スライムの、のんびり冒険者生活

南柱骨太

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第4章「冒険者は冒険してナンボ」

第31話「冒険者たちの修練」

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 時間は少し飛ぶけれど。
 新しく立ち上げたチーム“夜明けの風”、その迷宮での連携習熟訓練は大変だった。

「あっ、あっ、あっ、そっちじゃない、こっち来い!」
「後ろ! 後ろも気をつけろ!」
「追加オーダー入りまーす!」
「冗談! 勘弁しろよ」
「胸じゃなく首を狙え! まだ生きてんじゃんよ!」
「悪りぃ、撤退するわ」
「うわぁ、火魔法の通りが悪いわねぇ」
「もうダメ! シンジ君、助けて!!」
「あ~も~、しょうがないなぁ‥‥」

 詳しくは語らないが、そりゃもう色々と大変だった。
 それでも基本的な部分から応用を利かせた部分まで、そして人数を減らしたりパートナーを交代したり、色んな状況を想定し、試し、乗り越えた。

「お前ら、元からこんなシゴかれてたの?」
「ここまでキツくはなかったけど、まあこんなもんですね」
「そりゃ強くもなるわ‥‥」

 ひと言で済ます。大変だった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 そして半月後、エルゲの街に帰還。
 ある程度はオーク迷宮の外にあるオーク横丁で整えていたが、もう防具とかガタガタで帰ってきたその足で防具屋に駆け込んだくらいだった。

「お前ら大丈夫か? ボロボロではないか」

 たまたま冒険者ギルドの酒場に居た副支部長に心配されるほど、チーム「夜明けの風」メンバーは傷だらけ。身体の傷自体はルイーザの治癒魔法で治してはいるけれど、さすがに服の破れまでは直らないので、どれだけ傷を負ったのか丸わかりである。
 特に、皆が防具屋で装備を修繕や調整に出しているので、服の様子もしっかりと見られてしまっていた。
 だが皆は笑顔。やり遂げた感を振りまいている。
 ああ、女性陣はさすがに着替えていて、衣服の破れはない。着替え分は用意していたし、人前で歩けない格好にもなってしまうし。男性陣が戦いの勲章とばかりに見せ付けていただけだ。

「やっと10階層まで行けたぜ!」

 その報告に、漏れ聞いていた冒険者たちも賞賛の声を上げる。
 それはオーク迷宮の10階層が中級冒険者たちのステータスであり、中々たどり着けない階層の象徴でもあるからだ。このオッサン副支部長も4級冒険者から冒険者ギルド職員、記録管理主任、副支部長へと上ってきた現場叩き上げの人物、若き冒険者たちの偉業に拍手。

「そうか、誰欠けることなく、よくがんばったな。ま、ゆっくり休め」
「そういう訳にはいかないんだ。明日にでも大森林に入って成果を確認したい!」

 リーダーのジェンドの言葉に、不審そうな視線をシンジに向ける副支部長だが、シンジはそれに苦笑いを返すしかない。
 この副支部長、シンジが夜間のみの「特別5級冒険者」としてギルドの余り依頼をこなしている事を知っている、数少ない人物だ。当然ながらシンジがそれなりに強いことも知っていて、今回チームが修練のために迷宮に潜っていたことも理解している。
 せめて休息をいれるべきだろう、と言いたい訳だ。
 しかしシンジには彼らのやる気を止められなかったというのが正直なところ。
 まあこれくらいでヘバる連中でもないし、スライムマッサージもあったし。

 スライムマッサージとは、シンジがスライムの姿に戻り、ヒトの身体を覆うようにマッサージを与えることだ。丸い水色のボールから頭だけが出ているという見栄えは良くないが、気持ち良い上に翌日の疲れ残りが格段に減るため、メンバーには好評であった。
 ただし疲労が激しい場合、翌日に「ぶり返し」というか筋肉痛になることもあるので、過信は禁物だったが。
 そうそう、初めて味わうドレッドとユーノは、その姿に嫌がったのはお約束。着衣のままとはいえスライムに包まれた姿もそうだし、何より「思わず上げてしまう」声は非常に恥ずかしいものだ。

 その後、友人知人冒険者たちと迷宮の話で盛り上がり、大森林のどの辺りでオークが出ているかの情報地図を買い、街の食堂に目標達成の打ち上げに繰り出すチーム“夜明けの風”なのであった。

 あ、もちろん破れた服は着替えて、である。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 だいぶ前の話。

 1匹のスライムが困っていた。
 誕生したのは良いが、早速始まった兄弟同士の共食い合戦。
 その地獄絵図から逃げ出した、緑色で野球ボールくらいのサイズのスライムは生まれた泥沼を飛び出し、しばらくは小さな昆虫や野草を食べて暮らしていた。草木に困らない大森林でのこと、スライムは高い場所に上り、見付けた昆虫を上から落ちて捕まえる等の手法で捕らえていた。
 しかしスライムには食物だけでなく、水分も必要なのだ。
 成長し大きくなった身体を支えるのは、魔素という瘴気と大量の水分であり、それが少しずつ減っていくと自身の体積が保てなくなるのだから。
 当面はたまに降る雨や夜露でしのいでいたが、成長した今ではそれでは足りなくなり、少し前の記憶を頼りに生まれ落ちた泥沼へと戻って驚いた。

 泥沼がきれいサッパリと無くなっていたのだ!

 天気の良い日が続いていたし、雨も大雨という程でもなかったので、大きかったとはいえ泥沼は干上がってしまったのかとスライムはガッカリした。
 まさかシンジスライムが全て飲み込んで行ったとは想像もしていなかっただろう。

 これは別の沼か池、川を探さねばならない。
 そう感じたスライムは、落ち込むのも早々に出生地を旅立つのだった。
 大きく育ったとはいえ、まだサッカーボールくらいの緑色のスライム。大森林では雑魚なので色んな動物や魔物に襲われる運命ではあるが、その強い意思と多くはない知識で乗り切ってやると胸に決意を抱くのである。

 スライムの胸って何? そんなことは言ってはいけない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ピコーン!
 脳内に響くベルというか鐘というか電子音のようなそれ。
 スライムに脳? とかも言ってはいけない。スライムにとって意識内に起きた事象は「脳内」と表現するしか方法が無いのだから。ともあれ、それは生れ落ちて2回目だった。

(今度は何だろう?)

 前回は野球ボールの大きさからサッカーボールへの大きさに変わっていた。いや本人には「少し身体が大きくなった?」くらいの感覚だったが。何せ定規がある訳でもなし、周囲の物から判断するしかないので、自分がどれくらいの大きさなのかはよくわからないのだ。
 よくわからない視点からの視覚情報では、今回は特に身体が大きくなった感覚は無い。

 ともかく今はそれより消化吸収だ。

 スライムはよく見かけるようになったオークらしき魔物を倒したところである。よくわかっては居ないけれど、毛むくじゃらのイノシシのような頭をしたヒト型の生き物というと、オークと呼ばれる怪物だろうと見当をつけた訳だ。
 安全な場所であれば大きな獲物でもゆっくり消化できるけれど、オークが通るこの場所では別のオークが来るかもしれないのだ。そうなるとスライムの自分は殺されるか、追い払われるかで、間違いなく苦労して倒したこのオークを取り上げられるだろう。
 そう、苦労したのだ。

 身体が大きくなったお陰で、昆虫や小動物などの小物だけでなく、もう少し大きなトカゲやネズミなども倒せるようになっていた。相手を包み込んで消化するのではなく、身体を伸ばして絞め殺すことが出来るようになったからだ。前回の「ピコーン!」から出来るようになった、変形とか触手と言える能力。
 そうなると次に鳥や犬なども狙えるようになった。首を絞めるだけでなく、鼻口を覆って窒息させることも出来るからである。
 ただ困ったことに、スライムにとっての大物である鳥や犬などは数が少ない。小動物は数が多いけれど、獲物としての満足度でいうとやはり少ないのだ。そうなると目先は割とよく見かけるオークに行く訳だが、さすがにスライムにとっては大物過ぎた感がある。考えてもみて欲しい、2メートルを越える関取のような体格をしたオークを、サッカーボール程度のスライムが消化するのだ。時間が掛かるのは当然だろう。
 それにオークは単独で居ることが少ない。たいがいは3匹、多ければ7匹で行動しており、それを襲うのは危険性が高いのだ。

 偶然にも今日、1匹で歩いてきたオークが居たので、勇気を出して襲ってみた訳で。
 すぐにでも逃げられるよう、触手の1本で木の枝を掴んだまま、スライムは垂れ下がってオークの頭にしがみ付いた。そして触手で首を絞め、口と鼻を塞いで呼吸をさせないようにする。
 オークは驚き、そして混乱したまま頭にしがみ付いた何かを引き剥がそうとするが、上手くはいかない。混乱に足をもつれさせ転げ回るが、暴れれば暴れるだけ息が詰まるだけだ。
 スライムもオークに引っ掻かれたりして、そこから何か抜ける感覚を覚えていた。痛みはないが、何かが抜ける度に疲労のようなものを感じる。おそらくそれが繰り返されて力尽きた時に死んでしまうのだろうと思った。そして死にたくないと、さらにオークの首を締め上げる。
 そんな静かな攻防が数分、やっとオークが脱力する。そして現在、絶賛消化中という訳だ。

 レベルアップらしき音を聞いたが、それが何なのかわからないままオークを消化吸収していたら、何者かが近付く気配。スライムには聴力がないようなので、音というより空気や地面の振動を感じている感覚だ。ともあれ危険と判断し、食べかけのオークを抱えたまま木の上に逃げ隠れた。
 下を通るはまたしてもオーク。また1匹であり、何かを探している様子から実はペアだったのではとスライムは考えた。
 ならば、と先程「こうすれば良かった」と反省した手段を試す。

 食べかけのオークを太い枝に置き、枝から垂れ下がって下のオークの頭に素早くしがみ付く。
 そして今度は窒息させるのではなく、首に巻きついて勢い良く引っ張り上げた。このためにぶら下がる枝は丈夫なものを選んでいる。
 食べかけのオークを持ち上げた時に、さほど苦労はしなかったのだ。これくらいの力ならば、首を絞めて持ち上げれば首吊りの出来上がり。そして首吊りには2種類ある。
 1つは首を絞めて頚動脈や気管を阻害する方法。そしてもう1つが。
 オークを引き上げた時には無理だったが、宙を舞ったオークが再度地面に落下し、地面に当たる前にもう1度引っ張ってやる。全力で勢い良く。
 ゴキン。鈍い音が辺りに響いた。
 落下の衝撃で首の骨を折る方法だ。同時に頚椎の中を通る脊髄が破壊されて、苦しみに悶える間も無くオークの身体が痙攣けいれんし絶命する。

 スライムは喜んだ。大きな食い応えのある獲物が2匹だ。
 1匹目は既に血抜き済み、もう1匹も血が固くなる前に吸い上げた。この獲物から吸い上げた血液が、スライムに必要な水分となっていく。

(悪くなる前に全部吸収できるかな? 早く消化しないと‥‥あれ?)

 まだサッカーボール大のスライムである。犬でさえかなりの時間がかかるのに、オークの大きさだと5倍から10倍もかかるだろう。そう焦って飲み込もうとイメージしていたら、2匹目のオークがするりと飲み込めた。

(あれ? 何だろう、これ?)

 何となく吸収した感覚ではないことを理解し、スライムは飲み込んだオークを吐き出してみた。
 普通に吐き出せる。そこには血抜きの済んだオークの死体があった。
 そして確かめるように飲み込み、吐き出しを繰り返す。ある意味、確認に近い行動だ。

(自分の何十倍もの大きさの獲物を出し入れできる。これって魔法収納インベントリに近いんじゃない?)

 何となくファンタジックな現象にスライムは喜び、2匹のオークを体内庫に収納しておいた。今は吸収するより保存し、安全な場所でゆっくり吸収しようと。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 そうやって長いこと獲物を狩ったり、ゆったりのんびり消化したりして、水場を求めてさ迷っていたスライムだったが、なぜかヒト2人に見つめられている夜明け前。
 なんで気付けなかった!

(ヤバい、スライムって最弱魔物の代名詞じゃない! 逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ!)

 しかしヒト達はこちらを見て、何やら話し込んでいるだけ。
 スライムを襲う気配もない。

(言葉は‥‥やっぱりわからないか。そもそも耳が無いし、音として感じられないもんね)

 それよりもニンゲンとの初遭遇だ。この世界にもニンゲンに当たる生物が居たことにスライムは安堵し、また自分がニンゲンでないことを残念に思ったりした。

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