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第4章「冒険者は冒険してナンボ」
第33話「冒険者たちの受け入れ」
しおりを挟むシンジは寝ていなかった。
相手もスライム、おそらくは寝なくても良いのだろう。寝ている間に接合が終わっていましたとか、それはちょっと勘弁して欲しい状況だったし。
なので震えながら触手を伸ばす赤スライムに、手を伸ばして応えたのだ。
その瞬間だった。
何かが変わった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「えっ? 先輩?」
「‥‥先輩、って、牧原さん??」
周囲の風景は変わっていない。
夜の宿、狭い部屋、夜着に着替えてルイーザとひとつベッドで寝ている。しかし感覚的には真っ白い空間に浮かび、懐かしい居酒屋従業員の制服で、ご丁寧にも紺色のエプロンまでセットになっていて。
そこに同じ服装の少女、バイト仲間の牧原 香が浮いていた。
「‥‥どうしてここに?」
「えへ、先輩と同じ、スライムに生まれ変わりました~」
真っ白い空間。これはアレだ、生まれ変わる前の、あの神様だか何だかに出会った時に似ている。
それに生前の服装とくれば‥‥。
「つまり、魂同士で出会っている訳か」
「そうみたいですね。でも、良かった‥‥」
香は泣き出した。
シンジがなだめながら聞き出したところによると、最初は薄暗くて確信が持てなかったそうだが、明るい場所ではスライムの視覚でもシンジと知覚でき、再会を喜んだこと。しかしシンジはヒトの姿だし、自分はスライムのままだし、きっと一緒には暮らせないのだろうと諦めかけていたこと。
そしてせめてシンジの子を産もうと、本能に導かれるままに接合を試してみたこと。
「良かった‥‥また会えて良かった‥‥」
そうして長い間、香はシンジに抱き付いて離れなかった。
シンジもどうして香がここに居るか非常に気になったけれど、元来の優しさが今は落ち着くのを待とうと、後でゆっくり聞こうと、香の頭をなで続ける。
隣でルイーザが身動ぐ。おそらくこの「魂の世界」と「現実」とでは時間の流れは同じなのだろう。だとすると夜明けまでまだ8時間以上ある。
ゆっくりと相手をしよう。
「そうか、そういうことか」
その後、落ち着いた香から事情を聞き、そしてシンジも同じようなことを説明した。
さらにスライム生活で話は弾み、シンジは食った相手の能力を自分のものに出来ることを話す。視覚などの五感や能力、技術など。そしてヒト族の魂の影響や擬態などについても詳しく説明していった。
スライムの体内庫については香も知っていたそうで、ちょっと驚く。おそらくスライムとして同じくらいの時間を過ごしていたのだから、気付いていてもおかしくはないかと納得したが。
「今までどんなものを食べた? ある程度食べていたら、その姿に擬態できると思うけど」
「たくさん食べたのは、犬かな~?」
「それ多分、オオカミ」
現実世界でシンジはスライムの姿になり、そして魔狼の姿に変えた。
赤スライムは飛び上がって驚く。もちろん魂世界の香も飛び上がる。
試してみたようだが、まだ出来ない様子だ。
「何回進化した?」
「進化?」
「頭にピコーンと閃くようなやつ」
「あ~~~まだ4回、かな?」
ヒトや動物にはないようだが、魔物は魔素や魂にあたるものを摂取すると進化するらしい。元々、普通の動物や野獣が魔素の影響で進化したものが魔物なのだ。魔物になっても進化し続け、さらに強い魔物になるのだと言う。ギルドの資料室で、そういった学術書を読んだ。
魔物に肉食が多く、ヒトが襲われる所以でもあった。
「俺は10回以上進化して、今はエルダースライムって種族になってる」
「すごいね! でもそれってどこで調べるの?」
「冒険者ギルドや教会の魔道具」
「あるんだ! 冒険者ギルド?」
「そっちに食い付くんだ? 昼間に行った場所がそうだよ」
それじゃ進化しに行くか、とシンジはベッドから抜け出し、赤スライムを肩に乗せた。
接合は続けたままである。放したら会話が出来なくなるし。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それで、これ?」
目覚めたルイーザは、その状況に呆れていた。
シンジともう1人、少女が居たからである。
深夜、大森林の奥地に急いだシンジは、ゴブリンやオークの巣を探して飛び回った。もちろん、赤スライムの進化を促すためである。
ゴブリンを殺し回り、オークを殺し回り、コボルトの巣はスルーして、リザードマンも殺し回り、その全てを赤スライムが食った。
そして何人かの女性を救い出し、手遅れの女性は赤スライムが食う。
救出した女性は冒険者ギルドに預けている。後は領主様を通じて元の生活場所に戻るか、新しくどこかで生活を始めるらしい。そこは行政の仕事なので、一介の冒険者は介入しない。
それはさておき、10回を数えなくとも数回の進化で擬態能力を得た赤スライムなのであった。
それで話は宿屋の部屋に戻る。
カオリはルイーザにも、生まれ変わりや再会の説明をした。
ルイーザもその話に涙し、抱き合って喜んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
最初の、生前世界での居酒屋の事故に話は遡る。
元から憧れはあった。
高校生の牧原香は居酒屋アルバイトの先輩、草江真治に「そろそろ上がれ」と言われたのだ。高校生のバイトは22時前までが鉄則。21時30分になったので、早く帰れとの心遣いなのだろう。帰宅時間が22時であれば良いのだから。
草江真治は誰にでも優しく、そして面倒見も良い。性格も明るくて職場のムードメーカー的な先輩なので、密かに彼に憧れる女子も多かった。彼とお近付きになりたいがために、この居酒屋にアルバイトに入った娘も居るらしい。
たぶん彼は知らないだろうけれど。
香も同様、色々と丁寧に教えてくれ、何かと気にかけてくれる彼に憧れていた。
職場のこともあり、女性先輩からは仕事仲間との恋愛はご法度との注意も受けていて、何より香自身が「お付き合いできたら良いな」というまだ憧れの段階だった訳だけれど。
そこに大型車両の突入事故である。
最後に香が覚えているのは、草江先輩が香を押し倒し、かばうように覆い被さったところまでだった。
死後の白い空間で、何かしらの存在から説明を受けている間、香は真治のことを考えていた。先輩も死んじゃったんだろうなとか、先輩も転生するのかなとか、そんなことばかり。
説明が終わった時、香は質問をぶつめてみた。
(生まれ変わる種族は選べないんですよね?)
――――種族は選べないが、元の知能の高さから相応の種族にはなるだろう。
(特定の種族になりたい訳じゃないんです。草江先輩と同じ種族、同じ場所に生まれたいだけで)
――――そうか、そういった感情であるか。
――――同じ種族になるかはわからない。
――――考慮だけしておこう。
そうして気付いたらスライムになっており、共食いから逃げ出したり、獲物を狩る様々な冒険を繰り返したりして生き延びてきたのだと話す。
そしてあの日。
ヘビの毒に犯され、水場を求めてさ迷ったスライムは、ヒトでないヒトを見付けたのだった。
しかもその姿は、見覚えのある先輩の姿で。
もう離れたくないと追い続け、昨夜やっと接合による意思疎通が叶ったのだと。
「良かったねぇ、良かったねぇ」
「本当だよ~、何度諦めそうになったか~」
ルイーザとカオリは抱き合って泣いていた。
スライムの苦労など想像もつかないが、ルイーザがシンジと出会って半年、その前の数ヶ月もあったらしいから、シンジやカオリがスライムに生まれてけっこうな期間である。その間をあの大森林で生き延びたのだから、その苦労は並大抵のものではないだろう。
またカオリがシンジと再会できたのも、本当に偶然であった。
偶然に頼ったとはいえ、そこまで憧れの人を追い続ける気持ちは、ルイーザにも痛いほどわかる。女としてその達成が何よりの幸せだと感じられたからだ。
だがそこでカオリはしぼんでしまう。
「あ~あ、せっかく苦労して再会できたのに、もうこんな可愛いお嫁さんが居るとか、すっごい空振りだよ~」
「えっ? 何で??」
感覚による意思の離反である。
ルイーザにとっては当たり前のことだが、カオリには多夫多妻の概念がない。こんな可愛い嫁仲間が増えると喜んだルイーザは、カオリの様子に戸惑うばかりであった。
その様子にいち早く気付いたシンジは、苦笑いするばかり。
なので助け舟。
「この世界では、多夫多妻が普通なんだとさ」
「たふたさい?」
「旦那さんや奥さんが何人居ても良いって文化のこと」
「ええっ? そうなの?」
「ここまで頑張って追いかけてきたんだよね? シンジのお嫁さんになりたいんじゃないの?」
もちろん憧れは元からあった。同じ環境で同じ種族になって再会できたら、シンジの人となりが変わっていなければ、きっとまた好きになる。そんな根拠の無い自信だけはあった。
だが実際にお付き合いをすっ飛ばし、結婚という話になるとカオリはやはり及び腰。昨夜の、子供を作って独りで育てる決意はどこへやら。
しかしそこは気心は優しく気も回るシンジのこと、そしてここまで追いかけてくれた旧知の少女に嫌な想いなどあるはずもなく、自らカオリの前に進み出た。
「もし良ければ、俺の妻になってくれないか? 2番目で申し訳ないが、ずっと大事にすると誓う」
「きゃーーー!!」
叫んだのはルイーザだった。思わずシンジも脳天チョップ。
「どうかな?」
しばらく待って返事を促すが、それでもカオリは黙ったままだった。さらに待つことしばし、カオリはホロホロと涙を流す。
女の娘の涙に、シンジは慌てるでもなく「少女の涙ってキレイだなぁ」とか「擬態スライムの涙ってどうなっているんだろう?」などと、違うことを考えていた。そしてさらに待つ。
「‥‥良いの?」
そんなポツリとつぶやくような小さなささやきに、シンジは黙ってうなずき、言葉の続きを待つ。
「本当に‥‥良いの? 迷惑じゃない?」
「迷惑なもんか。ここまで追いかけてくれたんだ、それを受け止められないなんて、男じゃないだろ」
繰り返し申しますが、スライムに性別はありません。
そしてシンジに抱き付いて大泣きをしたカオリが、ようやく泣き終えたのは1時間後くらい。宿屋の朝食時間になった頃だった。ルイーザももらい泣きで、目を真っ赤にした様子にチームの皆がギョッと驚いたのは、また別の話。
ちなみに時計の無いこの世界、時刻を知るのは太陽の位置と教会の定期的な鐘の音のみ。1時間というのも体感的な時間に過ぎない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
昨夜のうちにカオリの冒険者登録は終わっている。
それはヒトに擬態できるようになった赤スライムを連れてギルドに戻っており、そこで夜番の副支部長に事情を説明しておいたからで、種族を明らかにすることも目的のひとつであった。
赤スライムは毒オオスライムだそうで、毒を精製できる大スライムという分類になるらしい。
もちろん、ギルドの人々も初めて聞く種族名だ。
「あぁ? 責任者? シンジで良いんじゃねぇ?」
そんな投げやりな副支部長の判断で、ちゃんとカオリの登録は終了していたのだ。シンジとしても笑うしかない。
そして朝イチでチームに相談。もちろん揉めたが、総意は「今更スライムが増えてもね」な感じで、さらに冒険者に成り立ての10級が1人加入したところでチームは7級のままだから、反対要素が無かったのでカオリの加入は問題なく認められたのである。
「よ、よろしくお願いします」
「やっぱさ、カオリちゃんもシンジ君みたいに強いの?」
「そうそう、そこんところ気になるよな」
「そんなに強くはない、かな?」
実際に摂取した高等魔物の数も多くなく、あまり技能技術は得ていないようだった。
しかし触手とか普通に使えるので、並みの冒険者とは比較にならない。
「ジミーくらい、かな?」
「あぁ‥‥」
「何ですかその、この中では最弱みたいな反応はッ!」
もちろん個人個人の性格の相性はあるけれど、チームとしての相性は悪くない。その気安さと雰囲気に、カオリは生前の居酒屋を思い出し自然とヒトとして笑えるのだった。
「まずは服と装備だな!」
今カオリはルイーザの服を借りている。朝はシンジの服だったのだが、ルイーザが強引に着替えさせたのだ。曰く「女の娘なのに!」だそうで。
余談だが、ゴブリンなど魔物の言語は習得したものの、やはり数人のヒト族摂取ではカオリはヒト族の言語知識は得られなかった。しかし接合によりシンジの能力が分配できるようで、言語や武術、ヒト族の常識などの知識をカオリに分け与えている。
こんなことで知識の統合・分配が行えるなど、実に不可思議な生物だと思うシンジであった。
いや本当に、生物かどうか怪しいとシンジ自身も疑っているのだけど。
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