122 / 162
#1 レツオウガ起動
Chapter03 魔狼 09-03
しおりを挟む
「いや、あの、ちょっと。なにやってんだキミ」
珍しく目を丸める冥に、風葉は聞く耳を持たない。
代わりに一つ息をつき、ゆっくりと目を閉じ、静かに思い出す。
自分から『力が欲しい』と強く願いでもせん限りは変わらん――以前、雷蔵は確かにそう言った。
逆に言えば。強く願えば、フェンリルの力を得られると言う事ではなかろうか。
Rフィールドを突破するための力を。
辰巳の所へ、向かうための力を。
『……! お、おい冥! 利英! すぐ止めさせろ!』
風葉の目的を察し、画面向こうで巌が机を叩く。
だが、もう遅い。
(Rフィールドとか、術式がどうかとか、難しいことは私には分からない。けど――)
正しい制御方法なんて知らない。故に、風葉は願った。ひたすらに、遮二無二願った。
(私に、本当に憑依してるんなら――!)
握った拳が、小さく震える。眉間のシワが、じわりと深まる。
(お願い! 力を貸して!)
心の中へ、風葉は力の限り叫ぶ。
瞬間、風が吹いた。
生ぬるい、砂と鉄の味がする、奇妙な風が。
「え、っ」
反射的に、風葉は目を開ける。
――視界いっぱいに広がるのは、ただひたすらに、荒涼とした荒野。
空には月も太陽も無く、赤とも黒とも言い難い色彩が、どこまでも続いている。
風は吹き続けている。きっと世界の果てから吹いているそれは、風葉の肺腑に嫌というほどにおいを滲ませる。
鉄と、砂と、死のにおい。
終焉の、におい。
そんなにおいを運ぶ風の向こう側に、それはいた。
狼だ。
地平線の近く、灰銀色の体毛をなびかせる巨躯の背中に、風葉はそう直感した。
「フェン、リル」
知らず、名を呼ぶ風葉。
直後、巨躯の銀狼――フェンリルは、風葉の目の前に出現した。
息を呑む風葉。自分が引き寄せられたのか、それとも向こうが瞬間移動したのか。
そんな疑問などどうでも良くなるくらいに、フェンリルは巨大であった。
いつか見たオウガローダーとやらよりも、優に二回りは大きいだろうか。人間どころか自動車すら一飲みに出来そうな顎を備えた顔が、風葉に影を落とす。
金色の瞳が、三日月のように歪む。象牙のよりも巨大な牙が、惜しげも無く剥き出しになる。
笑って、いるのだ。
己を望む分不相応な小娘を、内側から食い尽くすために。
――個体によって差はあれど、意志も知識もない一般人が憑依した禍に接触すれば、大抵の場合そのまま禍に引き込まれて精神に変調をきたす。
最悪、死に至る。
珍しく目を丸める冥に、風葉は聞く耳を持たない。
代わりに一つ息をつき、ゆっくりと目を閉じ、静かに思い出す。
自分から『力が欲しい』と強く願いでもせん限りは変わらん――以前、雷蔵は確かにそう言った。
逆に言えば。強く願えば、フェンリルの力を得られると言う事ではなかろうか。
Rフィールドを突破するための力を。
辰巳の所へ、向かうための力を。
『……! お、おい冥! 利英! すぐ止めさせろ!』
風葉の目的を察し、画面向こうで巌が机を叩く。
だが、もう遅い。
(Rフィールドとか、術式がどうかとか、難しいことは私には分からない。けど――)
正しい制御方法なんて知らない。故に、風葉は願った。ひたすらに、遮二無二願った。
(私に、本当に憑依してるんなら――!)
握った拳が、小さく震える。眉間のシワが、じわりと深まる。
(お願い! 力を貸して!)
心の中へ、風葉は力の限り叫ぶ。
瞬間、風が吹いた。
生ぬるい、砂と鉄の味がする、奇妙な風が。
「え、っ」
反射的に、風葉は目を開ける。
――視界いっぱいに広がるのは、ただひたすらに、荒涼とした荒野。
空には月も太陽も無く、赤とも黒とも言い難い色彩が、どこまでも続いている。
風は吹き続けている。きっと世界の果てから吹いているそれは、風葉の肺腑に嫌というほどにおいを滲ませる。
鉄と、砂と、死のにおい。
終焉の、におい。
そんなにおいを運ぶ風の向こう側に、それはいた。
狼だ。
地平線の近く、灰銀色の体毛をなびかせる巨躯の背中に、風葉はそう直感した。
「フェン、リル」
知らず、名を呼ぶ風葉。
直後、巨躯の銀狼――フェンリルは、風葉の目の前に出現した。
息を呑む風葉。自分が引き寄せられたのか、それとも向こうが瞬間移動したのか。
そんな疑問などどうでも良くなるくらいに、フェンリルは巨大であった。
いつか見たオウガローダーとやらよりも、優に二回りは大きいだろうか。人間どころか自動車すら一飲みに出来そうな顎を備えた顔が、風葉に影を落とす。
金色の瞳が、三日月のように歪む。象牙のよりも巨大な牙が、惜しげも無く剥き出しになる。
笑って、いるのだ。
己を望む分不相応な小娘を、内側から食い尽くすために。
――個体によって差はあれど、意志も知識もない一般人が憑依した禍に接触すれば、大抵の場合そのまま禍に引き込まれて精神に変調をきたす。
最悪、死に至る。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる