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#1 レツオウガ起動
Chapter03 魔狼 09-04
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実際、平素の風葉であればそうなっていただろう。巌が全力で止めようとした理由もそれだ。
だが。ここに誤算が一つあった。
「わ、ら、う、なぁーっ!」
風葉は今、たいへん頭に来ているのだ。
「アンタがフェンリルなんでしょ!? 今! 凄く大変なの! こんなとこにいないで手伝ってよ!!」
目の前の巨大な銀狼に微塵も臆する事なく、風葉はビシッと指を突き付ける。
「てかなんなのココ!? どうせ私の心の中とかそういうのなんでしょ!? 取り憑いたのは事故だったかもしんないけど、だからって勝手にこんなヘンなトコ造んないでよ!!」
今まで散々振り回されっぱなしなフラストレーションをついでに上乗せし、風葉は全力で文句を叫ぶ。
完全に目論見が外れたフェンリルは、宿主のなすがまましょんぼりとうなだれた。心なしか、その体躯も一回り小さくなったように見える。
「大体殺風景すぎてセンスが――」
「うんうん。風葉の言い分はよーく分かったから、その辺にしといてあげな」
背後からかけられた一言に、まだまだ続いたであろう文句を風葉は中断。
がば、と勢い良く振り返る。
「や」
にこやかに笑う冥が、そこに立っていた。
「あ、れ。冥、くん? あの、いつからそこに?」
「笑うな、って叫んだ辺りからかな。お察しの通り、ここは風葉の心の中でさ。君がいきなりフェンリルに接触しようとしたから、こうして急いで感応してみた訳なんだが……いやいや、驚かせてもらったよ」
堪え切れず、冥は口元を抑えてころころ笑う。指の隙間から相変わらず艶めいた色気を見せる唇を、しかし風葉は直視出来ない。頬を抑え、フェンリルと同様にうなだれている。
言わんや、我に返った反動である。
「ま、心配なかったようだね。禍を従えるのに一番必要なのは心の強さだ。今みたいな啖呵を切れる風葉なら、問題なくこのフェンリルを従えられるさ」
「え、ホントに!?」
「ああ、僕が保証するよ」
満面の笑みを浮かべながら、冥は右手を差し出す。
少し逡巡したが、風葉はその手をまっすぐに握り返す。
白く、ひんやりと冷たい掌。その感触を握りしめながら、風葉は振り返る。
心の中に巣食った巨躯の銀狼、フェンリル。じっと、真剣に見つめてくる金色の目を風葉は見つめ返す。
「力を、貸して貰うわよ」
辰巳を、助けるために。
お互い半ば睨むような、鋭い視線のぶつかり合い。この膠着をしばらく見ていたい冥だったが、生憎と状況は秒単位の遅れすら許さない。
「さて、戻ろうか」
惜しみつつも冥は指を鳴らし、足元に直径三メートルほどの魔法陣を展開。紫色に輝く精緻な紋様が、立ち上る光で二人を包む。
紫色に埋没する視界。エレベーターに揺られるような、奇妙な浮遊感。フェンリルが作り出した心象風景から、利英の研究室へ戻るのだ。
薄れていく風とにおい。遠ざかる鉄錆びた荒野。
それを肌で感じながら、風葉は確かに聞いた。
応、と。
仕方なさそうに応える、フェンリルの遠吠えを。
だが。ここに誤算が一つあった。
「わ、ら、う、なぁーっ!」
風葉は今、たいへん頭に来ているのだ。
「アンタがフェンリルなんでしょ!? 今! 凄く大変なの! こんなとこにいないで手伝ってよ!!」
目の前の巨大な銀狼に微塵も臆する事なく、風葉はビシッと指を突き付ける。
「てかなんなのココ!? どうせ私の心の中とかそういうのなんでしょ!? 取り憑いたのは事故だったかもしんないけど、だからって勝手にこんなヘンなトコ造んないでよ!!」
今まで散々振り回されっぱなしなフラストレーションをついでに上乗せし、風葉は全力で文句を叫ぶ。
完全に目論見が外れたフェンリルは、宿主のなすがまましょんぼりとうなだれた。心なしか、その体躯も一回り小さくなったように見える。
「大体殺風景すぎてセンスが――」
「うんうん。風葉の言い分はよーく分かったから、その辺にしといてあげな」
背後からかけられた一言に、まだまだ続いたであろう文句を風葉は中断。
がば、と勢い良く振り返る。
「や」
にこやかに笑う冥が、そこに立っていた。
「あ、れ。冥、くん? あの、いつからそこに?」
「笑うな、って叫んだ辺りからかな。お察しの通り、ここは風葉の心の中でさ。君がいきなりフェンリルに接触しようとしたから、こうして急いで感応してみた訳なんだが……いやいや、驚かせてもらったよ」
堪え切れず、冥は口元を抑えてころころ笑う。指の隙間から相変わらず艶めいた色気を見せる唇を、しかし風葉は直視出来ない。頬を抑え、フェンリルと同様にうなだれている。
言わんや、我に返った反動である。
「ま、心配なかったようだね。禍を従えるのに一番必要なのは心の強さだ。今みたいな啖呵を切れる風葉なら、問題なくこのフェンリルを従えられるさ」
「え、ホントに!?」
「ああ、僕が保証するよ」
満面の笑みを浮かべながら、冥は右手を差し出す。
少し逡巡したが、風葉はその手をまっすぐに握り返す。
白く、ひんやりと冷たい掌。その感触を握りしめながら、風葉は振り返る。
心の中に巣食った巨躯の銀狼、フェンリル。じっと、真剣に見つめてくる金色の目を風葉は見つめ返す。
「力を、貸して貰うわよ」
辰巳を、助けるために。
お互い半ば睨むような、鋭い視線のぶつかり合い。この膠着をしばらく見ていたい冥だったが、生憎と状況は秒単位の遅れすら許さない。
「さて、戻ろうか」
惜しみつつも冥は指を鳴らし、足元に直径三メートルほどの魔法陣を展開。紫色に輝く精緻な紋様が、立ち上る光で二人を包む。
紫色に埋没する視界。エレベーターに揺られるような、奇妙な浮遊感。フェンリルが作り出した心象風景から、利英の研究室へ戻るのだ。
薄れていく風とにおい。遠ざかる鉄錆びた荒野。
それを肌で感じながら、風葉は確かに聞いた。
応、と。
仕方なさそうに応える、フェンリルの遠吠えを。
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