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【R18】身勝手な男
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決して意図してこの場にいるわけではなかった。
世奈は自分のタイミングの悪さと、愚かさを責めた。
「これで俺には実績ができました。王都に戻ってすぐに王に許可を求めようと思います。俺と結婚してください」
世奈が愛する男は膝をつき、愛を乞うた。……ただし、その相手は世奈ではない。
愛を乞われた女は、戸惑いつつも、微かな喜色を滲ませ男に問い返した。
「わ、私と? 聖女様と間違えているのではなくて?」
女はこの国の王女だ。世奈よりも背が高く豊満な身体を持ち、同性の世奈からみても魅力的な女性。男が惹かれるのもよくわかる。そして、あの反応を見るに王女もまた男のことを……。
世奈はすぐに理解した。自分は失恋したのだと。
これ以上この場にはいたくないと踵を返そうとした時、男の言葉が耳に届いた。……届いてしまった。
「セナは妹のようなものです。女として見たことはありません。俺が愛しいと思うのは……あなただけだ」
世奈は音を立てないように気をつけながらその場から離れた。ある決心をして。
――――――――
松井世奈は魔王を討伐するため、異世界である日本から召喚された平凡なOLだった。いきなり召喚され、訳もわからないまま聖女として崇められ、討伐隊に加わった。
世奈が見知らぬ異界の地で頑張ってこれたのはひとえに愛する男のおかげだった。魔王討伐の旅も、ミゲルが側にいてくれたから頑張れた。――――少なからずミゲルも自分を思ってくれていると思っていたからだ。きっと、この旅が終わればミゲルとの輝かしい未来が待っている。……そう、信じていた。
――――結局、私は聖女として崇められてのぼせ上がっていただけだったのね。ミゲルは私のことなんて妹のようにしか見ていなかったのに。
目を閉じればお似合いの男女の姿が浮かぶ。……私となんかより、よっぽどお似合いの二人だ。
――――――――
国王との面会で討伐隊は労いの言葉をかけられた。
「さて、褒美の件だが。まずは、聖女の願いを伺おう。遠慮なく言うがよいぞ」
優しげな国王の表情を真っ直ぐに見つめ世奈は発言した。
「では、私を元の世界に帰してください」
周囲がざわめく。国王はそのざわめきを片手で制すると世奈に尋ねた。
「それは、出来なくはないが。……この国は聖女には合わなかったか? もしや、何か嫌なめにあったのか?」
気づかわしげな視線に、世奈は首を振って答えた。
「いえ。この世界の、この国の方々は皆さん私によくしてくださいました。……けれど、やはり私の帰る場所はこの世界ではなくあちらの世界なんです」
世奈は言葉を切ると国王を見つめた。暫しの沈黙が空間を満たした。国王は一度目を強く閉じると深々と首を頷かせた。
「わかった。願い通り元の世界に帰そう」
周りが再びざわついたが国王は異議を認めなかった。そして、そのまま一度解散を告げた。
けれど、世奈だけ残るよう声をかけた。世奈の本心を確認するためだ。
世奈は感謝を告げ、そして己の本心を包み隠さず告げた。
国王は世奈の意をくみ、元の世界への送還はすぐさま密やかに行われることになった。あえて、周りには伝えなかった。それが世奈が望んだことでもあり、国王からの謝辞でもあった。
解散を告げられ、部屋を出たミゲルは呆然と扉の外で立ち尽くしていた。今すぐにでも目の前の扉を開けて、世奈に問いただしたかった。
……ミゲルは世奈がこの後もこの世界に留まると信じて疑っていなかった。どうして自分に何の相談も無しで決めたのかと苛立ちが込み上げてきた。裏切られた気さえした。自分にはそんな資格などないことに気づきもせずに。
――――――――
すぐにでも世奈に確認を取りたかったが、そんな日に限ってミゲルには別の仕事が入っていた。世奈と顔を合わせる暇さえなく、もんもんとしたまま一日を過ごし、ようやく退勤時間を迎えた。
ミゲルは隊服を着たまま、世奈の元へと向かった。押し止める侍女を押しのけ部屋にへと入った。
部屋の中に世奈は一人でいた。
目を丸くする世奈に近づき、問いただす。
「どういうつもりだ」
「どういうつもりとは?」
世奈は心底わからないと首を傾げた。さらに苛立ちが増す。詰め寄り、誤魔化すなと声を荒げた。
「なぜ俺に黙っていた! 勝手に元の世界に帰るなどっ」
「なぜ、あなたに言わなければならないのですか?」
真っすぐに見つめられ、ミゲルは言葉に詰まった。正論ではある。あるが……認めたくはない。認められなかった。だからだろう。苦しまぎれに出た言葉は最低なものだった。
「俺への当て付けか? 俺がお前を選ばなかったから」
眉根を寄せ、罪悪感を浮かべるミゲル。それに対して世奈は悲しそうに微笑んだ。
「やっぱり……私の気持ちに気づいていたんですね。そうですね。それも関係無いとは言えません。けれど、一番の理由は違います。……一番の理由は、この世界に『私』の居場所はないからです」
「そんなことはっ」
「『聖女』としての居場所はあるかもしれません。けれど『私』の居場所はないんですよ。ミゲル様、私が何歳か知っていましたか?」
「……十六くらいか?」
世奈は吹き出し、笑い声をあげた。戸惑うミゲル。ようやく笑いが止まると世奈はミゲルをじっと見上げた。
「私、これでももう二十三なんですよ」
ミゲルは目を見開き固まる。想像通りの反応に苦笑をこぼしながらも話を続ける。
「ミゲル様だけではありません。誰も『私自身』のことについて尋ねて来る人はいなかったので、皆も知らないはずです。……二十三といえばこちらの世界ではもう結婚して子供がいるのが当たり前の年齢ですよね。私だって結婚して子供も欲しい。でも、きっとこの世界でそんな幸せは手に入らない。だから、私はあちらの世界に帰りたいんです」
だから、どうか止めないでください。と世奈はミゲルに頭を下げた。決して揺らがない眼差し。
ミゲルは何も言えないまま部屋を出た。
――――――――
あの日以降、ミゲルは淡々と仕事をこなす日々を過ごしていた。その合間に婚約者となったカミーユと会う。世奈とは……すれ違いもしなかった。
「ねえ、ミゲル。このドレスはどうかしら? ねえってば、聞いてるの!?」
ウェディング用のドレスデザインを手にカミーユはミゲルに声をかけるが反応はいまいちだ。カミーユは溜め息を吐き、つい言ってはいけない言葉を吐きだした。
「もう、聖女様はいないのに」
「……え?」
その言葉を聞いたミゲルは先程とは違い、勢いよくカミーユに詰め寄った。護衛騎士が動こうとしたが、カミーユがアイコンタクトで止める。予想通りの反応にカミーユはやはりと顔を歪ませた。
けれど、ミゲルはカミーユのそんな反応を気にも留めずに切羽詰まった様子で尋ねる。
「聖女がいないってどういうことですか?!」
「聖女様はこちらの世界にもういないわ。あちらの世界に帰られたのよ」
ミゲルは目を見開き、固まった。カミーユの肩を掴んでいた手がだらりと落ちる。そして、空笑いが口から漏れた。
「俺にはさよならも必要ないっていうのか」
今更になって気づく。ミゲルは間違えたのだ。愛する人が誰なのか。気づいたところでもう世奈はいない。
己の馬鹿さ加減に死にたくなる。笑いながらも目からは涙が次々に溢れて落ちていく。
カミーユはぎゅっと固く目を閉じた。結局、こうなった。自分は気付いていたのに……ミゲルが本当は誰を想っていたのかを。それでも、ミゲルの言葉を信じたかった。信じた結果がこれだ。
さすがに、今はもうわかる。ミゲルと結婚しても互いに幸せにはなれないと。
――――――――
世奈は元の世界に戻り、日常を取り戻した。あちらとこちらでは時間軸が違うらしく、元の世界は一日も経過していなかった為不便な状況にはなっていなくて安心した。
最初は日本での生活に違和感を覚えていたが、あっという間に感覚を取り戻した。今ではあちらでのことがただの白昼夢だったような気さえしている。
そして、世奈は二十四になったのを機に今まで拒んでいたお見合いをすることにした。母は大喜びでさっそく先方に連絡を入れていた。
お相手は、すごく優しそうな人だった。正直、拍子抜けしたくらいだ。見た目も中身も異世界の彼らと比べてしまえば平凡な人。でも、きっと彼となら幸せな家庭を築ける。そんな未来がたやすく想像できた。
ありがたいことに相手も世奈のことを気に入ってくれた。
順調に関係を進め、結婚式当日を迎えた。
痛む心に気づかないフリをしたまま。
――――――――
花嫁の待機部屋にて世奈は呼ばれるのを待っていた。
とうとう名前が呼ばれた。
立ち上がり、歩き出そうとした……瞬間、視界が揺れた。覚えのある感覚が身体を襲う。
目を開ければ、そこは見覚えのある場所だった。
視界に誰かの足が入ってくる。よろよろと見上げれば、見知った男性の顔。憐みのような、申し訳なさを滲ませたような瞳が世奈を捉える。
「久しいな。セナ」
「国王さ、ま」
あれからこちらの世界ではどれほどの年数が経ったのだろう。記憶の中と比べて幾分か年老いて見える。
「再び呼び出してすまぬな」
「いえ……あの、それで今回はどういった要件で?」
「……こやつの話を聞いてやってほしい。選ぶのはそなただ」
それだけを告げ、国王は男の肩を叩き出ていった。世奈は困惑していた。
大事なタイミングで呼び出された。しかも、その原因は目の前の男……ミゲルだ。
今更、なんの話があると言うのだろう。
「あの、ミゲル様。要件は何でしょうか? 私、はやく帰らねばならないのです。結婚式の途中で呼び出されたので……」
困ったように告げるとミゲルの身体が揺れた。そして、ふとミゲルの手が震えていることに気づく。よほどきつく力を入れているのか白くなっている。何となく……嫌な予感がした。
目の前に現れた世奈は、まるで女神のように美しい装いをしていた。ミゲルはかける言葉も忘れて、しばらくの間見惚れていた。
しかし、世奈の一言を聞いた瞬間、怒りとも、焦りとも、後悔ともとれぬ激情が身体を巡った。
「脱げ、そんなものは今すぐ」
「はい? 何を言って………っ!?」
ミゲルは感情のまま、世奈のドレスを脱がしにかかった。世奈は慌てて止めようとしたが騎士であるミゲルに力で敵うわけがない。世奈が気に入って選んだドレスは力任せに引きちぎられていった。
「やめてっ」
悲鳴にも似た叫び。けれど、それでもミゲルは止まらなかった。
とうとう一糸纏わぬ姿をミゲルの前に晒し、世奈は顔を真っ赤にして目を固く閉じると拒絶するように顔を背けた。
明確な拒否。それもそうだろう。世奈にはもう他に男がいるのだから。
頭ではわかってはいる。けれど、止めるつもりはない。
だって……もう自分は痛い程理解している。
世奈無しでは自分は生きてはいけないのだ。たとえ、恨まれたとしても……世奈を自分のものにする。
ミゲルは世奈を力強く引き寄せると強引に唇を奪った。
「ん、んぅ!?」
ミゲルは口づけに己の気持ちをぶつけた。
どれだけ、どれだけ後悔したことか!
お前がいない世界にどれだけ失望したことか!
どれだけお前に会いたいと思っていたことか!
俺は……俺はこんなに苦しんだのに……それなのにお前は他の男のモノになるのか!?
そんなこと許せるはずがない!
噛みつくような口づけは世奈の息を乱し、溢れた唾液は世奈の肌を汚していく。
ミゲルはマーキングするように世奈の身体中に口づけ、途中震える乳房に吸い付いた。
時折肌に吸い付き痕を残していく。
激しすぎる愛撫はもはや痛みに近い、世奈は必死に抵抗し泣き叫ぶが助けは誰一人現れない。
次第に痛みより快楽が勝ってきた。
ぷっくらと立ち上がり、赤く色づいた乳首はねっとりと舐められ、ぶるりと身体が震える。
思わず視線を向けるとミゲルの射抜くような視線とぶつかる。
慌てて視線を逸らそうとすると、咎めるように秘部に指が侵入してきた。
「あぅっ」
ぐいぐいと膣内を責められる。世奈が声を耐えようとすると、今度は秘芽に吸い付かれた。
初めての強すぎる快感に世奈は腰を浮かし暴れた。けれど、それよりも強い力で押さえ込まれる。
中と外を同時に責められ、世奈は耐え切れず激しく身体を痙攣させながら達した。
世奈が息も絶え絶えに天井を見上げている間に、ミゲルは身体を起こして自分の肉棒を取り出す。
すでに痛いぐらいに立ち上がっている。ずっと、この時を待っていたのだ。
正気に戻った世奈が逃げようと身体を捩ろうとしたが、ミゲルはのしかかり一気に世奈の中に己の肉棒を押し込んだ。
「っ! こんな、ひどいっ!」
「ああ。酷かろうが憎かろうがいいさ。お前が俺のものになるならな。もう、帰すつもりはない。ましてや、他の男にやるかよ!」
あまりにも勝手な言い分。言い返したかったが、ミゲルはそんな隙を世奈に与えてはくれなかった。
激しく突き上げながら、口と指で世奈の身体を弄ぶ。世奈の目からは絶え間なく涙が溢れた。
――――こんなの私が知るミゲルじゃないっ!
記憶の中のミゲルが汚された気がした。けれど、世奈が嫌がれば嫌がるほどミゲルは激しくなる。
「もう、い、や! あぅ! あ! ああっ!」
限界が近いのだろう。ミゲルの肉棒がさらにパンパンに膨れ上がり、世奈の膣内をゴリゴリに擦りあげる。世奈の口からはとうとう嬌声しか出なくなった。
ミゲルは目を閉じ、ぶるりと身体を震わせると、世奈の腰を掴み、奥深くへと子種を流し込んだ。
――――孕めばいい。元の世界に帰れないように。絶対に孕ます。
ミゲルは荒い息を整え、しばらく中を堪能すると抜かないまま世奈へと優しい口づけをした。世奈は泣きながらもゆっくりと目を開く。そこには愛しげに微笑むミゲルがいた。
「愛してるよセナ。この世界で俺の妻として生きてほしい。いや、生きろ」
「ミゲルっ」
世奈にはもはや自分の感情がわからなかった。嬉しいのか、怖いのか、悲しいのか。
ただ、わかるのは……無理矢理されても尚、目の前のこの男を嫌いにはなれなかったということだけ。
「本当、身勝手な男」
――――それと同じくらい自分は馬鹿な女だわ。
世奈は泣きながら笑った。
ミゲルは世奈の言葉を『自分を受け入れてくれた』と判断し、歓喜し、興奮した。
再び始まる律動は世奈が気絶しても、ミゲルが満足するまで続けられた。
そして、この日世奈はミゲルの思惑通り身籠ることになる。
世奈が安定期に入ると結婚式も挙げ、その後、国で一番有名なお騒がせ夫婦となったという。
世奈は自分のタイミングの悪さと、愚かさを責めた。
「これで俺には実績ができました。王都に戻ってすぐに王に許可を求めようと思います。俺と結婚してください」
世奈が愛する男は膝をつき、愛を乞うた。……ただし、その相手は世奈ではない。
愛を乞われた女は、戸惑いつつも、微かな喜色を滲ませ男に問い返した。
「わ、私と? 聖女様と間違えているのではなくて?」
女はこの国の王女だ。世奈よりも背が高く豊満な身体を持ち、同性の世奈からみても魅力的な女性。男が惹かれるのもよくわかる。そして、あの反応を見るに王女もまた男のことを……。
世奈はすぐに理解した。自分は失恋したのだと。
これ以上この場にはいたくないと踵を返そうとした時、男の言葉が耳に届いた。……届いてしまった。
「セナは妹のようなものです。女として見たことはありません。俺が愛しいと思うのは……あなただけだ」
世奈は音を立てないように気をつけながらその場から離れた。ある決心をして。
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松井世奈は魔王を討伐するため、異世界である日本から召喚された平凡なOLだった。いきなり召喚され、訳もわからないまま聖女として崇められ、討伐隊に加わった。
世奈が見知らぬ異界の地で頑張ってこれたのはひとえに愛する男のおかげだった。魔王討伐の旅も、ミゲルが側にいてくれたから頑張れた。――――少なからずミゲルも自分を思ってくれていると思っていたからだ。きっと、この旅が終わればミゲルとの輝かしい未来が待っている。……そう、信じていた。
――――結局、私は聖女として崇められてのぼせ上がっていただけだったのね。ミゲルは私のことなんて妹のようにしか見ていなかったのに。
目を閉じればお似合いの男女の姿が浮かぶ。……私となんかより、よっぽどお似合いの二人だ。
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国王との面会で討伐隊は労いの言葉をかけられた。
「さて、褒美の件だが。まずは、聖女の願いを伺おう。遠慮なく言うがよいぞ」
優しげな国王の表情を真っ直ぐに見つめ世奈は発言した。
「では、私を元の世界に帰してください」
周囲がざわめく。国王はそのざわめきを片手で制すると世奈に尋ねた。
「それは、出来なくはないが。……この国は聖女には合わなかったか? もしや、何か嫌なめにあったのか?」
気づかわしげな視線に、世奈は首を振って答えた。
「いえ。この世界の、この国の方々は皆さん私によくしてくださいました。……けれど、やはり私の帰る場所はこの世界ではなくあちらの世界なんです」
世奈は言葉を切ると国王を見つめた。暫しの沈黙が空間を満たした。国王は一度目を強く閉じると深々と首を頷かせた。
「わかった。願い通り元の世界に帰そう」
周りが再びざわついたが国王は異議を認めなかった。そして、そのまま一度解散を告げた。
けれど、世奈だけ残るよう声をかけた。世奈の本心を確認するためだ。
世奈は感謝を告げ、そして己の本心を包み隠さず告げた。
国王は世奈の意をくみ、元の世界への送還はすぐさま密やかに行われることになった。あえて、周りには伝えなかった。それが世奈が望んだことでもあり、国王からの謝辞でもあった。
解散を告げられ、部屋を出たミゲルは呆然と扉の外で立ち尽くしていた。今すぐにでも目の前の扉を開けて、世奈に問いただしたかった。
……ミゲルは世奈がこの後もこの世界に留まると信じて疑っていなかった。どうして自分に何の相談も無しで決めたのかと苛立ちが込み上げてきた。裏切られた気さえした。自分にはそんな資格などないことに気づきもせずに。
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すぐにでも世奈に確認を取りたかったが、そんな日に限ってミゲルには別の仕事が入っていた。世奈と顔を合わせる暇さえなく、もんもんとしたまま一日を過ごし、ようやく退勤時間を迎えた。
ミゲルは隊服を着たまま、世奈の元へと向かった。押し止める侍女を押しのけ部屋にへと入った。
部屋の中に世奈は一人でいた。
目を丸くする世奈に近づき、問いただす。
「どういうつもりだ」
「どういうつもりとは?」
世奈は心底わからないと首を傾げた。さらに苛立ちが増す。詰め寄り、誤魔化すなと声を荒げた。
「なぜ俺に黙っていた! 勝手に元の世界に帰るなどっ」
「なぜ、あなたに言わなければならないのですか?」
真っすぐに見つめられ、ミゲルは言葉に詰まった。正論ではある。あるが……認めたくはない。認められなかった。だからだろう。苦しまぎれに出た言葉は最低なものだった。
「俺への当て付けか? 俺がお前を選ばなかったから」
眉根を寄せ、罪悪感を浮かべるミゲル。それに対して世奈は悲しそうに微笑んだ。
「やっぱり……私の気持ちに気づいていたんですね。そうですね。それも関係無いとは言えません。けれど、一番の理由は違います。……一番の理由は、この世界に『私』の居場所はないからです」
「そんなことはっ」
「『聖女』としての居場所はあるかもしれません。けれど『私』の居場所はないんですよ。ミゲル様、私が何歳か知っていましたか?」
「……十六くらいか?」
世奈は吹き出し、笑い声をあげた。戸惑うミゲル。ようやく笑いが止まると世奈はミゲルをじっと見上げた。
「私、これでももう二十三なんですよ」
ミゲルは目を見開き固まる。想像通りの反応に苦笑をこぼしながらも話を続ける。
「ミゲル様だけではありません。誰も『私自身』のことについて尋ねて来る人はいなかったので、皆も知らないはずです。……二十三といえばこちらの世界ではもう結婚して子供がいるのが当たり前の年齢ですよね。私だって結婚して子供も欲しい。でも、きっとこの世界でそんな幸せは手に入らない。だから、私はあちらの世界に帰りたいんです」
だから、どうか止めないでください。と世奈はミゲルに頭を下げた。決して揺らがない眼差し。
ミゲルは何も言えないまま部屋を出た。
――――――――
あの日以降、ミゲルは淡々と仕事をこなす日々を過ごしていた。その合間に婚約者となったカミーユと会う。世奈とは……すれ違いもしなかった。
「ねえ、ミゲル。このドレスはどうかしら? ねえってば、聞いてるの!?」
ウェディング用のドレスデザインを手にカミーユはミゲルに声をかけるが反応はいまいちだ。カミーユは溜め息を吐き、つい言ってはいけない言葉を吐きだした。
「もう、聖女様はいないのに」
「……え?」
その言葉を聞いたミゲルは先程とは違い、勢いよくカミーユに詰め寄った。護衛騎士が動こうとしたが、カミーユがアイコンタクトで止める。予想通りの反応にカミーユはやはりと顔を歪ませた。
けれど、ミゲルはカミーユのそんな反応を気にも留めずに切羽詰まった様子で尋ねる。
「聖女がいないってどういうことですか?!」
「聖女様はこちらの世界にもういないわ。あちらの世界に帰られたのよ」
ミゲルは目を見開き、固まった。カミーユの肩を掴んでいた手がだらりと落ちる。そして、空笑いが口から漏れた。
「俺にはさよならも必要ないっていうのか」
今更になって気づく。ミゲルは間違えたのだ。愛する人が誰なのか。気づいたところでもう世奈はいない。
己の馬鹿さ加減に死にたくなる。笑いながらも目からは涙が次々に溢れて落ちていく。
カミーユはぎゅっと固く目を閉じた。結局、こうなった。自分は気付いていたのに……ミゲルが本当は誰を想っていたのかを。それでも、ミゲルの言葉を信じたかった。信じた結果がこれだ。
さすがに、今はもうわかる。ミゲルと結婚しても互いに幸せにはなれないと。
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世奈は元の世界に戻り、日常を取り戻した。あちらとこちらでは時間軸が違うらしく、元の世界は一日も経過していなかった為不便な状況にはなっていなくて安心した。
最初は日本での生活に違和感を覚えていたが、あっという間に感覚を取り戻した。今ではあちらでのことがただの白昼夢だったような気さえしている。
そして、世奈は二十四になったのを機に今まで拒んでいたお見合いをすることにした。母は大喜びでさっそく先方に連絡を入れていた。
お相手は、すごく優しそうな人だった。正直、拍子抜けしたくらいだ。見た目も中身も異世界の彼らと比べてしまえば平凡な人。でも、きっと彼となら幸せな家庭を築ける。そんな未来がたやすく想像できた。
ありがたいことに相手も世奈のことを気に入ってくれた。
順調に関係を進め、結婚式当日を迎えた。
痛む心に気づかないフリをしたまま。
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花嫁の待機部屋にて世奈は呼ばれるのを待っていた。
とうとう名前が呼ばれた。
立ち上がり、歩き出そうとした……瞬間、視界が揺れた。覚えのある感覚が身体を襲う。
目を開ければ、そこは見覚えのある場所だった。
視界に誰かの足が入ってくる。よろよろと見上げれば、見知った男性の顔。憐みのような、申し訳なさを滲ませたような瞳が世奈を捉える。
「久しいな。セナ」
「国王さ、ま」
あれからこちらの世界ではどれほどの年数が経ったのだろう。記憶の中と比べて幾分か年老いて見える。
「再び呼び出してすまぬな」
「いえ……あの、それで今回はどういった要件で?」
「……こやつの話を聞いてやってほしい。選ぶのはそなただ」
それだけを告げ、国王は男の肩を叩き出ていった。世奈は困惑していた。
大事なタイミングで呼び出された。しかも、その原因は目の前の男……ミゲルだ。
今更、なんの話があると言うのだろう。
「あの、ミゲル様。要件は何でしょうか? 私、はやく帰らねばならないのです。結婚式の途中で呼び出されたので……」
困ったように告げるとミゲルの身体が揺れた。そして、ふとミゲルの手が震えていることに気づく。よほどきつく力を入れているのか白くなっている。何となく……嫌な予感がした。
目の前に現れた世奈は、まるで女神のように美しい装いをしていた。ミゲルはかける言葉も忘れて、しばらくの間見惚れていた。
しかし、世奈の一言を聞いた瞬間、怒りとも、焦りとも、後悔ともとれぬ激情が身体を巡った。
「脱げ、そんなものは今すぐ」
「はい? 何を言って………っ!?」
ミゲルは感情のまま、世奈のドレスを脱がしにかかった。世奈は慌てて止めようとしたが騎士であるミゲルに力で敵うわけがない。世奈が気に入って選んだドレスは力任せに引きちぎられていった。
「やめてっ」
悲鳴にも似た叫び。けれど、それでもミゲルは止まらなかった。
とうとう一糸纏わぬ姿をミゲルの前に晒し、世奈は顔を真っ赤にして目を固く閉じると拒絶するように顔を背けた。
明確な拒否。それもそうだろう。世奈にはもう他に男がいるのだから。
頭ではわかってはいる。けれど、止めるつもりはない。
だって……もう自分は痛い程理解している。
世奈無しでは自分は生きてはいけないのだ。たとえ、恨まれたとしても……世奈を自分のものにする。
ミゲルは世奈を力強く引き寄せると強引に唇を奪った。
「ん、んぅ!?」
ミゲルは口づけに己の気持ちをぶつけた。
どれだけ、どれだけ後悔したことか!
お前がいない世界にどれだけ失望したことか!
どれだけお前に会いたいと思っていたことか!
俺は……俺はこんなに苦しんだのに……それなのにお前は他の男のモノになるのか!?
そんなこと許せるはずがない!
噛みつくような口づけは世奈の息を乱し、溢れた唾液は世奈の肌を汚していく。
ミゲルはマーキングするように世奈の身体中に口づけ、途中震える乳房に吸い付いた。
時折肌に吸い付き痕を残していく。
激しすぎる愛撫はもはや痛みに近い、世奈は必死に抵抗し泣き叫ぶが助けは誰一人現れない。
次第に痛みより快楽が勝ってきた。
ぷっくらと立ち上がり、赤く色づいた乳首はねっとりと舐められ、ぶるりと身体が震える。
思わず視線を向けるとミゲルの射抜くような視線とぶつかる。
慌てて視線を逸らそうとすると、咎めるように秘部に指が侵入してきた。
「あぅっ」
ぐいぐいと膣内を責められる。世奈が声を耐えようとすると、今度は秘芽に吸い付かれた。
初めての強すぎる快感に世奈は腰を浮かし暴れた。けれど、それよりも強い力で押さえ込まれる。
中と外を同時に責められ、世奈は耐え切れず激しく身体を痙攣させながら達した。
世奈が息も絶え絶えに天井を見上げている間に、ミゲルは身体を起こして自分の肉棒を取り出す。
すでに痛いぐらいに立ち上がっている。ずっと、この時を待っていたのだ。
正気に戻った世奈が逃げようと身体を捩ろうとしたが、ミゲルはのしかかり一気に世奈の中に己の肉棒を押し込んだ。
「っ! こんな、ひどいっ!」
「ああ。酷かろうが憎かろうがいいさ。お前が俺のものになるならな。もう、帰すつもりはない。ましてや、他の男にやるかよ!」
あまりにも勝手な言い分。言い返したかったが、ミゲルはそんな隙を世奈に与えてはくれなかった。
激しく突き上げながら、口と指で世奈の身体を弄ぶ。世奈の目からは絶え間なく涙が溢れた。
――――こんなの私が知るミゲルじゃないっ!
記憶の中のミゲルが汚された気がした。けれど、世奈が嫌がれば嫌がるほどミゲルは激しくなる。
「もう、い、や! あぅ! あ! ああっ!」
限界が近いのだろう。ミゲルの肉棒がさらにパンパンに膨れ上がり、世奈の膣内をゴリゴリに擦りあげる。世奈の口からはとうとう嬌声しか出なくなった。
ミゲルは目を閉じ、ぶるりと身体を震わせると、世奈の腰を掴み、奥深くへと子種を流し込んだ。
――――孕めばいい。元の世界に帰れないように。絶対に孕ます。
ミゲルは荒い息を整え、しばらく中を堪能すると抜かないまま世奈へと優しい口づけをした。世奈は泣きながらもゆっくりと目を開く。そこには愛しげに微笑むミゲルがいた。
「愛してるよセナ。この世界で俺の妻として生きてほしい。いや、生きろ」
「ミゲルっ」
世奈にはもはや自分の感情がわからなかった。嬉しいのか、怖いのか、悲しいのか。
ただ、わかるのは……無理矢理されても尚、目の前のこの男を嫌いにはなれなかったということだけ。
「本当、身勝手な男」
――――それと同じくらい自分は馬鹿な女だわ。
世奈は泣きながら笑った。
ミゲルは世奈の言葉を『自分を受け入れてくれた』と判断し、歓喜し、興奮した。
再び始まる律動は世奈が気絶しても、ミゲルが満足するまで続けられた。
そして、この日世奈はミゲルの思惑通り身籠ることになる。
世奈が安定期に入ると結婚式も挙げ、その後、国で一番有名なお騒がせ夫婦となったという。
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