魔法少女黄昏兎

アマミヤコウタ

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第一話:サイコキネシスとあの日の約束

戦闘①

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 公孝きみたかの気持ちを考える。

 母さんはヒメちゃんが生まれてからずっとヒメちゃんにかかりきりだった。父さんもヒメちゃんを優先した。俺は仕方ないと思っていたけど、公孝にとってはそうじゃなかったのかもしれない。

 七歳まで末っ子やってたのに、突然お兄ちゃんで、ガマンの連続だ。そこの辛さは俺も四歳の時に経験があるからわかる。俺は公孝が生まれたとき、母さんが奪われたような気になった。

 それでも弟だから、――半分オモチャの延長だったけど――大事にしていたと思う。その内に母さんはちゃんと両方に同じような扱いをするようになったわけだし。

 だけど公孝の場合は、ヒメちゃんが赤ちゃんから幼児になっても「女の子なんだから大事にしてあげなさい」の一点張り。扱い方だって、自分の時より大切にされている感じがしたのかもしれない。実際、俺も大きくなってヒメちゃんを三歳の頃の公孝より丁寧に扱ってるし。

 それでもガマンして、無理矢理に納得したけれど、妹は自分に懐かない。

 たくさんたくさん頑張っているのに、その努力は報われない。

 やり場のない怒りがにじみ出せば、俺や父さんに怒られる――……。

「…………辛いなぁ」

 俺もそんな状況になったらガマンの限界を迎えるかもしれない。

 前方に、建ち並ぶ民家のど真ん中一軒分が綺麗さっぱり無くなっているのが見えた。地面も、舗装がぶつりと途切れて下の土が見えている。左から右に抉れた土が、公孝のいる方向を示していた。この無理矢理に作られた十字路の左手に、弟はいる。

 ふぅ、と一つため息を吐いて、気持ちを落ち着ける。
 怖がるな。あれは確かに俺の弟なのだから。
 十字路の中央へと歩を進め、相対する。

「…………公孝」

「ようやく…………見つけたァ……」

 遠く、背に街路樹の槍を何本も浮かばせた弟が立っていた。

「公孝……もうやめろ。キツイだけだろ」

「うるさい……」

「俺がお前に何かしたか?どうして俺だけは絶対に……」

「う る さ い 黙 れ !!」

 投げつける動きに合わせて、槍の一本が飛んでくる。

「うわっとぉ!」

 塀の影に隠れる。やっぱり、話は通じないらしい。

「…………やるしか、ないのかぁ……」

 長々と悩んでいる暇はない。ラビによれば、公孝は力をムチャクチャな使い方しているから、孵化の時が近いという。いつ孵化が始まってもおかしくないそうだ。早く気絶させなきゃいけない。それにこんな塀、民家ごと崩されたらおしまいだ。

 ――覚悟を、決めろ。

 ラビから受け取った、試験管のゴム栓を開ける。中に満ちた黄金色の液体を、一気に飲み込んだ。

「う、あ」

 目の焦点が合わない。星が大きくなったり小さくなったり輪郭がボヤけたりハッキリしたり。

 熱いような、寒いような、耳元で大きな音が鳴っているような、何の音も聞こえないような。

 気持ち悪いような、怖いような、楽しいような気持ち良いような。

「は、はっ」

 笑い声が漏れる。ふわふわとした感覚が楽しい。体が軽い。温かい。爽快な気分で、頭がハッキリしてきた。あぁ今、スゲー無敵な気分。背中側のベルト穴に通していた、剣の柄を握る。

 その瞬間、街路樹の槍が真上から降ってきた。塀が粉々に砕ける。

 駆けていた脚を止める。加速しすぎたのか横滑りするので、しゃがんで手で減速しながら。止まったところで、顔を上げた。

 あいつは顔を歪めている。何を考えているのだろう。ああ、仕留められなくて残念だったのかもしれない。なぐさめてやろう。

「ざぁんねぇーん、ハズレ」

「ゔあぁあああぁああぁあああ!!」

 獣みたいに叫んでいる。ハハッ、マジギレじゃん面白っ。
 今度は二本同時に来る。ああ、そういえば弟は昔からケンカになると両手で物を投げてきたっけ。

 一本は避けて、もう一本を切り捨てる。どう動いたんだか自分でもよく分からないうちに、手応えだけを残して街路樹の槍は乱切りになった。

 流石、魔道具。戦いなどしたこともない俺でもここまで出来るなんて。漫画やアニメの主人公にでもなった気分だ。じゃあもう一つの飛び道具も使いましょうかね。

 地面に刺さったままわなわなと震えている、塀を粉砕した槍に向けて剣を投げる。代わりに手のひらに収まるほどの細身の刃物を指に挟んで両手に三本ずつ持った。棒手裏剣というらしい。

 相手の槍もちょうど六本。槍だけを狙って投げ付ける。棒手裏剣は物理法則を無視した動きで槍に深く突き刺さると、爆発した。

 本来、手裏剣は爆発などしないらしいが知るものか。アレは『思い通りに動く』と言われて渡されたものだ。

 木っ端微塵になった槍の残骸が降り注ぐ様を、相手は鳩が豆鉄砲を食らったような顔で眺めている。その隙に剣を回収しつつ切り刻み、撃ち出された槍全てを処分した。

 ようやく我に返ったらしい奴の顔を見て、笑ってしまう。いけない、いけない。油断大敵。笑っちゃダメだってば。

「どーしましたぁ? ……在庫切れですかぁ?」

 相手がブチ切れる気配がした。

「うぉぉぁあぁあぁあああああ!!」

 奴の絶叫と共に、

 見上げれば、空中で今まさに四、五軒の民家同士がぶつかり合って石飛礫いしつぶてになろうとしているところだった。

 しまった、煽りすぎた。避ける?いや無理だ。この瓦礫の量、広範囲すぎて多分逃げ切れない。迎撃する?だから、この量を?ダメだ到底間に合わない。全力で逃げられるとこまで逃げて危ないやつだけ迎撃すれば、いやそれだって出来るのか?至近距離で爆発したら俺はタダじゃ済まない。無理、無理、無理。じゃあ。

「ここまで、か」

 諦めかけたその時、

「んな訳ねえでしょう、誰がついてると思ってやがるんです」

 ラビの声を聞いた。
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