは余り聞かれない方がよろしいかと思いますよ」

 興味が湧いた僕は安堂さんの方に問いかけてみたが、落ち着いた声色でそう返されてしまった。

「それに、私の口から勝手にそう言ったことは言えませんので」

「そ、そうですよね。すみません……」

「ぷっ、気を付けなさいよ治」

 自分が高かったらしいとか言うからじゃん! そんなん言われたら気になるでしょうが!

「……お金持ちになりたいなぁ」

「何よ、急に」

「いやさ、最近お金が欲しくてさ……なんかバイトでもしようかなって思うくらいで」

「そんなにお金に困ってるなら指輪の対価で要求すれば良かったじゃないの……」

 いやまぁ、そうかもだけどさ。あんなのでお金なんか貰ったら弱みに付け込んでるみたいで嫌だしさ。

「うちはお金ならあるわよ。欲しい?」

「いや、流石に良いよ……ていうか、何でお金持ちなの?」

「何でって何よ?」

「お金持ちなのは分かるけど、何でお金持ちなのかは知らないからさ。凄い会社を持ってるとかなの? それとも、支配者だから税金みたいなの貰えるとか?」

 僕が言うと、紫苑ちゃんは呆れたように首を振った。

「貰えないわよそんなもの。いや、貰ってる人も居るでしょうけど、私は特に何もしてないもの。誰からもお金なんて貰えないわ。ただ、夜咲家が所有してた会社の一部を引き継いでるとか、親戚が受け継いでお金だけくれてるとか、なんか私には良く分からないわ。そこら辺は安堂に任せてるもの」

「そ、そうなんだね……」

「まぁでも、私も仕事はしてるわよ。夜咲家から引き継いだだけのものは、いつか全部手放すつもりだもの」

「へ、そうなの?」

 僕が聞くと、紫苑ちゃんは毅然と頷いた。

「結婚したら、この苗字も捨てるの。私、夜咲家って大嫌いだから」

「そっか……」

 まぁでも、そうだよね。話に聞いてる限り、家では碌な目にあって無さそうだし。

「……その、仕事って何やってるの?」

 気にした様子も無く言った紫苑ちゃんだったが、若干重くなってしまった空気を払拭する為に僕はそう問いかけた。

「一番多いのは、魔道具の調律かしらね」

「何それ?」

「魔道具を一番良い状態に調整するのよ。正確に言うと、中にある術式を見て、不備が合ったら直したり、良く出来そうなところは良くするの。私、魔力の操作が人よりも得意だからそういう仕事も出来るのよ」

「へぇ、凄いね」

 ふふん、とドヤ顔をした紫苑ちゃんを僕は素直に称賛した。

「そうでしょう? 魔道具って、術式が間違えてたり魔力が滞るようになってたりするだけで簡単に暴発して事故が起きちゃうんだから。私が修理するだけで安全になるし、頼まれたら性能も上げてやるのよ」

「凄いなぁ……僕も魔道具で困ったら頼もうかな」

「こんな指輪を持って来た人が頼むことなんて無いでしょう?」

 にやりと笑いながら銀色の指輪を見せてきた紫苑ちゃんに、僕は苦笑を返した。

「別に、僕が作ったって訳じゃないんだけど」

「そうなの? あんな凄い指輪を二つも持ってるなんて、自分で作ったのかと思ってたわ。だって、お金も持ってないんでしょう?」

「も、貰ったんだよ。友達とかに」

「ふーん……まぁ、そういうことにしておいてあげるわ」

 意地悪な笑みを浮かべた紫苑ちゃんから僕は視線を逸らし、窓の外の景色に逃げることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し
ファンタジー
 ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。  しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.
ファンタジー
「記録係なんてお荷物はいらない」 勇者パーティを支えてきた青年・ライトは、ダンジョンの最深部に置き去りにされる。 彼のスキル《記録》は、一度通った道を覚えるだけの地味スキル。 戦闘では役立たず、勇者たちからは“足手まとい”扱いだった。 だが死の淵で、スキルは進化する。 《超記録》――受けた魔法や技を記録し、自分も使える力。 そして努力の果てに得たスキル《成長》《進化》が、 《記録》を究極の力《アカシックレコード》へと昇華させる。 仲間を守り、街を救い、ドラゴンと共に飛翔する。 努力の記録が奇跡を生み、やがて―― 勇者も、魔王も凌駕する“最強”へ。

天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~

仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

処理中です...