神影鎧装レツオウガ【小編リマスター版】 #1

横島孝太郎

文字の大きさ
123 / 162
#1 レツオウガ起動

Chapter03 魔狼 09-04

しおりを挟む
 実際、平素の風葉であればそうなっていただろう。巌が全力で止めようとした理由もそれだ。
 だが。ここに誤算が一つあった。
「わ、ら、う、なぁーっ!」
 風葉は今、たいへん頭に来ているのだ。
「アンタがフェンリルなんでしょ!? 今! 凄く大変なの! こんなとこにいないで手伝ってよ!!」
 目の前の巨大な銀狼に微塵も臆する事なく、風葉はビシッと指を突き付ける。
「てかなんなのココ!? どうせ私の心の中とかそういうのなんでしょ!? 取り憑いたのは事故だったかもしんないけど、だからって勝手にこんなヘンなトコ造んないでよ!!」
 今まで散々振り回されっぱなしなフラストレーションをついでに上乗せし、風葉は全力で文句を叫ぶ。
 完全に目論見が外れたフェンリルは、宿主のなすがまましょんぼりとうなだれた。心なしか、その体躯も一回り小さくなったように見える。
「大体殺風景すぎてセンスが――」
「うんうん。風葉の言い分はよーく分かったから、その辺にしといてあげな」
 背後からかけられた一言に、まだまだ続いたであろう文句を風葉は中断。
 がば、と勢い良く振り返る。
「や」
 にこやかに笑う冥が、そこに立っていた。
「あ、れ。冥、くん? あの、いつからそこに?」
「笑うな、って叫んだ辺りからかな。お察しの通り、ここは風葉の心の中でさ。君がいきなりフェンリルに接触しようとしたから、こうして急いで感応してみた訳なんだが……いやいや、驚かせてもらったよ」
 堪え切れず、冥は口元を抑えてころころ笑う。指の隙間から相変わらず艶めいた色気を見せる唇を、しかし風葉は直視出来ない。頬を抑え、フェンリルと同様にうなだれている。
 言わんや、我に返った反動である。
「ま、心配なかったようだね。禍を従えるのに一番必要なのは心の強さだ。今みたいな啖呵を切れる風葉なら、問題なくこのフェンリルを従えられるさ」
「え、ホントに!?」
「ああ、僕が保証するよ」
 満面の笑みを浮かべながら、冥は右手を差し出す。
 少し逡巡したが、風葉はその手をまっすぐに握り返す。
 白く、ひんやりと冷たい掌。その感触を握りしめながら、風葉は振り返る。
 心の中に巣食った巨躯の銀狼、フェンリル。じっと、真剣に見つめてくる金色の目を風葉は見つめ返す。
「力を、貸して貰うわよ」
 辰巳を、助けるために。
 お互い半ば睨むような、鋭い視線のぶつかり合い。この膠着をしばらく見ていたい冥だったが、生憎と状況は秒単位の遅れすら許さない。
「さて、戻ろうか」
 惜しみつつも冥は指を鳴らし、足元に直径三メートルほどの魔法陣を展開。紫色に輝く精緻な紋様が、立ち上る光で二人を包む。
 紫色に埋没する視界。エレベーターに揺られるような、奇妙な浮遊感。フェンリルが作り出した心象風景から、利英の研究室へ戻るのだ。
 薄れていく風とにおい。遠ざかる鉄錆びた荒野。
 それを肌で感じながら、風葉は確かに聞いた。
 応、と。
 仕方なさそうに応える、フェンリルの遠吠えを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...