スライムの、のんびり冒険者生活

南柱骨太

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第1章「転生しました!」

第09話「スライム冒険者になった!」

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「どういう事か、説明してもらえるかな?」

 シンジだけでなく、ジミーやサニア、ルイーザという「夜明けの星」メンバーまでギルド支部長の部屋に通されソファーに座り、先程の水晶玉による鑑定結果の用紙を突き付けられていた。
 支部長はガタイの良いドワーフのおっさんだった。いや、ドワーフだから背は低いんだけど、横幅とか厚みとかのボリュームが半端ない。しかも顔は目と鼻しか見えないくらいの毛むくじゃら。
 服装こそ並の平服だが、海賊のバイキングだと言われても納得できるような容姿である。

「これまでにもハイエルフやハイドワーフ、人化したドラゴンなんかが登録に来たことはあったそうだが、まさかスライムが来るとはね」

 支部長、鼻息が荒いです。テーブルの向かいのシンジの顔にまで届いています。

「しかも、何? エルダースライムって? 聞いたことない種族だよ?」

 ため息一発、シンジはこれまでの経緯を話した。
 転生の部分だけはボカして、他の種族を食うことにより進化してきたこと、オーリィを仕方なく食ったことで人に擬態できるようになったこと、人の世界で生きていきたいことなど。
 それを聞いて「なるほどね」と支部長はしばらく考えていたが。

「ちょっとスライムの姿を見せてもらえるかな?」

 ポヨン。
 バレた以上、隠すことでもないので、シンジは言われた通りスライムになった。
 ちなみに服装や装備は体内に収納している。人に擬態した時に、丸裸になってしまうと困るからだ。服ごと擬態も出来るけれど、面倒なので結局オーリィの服と装備をそのまま使用している。
 その青いスライムを見て支部長は目を丸くしていたけれど、そのうち大笑いを始める。

「なるほどなるほど、確かにスライムだわ。人語を解し人のように考える、こんなヘンテコなスライムが居たとはな!」

 そして膝を1発叩いて。

「ギルドの規則には種族を問わないと、確かにある! たとえそれが魔物であっても、規則を守れる知能があり、騒乱を起こす意思がないなら問題なかろう! ただし!!」

 ビシイッ!という擬音がつきそうな勢いでジミーたちを指差し。

「シンジ君は誰かの使役魔物ということにしてもらおう」
「使役‥‥魔物ですか? 俺らの誰もテイマー技能は持っていないんですが」
「あ、僕が持ってる」

 シンジが触手を『挙手』した。

「お前が持ってても仕方がないだろう!」
「あんたが持ってても仕方がない!」
「あなたが持っててもダメでしょ!」

 ほぼ同時に3人のツッコミが炸裂した。
 それを見て支部長はさらに大笑いするのだった。
 何でこう気の合う連中かと、もう既に一端のチームではないかと。

「なに、名目上のことだよ。シンジ君が万が一、不祥事を起こした場合の責任を取るヒト族が、ギルドとしては必要なのだ」

 ここで言う「ヒト族」とは人間だけではない。人間、エルフ、ドワーフ、獣人、鬼人、竜人など、人の形をしていて会話ができる、知能の高い者たちの総称である。同じ人の形をしていても、コボルトなどは知能が低く、魔物と見做されていた。
 もっともコボルトは臆病で温和な種族なので、滅多にヒト族と対立しないが。森に住み、狩りや農業を営み、ヒト族の村や集落に物々交換に訪れるような、そんな魔物であって討伐対象になったりはしないらしい。
 それはともかくギルド支部長にそう言われ、ジミーたち3人は俺が、いや私が、と言い合っていたが、結局ルイーザが押し切った。

「私なら責任を取って冒険者を辞めることもできる。あなたたち2人は別れる訳にはいかないでしょう?」

 どうやらオーリィは気付いてなかった様だが、ジミーとサニアはお付き合いをしているらしい。シンジはそれにもビックリしたが、それよりも誰も嫌がって押し付けあったりしなかった事が嬉しかった。みんな、自分のために責任を被っても良いと言ってくれたのだ。

「すまないな、迷惑をかける」
「大丈夫だよ、変なトラブルさえ起こさなきゃ、何でもないよ!」

 シンジはそう微笑んでくれたルイーザに、感謝するのであった。
 人の姿に戻るタイミングを失ってはいたけれど。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その後、支部長の許可も下り、普通にギルドカードが発行され、ジミーたちの依頼達成報告がされ、ギルドを後にした4人は食事に繰り出した。

「冒険者登録、おめでとう~~~!」
「ランク昇級、おめでと~!」

 シンジたちは木製のジョッキを打ち鳴らす。
 さすがに酒類はワインとかエールとかしかないが、それでもそれなりに美味い。この世界では15歳で成人なので、問題なく酒が飲めるのもありがたかった。
 酒も食事も安めのこの店は初級冒険者ご用達らしいが、ここでの飲み食いはオーリィの金から出ている。どうやらオーリィは保険金を積み立てていたようで、死亡届と同時に指名者のルイーザにそこそこの金額が渡されたのだ。
 20日ごとにいくらかをギルドに積み立てていく制度で、死亡時支払い先がルイーザになっていた訳だ。
 なのでオーリィのオゴりということにして、皆で騒いでいるのだ。見事に空騒ぎというやつではあるが。

「しかし予定通りに級が8になって良かったね~!」
「これもジミーの計画様サマだよ」
「いやいや、ギルドがちゃんと評価してくれていたってことさ」
「まー実際、いくらかチョロまかされてもわかんないもんね」
「そんな事したら、ただでさえ面倒な冒険者たちが、黙ってないだろう?」
「そりゃそうか」
「でもこれで、次から7級の依頼も受けられるね!」
「いやいや、当面は無理はしないぞ?」
「もう! ジミーったら、相変わらずカタいんだから!」
「そこは慎重、と言って欲しいね」

 楽しく談笑してはいるが、誰もオーリィのことを口にはしなかった。
 それぞれがそれぞれに気を遣い合った結果である。しかし、事情を知らない他人は違った。
 見た目、陽気に騒ぐメンバーに、知り合いらしき少年たちが絡んでくる。

「なんだ、お前らえらいご機嫌じゃないか。何か良いことでもあったのか?」
「どうした? こんな騒ぎなのにオーリィのバカはどこ行ったんだ?」

 その言葉に、思わず息を呑むメンバー。
 そして、ルイーザがおもむろに立ち上がり、椅子を転がす勢いで店の外に駆け出したのだった。
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