スライムの、のんびり冒険者生活

南柱骨太

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第4章「冒険者は冒険してナンボ」

第30話「冒険者たちの準備」

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 チーム“夜明けの星”と“疾風怒濤”が合併するちょっと前のお話。
 予定ではもう少しで「夜明けの星」全員が昇級し、チームランクも7級になるとの事で、合併を少しだけ先延ばしにしてもらっていた頃である。

「ていッ!」
「フガッ!!」
「とりゃ!」
「グオォ~~~!」
「最後っ!」
「ガァァァ‥‥グフッ‥‥」

 新たにチーム「疾風怒濤」のリーダーに就任した戦士のジェンドと、野伏レンジャーのインディ、盾士のサンドラは目を飛び出さんばかりに驚いていた。
 今は大森林の浅層から少し奥まった場所で、ジミーがオーク5匹組を裁いていたところ。
 声も出ず口をパクパクさせているが、サンドラは同じ盾士として盾さばきだけであんなにオークを転ばせられるものなのかと、そう言いたいのが声に出さずともわかる。


 夜明けの星が毎回、8級の依頼を複数こなしていると聞いた疾風怒濤の3人が、どんなものなのかと大森林の中層へ行く依頼のついでに見学に来ていたのだった。本日の夜明けの星が受けているのは、オーク5匹とゴブリン10匹の討伐と、薬草採取各種の5件。まずは奥から順にオークを狩りに来ていたところだ。

「そこ!」
「フッ!」

 転んだ3匹のオークに、ルイーザとサニアがそれぞれ魔法と弓で攻撃。これはダメージを与えるものではなく、転んだ後に慌てさせる目的のもの。要はジミーに向かうのを遅らせれば良いだけの攻撃だ。
 その間にジミーは右手の短剣で2匹のひざを斬り付け、立てなくしたところで順に肩を刺し、身動きできなくなったオークの喉を順々に刺していく。
 ここで噴き出す血液を浴びないようにするのがコツ。

 続いてサニアの矢を引き抜いた1匹と、ルイーザの火矢魔法ファイヤーアローで軽く火傷を負った2匹が起き上がり、離れていたサニアとルイーザではなく手近なジミーに向かうのだが、既にジミーは2匹を倒し終えており、3匹を迎え撃つ気満々。
 しかし矢を肩に受けたのと、足を火傷しているオークはやはり動きが鈍い。難なく手足を傷付けられ、また盾でいなされ、転ばされて首を切られてしまうのであった。
 オークの皮膚は硬く、脂肪も厚くて筋肉もあり、そうそう剣で切り裂けるものではないが、倒れていればそこまで難しくはない。立った状態ならば上半身の前後左右振りで剣をいなせるのだが、倒れた状態だと剣と地面で逃げ場がないのだ。しかもジミーは骨に当たらないように剣を振るうので、切っ先の速度で強引に切り裂いている状態。
 そんなに上質な剣でもないので、それなりにって感じではあるけれど。
 その間シンジは、オークが逃げないように回り込んで退路を警戒していた。できるだけ3人にやらせようという意図からで、もちろん危険と判断すれば割り込むつもりではあったが。

 オークはイノシシの頭で2足歩行のヒト型をした、身長2メートル越えの体格の良い魔物だ。豚鼻をした毛むくじゃらの、頭の上に耳の付いた力士を想像すればほぼ間違いない。
 手足は4本指で、手は物を握れるようなヒト族と変わらない形状だが、足はイノシシと同じような形態で、爪先立ちのような感じだ。
 ともかく皮が分厚く力の強い、単体では8級の魔物だが、集団では匹数に応じて7級から6級の扱いとなる危険な魔物。
 剣士のデニスが居て4人だった頃の疾風怒濤でも、ここまで簡単には倒せない。
 それが目の前の4人はどうだ。
 今のオーク5匹を倒すのに5分もかかっていない。その上、全力ではなくかなりの余裕をもっているように見えた。
 これが近頃名を上げてきた、チーム「夜明けの星」の戦い方か。
 3人はため息をつくしかない。
 ちなみにオークは全裸ではない。毛皮を腰布だったり、原始人のような肩で結んだように着ている。ちなみに背中やむき出しの手足は毛むくじゃら。そして武器はほとんどが太い木の枝を削った棍棒で、一部に冒険者から奪ったらしい剣や槍を使っている程度。


 さて、質問タ~イム。

「ちょ、ちょ、ちょっと! あの盾で転ばせる技は何なのよ!」
「え? バランスを崩させているだけですよ?」

「何で弓で頭を狙わない?」
「頭を狙ってうっかり混乱させるより、肩を狙って手を封じる方が後で危険が少ないからですよ。できれば両肩を狙いたかったんですけどね~?」

「魔法で追撃せず盾士に任せるのは危険ではないのか?」
「タイミングを間違えて仲間を撃つのは避けるべき。ちゃんとその後、倒れたオークを仕留めました」
「しかも火矢魔法なのに詠唱なしとか! どうなってるんだ!」
「詠唱とか魔法名を口にするとか、これから魔法を使いますよって宣言しているようなものでしょ?」

「なんで手前てめぇだけ後ろで控えてんだ!」
「俺は遊撃であって、逃走防止をしてたじゃないですか。それにこれは3人の修練ですし」
「シンジが入ったら、オーク5匹なんて1人で片付けちゃうわよ。あたしら何もできないじゃない」
「マジかよ‥‥」

 3人は思った。こいつら、既に8級じゃない。7級、いや6級でもおかしくない実力だ。少なくとも今の自分たちよりも強いのは間違いない、と。
 しかもシンジは3人よりはるかに強いと聞いては居る。3人はシンジに指導されて鍛えられているのだとも。それがこれ程とは思わなかった。
 いや、その片鱗は3人とも知っていたハズだ。
 彼らと初めて会った「オークの迷宮」の6層目で、多数のオークとコボルトに囲まれた窮地の時に、夜明けの星が加勢してくれて助かっていたのだから。それが奇襲という登場だったとはいえ、その時も大した時間もかからず片付けていたと。後になって思えば、という事ではあるが。

 で。
 3人は地面に座り込み、シンジに頭を下げた。
 自分らにも師事して欲しいと。後輩に負けてはいられないと。
 土下座の慣習のないこの世界で、最も下手からの頼み方であった。


 そして現在に至る。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 さて、現在である。

 チーム「疾風怒濤」と「夜明けの星」は合併して「夜明けの風」として再出発している。
 元々、疾風怒濤は3人だったのだがそこに2人加わり、チーム全体として9人になっていた。
 増えた2人はオークの迷宮で、疾風怒濤とパーティーを組んでいた、個人活動ソロの冒険者であり、固定のチームに所属せずソロで行動したり、必要があればパーティーに加わるという面々だ。
 個人活動の理由は様々だが、特に追求はしない。
 ちなみに常日頃からグループを組んでいるのが「チーム」、目的のため臨時にグループを組むのが「パーティー」と呼称されている。少なくともエルゲの冒険者ギルドではそうらしい。
 女性がユーノで魔法師、サンドラとは同郷の友人だそう。
 男性はドレッドと名乗り斥候スカウトだそうだ。斥候と野伏レンジャーの違いのわからないシンジだが、後で誰かに確認しようと思っていたら、実はそのまま忘れていた。現在進行形で。
 そして2人も指導を希望すると言うのだが、そこはドレッドがドきっぱり。

「強くなるための機会は逃さぬ。自己流では壁にぶち当たるのでな」

 年下に教わるのは良いのかと頭を抱えるシンジを、ジェンドが強い者に教わるのは当然だろうと笑い飛ばした。歳の上下も先輩後輩も関係ないと。
 そうして5人の弟子が増え、迷宮と大森林を歩く日々が続く。
 疾風怒濤は主に迷宮を活動場所としていたそうで、大森林はあまり得意ではなかった。シンジは迷宮を訓練場所、そして大森林を実戦場所としており、彼ら5人もそれに倣っている。


 さすがに5人を同時に相手はできないので、サンドラは同じ盾士のジミーに、ユーノは同じく魔法師のルイーザが担当することとし、シンジは残りの3人を指導した。
 やはりというか、皆は力技だった。武器が剣やナイフなら力任せに切る、刺す。魔法発動も全力、野伏の使う弓も全力である。自身が通ってきた道でもあり、ジミーたちも少々赤面しているようだ。
 さらには連携もつたないもので、引き寄せて叩く、その繰り返し。
 これはイカンとシンジは剣の振るい方からフェイント、次の動作につなげる足さばきを教え、槍は突き刺すだけでなくぐ、叩く、引き斬るをはじめとした円形動作などを指導。
 弓は弓師のサニアが‥‥と思っていたら。

「こう、ギュ~~~とパッとするでしょ? そうしたらサクッとなってハッとするのよ」

 前言撤回。サニアには獲物を引き連れてくるようにお願いする。

「何よ、もう!」

 ふて腐れながらも先行してくれた。
 さて、弓を使うのは野伏のインディだが。攻撃によるダメージだけでなく、パターンにより慌てさせる、怯ませるなどのけん制を。そして射手の移動による射角の確保などを説明する。
 そして遊撃を行う斥候には直接攻撃だけでなく、投げナイフなどを使ったかく乱の使い方を提案。あと心臓や頚椎、頚動脈といった身体の構造に即した即死攻撃もあるのだが、一度に覚えるのも大変なので後回しにした。

 ちょうどそれぞれに指導し終えた頃、サニアがオークを引き連れて戻ってきた。

「4匹、すぐ来るよ!」

 習ったばかりの不慣れな技術に5人は、少し手間取りながらもオークを倒していくのだった。
 その感想は「何となくわかった」というもの。元からの実力はあるので、微妙な差異になんとなく気付いたような形だろう。そして繰り返すことで、連携の重要性を理解してくれるだろうとシンジは期待する。
 夜明けの星がそうであったように。


 そんな修練と依頼を繰り返し、技術と策略を実感しながら、日々は過ぎる。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「とうとう明日から迷宮入りだねぇ」
「そうだね~」
「今度はやっぱり連携強化?」
「連携を確認しながら、7階層目指す感じかな」
「人数も増えたし、パートナー交代も面白くなりそう」
「くくっ、ユーノさんと2人連携、楽しみだねぇ?」
「あ~~~、魔法師2人ソレは辛いかも」

 ベッドでくっつきながら、シンジとルイーザは笑い合う。
 7階層は上位種が混じる、力押しだけでは難しい階層だ。ゴブリンリーダーやオーク長、中にはオーク大将ジェネラルが出たという報告もあったらしい。
 そもそもが、中級の5~6人パーティーで10層攻略がせいぜいと言われている。なのでシンジたちも連携習熟を行いながら、10層到達を目指す予定だ。そして今度は迷宮野営が普通となるので、その準備も大変だった。
 スライム体内庫があるので移動は楽なのだけれど、あれもこれもと買い込むのは悩ましいところなのである。シンジたちも野営道具をちょっと良いものに買い換えたし。

「がんばろうね」
「うん、がんばろう」

 そうして眠りに落ちていくのであった。

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