魔法少女黄昏兎

アマミヤコウタ

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第一話:サイコキネシスとあの日の約束

【悪夢】とは?

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「まずは【悪夢】の生態から説明しましょう!」

 ラビは腰に手を当てふんすと胸を張った。

「生態?夢じゃないのか?」

「取り憑く、と言ってるんだから生き物にきまってるでしょう?【悪夢】は昔の有名ラノベで言うところの宇宙人。情報思念体です。同じ時代の日曜朝に放送されてた仮面のバイク乗りの未来人でも構いませんよ」

 ラノベ?宇宙人?仮面?未来人??

「ごめん、たぶん読んだことないし、見たことないから分からない」

 正直に言うと、ラビは拳を顎に当てて渋い顔をした。

「ふむ、これだから一般人パンピーは……。いえ、いけませんね。専門知識がない人にもイメージしやすい説明が出来てこそ一流」

 ストイックな考え方をしている。腕を組み目を閉じて少し考えてから、ラビは人差し指を立て、俺の鼻先に向けた。グイッと顔も近付けてくる。

「【悪夢】はズバッと言って『自分の体を持たない生命』です。【悪夢】は精神界の生命ですので、物質界では自身の肉体を構成できないんです。DNA持ってませんからね。その状態でどう思考しているのかはわかりませんが、そこは我々も同じことです。今現在私たちも精神体ですが、どうやって思考しているのやら……」

「えーっと、精神……あの……物質、体がない!わかった!」

 とりあえずわかった単語をおうむ返しすると、ラビは上瞼を下げた。青い瞳の下半分だけが見える。口が上向き三角型に少し開いている。これ絶対呆れてるなぁ。

「あ~……、要するに幽霊です!弟さんは幽霊に取り憑かれてます。このままだと命が危ないのです」

 なげやり!理解力を見限られた!

「一気に胡散臭くなった!壺とか数珠とか買わされる流れだろそれ!!頑張って理解するから説明してくれよぉ!」

 ラビは「仕方ありませんねえ」と呟いて適当な木から葉っぱを数枚もぎ取ってきた。

「【管理者マスター権限・仕様変更カスタマイズ】」

 葉っぱは彼女の手の中でスケッチブックに変わる。ステッキの頭で軽く叩いてから開く。
 クレヨン風の線でイラストが描かれていた。

「【悪夢】は常に宿主を探しています。おそらく、人間の強い感情なり情報なりを養分としているのでしょう。宿主は強いストレスを抱える人間が主です」

 右向きに膝をついて落ち込んでいる人のイラストの左上に、吹き出しに囲まれたマーブル模様のカラフルな卵が描かれている。イースターエッグみたいだ。

「【悪夢】は必ず、卵の状態で取り憑きます。そして宿主が与えられた超能力を使用する度、宿主の幸福感や幸せな記憶を吸い取っていきます。宿主がある程度能力を使用すると、卵は孵化します」

 捲られたページには二種類の絵。
 落ち込んでいた人が目を三角にして突き出した手から何やらギザギザしたビームを出している。その頭から、小さい丸で繋げられた吹き出しがいくつか出ている。吹き出しの中は笑顔や輝き、ハートマークの絵文字。イースターエッグがギザギザの歯を生やしてその吹き出しを齧っている。
 画面の真ん中あたりから線で区切られて、もう一つの絵。
 イースターエッグの上に体力ゲージのようなものが描かれていて、その端にチクチクした囲いで強調された「MAX」の文字。イースターエッグにはヒビが入っている。

「孵化すると宿主を取り込んで成体になります。ここまで来てしまうと、現実の宿主さんは昏睡状態になりますので、その前に退治しなくてはなりません」

 割れた卵の殻から矢印が出て、首の付け根あたりに目をバツ印にした人の顔を出したドラゴンがビルを壊している絵になる。

 ――どこかで見た気がする――

「……なるほど」

 最後のページは、倒れる人からイースターエッグが飛び出しているところだった。

「精神体の宿主を気絶させれば【悪夢】は宿主から離れます。そこをとっ捕まえてこの鍵で専用魔法【開錠アンロック】を使って、おしまいです」

 スケッチブックをポイと捨てて、ステッキを掲げるラビ。鍵型なのではなく、本当に鍵らしい。
 スケッチブックは空中で木の葉に戻って道に落ちた。

「で、こっからは作戦会議。キミツカくんには戦ってもらいます」

 戦いね。なるほど、なるほど。
 空を見上げた。無人の世界は遠くの音もちゃんと届けてくれる。
 メキメキメキ。バキーン、ドカーン。
 グシャバキメキョドゴーン。ズズズズーーン……。
 要するに破壊音だ。たぶん、建物一つ潰した音だと思う。

「……アレと?」

「アレと」

 浮き上がっては空中で捻れ、尖る街路樹。時折撃ち出されては家を崩すので、土煙がもうもうと立ち込めている。無理じゃん?

「無理ぢゃん?」

 すぐ死んぢゃうかも。

「大丈夫です!すぐやられちゃうクソ雑魚な貴方の為に、私が強ーい武器をあげましょう!」

 胸に手を当ててドヤ顔するラビ。サラッとディスられている。

「この枝が丁度いいですかね。ていっ! ……フンッ!」

 彼女は庭先の木の枝をステッキでへし折ると、膝に打ち付けた。バットの代わりになりそうなくらいに太い枝がチューペットみたいに丁度半分に折れる。
 わあ、強ぉい。

 若干引いた俺を無視して、ラビは枝分かれしてない方を左手に構えた。

「【管理者マスター権限・仕様変更カスタマイズ】!」

 薄いオレンジ色の光が手に持った木の棒を包んだかと思えば、次の瞬間には棒は剣に姿を変えていた。

 厚さはあるけど細くて短い。刃渡りは三十センチ定規くらいしかない。短剣ってやつだ。それを俺に押し付けながら言う。

「これで大丈夫ですね!ではゴー!」

「え?ぜってえ無理だけど?俺ケンカも滅多にしないんだから」

 武器で戦ったことがないんだって。

「? 戦闘経験の有無ですか?そんなモン気にしちゃ話が進みませんよ。細かいことは気にせず、最強の自分をイメージしてくださいよ。その通りに体が動いてくれますから。魔法で作った道具なんだからそのぐらい朝飯前です。未来道具の電光丸みたいなもんです。大体、私だって現実世界じゃ、お淑やかで物静かでか弱い女の子なんですからね!ぷんぷん」

「嘘だあ」

「嘘じゃねーですよ、……五……四……三割くらいは」

 結構自信ねえじゃん。

「仕方ないですねえ。飛び道具も用意して差し上げましょう。あとこちらはサービス」

 ラビはまるで手品でもするように、開いて見せたあと握り込んだ拳から試験管を出した。ゴム栓がされていて、八分目あたりまで黄金色した液体が入っている。

「何それ?」

「頭がふわふわして気分がとても良くなるジュースです。何も気にせず戦えるようになります」

「ウオーーーーッ!!!!????アカンヤーーーツ!!!!!!!!!!!」

 すごい急に違法なヤツ出てきた!!

「人に剣振るうのに正気でいられるのはね、人体の急所と力加減を即座に見極められる達人か、人殺しても何も思わない狂人かのどっちかだけですよ。ほらキメないと。あなた、弟に本気で剣振えるんです?」

「でもそれ違法な、その、アレだろ!?」

「そりゃ現実世界じゃ、やばたにえんですが、ここは夢の世界です。現実じゃありません。私が管理者。私が法。私が良しと言えば良いのです。ささ、ぐいっと。専門医の管理下で適度に投与される麻酔みたいなモンです。さあ、ぐいっと」

「こわぁい!!」

 押し付けられて嫌々受け取った瞬間、地面が揺れた。

 ドガガガガガッッ!!という轟音と地響き、そして横揺れ。だんだんと更に暗くなってゆく。音のした方向を見上げると、土煙が立ち上って月を隠していた。

「あなたを見つけられず、無差別に暴れだしましたか。のんびりはしていられませんね」

 冷静にラビが土煙を睨む。こちらに向き直る。
 彼女は俺に手を差し伸べた。

「さあ、キミツカくん。弟くんを救出に行きましょう」

 向けられた微笑みは――認めたくないけれど、優しげで美しかった。
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