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第4章「冒険者は冒険してナンボ」
第32話「冒険者たちの出会い」
しおりを挟むただ今、オークの試験討伐中。すでに7日目。
夜明けの風の面々は、人数を減らしたパーティーで、また組む相手を制限したパーティーで、また使用する武器を変えたパーティーでと、オーク相手に修練していた。
場所は大森林の浅層と中層の境目辺り。この辺りはオークがよく現れる場所で、相手に苦労しないのだが、ひょっとしたら近辺に大きな巣があるのかも知れない。
ただエルゲの街に戻るのに時間がかかるため、見張りのしやすい場所で野営する必要があるのが難点。夜間の見張りの交代で何人かが寝不足になるのは仕方がないところ。
「でも、メシが美味いのは良いな」
「ああ、温かいスープがあるだけで、こんなに美味いとは」
「火が使えないのは仕方ないけど、堅パンがこんなに食べ易くなるとは」
場所こそ川沿いの開けた場所だが、大森林の中では夜だとはいえ火を使うことは危険とされている。それは夜に活動する魔物を引き寄せてしまうからだ。
交代制で夜番をするとはいえ、真っ暗だとそれだけで危険なので、魔除けのお香と明かりの付与された松明風の魔道具が命綱。お香を焚いて薄暗い松明で警戒し、野獣や魔物を察知すれば松明を一時的にまぶしくさせるだけで、相手の視界を奪うことができる、という訳だ。
少々お高い松明の魔道具だが、大森林での洞窟や夜営には必須道具とされている。
なので明るいうちに、大鍋で簡単なスープを作っていた訳だ。堅パンという保存食はビスケットというか乾パンに似た乾燥パンで、普通は噛み砕いて水で流し込むものだが、スープに浸けるだけで柔らかく美味しくいただけた。
同様の保存性の高いパンには黒パンがあるが、こちらは乳酸発酵による酸味の強いパンで、シンジが嫌うためにこのチームでは堅パンを常用している。さすがに元日本人には黒パンは口に合わないらしい。
さて食後は風魔法で上空に匂いを散らしておくことも忘れない。スープくらいならともかく、肉を焼いたりするなど魔獣や野獣を集めるようなものだからだ。
「ああ、エール欲しぃ~~~」
「言うな!」
そして暗くなるとそのまま寝るのである。
睡眠の必要ないシンジと、他1人が3交代制で夜番に当たるのだった。
テントはあるが非常時に面倒なので使わない。雨でもなければ、身体に毛布を巻いて地面で寝るのが一般的だ。秋季の討伐祭など、大人数での野営だとテントや天幕を使うこともあるくらいか。今は夜も涼しいから大丈夫だが、これから夏になると野営は虫に食われて大変だったり。虫除けの薬やお香が必須になる。
こういう開けた場所で地面にごろ寝の他にも、木の上に網を渡して寝る方法や、ほら穴を利用する野営の方法もあるけれど。どれも一長一短で、その場の状況に合わせて選択する。
今回は川べりの開けた場所があったので、こういう野営になっただけ。
シンジは早番のジミーや中番のインディと、小声で話したりしながら番を過ごし、遅番はドレッドだった。もうチーム合併前からの付き合いで、仲間意識はかなり強い。
そんなドレッドがシンジを呼びに来た。用を足しに、少し藪の中に入っていたようなのだが。
(音を立てるな、逃げられるかも知れん)
(いったい、何が居るんです?)
(ふふ、お前さんのお仲間かもな)
お仲間だった。
夜明け前、ようやく東の空が白み始めたまだ薄闇の中に、サッカーボールくらいの赤いスライムが居たのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その夜、スライムは毒にうなされていた。
突然襲い掛かってきた大きなヘビ。ヒトの言うシンリンオオシマヘビという、体長が20メートルを超えるような巨大な魔物を倒し、体内庫に飲み込んで血液を吸い上げたのだったが。
そのヘビは毒を持っていたのだ。
血液を破壊するタイプの毒で、これが一般の生物ならば高熱を出して死に至るものだが、スライムに血液は無いけれど大きな倦怠感に襲われて、いわば麻痺に近い症状を覚えていた。
夜明け近くになりようやく毒の麻痺が弱まった頃、何かの気配を感じていたら、藪の向こうからニンゲンと思われる2人に見られている事に気付く。何か色々と感覚が狂っている気がした。毒の後遺症がまだ残っているのかも。
「****、******?」
「**? *****!」
(どうしよう、逃げなきゃ危ないだろうし‥‥)
スライムは周囲を探った。
どこかを足がかりに、触手を伸ばして逃げるのが良いだろう。元々、スライムの移動速度は遅い。触手や落下を使い、ようやく獲物に襲い掛かったり逃げたりする速度で動けるくらいなのだから。
その場の2人は。
「これ、普通のスライムじゃないだろ?」
「そうですね、この大きさになるのはかなり獲物を食った個体でしょうね」
「危険か?」
「襲ってこないという事は、こちらを危険視しているという事ですね」
「それでは放置で良いか」
「ふふ、逃げようとしているみたいですし、襲ってこなければ放置で」
そう確認し、その後何かに引っ張られるように引っ込んだスライムを見送って、野営地に戻った2人だった。
「スライムって手のひらサイズしか見たことはなかったが、あの大きさに育つのも居るんだな」
「おそらくかなり珍しいですよ」
「スライムの核は様々な魔道具の素材にされる。あの大きさの核ならけっこう高額だと思うが‥‥お前さんのお仲間だしな」
「当面のお金には困っていませんしね」
困っていたらスライムでも討伐するのかと、ドレッドは笑う。
「しょせん弱肉強食ですよ」
シンジは笑顔でそう返すのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夜が明けた。
冒険者の多くは1日1食か2食だ。夕食だけの場合もあれば、朝夕だけの場合もある。
シンジたち元“夜明けの星”メンバーは、まだまだ食べ盛りの成長盛りということで朝昼晩の3食としていたが、他のメンバーも同じように食べている。
一番の年長者がドレッドで26歳、それ以外の年長組が20から23歳なのでジミー達とは少し離れた年代だけど。
ともかく朝は堅パンとスープという昨夜の残りと、シンジが保存していた街で買った串焼肉というメニューで、少々ガッツリめ。この場で調理する訳でもないので、匂いもさほど気にする必要もないし。
もちろんシンジの体内庫なので、買った状態のまま熱々である。
食べながら今日の予定を話していたら、シンジがそれに気付いて近寄っていく。
明け方に見たスライムが、離れた藪の隙間からこちらを窺っていたのだった。近寄ったシンジに何が嬉しいのか、藪から飛び出してシンジの周囲を跳ね回る赤いスライム。
スライムは普通、半透明か濁った緑色なのだが、もしかしたら特殊個体なのかも知れないとシンジは思った。
「食うか?」
言葉は通じないだろうと思いつつ、体内庫から串焼肉を取り出して差し出すと、赤スライムは迷いなく串に飛び付き消化を始めた。
スライムの様子に違和感を感じながらも、何か懐かれた気がしてちょっと嬉しかったりするシンジ。
立ち去るシンジになぜか付いて来る赤スライムに、皆は呆れるばかり。
「シンジがスライムだから、そんなに寄って来るの?」
「はっ、もしかしてシンジ君の隠し子?!」
「違うって!」
「私という者がありながら‥‥ッ!」
下らない冗談を言い合いながらも、食事を終えたメンバーは荷物を片付け、今日もオークを狩りに出る準備。
荷物は自分の分は自分で持つルールを決めた。食料や共用のものはシンジが体内庫に仕舞っているが、それ以外は自分で運ぶのだ。さすがに手ぶらで居ると、冒険者として何か違う気がするし、他の冒険者の目もあるからである。
それで、困ったことに赤スライムがついて来るのだ。
「どーするのよ、それ」
「勝手について来るんだよ」
「外で子供を作ってくるなんて‥‥酷いッ!」
「ひょっとして、そのネタ気に入った?」
「ん、少し」
川を指差し「帰れ」と言っても、言葉は通じないしスライムが喜ぶだけ。
時間ももったいないので、仕方なくシンジが抱き上げて連れ歩く羽目に。放っておいても追って来るし、何だかんだでシンジは指導するだけだし、特に邪魔になる訳でもない。
そして2日が経過。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「魔狼の次はスライムか」
結局街に帰って、冒険者ギルドの支部長に相談することに。
「しかし赤いスライムとは‥‥初めて見たな」
「普通のスライムは緑色ですもんね‥‥」
「それで、お前はどうしたいんじゃ?」
「大森林に帰したいんですが」
「帰せば良いではないか?」
ため息をつき、シンジは事の次第を説明する。
中層入り口の川原に置いて来たのだが、今日の朝には宿のシンジのベッドに居たのだと。おそらくシンジがスライムだと感じていて、懐いているのだろうと。
「邪魔なら、処分するしかないんじゃないか?」
「あー、そうなりますよねぇ、やっぱり」
結局は支部長も当てにならなかった。
ルイーザに至っては「従属技能あるんだから従属魔物にしちゃえば?」と、赤スライムをひざに抱いてなでつつ、笑顔でのたまうし。
従属契約に必要な魔法紙は、取り寄せになるけれども商人ギルドで扱っているそうだ。
それも何か違うのだとシンジは悩む。
ルイーザには正直なところを説明しておく。
「おそらく‥‥想像だけど、こいつは俺との接合を望んでいる気がするんだ」
「せつごう? 何なの、それ?」
「えっと‥‥スライムの子作り」
「うそ! この子、メスなの?!」
スライムに雌雄はない。
シンジもスライムの繁殖行動はよく知らないが、おそらく単細胞生物のような接合、分裂による繁殖を行うのではないかと推測した。そして赤スライムが、ヒトに擬態するシンジを強者とみなし、繁殖相手として選んだのではないかということだ。
さすがにこの話にはルイーザも唸る。
確かにルイーザもヒトとしてのシンジが好きだし、愛してもいる。それを赤スライムが、シンジをスライムとして繁殖相手に選んだというのは、複雑な心境だ。
これは浮気になるのだろうか。
多夫多妻が認められているこの世では、確かにルイーザはシンジが他に妻を選ぶことは反対しない。もちろん相手にもよるだろうけれど、人格や性格に問題がなければどちらかというと賛成の方向なのだろう。それだけ旦那様のステータスにもなるのだし。
少なくとも自身の嫉妬心よりも旦那様のため。これはこの世界の女性によくある意識らしい。
それで、その相手がスライムだったとか、想定外過ぎた。
悩んだ結果、ルイーザは折れた。
それで赤スライムがシンジに執着しなくなるのならば、致し方なしという判断。
シンジの「スライムの子供」というのも見てみたいという、ちょっとお茶目な好奇心があったことは、シンジには秘密である。
それとは別に、シンジには不安もあった。
原形質というかスライムの身体を構成する、魔素をふんだんに含んだ水分。本体は核とはいえ、シンジにとってみれば魂の一部でもある訳で。
それを接合によりおそらく交換するのだ、自分が変わってしまうことも、赤スライムが変わってしまうこともありうる。さすがにこれは怖い。
自分がスライムの本能に強く目覚めてしまうとか、今後のヒト族との付き合い方にも響くだろうし。
とりあえず保留とした。
明後日からはまた大森林に出かけることになるので、あまり時間はないけれど。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その晩のこと。
赤スライムは決心していた。
ずっと自分の気持ちに困惑していたのだ。
このヒトとひとつになりたいと。
おそらく、これはスライムの本能なのだと思う。
下世話な表現をすれば繁殖行動、ヒトの意識で言えばセックスに相当する。
ずっと困惑し、羞恥をもよおし、相手に申し訳なかった。
しかし決心したのだ。
目の前の人物、魔力の視界から判断しておそらく自分と同じスライム。
見慣れた相手に意識してもらうため。
ひょっとしたらこれが最後の邂逅かも知れないのだ。
自分はスライムであり、相手はスライムとはいえヒトの世界で暮らしている。だが、このままでは住む世界が違い過ぎる。
これが最初で最後の出会いならば、せめて愛しい相手の子を産もう。
いささか短絡的かも知れないが、そう思えば想うほど悲しくなるのだった。だから「せめて」と‥‥。
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