神影鎧装レツオウガ【小編リマスター版】 #1

横島孝太郎

文字の大きさ
126 / 162
#1 レツオウガ起動

Chapter03 魔狼 10-03

しおりを挟む
「……。どうにか、出来るってのかい。キミが」
 怒りも笑いもなく、努めて真顔で視線を向ける利英。
 一語ずつ、区切りながら確かめるその問いかけに、風葉は淀みなく頷いた。
 ――本家と違い、地上の、しかも霊地の上に出現した人造のRフィールド。今はまだ幻燈結界げんとうけっかいでどうにか隔離できているものの、放っておけばどんな悪影響が出るか分かったものではない、危険な存在。
 しかして今の風葉の目には、その赤は障子紙より華奢な紙細工にしか見えないのだ。
「私なら、アレを壊せます」
 まず利英を、次いで巌を、風葉はまっすぐに見据える。
「だから、お願いします。五辻くんを、助けて下さい」
『……』
 沈黙。風葉は拳を握りしめ、巌は手を組んで、画面越しにお互いを見据え合う。
 言外に、風葉はこう言っているのだ。
 私の力を使って下さい、と。
 絡み合う視線。意地と、怒りと、信念と、打算とが、画面越しに音もなく渦を巻く。
 室内の空気は秒単位で重さを増し、じわりと締め付ける重圧に利英が声を上げそうになった頃――ふ、と巌が一つ息をついた。
『まったく。資料以上に……』
 跳ねっ返りだな、という続きを巌はすんでのところで噤む。
 そして、考える。どの選択が最良なのか。
 実際、ここで風葉の懇願を突っぱねる事も出来るのだ。Rフィールドを突破するだけなら、エッケザックスから送られてくるだろう術式を、冥に持たせれば済む話だ。後は予定通りオウガの自爆まで持っていけばいい。
 そうなれば試験運用と観察の対象は全て消滅し、晴れてファントム・ユニットは解散。責任は追求されるだろうが、それでも巌は凪守なぎもり本隊へ復帰できる事だろう。
 二年前の贖罪を、一つも果たせないままで。
 何も、何ひとつも為せないままで。
『……』
 程無く、結論は出た。
『……理由はどうあれ、一般人に荒事をさせるわけにはいかない』
 まぁ当然だ。道理である。
「そんな!」
 歯噛し、それでも風葉は食い下がろうとする。
「でも、私は五辻くんに――!」
『ところで、凪守は半民半官の組織でな。霊力の高い一般人をスカウトする事態がある』
 そんな風葉の機先を、巌は絶妙なタイミングで制した。
 実際、巌の言葉に嘘はない。風葉のようにまがつに憑依され、何かの拍子でそれを使いこなしてしまう一般人はたまにいる。
 それをスカウトし、戦力として迎え入れる事もままある。
 だが、そんな一般人を鉄火場へ即時投入する状況など、果たして過去にあったろうか。
『……なってみるかい。五人目のファントム・ユニットに』
 どうあれ、巌はその選択肢を示した。心の隅に、わだかまりをおいやりながら。
「はい!」
 そうして、風葉は了承した。心の中に、迷いは一切無かった。
 自分とは違う、若人らしいまっすぐさに、巌は小さく笑う。
 しかる後、巌もまた迷いを捨てた。十全とはいかなくとも、せめてその決意には応えねばなるまい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

平凡志望なのにスキル【一日一回ガチャ】がSSS級アイテムばかり排出するせいで、学園最強のクール美少女に勘違いされて溺愛される日々が始まった

久遠翠
ファンタジー
平凡こそが至高。そう信じて生きる高校生・神谷湊に発現したスキルは【1日1回ガチャ】。出てくるのは地味なアイテムばかり…と思いきや、時々混じるSSS級の神アイテムが、彼の平凡な日常を木っ端微塵に破壊していく! ひょんなことから、クラス一の美少女で高嶺の花・月島凛の窮地を救ってしまった湊。正体を隠したはずが、ガチャで手に入れたトンデモアイテムのせいで、次々とボロが出てしまう。 「あなた、一体何者なの…?」 クールな彼女からの疑いと興味は、やがて熱烈なアプローチへと変わり…!? 平凡を愛する男と、彼を最強だと勘違いしたクール美少女、そして秘密を抱えた世話焼き幼馴染が織りなす、勘違い満載の学園ダンジョン・ラブコメ、ここに開幕!

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...