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第1章「転生しました!」
第10話「スライムに恋人が出来ました」
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シンジは店外へと飛び出したルイーザを追った。
サニアが自分が行くと止めたが、シンジは自分の胸を叩いて「任せておいて」と引き受けたのだった。いつまでこの感覚が残っているのかはわからないけれど、オーリィとしてはやはり放っておけなかったようで。
(さて、どこに行った?)
運が悪い時というのは重なるものか、ちょっと先の路地を入った辺りでルイーザの嫌がる声が聞こえた。オオコウモリの聴力はさすがといえる。
(ちょっと! 離してよ! 大声出すわよ!)
(いいから! 話があるんだ!)
知り合いか、ともシンジは思ったが、嫌がる様子から助けないという選択肢はない。
(あの声! インディか!)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ギルドで聞いたぜ。オーリィの野郎、おっ死んだそうだな?」
「!!」
「いい機会だ、俺の女になれよ。チームもうちに移れば良い」
「嫌よ! 誰がアンタなんかに!」
「良いのか? もう守ってくれる男はいないぜ? あの腰抜けのジミーじゃ頼りないだろ?」
通りから路地に入り、さらに細い小路に入り込んだ場所にルイーザは居た。
引き込んだと思われる男は20歳くらいか、けっこう良い身体付きで身にまとう防具も質の良さそうな感じ。同じ冒険者でも初心者とは言えない、級数もおそらくは高いのだろう。
しかしシンジは臆せず割り込んだ。
「うちの姫様を引き抜かれたら、ちょっと困るんですがね?」
「何だお前‥‥」
機嫌の悪そうなのを隠そうともしない、そんな表情で男はシンジに振り返る。
「ただの“夜明けの星”の新人ですよ。ほら、ルイ、戻ろう?」
「邪魔すんじゃ、ねぇよ!」
「きゃー!」
近付いたシンジに、タイミングを合わせたように殴りかかる男。
ルイーザはその動きに悲鳴を上げるが‥‥男の拳はシンジの頬に当たって止まっていた。今のシンジの強度を打ち抜ける人間など、そうそう居ない。
「おや、その程度?」
「て、てめぇ‥‥!」
シンジを殴った左手が痛かったのか、今度は右手で顔を狙う。
「さ、行きましょう」
「え? えぇ‥‥」
殴りかかった右手はシンジに額で受けられ、その場にうずくまる男を残してシンジはその場を立ち去る。もちろんルイーザを連れて。
進化により反射神経も上がっているのか、シンジには男の拳がえらいスローモーションに見えたのだ。どこで受けても良かったのだが、あえて額で拳を受けたシンジはどこも傷付いてはいない。逆に男の拳は骨折しているかも知れないけれど。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「‥‥あれ?」
元の食堂に戻ったシンジは、サニアに「ごめん」と謝り先に宿に戻ると告げたルイーザにそのまま連行され、なぜかルイーザと同じ部屋に居た。
ちなみにルイーザのお財布はジミーに渡されている。飲食代金はそこから払われるのだろう。なので宿の代金はルイーザに言われるまま、シンジが出している。
金貨ばかりでなく、銀貨や銅貨も持っていて良かった。
それよりも、だ。
「あの、あの、そのですね‥‥」
なぜか歯切れの悪い言葉のルイーザと同じ部屋に泊まることになり、そしてなぜか部屋に入るなりルイーザに抱き締められて困惑しているシンジなのだった。
「約束、だったの」と、ルイーザは続ける。
それまでお付き合いはしていたが健全だったと。キスくらいはしていたけれど、体の関係はなかったのだそうだ。だからギルドのランクが上がり、プロポーズしてくれたら一緒に泊まろうと、そういう約束をしていたのだそうだ。
「あの‥‥だからって、何で僕に?」
「オーリィの姿になれるんでしょ? 私に思い出をちょうだい‥‥!」
そしてベッドに押し倒された。
シンジの中の感覚も、色々と叫んでいるようだ。直接にシンジと会話ができる訳ではないが、知識や感情が乱れまくっている。
なので。
シンジは感情のまま、ルイーザを抱いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
朝になった。
朝になってしまった。
2人とも寝ていない。ひと晩中交わったり話したりしていた。
いつしか、シンジの中の感覚は感じられなくなっていて、残ったのは雑多な知識だけ。それだけでも人の世で生きてはいけるけれど、やはりどこか偏っていて不安も多かった。
だから決意したのだ。
「僕の全てを以ってルイと仲間たちを守るよ。だから一緒に生きて欲しい」
「私の全てをシンジにあげる。2人で幸せになろう?」
たった1夜の関係と言えなくもない。
けれどシンジは“残された想い”を大切にし、残された少女を大切にしたいと思ったのだ。想いだけを残し消えていく者の未練を断ち切るため。そして自分が生きていく、その意味を明確にするために。
この世界の者と縁を結ぶのは、彼にとっても都合が良かったといえる。
さらに、この世界は多夫多妻が普通らしい。
強い男は多くの妻を侍らせ、強い女は出来るだけ強い種を求めるものだそうだ。
「‥‥お嫁さんが増えるのは仕方ないけど、程々にしてね?」
そう釘を刺されはした。
さもあらん、スライムは色々と便利だったのだ。
ルイーザ曰く「色々と凄い世界に目覚めそう」だそうで、よそではやらないで欲しいと念を押されてしまったり。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
朝食に降りると宿の食堂で、サニアとジミーに言われた。
「何か色々と、おめでとう?」
「次からは配慮してくれると助かる」
どうやら宿の防音は大したことないらしい。
こうしてシンジの冒険者生活は、こっ恥ずかしいスタートを切ったのだった。
第1章 「転生しました!」 -終-
サニアが自分が行くと止めたが、シンジは自分の胸を叩いて「任せておいて」と引き受けたのだった。いつまでこの感覚が残っているのかはわからないけれど、オーリィとしてはやはり放っておけなかったようで。
(さて、どこに行った?)
運が悪い時というのは重なるものか、ちょっと先の路地を入った辺りでルイーザの嫌がる声が聞こえた。オオコウモリの聴力はさすがといえる。
(ちょっと! 離してよ! 大声出すわよ!)
(いいから! 話があるんだ!)
知り合いか、ともシンジは思ったが、嫌がる様子から助けないという選択肢はない。
(あの声! インディか!)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ギルドで聞いたぜ。オーリィの野郎、おっ死んだそうだな?」
「!!」
「いい機会だ、俺の女になれよ。チームもうちに移れば良い」
「嫌よ! 誰がアンタなんかに!」
「良いのか? もう守ってくれる男はいないぜ? あの腰抜けのジミーじゃ頼りないだろ?」
通りから路地に入り、さらに細い小路に入り込んだ場所にルイーザは居た。
引き込んだと思われる男は20歳くらいか、けっこう良い身体付きで身にまとう防具も質の良さそうな感じ。同じ冒険者でも初心者とは言えない、級数もおそらくは高いのだろう。
しかしシンジは臆せず割り込んだ。
「うちの姫様を引き抜かれたら、ちょっと困るんですがね?」
「何だお前‥‥」
機嫌の悪そうなのを隠そうともしない、そんな表情で男はシンジに振り返る。
「ただの“夜明けの星”の新人ですよ。ほら、ルイ、戻ろう?」
「邪魔すんじゃ、ねぇよ!」
「きゃー!」
近付いたシンジに、タイミングを合わせたように殴りかかる男。
ルイーザはその動きに悲鳴を上げるが‥‥男の拳はシンジの頬に当たって止まっていた。今のシンジの強度を打ち抜ける人間など、そうそう居ない。
「おや、その程度?」
「て、てめぇ‥‥!」
シンジを殴った左手が痛かったのか、今度は右手で顔を狙う。
「さ、行きましょう」
「え? えぇ‥‥」
殴りかかった右手はシンジに額で受けられ、その場にうずくまる男を残してシンジはその場を立ち去る。もちろんルイーザを連れて。
進化により反射神経も上がっているのか、シンジには男の拳がえらいスローモーションに見えたのだ。どこで受けても良かったのだが、あえて額で拳を受けたシンジはどこも傷付いてはいない。逆に男の拳は骨折しているかも知れないけれど。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「‥‥あれ?」
元の食堂に戻ったシンジは、サニアに「ごめん」と謝り先に宿に戻ると告げたルイーザにそのまま連行され、なぜかルイーザと同じ部屋に居た。
ちなみにルイーザのお財布はジミーに渡されている。飲食代金はそこから払われるのだろう。なので宿の代金はルイーザに言われるまま、シンジが出している。
金貨ばかりでなく、銀貨や銅貨も持っていて良かった。
それよりも、だ。
「あの、あの、そのですね‥‥」
なぜか歯切れの悪い言葉のルイーザと同じ部屋に泊まることになり、そしてなぜか部屋に入るなりルイーザに抱き締められて困惑しているシンジなのだった。
「約束、だったの」と、ルイーザは続ける。
それまでお付き合いはしていたが健全だったと。キスくらいはしていたけれど、体の関係はなかったのだそうだ。だからギルドのランクが上がり、プロポーズしてくれたら一緒に泊まろうと、そういう約束をしていたのだそうだ。
「あの‥‥だからって、何で僕に?」
「オーリィの姿になれるんでしょ? 私に思い出をちょうだい‥‥!」
そしてベッドに押し倒された。
シンジの中の感覚も、色々と叫んでいるようだ。直接にシンジと会話ができる訳ではないが、知識や感情が乱れまくっている。
なので。
シンジは感情のまま、ルイーザを抱いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
朝になった。
朝になってしまった。
2人とも寝ていない。ひと晩中交わったり話したりしていた。
いつしか、シンジの中の感覚は感じられなくなっていて、残ったのは雑多な知識だけ。それだけでも人の世で生きてはいけるけれど、やはりどこか偏っていて不安も多かった。
だから決意したのだ。
「僕の全てを以ってルイと仲間たちを守るよ。だから一緒に生きて欲しい」
「私の全てをシンジにあげる。2人で幸せになろう?」
たった1夜の関係と言えなくもない。
けれどシンジは“残された想い”を大切にし、残された少女を大切にしたいと思ったのだ。想いだけを残し消えていく者の未練を断ち切るため。そして自分が生きていく、その意味を明確にするために。
この世界の者と縁を結ぶのは、彼にとっても都合が良かったといえる。
さらに、この世界は多夫多妻が普通らしい。
強い男は多くの妻を侍らせ、強い女は出来るだけ強い種を求めるものだそうだ。
「‥‥お嫁さんが増えるのは仕方ないけど、程々にしてね?」
そう釘を刺されはした。
さもあらん、スライムは色々と便利だったのだ。
ルイーザ曰く「色々と凄い世界に目覚めそう」だそうで、よそではやらないで欲しいと念を押されてしまったり。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
朝食に降りると宿の食堂で、サニアとジミーに言われた。
「何か色々と、おめでとう?」
「次からは配慮してくれると助かる」
どうやら宿の防音は大したことないらしい。
こうしてシンジの冒険者生活は、こっ恥ずかしいスタートを切ったのだった。
第1章 「転生しました!」 -終-
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