スライムの、のんびり冒険者生活

南柱骨太

文字の大きさ
5 / 47
第1章「転生しました!」

第05話「スライムってリアル物体Xかよ」

しおりを挟む
 特に何事もなく、ゴブリンの集落へたどり着いた。
 そこは山の斜面にある洞窟のような場所で、20匹ほどが生活しているようである。彼は今、ゴブリンに擬態して洞窟へと入ったところだ。
 そしてなぜか行動に迷っている。

(特に敵対していないのに、この集落を襲っていいものか?)

 まあ一般的な現代日本人の平和的思考である。
 それだけこの集落が平和に暮らしているように見えたからだった。
 子供ゴブリンたちは走り回り、若いゴブリンたちは木の皮や草で衣類や履物を編んでいたり、料理っぽいものを作っていたり。女性のゴブリンが見当たらないのは何故なのだろう。
 彼はそう、思っていたのだが。


 洞窟の最奥にその答えがあった。
 木製の檻に隔離された一室。
 そこに薄汚れた3人の女性が捕らえられていたのである。
 人間が1人、エルフらしいのが2人。着衣もなく、泥と血で汚れた身体を地面に横たえていた。そしてその下腹部は、妊娠しているのだろうと判る程に大きく膨れている。
 虚ろな目は中空を見上げているようで‥‥‥‥いや、3人とも既に呼吸をしていない。

 物語にあったような、ゴブリンやオークは人間の女を奪い、連れ去る。その理由を垣間見てしまった気がして、彼はこの平和なゴブリンの巣を潰すことを決意していた。
 その時、巣の外で歓声が上がる。


『メシ、獲ってきた』
『すごい!』
『ごちそうだ!』

 ゴブリンたちが洞窟の入り口で賑やかに話している。
 彼が出てきて見れば。

 おそらくヒト族の少年。
 皮製の防具を着け、木の盾と鉄の剣を持っていたと思われる男性の遺体を、ゴブリン5匹が引きずって帰ってきたところだった。思われる、というのは今やゴブリンが嬉しそうに剣と盾を掲げているからで、互いに『収穫、収穫』と喜んでいた。
 集落のゴブリンたちもそれを見て、喜んでいる。

(やはり害獣でしかない)

 平和的に仲良く、というのはもう無理そうだった。
 彼にはゴブリンの言葉はそれなりにわかるが、とても対話が出来るほど知能'も高くない。相手が強ければ逃げ、弱ければ倒して食料にしてしまう、そんな基本的な弱肉強食に生きる魔物でしかないのだ。
 これがもし、他種族に迷惑をかけない平和的な種族であれば、彼ももっと違った対応をしたのであろうが、すでに意識は「知的な種族」ではなく「害獣」と認識していた。

(ならば弱肉強食に従ってもらおう)

 彼はスライムという魔物だが、その意識はヒト寄りだ。それが良いのか悪いのかはともかく、先程まであった仏心は消え、彼はスライムの触手を振るった。
 ここが人里離れた森の奥深くなら放置でも良かったのだろうが、さらわれた女性や狩られた少年を見る限り、人間やエルフを含めたヒト族の町や村、集落に近いのだと思わせる。
 ならば全滅させても問題ないだろう。それはいかにもな人間的思考ではあったが、彼自身がスライムとして生きるよりも、人間らしく生きることを選択した瞬間でもあった。

 いくつかの悲鳴は上がったが、高々20匹少々の集落。
 彼の攻撃的触手の前では1分もかからない作業でしかない。伸ばされた触手に遠心力が加わり、触手の先に掴まれた短剣は容易くゴブリンの首や手足、胴体を切り裂いた。

(なんかこんな古い映画があったよな。物体Xだっけ?)
(化け物が人間に紛れ込んで、人を殺していく恐怖映画だった気がする)
(申し訳ない、君も僕の糧になってもらうよ?)

 倒したゴブリンを吸収した彼は、最後にヒト族であろう男性に手を合わせ、吸収した。
 それ以外にも、ゴブリンが使っていた武器や道具なども、何かの役に立つだろうと吸収しておく。消化はせず、収納だけだ。
 そして最後に3人の女性たち。
 もう何日か早く来ていれば助けられたのかもと彼は考えたが、今更の事だと冥福を祈って吸収する。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その後も森を探索し、ゴブリンやオークの集落を潰して回っていたら、ある日のこと、近くで騒ぎがあるのに彼は気付いた。100メートルほど先だろうか、彼は大コウモリを摂取したせいか聴力も上がっているように思える。
 移動中は普通にスライムの姿で、森の中では触手を伸ばして木を渡り歩く感じ。さながら某クモ男。体力や筋力も上がっているようで、平地ではゴムボールのように跳ねたり、岩場や樹木に張り付いたり出来る。
 実は何気に擬態していると疲れるのだ、主に精神的に。

 騒ぎにたどり着いてみると、ヒト族をオークのグループが襲っていた。
 街道らしき整地された道に乗り合い馬車だろうか、人数の乗れる大き目の箱馬車が2頭の馬ごと転倒しており、それを護衛の人間が守っているようだ。ヒト族は4人だが、オークは12匹居るので、ヒト族は苦戦中の様子。

(これは見捨てるのもちょっとな‥‥)

 スライムとしての人生(?)もそこそこ経っているが、やはり意識はヒト寄り。なので彼は手助けをすることにした。
 まずは木の上から手近な3匹を、長く伸ばした触手で首筋を切り裂く。不意の攻撃に驚く間もなく、オークは鮮血を撒き散らして倒れ込んだ。彼の触手には短剣が仕込まれており、防具で守られていない部位ならば簡単に傷付けることが出来る。
 他のオークは距離があり過ぎて、触手では届きそうにないので、オークの背後へと飛び出した。


「***! *****!」

「**?!」

(しまったな、スライムのまま出てきてしまった)


 ヒト族の護衛は突然の巨大スライムの出現に驚いているようだが、オークはまだ気付いていないようだった。
 そして彼はヒト族の言葉がわからない。ゴブリンとオークの言葉なら吸収の効果か理解できる。言葉ともいえない片言の言語だけれども。

(なに、手助けしてやるんだ。敵対行動さえしなければ、わかってもらえるだろう)

 彼は早速、オークの殲滅にかかった。
 触手の先の短剣で切る、切る、切るだけの簡単なお仕事です。
 オークが背後からの攻撃に気付いた時には、そのほとんどが倒されており、残りもヒト族が難なく倒してしまっていた。

「***! ***?」

(まあそうなるよな)

 彼は心の中で苦笑する。
 護衛の1人が剣を向け、彼に警戒の意思を向けたからだった。

(言葉が通じれば、もう少し何とかなったのだろうけどな)
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

処理中です...