スライムの、のんびり冒険者生活

南柱骨太

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第4章「冒険者は冒険してナンボ」

第34話「冒険者たちの驚き」

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 結局、チーム“夜明けの風”の大森林遠征は、昼からの出立となった。
 ルイーザ、サニア、サンドラの3人によるカオリの服飾・装備の仕立てに時間がかかったからである。女性の買い物は時間がかかる、これは異世界でも普遍らしい。

 武器は新しく購入することもなく、シンジの体内庫から有り合せの短剣を装備。防具は革の胸当てとロングブーツで様子見。それだけではシンプル過ぎると、首元を肩まで覆う赤いケープと、腰にファンシーなデザインのベルトポーチが着けられた。
 さすがにリュックは可愛いデザインのものは無いので、ルイーザとお揃いのものを選んだようだ。


 さて、実際の戦闘だが。
 シンジの指摘でスライムは傷付かないことを学んだからか、その運動能力の高さを使った攻撃で攻めまくる。後はやはり生物の知識か、急所を狙ってゴブリンやオークを次々と倒していく。
 どうやら「記憶」は「知識」としてあるようで、この違いを明確に説明することは難しいのだが、前世ではうろ覚えだった記憶が今ではしっかりと知識として残っている。おそらく転生してスライムになった影響かも知れない。
 その代わりとして、家族や交友関係などの名前が思い出せなかったり、記憶に関しての影響は様々だ。
 しかしシンジにしてもカオリにしても、お互いの名前は出会った瞬間に思い出せていたのは、謎といえば謎なのだけど。
 ともあれ、カオリは学校で習った「人体のしくみ」という「知識」を、ここでいかんなく発揮できたのであった。

「何だよ、ジミーくらいかと思ったら、シンジ並に動けるじゃねーか」
「それはジミー君より盾使いの悪いアタシの悪口かい?」
「ヘッ、力と足捌きじゃ負けてないだろ」

 それぞれがオーク1匹であれば、個人で倒せる実力の持ち主だ。オーク6匹の集団であればもはや修練にもならないレベルである。
 そもそもカオリが3匹を立て続けに切り殺したからこそ、残りを袋叩きにできるのではあるが。

「ヒト型の魔物を殺すのに、躊躇ちゅうしょはないみたいだな」
「うん、スライム時代もあるし、美味しい肉にしか見えない」

 シンジの確認に、苦笑いがもれるカオリ。
 前世の日本人の感覚では、ヒトではないにしろ生物を殺すことに罪悪感を覚えないか、ちょっと心配ではあった。けれどその心配は無さそうだ。
 元は剣術などの覚えも無いようだけれど、そこはシンジが与えた知識と運動能力で押し切っているような感じ。
 今はそれでも良いが、今後は剣やナイフの実働習熟も必要だろうとは思う。

「じゃ、次は後衛の3人‥‥ルイーザとサニア、ユーノと遊撃でカオリ、いってみようか」

「次はサンドラとジミー、ジェンド、インディの4人で。森の木が狭いんで、横方向も注意して」

「次はジミー、サニア、インディ、ドレッドで。攻撃力が落ちるんで、オークをバラけさせないように」

「「「「「スパルタだ!」」」」」

 そんなことはわかり切っているじゃないか、とかジミーはため息。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 3日間の森ごもりの後、チーム夜明けの風は街へと戻った。
 今夜は打ち上げを終えて、それぞれが久しぶりのベッドで安眠を貪っている。

 でも睡眠の必要のないシンジはルイーザを寝かし付けた後、同じくカオリを連れて夜の冒険者ギルドへ訪れていた。

「久しぶりじゃの。やっと戻ってきおったか」

 ギルドの支部長は嬉しそうに微笑む。顔中毛だらけのドワーフの笑みは色々と凶悪だ。

「その者が例の?」
「あっ、はい、カオリと言います」
「まだこれからも増えるんじゃなかろうな?」
「そうそう無いですよ、こんな状況」

 確かにの、とまた笑う。
 そしてシンジは夜の依頼と目的について支部長に話した。
 要はカオリの実力底上げだ。出来るだけ多くの魔物を倒し、その技能技術を熟練させたいという目的。

「ギルドとしては敵対はしたくないし、お前さんの心根もわかっているつもりじゃ。して、その娘はどうかじゃな」
「俺以上に平和主義ですよ」
「ふむ、なら今はお前さんの言葉を信用しておこう」

 しばらくの世間話の後、シンジとカオリは大森林へと走った。
 触手を使った高速移動は某蜘蛛男のようで、カオリも楽しみながらすぐに慣れたようである。

 そしてオークやゴブリンの巣を殲滅して回り、何人かの女性を助け出し、何人かの女性を消化した。助からなかった不幸な女性たちに手を合わせ、その魂の安寧あんねいを願うカオリがシンジには印象的に映る。
 2人ほどオークの子を宿していた女性もいたが、それはシンジが処理し堕胎させた。
 どのような手段かは語らないでおこう。


 大森林の外まで移動し、体内庫から出した荷車に女性たちを乗せ、何とか夜明け前にはエルゲの街に戻ることができた。
 まだ街門は閉まっている時間帯だったが、女性救出の緊急事態ということで特例として通用扉を開けてくれる。さすがに衛兵もそこまで四角四面のお役所仕事ではないのが救いだ。
 女性たちはギルドに預け、シンジ達は宿に戻ったが。
 少し遅くなったことで、既にルイーザが起きていて、勝手に2人で出掛けたことを叱られた。
 勝手をしたことではなく、危険なことをしたことについてである。
 さすがにこの辺、いくら危険は少ないと説得しても、少しでも危険があるなら心配になると涙目で訴えられた。カオリがごめんねと、ルイーザに抱き付いて謝っている。

 ちなみにカオリはシンジたちと同じ部屋に住んでいた。
 お互いに話し合った結果で、周囲からもシンジの2人目という認識。
 致し方なし。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ランクをね~上げておこうかと思うの~」

 冒険者ギルドのランクの話だ。
 チームのランクはメンバーのランクの平均値で決まるが、初心者10級のカオリが加入しても“夜明けの風”のチームランクが下がらなかったのは幸いだった。そこでカオリのランクを少しでも上げれば、チームのランクが上がるかもしれないという考えからだ。
 実際にはカオリが7級まで上がっても、チームランクは現状の7級のままなのだが、カオリはそこまで理解していない様子。シンジたち5人が6級に上がれば、チームランクも6級に上がるとか、それくらい。元々、多人数のチームはランクが上がり辛いこともある。

 ちなみにメンバーのランクはこのようになっていた。

5級:ジェンド、ドレッド
6級:インディ、サンドラ、ユーノ
7級:ジミー、シンジ、サニア、ルイーザ
10級:カオリ

 ちなみにチームのリーダーは、年長者でもありランクも高いジェンドが執っているけれど、実はシンジが適任ではないかと誰もが思っていたりする。
 シンジは遠慮するだろうと、誰も言わないが。

 閑話休題それはさておき

「良いんじゃない? カオリならすぐ上がると思うよ?」
「それでね、それでね、今日明日のお休みもギルドの依頼を受けてみようかと~」
「それならさ、私とシンジで一緒に行こうか」
「えっ?」
「え?」
「え~?」
「何よそれ! さては2人だけで行くつもりだったの?!」
「違うよ~、1人だけで行くつもりだったんだよ~」
「いや俺は、俺かルイーザが付いていけば良いかと」
「‥‥? それよりも、2人で付いて行った方が、8級の依頼を受けられるから、楽でしょ?」
「あっ! そうか!!」

 (7+10)÷2=8.5(9級)よりも、(7+7+10)÷3=8(8級)なので、3人なら8級の依頼が受けられるという訳で。カオリともう1人7級なら、9級の依頼が受けられると思っていたシンジは目から鱗。
 こういった読み書き算術は、ジミー達3人はかろうじて出来るというレベルだった。
 なので加算減算だけでなく乗算除算を、あとギルドの書物で学習した難しい言葉などもシンジは3人に教えていた。
 サニアとルイーザはそれなりに使いこなすようになったが、ジミーが少しだけ遅れている感じ。
 特に九九の暗記。
 基本でつまづく辺りジミーはおそらく理系。そして微妙に脳筋。

 ともあれジミーやジェンドに断りを入れ、3人はギルドへと赴いた。
 そして薬草採取など、10級、9級、8級の依頼を複数受けて、大森林へと入ったのである。
 今日もカオリを引き連れて買い物に回ろうと企んでいた、サニアとサンドラはガッカリだ。
 ユーノはそこまで面倒を見なくても、と苦笑い。仕方なくサニアとサンドラに自分が連行されるなど露も思っていなかったようだ。



「じゃ~~~ん! 9級に上がりました!!」

 その「じゃ~ん」が何を意味する言葉なのか、こちらの世界出身の者はわからなかったが、ともかく一致したツッコミは「ちょっと待て」だった。
 確かに実力のある初心者が数日で9級に上がることは不可能ではないだろう。しかし何をどうやったらそこまでの評価が受けられるのか、ギルドの責任者出て来い!な気持ちである。
 それは3人のパーティーで依頼を受けたからで、8級・9級・10級の依頼をそれぞれ複数達成した結果であり、実はシンジももう少しで6級に上がりそうな評価ポイントを稼いでいたりする。
 シンジ自身も知らないことだけれど。

 ギルドカードを手に、うれしそうにはしゃぐカオリを見て、それぞれは野暮なツッコミは止めた。喜びに水を差すこともないだろうと。

「でもチームのランクは上がらないみたい。ちょっとガッカリ」
「そりゃそうだろう。おそらくお前ら全員が6級にならないとな?」
「そっか~、もっとがんばらないとか~」
「‥‥どうする? 私たちも明日、依頼受ける?」
「そこまで急ぐことも無いでしょ?」

 ちょっとだけ、サニアも慌てたようだった。
 それはともかく、夕食の場だ。今日のことや明日のことを楽しく話し合い、宿の食事を楽しむメンバーたちであった。

「ちなみに何受けたよ?」
「ゴブリン討伐10匹と5匹、オーク討伐5匹、茶色イノシシの肉、森ウサギの肉、野草採取雑多、薬草採取雑多。それぞれ複数」
「そりゃ‥‥上がるか」

 シンジにこっそり聞いたインディは、昇格も納得である。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 さて、二度あることは三度ある。

『牧原さん‥‥やっと見付けたよ‥‥』

 はい、お約束の3匹目のドジョウならぬ、3匹目のスライムのようです。

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