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第一話:サイコキネシスとあの日の約束
邂逅
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地面を揺らして、瓦礫が雨のように降り注ぐ。
無数の礫に俺の身体は粉々に砕かれて――いない。
瓦礫は俺よりずっと前方に落ちていた。立ちこめる土煙の中から、弾き飛ばされた小さなかけらがカツ、カツンと跳ねてきて、投げ出された俺の爪先に当たって止まった。
「……グェッ、あ、あれ?」
「全く。見てられませんね!」
俺の背後に誰かが立っている。というか、その人に襟首を掴まれている。襟が喉に食い込んで苦しい。よく見ようと首を反らせるとパッと離された。ついた尻餅が思いのほか痛くて涙が滲む。
「大丈夫ですか、キミツカくん」
「え、はい……」
大丈夫って何に言ってる?瓦礫攻撃が?襟首による首吊りが?それとも尻餅が?
立ち上がり、自分の尻をさする。顔を上げると、そこに立っていたのは同い年くらいの女の子だった。
まず最初に目に入ったのは、宝石のような青い瞳だった。頬には赤いハートのフェイスペイント。
それと、レモン色のシャツに、胸元のオレンジ色したリボン。夕焼け色のスカート。金髪のツインテールは地面につきそうなほど長い。
最後にもう一度顔を見て、……誰かに似ている。それから頭上に。金糸のような髪をかき分け、ぴこぴこと揺れている白い兎の耳。
…………これは、もしかして、あれか。
「……魔法少女?」
「おや、わかります?一発で属性を看破するとは、中々にオタクですね!」
彼女は組んだ手を頬に沿わせ、高く澄んだ声で、嬉々として言う。
そりゃあ魔法を使っているところをしっかりとこの目で見てしまったわけだし、第一こんな片田舎の住宅街をそんな格好して夜中うろついてるただの人がいたら、かなりヤバイと思う。うっかり事情も考えず反射的にカウンセリングを勧めてしまうかもしれない。
彼女は一歩詰め寄ってくる。
「ねえねえキミツカくん、すごいでしょう?生の魔法少女ですよ?見て見て、このかわゆい衣装!山吹色から朱色へのグラデーション鮮やかなひらひらボックススカートに、夜の帳が降りたような濃紺のふわふわパニエ!スカートの端にはウサちゃん白抜きしてあるんです!実際アタマにうさ耳ついてますしおすし!私うさちゃんなんですよ!うさうさ!かわいー!ミニスカニーソは正義ですよね!ほんとのとこ、太ももまであるニーソはオーバーニーソックスって言うらしいですよ、知ってました?知ってますよね、有名ですもの!でもミニスカニーソってリアルでやってる人見ると九割方キッツい見た目になりますよね!ふにゅう~とかリアルに言う姫ほどヤバイ奴なの何なんでしょうね!正気に戻れ!ってはっ倒してえよな!そうそう、ふりふりは流石に似合わないかなぁと思ってフリルは少なめなんです!その代わりリボンをたくさんつけて、ちょっと盛りすぎかなとは思ったんですけど、可愛いからいいですよね?可愛いは正義って名台詞もありますし!ね?ね?この衣装、私に似合いますよね?よね?あっ、顔をマジマジと見るのはナシでお願いします、事務所NGだと思っていただければ!恥ずかしいですよきゃー!」
「ちょ、近い!早い!なんて!?」
マシンガントークすぎる!
リスとか子猫みたいに可愛いらしくくるくる動いてたけど普通に狂気を感じる!
「おっと?」
ピクッと中折れしていた片耳が立った。リボンとチャームで飾られた金の鍵型ステッキを片手に構えて、うさ耳の魔法少女?はいまだ土煙立ち込める瓦礫を睨む。
「とりあえず、今はこの場を離れましょうか。弟さん、話が通じなさそうですし」
彼女が言うなり、生垣の槍が土煙を切り裂いて飛んできた。彼女はステッキの頭、円形飾り部分を前方に鋭く突き出す。
「【管理者権限・障壁】!」
瞬時に身長ほどの大きさの光の時計盤が何重にも一列に並んだ。槍は時計盤を一枚砕く度に速度を落としてゆく。ついには最後の一枚を砕くことなく、生垣は地面に落ちた。
揺れが収まると魔法少女?はスカートとツインテールを翻して俺の腰に手を回した
「よし。じゃ、いっきまっすよぉ」
「行きますよって、どこへ――ってぇ!?」
肩に担ぎ上げられる。俺よりちょっと背の低い身体のどこにこんな力が!?
「口閉じててくださいね。舌噛みますよ」
「えっ?ッヴ」
重力がいきなりめちゃくちゃ強くなった。同時に地面が急速に離れていく。だんだん圧力が緩んで、それから今度は逆に強烈な浮遊感に包まれる。
これは……、これは……跳んでる!
民家の屋根にトンッと降り立った魔法少女はそのままのスピードでまた跳ねる。
「まて!!逃げんなァ!!」
遠く地上で、公孝が怒鳴っているのが見えた。怒りながら、弟は泣いていた。
***
「うぐっ、げっ、おぇっ」
着地の度に振動がモロに胃にくる。これどういう状況なの。
華奢な体つきの魔法少女に肩に軽々と担がれ、暴れる弟から守ってもらう男ってなんなんだろう。情けなさすぎる。マツジュやトモルに知られたら死ぬまで語り草にされる。頭を抱えたくなったけと、迂闊に動くと落ちそうだった。ふと、父さんのセリフを思い出す。
『逆に考えるんだ。お姫様抱っこじゃなくてよかった』と……。これ俺の父さんじゃねえな。
しばらく飛び跳ねて、適当な民家の庭で解放された。
「ここまで来れば大丈夫ですかね。よいしょっと」
自分一人では死んでいたことを考えれば、一応命の恩人なわけで。
「助けてくれてありがとう。ところで……えーっと、あんたは?」
うさ耳が両方ピンと立った。
「よくぞ聞いてくださいました!」
ステッキをバトンのように回し、彼女は前口上を高らかに述べた。
「その質問こそ私の時間!
誰そ彼なりや?と問われれば、喜んで答えて差し上げましょう!
私こそが、『夢の管理者』!
りとるうぃっち☆らびっと・おぶ・とわいらいと!
気軽にトワイライトバニーとか、たそがれうさちゃんとお呼びください!」
パッチーン!と音が聞こえそうなくらいに完璧なウインクが決まった。背景に星が散っているのが見える。あざとい。
「リトルウィッチ」
「りとるうぃっち、です。ひらがな。表記イズ重要」
何やらこだわりがあるらしい。だけど、トワイライトバニーもたそがれうさちゃんも長くて呼びづらい。ここは申し訳ないけど……。
「長いからラビットでいい?」
「そんならラビで」
すげえ短くなった。こだわりじゃねえのか。
「じゃあ、ラビちゃん」
「ラビちゃん。ラビちゃん!いいですね、その響き!気に入りました!」
手を叩いではしゃいだかと思えば、ラビは恭しく一礼する。
「それで、このラビちゃんに何の御用でしょう?」
「タカ……弟があんな風になった理由って知ってる?」
ラビは「もっちろん!」と手を当てふんすと胸を張った。
「何てったって管理者ですので!弟さんはですね、ズバリ!【悪夢】に取り憑かれています!」
「悪夢、に取り憑かれる……?」
大きく頷いて、ラビは声を真剣な調子に変えた。
「弟さん、何か思いつめたりしてませんでしたか?」
普段の弟を思い出す。
そういえば、ここ最近タカが楽しそうにしているところを見ていない。アイツが笑わなくなったのは、いつからだっただろう。
ずっとイライラしていて、すぐキレるようになったのは、いつから――?
「【悪夢】は」
ラビの声にハッとして顔を上げる。
「強いストレスを受けている人間に取り憑きます。そうして、夢の中でその人間の望む超能力を与えます。あなたの弟は、壊すためのサイコキネシスでしたね」
「夢の中で……」
「ええ。ですのでココは夢の中。本来なら【悪夢】に取り憑かれていない人間はいないはずなんですが、弟くんはあなたを殺すことが目的のようですし、彼の夢にあなたの意識が巻き込まれたのでしょう。人の意識って、深いところではみんな繋がってるので」
「これが夢?痛みとかあるのに?」
「ええ、夢ですよ。その証拠に」
ラビは民家の雨戸を開けた。中の部屋は真っ暗だ。月に照らされたガラス戸に、俺とラビの姿が反射する。
「傷がもう無いでしょう?」
頬に受けたはずの、アスファルトのかけらに切られた傷が無くなっていた。
「きゃー、イっケメーン!言っときますけど、回復魔法とかは使ってませんからね」
「夢……なら……母さんや父さん、ヒメちゃんは………」
「現実世界のお三方は無事ですね。というかたぶん、あなたと違って巻き込まれてすらいないのでは?いまごろスヤスヤ寝てますよ」
「……は、はは。…………よかった」
体の力が抜けて、縁側に座り込む。夢の中であっても、弟に家族を殺してほしくはない。家族が無事なら、あとは公孝本人の心配だ。
怒鳴りながら泣く、殺したいほど憎いけど本当に殺したくはない。
多分、暴れるのは本心じゃない。俺の命を狙うのもきっと本心じゃない。アイツは【悪夢】に操られている。
なら、この夢は終わらせなきゃいけない。
「俺を殺すことが目的なら、俺が殺されれば終わるのか?」
「それは得策じゃないですね。ここでの人間は精神体。つまり意識そのもの。意識の死は現実世界での脳死です。あ、臓器移植したいなら止めはしませんよ。ドナー登録と意思表示を忘れずに!」
「止めろよそれは。……じゃあ、どうすれば」
「簡単ですよ。【悪夢】を退治してしまえばいいんです。そしてそれは私のお仕事」
タン、とステッキの先を地に突く。赤いうさぎのチャームが揺れた。
「人の心に巣食う【悪夢】を倒し、正しく夢から目覚めさせるのが私、『夢の管理者』の職務」
月光の下、青い瞳に誇りの光が宿る。十代特有の美しさと可憐さが混ざり合ったその顔に、見惚れてしまう。
その凛とした表情に、何故かコンの姿が被った。
「とはいえ、何の作戦も無しに突っ込んで行くのは無謀すぎですね。単純な力ですから、単騎特攻も危なっかしい。あーぁ、お手伝いがいないかなぁー。チラッチラッ」
ワザとらしい。
「わかってるよ手伝うよ。俺の弟だし」
「そうですかぁ?悪いですねえ。ではお言葉に甘えて」
ワザとらしい!
引き攣った笑顔の俺に、ラビは白く柔らかそうな右手を差し出した。
「じゃあ今夜一晩、よろしくお願いしますよ、『お兄ちゃん』」
差し出された右手を握り返しつつ、なんか上手いこと手のひらの上で転がされた気がしていた。
無数の礫に俺の身体は粉々に砕かれて――いない。
瓦礫は俺よりずっと前方に落ちていた。立ちこめる土煙の中から、弾き飛ばされた小さなかけらがカツ、カツンと跳ねてきて、投げ出された俺の爪先に当たって止まった。
「……グェッ、あ、あれ?」
「全く。見てられませんね!」
俺の背後に誰かが立っている。というか、その人に襟首を掴まれている。襟が喉に食い込んで苦しい。よく見ようと首を反らせるとパッと離された。ついた尻餅が思いのほか痛くて涙が滲む。
「大丈夫ですか、キミツカくん」
「え、はい……」
大丈夫って何に言ってる?瓦礫攻撃が?襟首による首吊りが?それとも尻餅が?
立ち上がり、自分の尻をさする。顔を上げると、そこに立っていたのは同い年くらいの女の子だった。
まず最初に目に入ったのは、宝石のような青い瞳だった。頬には赤いハートのフェイスペイント。
それと、レモン色のシャツに、胸元のオレンジ色したリボン。夕焼け色のスカート。金髪のツインテールは地面につきそうなほど長い。
最後にもう一度顔を見て、……誰かに似ている。それから頭上に。金糸のような髪をかき分け、ぴこぴこと揺れている白い兎の耳。
…………これは、もしかして、あれか。
「……魔法少女?」
「おや、わかります?一発で属性を看破するとは、中々にオタクですね!」
彼女は組んだ手を頬に沿わせ、高く澄んだ声で、嬉々として言う。
そりゃあ魔法を使っているところをしっかりとこの目で見てしまったわけだし、第一こんな片田舎の住宅街をそんな格好して夜中うろついてるただの人がいたら、かなりヤバイと思う。うっかり事情も考えず反射的にカウンセリングを勧めてしまうかもしれない。
彼女は一歩詰め寄ってくる。
「ねえねえキミツカくん、すごいでしょう?生の魔法少女ですよ?見て見て、このかわゆい衣装!山吹色から朱色へのグラデーション鮮やかなひらひらボックススカートに、夜の帳が降りたような濃紺のふわふわパニエ!スカートの端にはウサちゃん白抜きしてあるんです!実際アタマにうさ耳ついてますしおすし!私うさちゃんなんですよ!うさうさ!かわいー!ミニスカニーソは正義ですよね!ほんとのとこ、太ももまであるニーソはオーバーニーソックスって言うらしいですよ、知ってました?知ってますよね、有名ですもの!でもミニスカニーソってリアルでやってる人見ると九割方キッツい見た目になりますよね!ふにゅう~とかリアルに言う姫ほどヤバイ奴なの何なんでしょうね!正気に戻れ!ってはっ倒してえよな!そうそう、ふりふりは流石に似合わないかなぁと思ってフリルは少なめなんです!その代わりリボンをたくさんつけて、ちょっと盛りすぎかなとは思ったんですけど、可愛いからいいですよね?可愛いは正義って名台詞もありますし!ね?ね?この衣装、私に似合いますよね?よね?あっ、顔をマジマジと見るのはナシでお願いします、事務所NGだと思っていただければ!恥ずかしいですよきゃー!」
「ちょ、近い!早い!なんて!?」
マシンガントークすぎる!
リスとか子猫みたいに可愛いらしくくるくる動いてたけど普通に狂気を感じる!
「おっと?」
ピクッと中折れしていた片耳が立った。リボンとチャームで飾られた金の鍵型ステッキを片手に構えて、うさ耳の魔法少女?はいまだ土煙立ち込める瓦礫を睨む。
「とりあえず、今はこの場を離れましょうか。弟さん、話が通じなさそうですし」
彼女が言うなり、生垣の槍が土煙を切り裂いて飛んできた。彼女はステッキの頭、円形飾り部分を前方に鋭く突き出す。
「【管理者権限・障壁】!」
瞬時に身長ほどの大きさの光の時計盤が何重にも一列に並んだ。槍は時計盤を一枚砕く度に速度を落としてゆく。ついには最後の一枚を砕くことなく、生垣は地面に落ちた。
揺れが収まると魔法少女?はスカートとツインテールを翻して俺の腰に手を回した
「よし。じゃ、いっきまっすよぉ」
「行きますよって、どこへ――ってぇ!?」
肩に担ぎ上げられる。俺よりちょっと背の低い身体のどこにこんな力が!?
「口閉じててくださいね。舌噛みますよ」
「えっ?ッヴ」
重力がいきなりめちゃくちゃ強くなった。同時に地面が急速に離れていく。だんだん圧力が緩んで、それから今度は逆に強烈な浮遊感に包まれる。
これは……、これは……跳んでる!
民家の屋根にトンッと降り立った魔法少女はそのままのスピードでまた跳ねる。
「まて!!逃げんなァ!!」
遠く地上で、公孝が怒鳴っているのが見えた。怒りながら、弟は泣いていた。
***
「うぐっ、げっ、おぇっ」
着地の度に振動がモロに胃にくる。これどういう状況なの。
華奢な体つきの魔法少女に肩に軽々と担がれ、暴れる弟から守ってもらう男ってなんなんだろう。情けなさすぎる。マツジュやトモルに知られたら死ぬまで語り草にされる。頭を抱えたくなったけと、迂闊に動くと落ちそうだった。ふと、父さんのセリフを思い出す。
『逆に考えるんだ。お姫様抱っこじゃなくてよかった』と……。これ俺の父さんじゃねえな。
しばらく飛び跳ねて、適当な民家の庭で解放された。
「ここまで来れば大丈夫ですかね。よいしょっと」
自分一人では死んでいたことを考えれば、一応命の恩人なわけで。
「助けてくれてありがとう。ところで……えーっと、あんたは?」
うさ耳が両方ピンと立った。
「よくぞ聞いてくださいました!」
ステッキをバトンのように回し、彼女は前口上を高らかに述べた。
「その質問こそ私の時間!
誰そ彼なりや?と問われれば、喜んで答えて差し上げましょう!
私こそが、『夢の管理者』!
りとるうぃっち☆らびっと・おぶ・とわいらいと!
気軽にトワイライトバニーとか、たそがれうさちゃんとお呼びください!」
パッチーン!と音が聞こえそうなくらいに完璧なウインクが決まった。背景に星が散っているのが見える。あざとい。
「リトルウィッチ」
「りとるうぃっち、です。ひらがな。表記イズ重要」
何やらこだわりがあるらしい。だけど、トワイライトバニーもたそがれうさちゃんも長くて呼びづらい。ここは申し訳ないけど……。
「長いからラビットでいい?」
「そんならラビで」
すげえ短くなった。こだわりじゃねえのか。
「じゃあ、ラビちゃん」
「ラビちゃん。ラビちゃん!いいですね、その響き!気に入りました!」
手を叩いではしゃいだかと思えば、ラビは恭しく一礼する。
「それで、このラビちゃんに何の御用でしょう?」
「タカ……弟があんな風になった理由って知ってる?」
ラビは「もっちろん!」と手を当てふんすと胸を張った。
「何てったって管理者ですので!弟さんはですね、ズバリ!【悪夢】に取り憑かれています!」
「悪夢、に取り憑かれる……?」
大きく頷いて、ラビは声を真剣な調子に変えた。
「弟さん、何か思いつめたりしてませんでしたか?」
普段の弟を思い出す。
そういえば、ここ最近タカが楽しそうにしているところを見ていない。アイツが笑わなくなったのは、いつからだっただろう。
ずっとイライラしていて、すぐキレるようになったのは、いつから――?
「【悪夢】は」
ラビの声にハッとして顔を上げる。
「強いストレスを受けている人間に取り憑きます。そうして、夢の中でその人間の望む超能力を与えます。あなたの弟は、壊すためのサイコキネシスでしたね」
「夢の中で……」
「ええ。ですのでココは夢の中。本来なら【悪夢】に取り憑かれていない人間はいないはずなんですが、弟くんはあなたを殺すことが目的のようですし、彼の夢にあなたの意識が巻き込まれたのでしょう。人の意識って、深いところではみんな繋がってるので」
「これが夢?痛みとかあるのに?」
「ええ、夢ですよ。その証拠に」
ラビは民家の雨戸を開けた。中の部屋は真っ暗だ。月に照らされたガラス戸に、俺とラビの姿が反射する。
「傷がもう無いでしょう?」
頬に受けたはずの、アスファルトのかけらに切られた傷が無くなっていた。
「きゃー、イっケメーン!言っときますけど、回復魔法とかは使ってませんからね」
「夢……なら……母さんや父さん、ヒメちゃんは………」
「現実世界のお三方は無事ですね。というかたぶん、あなたと違って巻き込まれてすらいないのでは?いまごろスヤスヤ寝てますよ」
「……は、はは。…………よかった」
体の力が抜けて、縁側に座り込む。夢の中であっても、弟に家族を殺してほしくはない。家族が無事なら、あとは公孝本人の心配だ。
怒鳴りながら泣く、殺したいほど憎いけど本当に殺したくはない。
多分、暴れるのは本心じゃない。俺の命を狙うのもきっと本心じゃない。アイツは【悪夢】に操られている。
なら、この夢は終わらせなきゃいけない。
「俺を殺すことが目的なら、俺が殺されれば終わるのか?」
「それは得策じゃないですね。ここでの人間は精神体。つまり意識そのもの。意識の死は現実世界での脳死です。あ、臓器移植したいなら止めはしませんよ。ドナー登録と意思表示を忘れずに!」
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「簡単ですよ。【悪夢】を退治してしまえばいいんです。そしてそれは私のお仕事」
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「人の心に巣食う【悪夢】を倒し、正しく夢から目覚めさせるのが私、『夢の管理者』の職務」
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その凛とした表情に、何故かコンの姿が被った。
「とはいえ、何の作戦も無しに突っ込んで行くのは無謀すぎですね。単純な力ですから、単騎特攻も危なっかしい。あーぁ、お手伝いがいないかなぁー。チラッチラッ」
ワザとらしい。
「わかってるよ手伝うよ。俺の弟だし」
「そうですかぁ?悪いですねえ。ではお言葉に甘えて」
ワザとらしい!
引き攣った笑顔の俺に、ラビは白く柔らかそうな右手を差し出した。
「じゃあ今夜一晩、よろしくお願いしますよ、『お兄ちゃん』」
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